2017-06

労働契約法草案と労働者、ジェンダー

 2005年12月、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に「中華人民共和国労働契約法(草案)」が上程されました。翌年3月草案が公表され、その後も、審議が続けられています。現在では、草案は三審稿まで公表されています。
 この労働契約法(草案)は、1995年に施行された「中華人民共和国労働法」のうちの、労働契約に関する部分を切り離して立法化しようとするものです。

 この草案は、一般には労働者保護の色彩が強いものだと言われています(1)

 しかし、今の中国では労働者の権利が侵害されすぎており、今回の労働契約法の草案も、けっして十分なものではありません。
 たとえば、中国人民大学の常凱教授は、以下のように述べています。
 ・「中国の労働力市場はほとんど規制がないといってもいいかもしれません。規則はあるが厳密ではないのです。たとえば多額の賃金未払いは中国特有の現象です。」
 ・「労働力市場においては、政府の関与は極めて脆弱でした。たとえばレイオフですが、政府は労働者の立場ではなく、企業の立場に立って労働者に『対応』しており、裁判所は集団的レイオフに関する争議の提訴を受理しないなど、あまりにひどいケースが目立ちました。」
 ・「企業レベルの労働組合は、労働者を代表することができていません。多くの企業内労働組合の代表は、労働者の立場ではなく、企業の立場に立って、人材資源の管理という観点から今回の労働契約法を考えていました。」
 ・「労働基準の中でもっとも基本的な指標は『賃金問題』です。1994年、わが国のGDPに占める賃金の割合は14.24%でしたが、2003年では12.57%に低下しています。」
 ・「今回の労働契約法の立法の過程では、労働者よりも雇用主からの影響の方が多いくらいです。‥‥たとえば労働派遣についてですが、外国では、労働派遣の業種を厳格に制限しており、私たちもそのように提起しました。しかしわれわれの提案は採用されませんでした。雇用主からの圧力が大きかったからです。」(2)

 また、今回の草案に対しては、外資、具体的には欧米の現地法人会や、中国に投資する日本企業でつくる中国日本商会も、労働者の保護を弱める修正を要求しています(3)

 さらに、中華女子学院法律系経済法教研室主任で助教授の劉明輝さんは、今回の草案について、ジェンダーの視点から、以下の4つの問題を指摘しています。それぞれをごく簡単に説明いたします(4)

1.一部の家政服務員(家政婦)を調整の範囲外に排除している
 家政服務公司(家政サービス会社)と労働契約を結んで働いている家政服務員は、もともと労働法の調整の範囲内であるが、草案の第65条は「労務派遣は一般に短期的・補助的あるいは代替的な仕事でおこなわなければならない」と規定している。ということは、パートタイマーや短期の家政服務員は労働法の調整の範囲内であるが、雇い主の家の中で長期的に働く家政服務員は排除される。
 それを防ぐために、草案の第65条に「家政服務業を除く」という語句を付け加えるべきである。

2.使用者が職場のセクハラを防止する義務を規定していない
 現在、各地で「中華人民共和国婦女権益保障法」の「実施規則」が制定されており、そのうち湖南・陝西・上海などは職場のセクハラ防止義務を規定している。
 しかし、国家の立法はない。そのため、地方の立法も必然的に制約を受け、とくに救済と法律的責任などの点において、実質的な改善は難しい。
 だから、労働契約法の中に規定を設けて、使用者にセクハラ防止規則の制定や、訴えを処理する機構の設立などを義務付けるべきである。

3.使用者が妊娠している女性を辞めさせる行為に対する規範が欠けている
 いささかの非公有制企業は、女性労働者の妊娠・出産・授乳期の保護責任を回避するために、外来の女性労働者を自分から離職させている。
 それゆえ、労働契約法の第42条に「使用者は不当な手段によって、労働者に辞職を強要してはならない」という規定を増やすことを提案する。

4.使用者が妊娠・哺乳期の女性労働者に対して解雇・減給する問題を無視している
 婦女権益保障法にそうしたことを禁止する規定があるが、不十分なので、労働契約法でその点を補完すべきである。
 また、草案の第10条は、労働者がありのままのことを知らせる義務を規定しているが、「労働者の個人のプライバシーにかかわることを除く」という規定を付け加え、その中に結婚や出産の状況なども含めるべきである。

(1)「労働契約法草案、労働者の利益保護を強調 」JIL(労働政策研究・研修機構)海外労働情報2006年1月久田眞吾「労働契約法(草案)の公表と意見聴取」サーチナ2006/05/10
(2)「中国:『労働者優遇は許さない』 労働契約法案をめぐる企業の攻勢」China Now! 2006-06-01
(3)「原案成立なら撤退も、新労働法に外資反発」NNA中国ニュース2006/5/12
(4)「《労動合同法》応体現“性別意識”」『中国婦女報』2007年4月26日。
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