2017-09

近年の中国女性学を論じた3つの論文

 昨年から今年初めにかけて、近年の中国の女性学を論じた以下の三本の論文や報告が相次いで発表されました。

大浜慶子「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」日本女子大学教育学科の会『人間研究』第43号(2007年)89-99頁。
 〈構成〉
一、中国の女性学・ジェンダー研究推進の新体制
 1.女性学vsマルクス主義女性論
 2.北京女性会議以後、女性政策におけるジェンダー視点の導入
二、大学における女性学制度化の二つの経験と戦略
 1.共学大学の戦略
 2.女子学院・女子大学の戦略
三、独立学科をめざして―北京大学と中華女子学院のケース
 1.北京大学のケース
 2.中華女子学院のケース
おわりに─中国女性学の課題

秋山洋子「〈北京+10〉中国女性学のいま」『女性学』14号(2007年)90-95頁。
 〈構成〉
北京会議+10年
「近二十年華人社会ジェンダー研究」シンポジウム
女性学の再編成と過去の消去
女性学における新しい動き、そして今後……

李小江(秋山洋子訳)「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト─あわせて本土の資源と『本土化』の問題を語る─」『季刊ピープルズ・プラン』34号(2006年春号)20-34頁。
 〈構成〉
グローバル化のもとでの中国女性学
女性と国際開発プロジェクト
 (1)「開発」の由来
 (2)女性が国際開発プロジェクトに入ったいきさつ
 (3)中国女性の発展問題
 (4)中国女性はいかに世界と軌道を接するか
 (5)国際社会の援助はどのように中国(と中国女性)に「進入」してきたか
グローバル化の動きの中での「本土」問題

 大浜慶子さんは、1995年から北京を拠点にして研究活動をしてこられました。今回の論文「中国における女性学制度化の歩み─北京世界女性会議以後の新動向─」は、そうした自らの実体験や観察を生かして書いておられます。
 この論文は、中国の女性学研究者たちがネットワークを作り、女性学を制度化してきた状況を非常に丁寧にあとづけ、分析しています。
 大学に関して、共学大学についてだけでなく、これまで研究されてこなかった女子学院・女子大学における女性学推進の流れを考察していることも大きな特色です。北京大学の魏国英氏や中華女子学院の韓賀南氏ら、女性学関係者への取材もなさっていて、貴重です。大量の情報を整理しており、北京会議以後の中国女性学の発展(とくに制度化)を知るうえでの必読文献であるように思いました。
 大浜さんは、最後に、中国の女子大学における女性学発展の経験は、女子大学の存在意義という世界共通の問いへの一つの回答にもなっていると述べておられます。また、中国女性学の固有の課題として、中国の女性学は、社会運動によらず最初から研究として導入されたために、社会一般には受容されておらず、大学の研究者が、中国社会の格差や現実の女性問題に対してつながる必要性を説いています(なお、こうした課題は、日本の女性学にも共通の部分はあるので、この点に関する日中の比較なども可能なように思いました)。

 秋山洋子さんの報告「〈北京+10〉中国女性学のいま」は、短いものですが、北京会議十周年にあたる2005年における、中国の女性学事情全般を論じておられます。秋山さんは、中国の女性学の現状を、大浜さんより少し否定的に捉えておられます(もちろん大浜さんも秋山さんも、全面肯定でも全面否定でもないのですが)。とくに、李小江らによる1980年代の自主的な女性学創設の歴史が、現在、消去されかねない状況になっていることを危惧しておられます。秋山さんは、李小江らのネットワークが創ろうとした自由な討論の空間は、現在は、荒林主催の「中国女性主義文化サロン」などが提供していると論じています。
 大浜さんと同じ事実や資料を論じながら、異なった評価をしている箇所もあります(1999年設立の中国婦女研究会、魏国英論文)。研究者のネットワークについての捉え方も異なるようです。もちろんお2人は、対立しているというよりも、それぞれ異なった側面に注目しておられるのだと思います。しかし、2つの論文を併せて読むと、読者は、中国婦女研究会や魏国英論文、研究者のネットワークなどについて自分自身でも調べてみたいという気になるのではないでしょうか? そうした点でも興味深いです。

 秋山さんが翻訳なさった李小江さんの論文「グローバル化のもとでの中国女性学と国際開発プロジェクト」は、国際開発プロジェクトの中国への流入が中国の女性学に与えた影響について批判的に論じています。
 中国国内でも、日本でも、こうした点について論じたものはほとんどなく、これも非常に貴重な論文だと思いました。

 以上の簡単な紹介からだけでも、どの論文も、とおりいっぺんの現状報告ではなく、それぞれが異なった独自の視点から、近年の中国女性学を論じていることがおわかりいただけると思います。
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