2017-10

就労促進法(草案)の差別禁止規定の不十分さに批判あいつぐ

 今年2月、国務院は全国人民代表大会(全人代)の常務委員会に、「就労促進法(原語は「就業促進法」)」の草案を提出しました。常務委員会はそれを審議・修正した後、全文を公表し、いま全国的に意見を求めているところです。
 この「就労促進法」は、雇用の拡大などを政策的に推進するための法律です。今回、この法律が制定される背景には、中国における雇用問題の深刻化があります。すなわち、労働力の需要と供給のアンバランス、国有企業のリストラ、労働市場の規範の不十分さ、農村からの労働力の流入などの問題です(1)
 就労促進法を制定する議案は、2003年ごろ、多くの人々によって全人代に提出され、それが今回の草案に結びつきました。

 雇用問題の中には、もちろん性や年齢による差別の問題もあります。しかし、就労におけるそうした差別の問題は、まだ政策的にはあまり重視されているとは言えません。
 たとえば、2003年に全人代に就労促進法を制定する議案を提出した一人に鄭功成代表(男性。中国人民大学労働人事学院副院長)がいるのですが、彼はそれと同時に、年齢や性別、学歴、戸籍、地域、身体などによる差別を禁止する「反就労差別法」を制定する議案も出していました(2)。また、今年の全人代にも、周洪宇代表(男性)が、「反就労・職業差別法」の制定を提案しました(3)
 しかし、「反就労(・職業)差別法」のほうは、まだ全人代に提出されるに至っていません。

 ただし、今年提出された「就労促進法」の草案も就労差別の問題をまったく無視しているのではなく、その第26条には、以下のような規定があります。
 「人を雇う単位が人員を募集採用したり、職業仲介機構が職業仲介活動をおこなう際、民族・人種・性別・宗教信仰・年齢・身体障害などの要素によって労働者を差別してはならない」

 しかし、この規定については、全人代の常務委員会で審議された際にも、以下のように、不十分であるという指摘が出ました。
 「法律的責任が明確でない。草案を修正する過程で、就労差別の法律的責任をもっと明確にすべきだ」(林強委員)
 「多くの単位では、男性を採用したがり、女性を採用したがらない。他の国家や地区の経験も参考にすべきであり、たとえばアメリカでは、少数民族を一定の比率採用することや、一定の性別の比率を保障することを義務づけている」(袁漢民委員)(4)

 また、上の鄭功成さんなどは、この規定について以下のように厳しく批判しています。
 「まったく不十分だ。実際上は具体的内容がなく、活用することは難しい。何が就労差別で、誰が監察するのか、労働者が差別を受けたら誰に訴えるのか、差別した者はどのような法律的責任を負うのかなどについてすべて規定する必要がある。それに、もっと強力なものでなければならない。反就労差別に一章を当てるべきだ。」(5)

中国女性研究会と全国婦連女性研究所が開催したシンポにおける提案

 さらに3月9日には、中国女性研究会と全国婦連女性研究所が「公平な就労と『就労促進法』」というシンポジウムを開催して、「就労促進法」の草案に対して具体的な提案をおこないました(「中国女性(婦女)研究会」というのは、1999年12月に全国婦連がイニシアを取りつつも、幅広い女性研究者が集まって設立された研究会です)。
 提案の内容は、だいたい以下のようなものです(6)

一、「就労促進法(草案)」に対する全体的な意見と提案

1.可操作性(実際に活用できること)と制約性を増す
 全体的に言って、この草案は原則を述べるにとどまっており、実際に活用できたり、企業などを拘束したりする力が弱い。政策的文書としての色合いが強く、法律が持つべき制約力と強制力が不十分である。

2.総則において公平・公正という原則を明確にし、「就労の公平」という章を増やす
 この草案は、就労の機会を増やす面では大きな努力をしているが、就労の中の差別をなくし、公平な就労を促進する面では不十分である。

3.就労差別の定義を明確に提起する
 この草案は、「就労差別に反対する」と述べているが、就労差別の定義が明確でないので、差別を受けた多くの労働者の権益を擁護しようがない。ILO111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約。日本未批准)を参照して、わが国の国情に基づいて、就労差別の定義を明確にすべきである。
 差別の形態に関する規定は、労働法と比べれば拡大しており、「年齢」と「身体の障害」が入っているが、まだ狭すぎる。

4.執行のメカニズムと政府の責任を明確にする
(1)執行のメカニズムをより明確にし、実体化する必要がある。草案には「国務院に全国的な就労促進工作調整メカニズムを打ち立てる」としか規定しておらず、メカニズムの名称・職能などは規定していない。
(2)政府自身の職責を明確にすべきであり、また有効な監督・評価制度を築くべきである。
(3)「市場の秩序の規範化」の章では、招聘の手続きを規制する規定が不十分である。
(4)司法による救済と救助の内容が乏しい。政府の不作為に対する行政訴訟、企業の差別行為に対する訴訟なども包括すべき。また、訴訟手続きを簡便・廉価にすべき。
(5)「法律的責任」の章では、犯罪に関する規定が多いが、行政的措置に関する規定を充実すべき。

二、具体的な条文の修正意見
 いろいろありますが、以下に主な点を挙げます。

法の目的などについて
 法の目的に「労働者の平等な就労の権利を保障する」という文言を入れる。
 草案の「就労条件を作り出し、就労機会を拡大する」を、「ディーセントな(体面)就労条件を作り出し、公平な就労機会を拡大する」に改める、など。

差別の定義について
 「差別」の定義を以下のように明確にする。
 「この法律で指す差別とは、民族・人種・性別・宗教信仰・社会的出身または身分・地域・年齢・身体の状況・結婚や出産の状況などの要素にもとづいて、労働者に対して、就労または職業の機会均等または待遇の平等を破りまたは害する働きをするすべての差別・排斥・優先」
 これは、ほぼILO111号条約に沿った定義です。ただし「政治的見解」が入っておらず、かわりに「民族」「地域」「年齢」「身体の状況」「結婚や出産の状況」が入っています。

実効性の確保の措置
 ・罰則‥‥26条違反に関して、具体的な処罰規定を置く。
 ・ポジティブアクションなど‥‥女性や障害者などに対して「傾斜的(サポート的、ポジティブ)な措置を取る」、「採用する人員の性別構造と求職者の性別構造とを一致させなければならない」という規定を入れる。
 ・監督機関‥‥草案の「労働保障部門がこの法律の施行状況の監督・検査をする」という規定について、意見として、「『労働部門』ではなく、機構の名称・職責・人員・経費の源などをはっきり書くべきだ」と指摘しています。草案の「通報制度を設ける」という規定については、「訴えを受理する専門の機構を設立し、できけば行政処罰権を与える」としています。
 また、国務院に「全国就業促進委員会」を設立するとしています。また、公平な就労を保障するための機関として、「平等機会委員会」を設立するとしています。

(1)「関于《中華人民共和国就業促進法(草案)》的説明」「中華人民共和国就業促進法(草案)」「関于公布《中華人民共和国就業促進法(草案)》徴求意見的通知」
(2)「鄭功成:応尽快制定《就業促進法》和《反就業歧視法》」
(3)「関于制定《反就業与職業歧視法》的再建議」(周洪宇的博客)
(4)「全国人大常委会委員:禁止就業歧視需明確法律責任」『中国婦女報』2007年2月28日。
(5)「反就業歧視規定単薄,専家建議加厚」『中国婦女報』2007年3月12日。
(6)「《就業促進法(草案)》修改建議」全国婦聯婦女研究所編『研究信息簡報』2007年3期(2007年3月27日)(PDF)(このファイルに「就労促進法」の草案の全文やその説明など、注(1)に挙げている文献も収録されています)。
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