2017-09

「お妾さんの権利ネット」をめぐる議論

 2006年6月、鄭百春さん(北京君祥弁護士事務所・業務主任)が「お妾さん権利擁護ネット(二奶維権網)」を開設しました。

 このことは、本プログ1月13日付記事「2006年の女性をめぐる話題」で既に簡単に述べました。けれど、当時は上のサイトが極めてつながりにくい状態で、ほとんど見ることができませんでした。
 現在は正常に見られますので、今回、簡単に紹介します。

 まず、このサイトの一番上を見ると、「お妾さんも人であり、人権があるべきだ」「お妾さんの合法的権益をまもって、調和のとれた公正な社会を築こう」「法律の前には人間は平等である」「道徳は法律に取って代わることはできない。法律は道徳と同じではない」というフラッシュが飛び込んできます。

 「私たちの声明」には、以下のようにあります。
 「お妾さんの合法的権益を守ることは、男が『お妾さん』を持つことを支持することではなく、娘たちに『お妾さん』になるよう呼びかけることでもない」。けれど「彼女たちは人であり、中国の公民、中国の女性であり、人としての基本的な権利があるべきだ」
 「権利の擁護が必要な『お妾さん』は、大多数は困難な境遇におり、弱者層に属している。私たちは、彼女たちに客観的に対処すべきで、分析もせずに、すべての責任を彼女たちに押し付けるべきではない」

 「なぜお妾さんが弱者層だと言うのか」として、以下の点を挙げています。
 「家庭的には、貧しい家の女児で、社会的地位がなく、父母は権力も金もない」
 「彼女たちは、女性で、年若く、世の中の経験が浅い」
 「彼女たちの権利要求の多くは、精神的に傷つけられた、生理的・身体的に傷を負ったというものである」
 「経済的に非常に困難で、また、しばしば幼い子どもを抱えている」
 「現実においては、少なくなからぬ『お妾さん』である女性が、そのことを社会に責められるのを恐れるために、彼女たちの権益が侵害されたときに、しばしば泣き声をのんで耐え忍び、怒っても何も言わない」
 「道徳的評価が法律的判断を上回っている──すなわち社会の『お妾さん』に対する評価、お妾さん自身の自分の権利意識に対する軽視、司法実務界におけるお妾さんに関係する事件に対して適用する法律の曖昧さ。」

 「なぜ権利の擁護をするか」では、以下のようなことを述べています。
 世間の偏見のため、「すべての汚水をみな『お妾さん』にかける」とか、「『お妾さん』と言えば、踏みつけにせずにはすまない」とか状況がある。
 そのため、「お妾さん」の「人格権」「プライバシー権」「財産権」「人身権」が守られなかったり、「『お妾さん』は、その権利がいかなる侵害にあっても、声をあげられずにがまんするしかない」。
 お妾さんの中には、自分に誤りがあったのではなく、だまされた人もいる(ただし、このサイトは、たとえ誤りや罪があっても、その人の権利は侵害されてはならないという見地も表明しています)。

 「私たちはお妾さんのどのような権利を擁護するのか。どのようなサービスを提供するのか」では、以下の点を述べています。
 1.法律に明確に規定された権利(お妾さんという身分から派生した特有の権利ではない)。
 2.公平・正義・合理にもとづく、非法律的な権利と義務。
 3.心理的輔導。お妾さんは、社会・親戚・友人などからの圧力によって、心理的にも精神的にも障害を持っている。性病・婦人病・鬱病も少なくない。自殺や殺人を考える人もいる。

 鄭百春さんがお妾さんの権利について関心を持ったのは、以下の事件からです。献身的に愛人の介護をしたあるお妾さんが、「自分は金銭目当てではない」ことを示すために、「彼女に家を贈与する」という愛人の遺言を破り捨てました。鄭さんは、彼女がお妾さんでなかったら当然遺産を受け取れたと思いました。
 また、次のようなこともありました。安徽から広州に出稼ぎに行ったある娘が、ある企業主と知り合いました。その企業主は「自分はまだ結婚していない」と嘘をついて、彼女と同棲し、1年後に子どもも生まれました。けれど企業主には妻がいました。彼は、彼女に20万元を渡して、子どもをつれて家に帰るよう言いました。しかし彼女は受け取らず、怒りのあまり、子どもを抱えて飛び降り自殺を試みました。

 鄭百春さんには「二奶維権」というブログもあって、いま扱っている事件などについて書いています。

 この問題は昨年、『中国婦女報』でも取り上げられました。たとえば、(「為“二奶”討説法深陥倫理与法的悖論」(『中国婦女報』2006年10月17日)は、鄭百春さんを取材するとともに、批判的な意見も掲載しています。この記事はまた、「お妾さん」の財産権について2005年に民主同盟が提案を出すなど、すでにいくつもの意見が出ていることも紹介しています。
 また、「該不該為“二奶”維権?」(『中国婦女報』2006年12月23日)は、争点としてて次の4点を挙げるとともに、各争点についてさまざまな論者の意見を掲載しています。
1.「お妾さん」は弱者層か否か
 「彼女たちの二重に助けを求めている」(鄭百春)、「妻の精神的傷害は誰が賠償するのか」(王朱)
2.道徳的な問題があれば、正当な権益を放棄すべきか
 「道徳的な瑕疵は、正当な権利を擁護する障害ではない」(韓雪)、「権利の擁護には、積極的な法律的意義がある」(宋長青)
3.法律が彼女たちを保護できるか否か
 「婚外子の子どもは法律の保護を受ける」(李銀河)、「彼女たちには民事的権利もある」(孫健)、「法律は同棲(同居)関係を保護しない」(陳雲生)
4.「お妾さん」を持ったり、「お妾さん」になったりすることを助長するか
 「良くない社会的心理を暗示しかねない」(夏学◇)、「権利の擁護は婚姻外の恋愛を助長する」(張玉芬)、「『お妾さん』を持つ男を問いただすべきである」(何向東)

 ジェンダーの視点から考察としては、郭慧敏さんが「社会性別視角下的“二奶維権”」(『中国婦女報』2006年10月17日)で、「お妾さん権利擁護ネット」が引き起こした論争について自らの意見を述べています。以下で大ざっぱな内容を紹介します。

 郭さんは、まず「『お妾さん』は複雑な社会的現象だが、一つの社会的集団を構成しうるかどうか、および一つの社会的な女性の特殊な権利擁護問題を構成しうるかどうかは、きちんとした議論が必要ある。そうしなければ、一つの『虚偽の社会問題』を作り出すかもしれず、討論の結果によって意識的・制度的なジェンダー不平等が再構築されかねない」と述べます。

 こうした前置きをしたうえで、郭さんは「現段階における『正妻・妾‥‥』という提起のしかたは、男性中心の婚姻の等級秩序の復活である」と言います。郭さんは、人々は、「お妾さん」に「誤った行為があったかどうか」や「最初から男に妻がいることを知っていたかどうか」に関心を集中させすぎており、「男の誤りや二重の責任を追及することをおろそかにしている」と述べます。
 郭さんは、「婚姻は、一つの制度・一つの秩序としては、男性中心文化の産物である。」「男は婚姻という方式で女を占有するだけでなく、婚姻という方式で女を禁固するのであって、婚姻は、性と財産の秩序であるという面が大きい。」「一夫一婦制は、基本的には女性に対してのものであり、男に対しては正妻・妾・妓という等級・名分を乱さないように要求するだけである」と指摘します。
 郭さんは言います。「もしも法律的な関係を作り上げることによって『お妾さん』の問題を調整すれば、伝統的な男性中心の婚姻等級秩序を強化し、一夫一婦制を否定することになるかもしれない。この点は十分注意すべきである」。つまり「婚姻の中の夫婦は法律的関係であり、婚姻の外の男性といわゆる『お妾さん』との関係は非法律的な関係である。もしこの関係を法律の範囲に組み入れて調整すれば、この関係の正当性を承認するに等しい」というのです。

 郭さんは「人々が常に、合法と非合法の二人の女が一人の男を争奪する戦争に注目していることは、このシステムの中枢にいて、初めに悪例を開いた者である男を見過ごすことになる」、「『良い女』と『悪い女』とが大いに戦って、この戦争を作り出した男は、何事もなく漁夫の利を得る」、「男性にコストを払わせてこそ、婚姻の中の妻の利益と婚姻の外の女性の利益を保証することができる」と述べています。

 郭さんは「かつて男性に婚姻外で養われていた女性の法的な権利は、かつての『お妾さん』という身分の喪失に依拠すべきではなく、人身権と正当な財産権、婚外子の権益に依拠すべきである」、「妻の共同の財産とは区別した男性の個人財産から賠償すべきだ」と言います。

 郭さんは、最後にこうまとめています。「要するに、『お妾さん』という提起のしかたは、社会的にかなりマイナスの効果があり、非法律的な関係を無理に法律の中に組み込んで調整することは、一定の問題がある。婚姻の中であるか外であるかにかかわりなく、女性の人身権も財産権も、必ず具体的な事例にもとづいて区別して対処しなければならない。間違った行為と正当な権益とはいっそう区別して、それぞれ白黒をつけるべきであって、正当な権益は、いわゆる身分によって失われてはならない。この問題を解決する制度的に新しい空間を創り出すには、男性という過ちを犯した者の権利侵害のコストを増加させ、それによって家庭の調和と男女の関係の平等を維持すべきである」。

 郭慧敏さんの議論は、鄭百春さんの議論と重なる部分もありますが、やはりいささか異なった角度からの考察だといえそうです。ただし、婚姻制度そのものに対しては、若干はっきりしない態度のようにも思えますが‥‥。
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