2017-08

農村女性の土地請負経営権をめぐる裁判

 先日ご紹介した『中国婦女報』の「郷土中国」欄で「2006年の『三農(=農業・農村・農民)』女性ニュース」の一つとしてとりあげられていた、嫁に行った女性(出嫁女)28名が村民委員会を訴えた裁判を簡単に紹介します。

嫁に行った女性(出嫁女)に対する差別
 徐冬梅ら28人の女性は、内モンゴル自治区のフフホト市賽罕区西把柵郷沙梁村で生まれ、結婚した夫はよその土地の人でしたけれど、戸籍はずっとこの村にあり、夫婦で一緒にこの村に住みました。
 しかし、1999年から2000年にかけて、第2回目の土地請負(中国では改革開放後、それまでの農業の集団化をやめて、農民に土地を請け負わせる制度を始めた。その第1回目の土地請負が満期になったことにより第2回目の土地請負をした)に際して、村民委員会は、この村で生まれた未婚の女性には土地を分配しないと決めました。
 また、2002年、村は、住宅用の建物と商用の建物を建てたのですが、村民代表大会は、この村で生まれた娘は、結婚後に村で済み続けるか否かにかかわらず、(よその土地から来た彼女の夫も含めて)それらの建物を分配される資格はないと決めました。

2002年6月の協定
 彼女たちは、この問題を上級の関係部門(各クラスの党委員会・政府・人民代表大会・婦連)に繰り返し訴えました。その結果、2002年6月、彼女たちは村民委員会と、土地請負の権利を認めさせる協定を結ぶことができました。しかし、その協定の第4条の第1項では、嫁に行った女性には住宅用建物と商用建物は与えられないことが決められました。
 しかも、その与えられた土地も、2004年には、住宅用建物と商用建物の建設用地として回収されてしまい、彼女たちの家庭は窮地に陥ります。

裁判へ。勝訴
 そこで、2006年1月、彼女たちは村民委員会を相手取って、協定の第4条第1項が無効であることの確認を求めてフフホト市中級人民法院(裁判所)に裁判を起こしました。
 女性に対して法律的援助をするNGOである北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士と内モンゴルの弁護士が、彼女たち原告の代理人になりました。
 裁判では、村民委員会の主任は「このような現象は、私たちの村だけでなく、全市・全内蒙古・全国に存在している」と言いました。フフホト市中級人民法院のある指導者も、「これに似た案件は多くて、以前は、人民法院は原告の請求を却下した。現在では裁判をするけれども、判決の際は心配が多い。村民委員会のやり方が違法なのは明らかだが、この事件を勝訴させたら、何百・何千もの女性が訴えるかもしれない。そうなったら執行するのが大変だ」と言ったとのことです(1)
 しかし、6月30日、フフホト市中級人民法院は「2002年6月の取り決めの第4条第1項は無効であり、被告の村民委員会はそれぞれの原告に男性と同等に住宅を与えよ」という判決を下しました(2)

判決に従わない村民委員会、女性たちの座り込み、強制執行
 村民委員会は以前から「判決には従う」と言っており、控訴もしませんでした。しかし8月5日、突然前言をくつがえし、「多数の村民は判決に同意していない」と言って、判決を執行しないと表明します。
 原告の女性28人は怒り、同日、ある6階建の建物の屋根に登って集団で座り込みをし、村民委員会に判決を執行するよう要求しました。8日にフフホト市賽罕区政府の説得によって屋根から下りるまで、彼女たちは78時間も座り込みをしました(この座り込みは『中国婦女報』にも「過激だ」と批判されます)(3)
 次に彼女たちは、8月14日、フフホト市中級人民法院に強制執行を申請しました。けれど、村民委員会は8月31日、人民法院に再審請求までして抵抗します。
 しかし、9月初め、法院は村民委員会の請求を棄却します。法院は9月18日には、村民委員会に15日以内に判決を履行するよう要求し、さもなければ強制執行の手段をとると通知しました。
 けれど、村の党支部の書記は、「判決の後、この28名と同様の経歴を持つ数百名の女性が私たちにも建物をくれと言ってきた。けれども村にはそんなに多くの財産はない」などと言って渋ったようです(4)
 しかし、ついに11月22日、フフホト市中級人民法院の執行局の手によって、建物は28名の女性の手に渡されました(5)

 以上で述べたことからもわかるように、同様の問題は同じ村にも、他の村にも、全国各地にもあります。今年1月にも同じような問題が報道されていました(6)。また、判決の執行が難しいことも特徴です。こうした背景には、女性は結婚したら夫の宗族に入るという伝統的な家族制度の存在があります。
 しかし、そうした困難を乗り越える女性たちの闘い(彼女たちの家庭全体の利益を代表している面もあると思いますが)がおこっていることにも注目すべきかと思います。

(1)以上は、「為争取和男性村民一様的待遇──呼市28位出嫁女与村委会対簿公堂」『中国婦女報』2006年5月16日。
 なお、農村女性の土地請負経営権と従来の裁判に関してはいろいろ複雑な問題がありますが、その点については、何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)に詳しく書かれています。また、中山大学女性・ジェンダー研究センターによるサイト「農村婦女維権網――中国外嫁女経済法律文化研究網絡」も、こうした問題を取り上げています。
(2)「出嫁女勝訴,要回土地承包権」『中国婦女報』2006年7月3日。判決の詳細については、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターのサイトの「典型案例」コーナーに「内蒙古自治区徐某等28位出嫁女訴某村土地補償款案」として述べられています。
(3)「28位出嫁女“楼頂”討権引熱議 大多数人認為此行為過激」『中国婦女報』2006年8月12日。
(4)「呼市“出嫁女”案或可強制執行 不少村民反対執行,理由是同様遭遇的婦女還有200多名」『中国婦女報』2006年9月27日。
(5)「呼和浩特:28名出嫁女5年維権終討回公道」『北方新報』2006年11月23日。
(6)たとえば、今年も「又見出嫁女遭遇村規民約」(『中国婦女報』2007年1月18日)という記事が出ています。
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