2018-07

「中国女性記者職場セクハラ状況調査報告」

今年3月7日、NGO「広州ジェンダー研究センター」と女性記者・黄雪琴さんのセルフメディア「ATSH(Anti-Sexual Harassment)」が、女性記者416人に対するアンケート調査をともにした「中国女性記者職場セクハラ状況調査報告」の発表会を開いた(1)

この調査は、昨年11月20日、黄雪琴さんが、#MeTooに触発されて自らと周囲の女性記者のセクハラ被害を微博・微信で発表するとともに、開始したものだ。黄さんは、同日、セルフメディア「ATSH(Anti-Sexual Harassment)」を通じて、インターネットでアンケートを取るという形で調査を開始した(2)(中国における#MeTooについては、本ブログの記事「中国における#MeTooとキャンパスセクハラ反対運動」参照)。

「広州ジェンダー研究センター」は、2015年3~4月に刑事拘留された「女権五姉妹(Femnist Five Sisters)の一人であり韋婷婷さんが創設した団体である。同センターは、昨年3月、「中国大学在校・卒業生セクハラ状況調査」を発表している。この調査は、6592部の有効回答(女性84%、男性16%)をもとにしたもので、その7割にセクハラを受けた経験があることなど、さまざまなことを明らかにした(3)

今回の「中国女性記者職場セクハラ状況調査」の質問票は「中国记者性骚扰状况调查」であり、調査報告の全文は、「中国女记者职场性骚扰状况调查报告」からダウンロードできる。

以下、内容をごく簡単に日本語でご紹介させていただく。ただし、とくに個人の話に関しては、原文は非常に詳細なものであり、今回は、そのごく一部を大雑把に訳しただけであることをお断りする。

一 前書き

2010年から2014年の間、私(黄雪琴)は他の女性記者がセクハラにあってきたのをたびたび目にしてきた。美人アナウンサーは、四つの「お相手」(食事、飲酒、歌、おしゃべり)を要求され、立場が強いはずの調査記者も、食事などの場でわいせつな笑い話をされた。酒に酔って大胆になった指導者は女性記者の目の前でズボンの前を開き、性行為を強要された記者さえいる。

2017年10月、“Me too”運動が全世界に広がった。その中で、メディアの職場でも、セクハラがけっして少なくないことが明らかになった。

中国の女性記者たちの中で、いったい、どれほどの人が職場でセクハラにあっているだろうか? 新聞社・雑誌社などのメディアには、職場のセクハラに関する研修や規定があるのだろうか? 職場のセクハラを、私たちはどのように防止すべきだろうか? 私は、調査をして、中国の女性記者が遭遇している職場のセクハラの真の状況を知るように呼びかけた。

このアンケートは、国内の記者のQQ(中国のインスタントメッセンジャー)のグループや微信(中国版line)グループなどに向けて発信した。さらに、微信や微博(中国版twitter)を通じて個人的に207人の女性記者にアンケートをお願いした。メールでも39人の女性記者にアンケートを発送した。その後、広州ジェンダー研究センター、女権の声、媒通社などのインターネットのセルフメディアの場にもアンケートを配布した。11月25日までに参加人数は1762人に達し、そのうち有効回答は416部であった。

そのうち89人は、アンケートの中で自分が受けたセクハラについて書いてくれており、そのうち37人はメールや私信で、私に対して詳しく自分の体験について詳細に述べてくれた。

二 回答者の基本的状況

・地域――広東省113人、北京市94人、上海市79人、湖北省53人、浙江省37人など
・性的指向――異性愛83.5%、バイセクシュアル8.5%、同性愛3.3%など
・年齢――25-34歳52.3%、18-24歳33.9%、35-44歳11.6%など
・現在の勤務先――新聞社21.5%、ネットメディア15.4%、テレビ局7.2%、雑誌社5.0%、ラジオ局0.6%、その他50.4%

現在の勤務先で「その他」が多いのは、近年、メディアの人材の流出が深刻であることを示しているが、その原因は、女性記者の離職の場合、収入の低さや低下、報道の不自由さのほか、指導者や同僚からのセクハラもある。

※個人の話:
・大学で実習して以来、5年間、私は多くの新聞社にいたが、どの新聞社にも例外なく、下品な中年の男の指導者あるいは年寄りの男がいた。彼らは、娯楽の場所、たとえばカラオケや部内の食事のときに、「今夜は1人ぼっち?」などと言って、頭を撫でたり、腰に手を回したり、手を握ったり、さらには、後ろからきつく抱きしめたり……。
 皮肉なことに、私たちはペンを武器にして、全人民のために声を上げ、弱者のために権利を擁護していると自認しているにもかかわらず、自分のために権利を守ることを恥じている。私も同僚がセクハラを受けたのをたびたび目にしてきた。とくに広告部門の女子学生は、酒やカラオケの相手をさせられている。あるとき、新しく入社した卒業生が、深夜、新聞社の建物の下で吐いているのを見て、私がどうしたのかと聞くと、メディアがこんなにひどいとは思わなかったと言った。1週間経たない間に、その子は辞職した。
 私は一昨年まで頑張って勤めたが、3人の同僚と一緒に辞職した。
 メディアにはこんなに広範囲にセクハラの事例があるのに、報道されることはほとんどない。このことは、メディアでは、年を取った男が権力のトップにいて、権力と発言権を握っていることと不可分だ。こうした環境であるがゆえに、女性記者はどんどん転職して、人材が流出し、メディアの環境は、ますます劣悪になる。(27歳、南方の某新聞社)

三 セクハラを受けた状況

●セクハラを受けた回数
・0回―――16.3%
・1回―――23.1%
・2-4回――42.4%
・5回以上―18.2%

●受けたことがあるセクハラの形態
・同意なしに、性に関する冗談や話題を話されたり、わいせつな字句や写真を見せられたりした―48.2%
・同意なしに、故意に身体またはプライベートな部位に触れられて、嫌悪を感じた―46.3%
・同意なしに、いやらしい/わいせつな視線でじっと見られた―39.9%
・同意なしに、わいせつな動作をされたり、性器を見せられたりした―21.5%
・デートや交際を断ったのに、まとわりつかれた―21.2%
・むりやりキスをされた、またはキスをさせられた―16.8%
・何らかの手段によって怖がらせ、もし性的な関係を持たなければ、報復されることを心配した―9.4%
・性的指向あるいはジェンダー気質に対して侮辱的評価をされた―6.9%
・むりやり性行為をされた―6.3%
・いずれもされたことがない―15.4%

※個人の話:
・私はメディア専攻の学生で、大学2年の夏休みにテレビ局に実習に行った。私が主任にサインをもらいに行ったとき、彼はサインをすると、笑いながら私の手を引っ張った(そのとき、主任は座っていて、私は立っていた)。私はぽかんとして、主任が私の手を引っ張るのはどういう意味で、何をしようとしているのかわからなくて、頭の中が真っ白になったが、私の印象では主任は「きれいだ」とか言ったような気がする。
 多くのセクハラ事件の中では、私の場合は些末なことのように聞こえるかもしれないが、私は最初に接触したメディアでこのようなことがあって、ショックだった。(某大学のメディア専攻の学生)

・私は2年間写真記者をして、3回セクハラを経験した。1回目は企業家だった。写真撮影をしているときに、近づくと、その成金は、右手でさっと私の腰をつかみ、左手で秘書を抱いて、大声で秘書に「早く撮れ、早く撮れ」と叫んだ。(他の2回は略)(26歳、北京某新聞社)

四 加害者の状況の分析

●加害者の人数とその性別
・複数、男性――51.0%
・1人、男性―― 40.1%
・複数、男女―― 8.0%
・複数、女性―― 0.6%
・1人、女性―― 0.3%

●加害者とあなたの関係
・上司――――40.9%
・見知らぬ人―37.1%
・同僚――――30.0%
・取材対象――17.3%
・友人――――16.3%

※個人の話:
・最も重要なのは、多くの職場の人、とくに権力を握っている人が、「セクハラ」あるいは「職場のセクハラ」という概念と内容をまったく認めていないことである。彼らは、それを「リソースの交換」とみなす傾向がある。これらの人は、背後の権力とリソースが対等でないことや女性は望んでいないことがまったくわかっていない。彼らは女性が望んでいないことを、嫌がっているけれども本当は望んでいるとみなしさえするので、言葉もない。あるいは、これらの人は、男女平等を根本的に認めていないので、彼らの男性中心の世界観の中では、女性をモノ化し、軽視することも正常なのである。XX社は、その好例である。
 また、発達した都市から辺鄙な町に行くにしたがって、セクハラは深刻になる。私が現在いる小さな町では、男性たちが集団になって女性をからかうことが常態化している。記者たちはお互いに知り合いであり、同じグループであり、いつもお互いに庇いあう。女性記者や女性実習生にセクハラをするのも、集団でおこなうのである。もし嫌がったら、その人は度量が小さく、交際をわかっていないと言われる。最も重要なことは、集団的に排斥されるかもしれないということである。
 職場でのセクハラの反対する道は険しく、権力との闘いが必要である。アンケートの中で、職場にセクハラについての研修や文書があるかないかを述べているが、私は、これだけでは不十分だと思う。職場の最高指導者を問責する制度も必要だ。しかし、それも難しい。誰が自分を取り締まる規則を自分で制定するだろうか? (30歳、もと某社記者)

五 セクハラが起きた場所の分析

・公共の場所(事務室、会議室、資料室、トイレ)――――――43.8%
・公共および娯楽の場所(地下鉄、バス、カラオケ、ホテル)―42.2%
・私人の場所(個人の事務室、家庭の部屋、ホテルの部屋)―37.7%
・SNSソフト上(インターネット、携帯電話)―――――――― 31.6%

※個人の話:
・夜の9時、編集者から電話があって新聞社に帰って原稿を修正するよう言われたので、行ったら、新聞社の中は4、5人しかいなかった。編集者は私を部屋の隅に座らせて、取材の詳細を尋ねつつ、私の手を取って、手のひらを絶え間なく撫でた。

六 セクハラを受けた後の対応と影響

●セクハラに対する対応
・黙っていた/我慢した/避けた―――57.3%
・相手に止めるように言った――――25.0%
・職場の上級の指導者や人事管理部に報告した―3.2%
・辞職した――――2.5%
・警察に通報した――――0.6%

●沈黙した理由
・しばらく混乱して反応できなかった――57.4%
・どのように反抗したらいいのかわからなかった――48.6%
・自分の仕事/生活に悪い影響があると思った――38.2%
・恥ずかしいと思った――22.6%
・証拠が見つからなかった――21.3%

●セクハラを受けた影響(2回以上セクハラを受けた176人について)
・自尊心が傷つけられたと感じ、気落ちした――61.4%
・人間関係や付き合いに重大な影響があった――27.3%
・長期間精神的に緊張した、不眠になった――23.2%
・何も影響はなかった――――――18.3%
・精神的憂鬱が続いた――――――16.3%
・仕事に重大な影響があった(辞職など)――12.4%
・自傷あるいは自殺したくなったか、試みた――5.6%

●職場や警察に報告/訴えなかった理由
・報告したり訴えたりしても無駄だと思ったから――61.3%
・プライバシーが漏れたり、仕事に影響することを恐れたから――48.9%
・職場で起きたことではなかったから――33.3%
・手続き/過程が煩わしかったから――29.1%
・どうしたらいいかわからなかったから――14.5%
・たいしたことではないと思ったから――9.9%

※個人の話:
・私が新聞社に入って9ヶ月目、23歳のとき、上司と一緒に外出して取材した帰りに、公園で、上司が私に抱きつきながら、わいせつなことを言った。私は驚いて逃げたが、まだ混乱していて、また抱きつかれた。
 その後数か月じっと我慢していたが、気持ちが落ち込み、毎日の仕事が、一日が一年のように長くて辛かった。次の年の3月、私はその上司が他の部署に異動するのを知った。私は、今後彼の正体を暴く機会はもうないと思って、部署の会議で、実名でその上司のセクハラを訴えた。しかし、新しく来た女の上司は、私に秘密を守るように求め、彼らが職場の規律委員会に申請して調査するように言ったが、その後、私には何の説明もなかった。(25歳、北京の某新聞社)

・私は人物について書くのが割合うまかったので、新聞社はいつも私に人物についての原稿を書かせたが、私はそのためにセクハラにあった。最初に私にセクハラをした取材対象は、政治協商会議の委員だった。当時、夏だったので、私はワンピースを着ており、スカートも短かったからか、相手は、回答するときは、しばしば私の太ももをじっと見ていて、私がノートをとっているときは、靴の先を使って私のすねを開かせた。
 もう一度は、取材対象者が外国の青年の企業家だった。彼は会ったとき、力を入れてわたしを抱きしめた。その力の入れ方普通の挨拶ではなく、明らかに、彼の胸を私の胸に押しつけたものだった。
 この2回の原稿はボロボロで、編集者は補充取材をするように求めたが、私は行かなかった。その後私が重要な人物の取材を任せられることは少なくなった。(26歳、南方の一雑誌社)

七 勤務先と警察の処理の状況

●上級の職場の指導者や人事部門に訴えたのは、3.2%の13人だったが、調査がおこなわれ、相手は重く罰せられた(解雇など)のは、1人だけだった。調査がおこなわれ、相手は軽く罰せられた(口頭での警告など)のも、1人だけだった。あとは、取り合われなかったか、「言いふらすな」と言われただけで、相手は処罰されなかった。

●会社にセクハラ防止のための研修/カリキュラム/講座があるか
・ある――― 3.0%
・ない―――84.3%
・知らない―12.7%

以上が調査報告の要旨である。

黄さんによると、今回89人の記者が被害を訴えたが、#Me Tooの写真を出したのは5人だけで、それらの写真も、顔を隠したり、背景だけを写したりものだったとのことである。顔を出して訴えるのは容易でないことがわかるが、黄さんによると、だからこそ、「みんなが自分のために声を上げるために、調査という形をとることを決めた」のだという。

黄雪琴さんによると、調査の過程について、「記者という職業を中傷するものだ」とか「両性の矛盾を激化させるものだ」とか言う人もいたという(4)

調査報告の発表会で、黄雪琴さんは、この報告は国内の主要メディアや婦女連合会に送ると述べた。また、広州ジェンダー研究センターも、3月に全国の113の「211大学((1995年に教育部が、21世紀に向けて重点的に投資すると決めた約100大学)」に送って、大学でのセクハラ防止のための教育と制度作りを呼びかけるという。さらに広州ジェンダー研究センターと「ATSH(Anti-Sexual Harassment)」は、セクハラ防止のための研修課程とプロジェクトを研究・推進するとした(5)

この調査報告の発表会については、『新京報』が動画で報道した(「女记者性骚扰调查报告发布 作者:八成受访者曾被性骚扰」新京报3月10日)。ただし、それ以外のマスメディアの報道は乏しいようだ。

その後、黄雪琴さんは、この調査報告を中華全国新聞工作者(ジャーナリスト)協会や労働組合にも郵便で送るつもりだと述べている(6)

今の日本では、主に取材対象からの女性記者へのセクハラ(とそれに対する新聞社や男性社員の対応)が話題になっている(7)。この調査報告でも、それは重要な問題として取り上げられている。ただし、どちらかというと、上司や同僚からのセクハラのほうが多く書かれている。

この違いの原因は、今、日本で、女性記者へのセクハラが問題になったきっかけが、財務次官によるセクハラだったからだろう。だから、日本でも実は社内のセクハラも多いのかもしれない。あるいは、中国の場合は、社内でのセクハラ防止対策が日本より遅れているから、社内でのセクハラが日本より多いのかもしれない。

こうした点については、少なくとも私にはよくわからないが、いずれにせよ、中国でも女性記者が声を上げ始めているということをお伝えしたいと思い、このエントリを書かせていただいた。

(1)韦婷婷&黄雪琴「女记者性骚扰调查报告发布,超8成曾被性骚扰」广州性别中心的微信2018-03-07。
(2)黄雪琴「我也被性骚扰过—中国女记者性骚扰调查」ATSH2017-11-20。このことは、『朝日新聞』でも報道された(「中国の記者も#MeToo セクハラ被害調査に260通」『朝日新聞』2017年12月24日)。
(3)广州性别中心「调查显示:大学生中七成人曾被性骚扰」新媒体女性的微博2017-03-08 19:37:45
(4)专访《中国女记者性骚扰调查》发起者黄雪琴」全媒派2018-03-23 08:23:36、「发声本身就是一种力量:专访《中国女记者性骚扰调查》发起者黄雪琴」腾讯传媒2018-03-23
(5)(1)に同じ。
(6)(4)に同じ。
(7)セクハラなくす契機に 本紙女性記者の経験は」『東京新聞』4月20日など。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/499-8faf0213
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はtooyama9011あっとまーくyahoo.co.jpまで。

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード