2017-04

北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)、当局の圧力により閉鎖

<目次>
はじめに
一 センターの歴史
二 センターのさまざまな活動――訴訟、情報公開申請、調査研究、シンポジウム、職員・従業員の研修
三 海外でも報道――ヒラリー・クリントンも批判
四 センターの閉鎖をめぐるセンターへ攻撃
五 センター活動上の数々の苦労――低収入で、貧しい女性のために/さまざまな妨害や困難、無理解ともたたかって/海外からの資金援助について
おわりに

はじめに

2016年1月29日の午後、女性のための民間の法律援助機構である「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(北京众泽妇女法律咨询服务中心)」のウェブサイトに、「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)は2016年2月1日から休業する。みなさんの長年の関心と支持に感謝する」という同日付けの通知が掲載された(1)。この「休業」の件については、同日の午前中から情報が流れており、これは「『関係部門』の要求による」ものだという(2)

NGOの「広州ニューメディア女性ネットワーク」が、同センターの代表の郭建梅弁護士に問い合わせたところ、郭弁護士は、「センターは取材を受けることはできないが、現在、今、緊急に会議を開いて、今後どうするかを相談しているところだ。衆沢は何度も『話をされた』(=当局に圧力をかけられたという意)」と述べた(3)。Radio Free Asiaの取材に対しては、郭弁護士は、「しばらくは取材を受けるのは都合が悪い。なぜなら、事情が複雑で、現在は国内の情勢もたしかにあまり良くないので、めんどうなことになるのが怖いからだ。しばらくしたら、取材を受けることを考慮したい」と述べた(4)

一 センターの歴史

1995年、第4回世界女性会議が北京で開催されたとき、郭建梅弁護士は『中国律師(中国の弁護士)』という雑誌社で仕事をしていた。郭弁護士は、この世界女性会議で多くのNGOと接触して感化され、3カ月後には、雑誌社という安定した職場を去って、北京大学の2人の教員と共に、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター[北京大学法学院妇女法律研究与服务中心]」というNGOを設立した。このセンターは、民間の法律援助組織として、貧しくて弱い立場の女性たちのために、無料で相談に応じ、弁護士を引き受けた。

このセンターには「北京大学」という名前が付いていたが、これは、「北京大学が金を出し、メンバーも大学職員としての身分を保障されている」という意味ではない。中国では、法定のNGOである「社会団体」になるためには、日常の業務の管理監督をおこなう「業務主管単位」が必要なので、北京大学に付属している形をとっていたという意味にすぎない。

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、2004年から、活動の重点を、個別の法律援助だけでなく、公益訴訟(個人の利害だけではなく、社会全体、とくに弱者層全体とって意義のある訴訟)にも置くようになり、訴訟をつうじて女性の権利と法律・制度の変革を促進することに力を入れるようになった(5)

センターは、司法部(日本の法務省に当たる)と法制日報社が主催した2006年度の「十大法制ニュース人物」にも選出された(6)。センターの活動は、当時は政府機関にも評価されていたということであろう。

センターは、2007年1月、「女性権益公益弁護士ネットワーク」を設立した(本ブログの記事「女性権益公益弁護士ネットワークの挑戦」参照。)。このネットワークは、2009年に「公益弁護士ネットワーク(公益律师网络)」と改称するが、弱者の権利を守る訴訟に携わる弁護士の連係や研修、理論研究をめざすものだった。2009年12月まで『月報』も出していた。

2009年9月には、公益弁護士のための弁護士事務所「千千弁護士事務所」を設立した。

2009年には、鄧玉嬌事件という、娯楽施設勤務の女性が強姦されそうになったため抵抗し、加害者を死に至らしめた事件が起きた(本ブログの記事「鄧玉嬌事件をめぐって」参照)。センターは、現地で調査をしたり、警察や裁判所に働きかけたり、声明を発表したりして鄧さんのために力を尽くした。こうしたセンターの活動を含めた、さまざまな運動や世論が実って、判決は、「鄧の正当防衛だ」という弁護側の主張こそ認めなかったが、鄧さんに対する処罰は免除した(「鄧玉嬌事件の判決をめぐって」参照)。

しかし、センターがこうした活動をしたことによって、2009年6、7月に、センターは、北京大学から「今後は、センターは、研究活動はしてもよいが、具体的な事件の訴訟に参与してはならない」と言われた。

そして、2010年3月、北京大学は、法学院女性法律研究・サービスセンターを、大学の所属から外すという公告を出した。センターの主任の郭建梅弁護士によると、北京大学がそうしたのは、教育部(日本で言う文科省)が直接北京大学に通知を出したから」であり、その理由は「センターは国外の資金を受け取って、公益弁護士ネットワークを作っていて、政治的な危険が比較的高い」からだったという(以上は、本ブログの記事「北京大学、女性法律研究・サービスセンターを切り捨て──人権NGOに対する政府の締めつけの一環か?」参照)。

その後一週間もしないうちに、中国法律援助基金会は、郭さんらに対する資金援助をストップし、6月には、公益弁護士ネットワークも停止させられた(7)

郭さんらは、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターを継承する団体として、「北京衆沢女性法律相談サービスセンター」を設立し、「北京千千法律事務所」とともに登記をおこなった。ただし、この登記は、社会団体としての登記ではなく、商工[中国語では工商]登記である。

「衆沢」とは、多くの人に法律の恩恵を及ぼすという意味である。「千千」のほうは、事務所のビルに「千」という字があったから、そう名付けたのだが、郭さんは、「千家万戸[多くの家々]、千千万万[幾千幾万]、千方百計[あらゆる方法]、大千世界[広大無辺な世界]とも理解できる」と冗談で言ったという(8)

二 センターのさまざまな活動――訴訟、情報公開申請、調査研究、シンポジウム、職員・従業員の研修

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターと北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、1995年~2011年の間に、全国各地から8万件近い相談を受け、3千あまりの事件について無料で弁護士をつとめた。また、その間に、センターのメンバーは合計百本近い論文を執筆した。また、政府の各部門などに法律的意見書や立法建議、報告を70件余り提出した。さまざまな書籍も出版した(9)

以下、個別具体的な活動について、本ブログで取り上げてきたニュースを中心に見てみよう。

職場のセクシュアル・ハラスメント

北京衆沢女性法律相談サービスセンター副主任の呂孝権弁護士が2013年に述べたところでは、2007年以来、全国12省から寄せられた190件のセクハラと性暴力の訴えのうち、50件の事件でセンターの弁護士が代理人になったが、そのうち18件が職場でのセクハラ事件だった(10)

中国でもセクハラ裁判にはさまざまな困難がある。たとえば、2006年には、重慶市の小学校の女性教師が校長をセクハラで訴えた裁判で、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士が代理を務めた。その女性教師は猥褻メールをその証拠として提出した。しかし、裁判所は、女性教師から校長へのメールに「厳しい言葉での拒絶がない」として、訴えを退けた(本ブログの記事「本年の動向3―セクハラ裁判の困難」参照)。

2010年に山木教育グループ総裁・宋山木が女性従業員を強姦する事件が起きた。この事件では、北京衆沢女性法律相談サービスセンター主任の李瑩弁護士が、付帯民事訴訟(*)の原告である被害者の羅雲さん(仮名)の弁護士を務めた。判決は、宋を懲役4年に処すとともに、羅さんに4200元あまりを支払うことを命じた。北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターはシンポジウムを開催して、この事件の判決の不十分点や性暴力の論じられ方・法律のあり方、山木教育グループの企業文化(女性の身体の管理、従業員の奴隷化など)やその背景について検討した(本ブログの記事「山木教育グループ総裁・宋山木の強姦事件をめぐる議論」参照)。

(*)「中華人民共和国刑事訴訟法」第53条に「被害者が被告人の犯罪行為によって物質的損失を被ったときは、刑事訴訟の過程において、付帯民事訴訟を提起する権利を有する」とある。

また、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、企業内のセクハラ防止システムを構築する努力もおこなった。センターは、2007年に国際シンポジウムを開催して、企業が職場のセクハラを防止するための規則の建議稿を発表し、その後、実際にいくつかの企業でセクハラ防止システムを構築したり、研修をしたりした(本ブログの記事「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターによる企業内のセクハラ防止制度構築の取り組み」参照)。

ドメスティック・バイオレンス

2009年、北京の董珊珊さんが夫に殴り殺される事件が起きた。翌年、董さんの母親が民事訴訟も起こしたが、そのときの代理人が北京衆沢女性法律相談サービスセンターの李瑩弁護士と張偉偉弁護士だった。この事件では、裁判所は夫を懲役6年6カ月に処すとともに、家族に対して81万元余りの支払いを命じた。ただし、夫に対して適用した罪名は「虐待罪」という比較的軽い罪であり、李瑩弁護士らは、「故意傷害」罪の適用を求めた。この事件については、センターを含めたさまざまな団体や人々が、警察や医療機関のDVに対する関与を問い直し、保護命令の必要性も明らかにした(11)

2010年には、長い間夫に暴力をふるわれ続けていた李彦さんが、夫を誤って死なせてしまった事件が起きた(本ブログの記事「DV被害者の夫殺しに対する死刑に反対する中国国内の運動」参照)。このときは、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの徐維華弁護士が李彦さんの代理人をつとめた。この事件では、一審でも二審でも李彦さんに死刑判決が下され、死刑について最高人民法院が承認のための審査をするという段階になってから、李彦さんの家族は、他に手段が見つからなくて、北京衆沢女性法律相談サービスセンターに助けを求めた。センターは、ただちに弁護士を四川に派遣して事件の状況を調べ、重要な証拠を集め、他の多くの団体とも協力して、死刑をストップさせることに成功した(12)

地下鉄の痴漢

2012年、地下鉄の痴漢の問題が、「フェミニスト行動派」の運動によってクローズアップされた。このとき、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの呂孝権弁護士は、北京地下鉄公司に対して、地下鉄の痴漢対策について情報公開申請をしたり、痴漢防止策について建議を送ったりした(13) (本ブログの記事「各地の弁護士・市民が地下鉄会社に対して痴漢防止策の建議・署名運動」)。

定年の男女差別

中国では、定年が、男性は60歳であるのに対して、女性は、労働者の場合は50歳、幹部の場合は55歳だという差別がある。2006年、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、この規定は、憲法で定められている男女平等に違反しているとして、全国人民代表大会常務委員会に違憲審査を請求した(本ブログの記事「本年の動向1―『定年の男女差別は違憲』と訴え」)。

センターは、女性の定年問題の訴訟にも、2007年~2009年の3年間だけで、21件携わった。それらは、主に、以前「労働者」身分だった女性が、専門技術者になっても、「あなたは『労働者』だから」という理由で、しばしば50歳で定年にされることを訴えた裁判だった。すなわち、「性別の差別と身分の差別」という「二重の差別」(センター副主任・李瑩)を問題にするものだった (本ブログの記事「元「労働者」身分の女性専門技術者の50歳定年――性別と身分の二重の差別」)。

職場での女性の権利についての調査研究

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、自らの活動のために(または活動にもとづいて)、調査研究もおこなった書物を何冊も出版してきた。

たとえば、職場の女性労働者の権利については、2006年に、『中国女性労働権益保護の理論と実践──法律援助と公益訴訟の視角から』(北京人民公安大学出版社 2006年)を出版して、自らの実践や研究について報告をした(本ブログの記事「女性労働者の権益保護の理論と実践の書」参照)。また、2010年には、センターの調査をもとにして、『中国職場性差別調査』(李瑩主編・張帥副主編、中国社会科学出版社)を出版した (本ブログの記事「『中国職場性差別調査』出版」参照)。

農村女性の権利

2007年から、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、農村出身の家事労働者の権利を守るために、家事労働者保護条例を提案したり、家事労働者に対して法律を教える研修をしたりしてきた(本ブログの記事「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案」)。

また、中国の農村では、「出嫁女」という、結婚後も、「婿入り」などの理由で戸籍を生まれた村に置いている女性たちの土地や住宅などの権利が、しばしば村によって侵害されている。

内モンゴル自治区のフフホト市賽罕区西把柵郷沙梁村の「出嫁女」たちは、よその土地の男と結婚したが、戸籍は同村にあり、夫婦一緒に同村に住み続けた。けれども、村は、彼女たちには土地や住宅を分配しなかった。そこで、2006年、28人の出嫁女が村民委員会を相手取って裁判を起こし、勝訴した。村民委員会は判決に従おうとしなかったが、最後は強制執行によって住宅を勝ち取った。この裁判で原告の代理人をつとめたのも、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの弁護士だった(本ブログの記事「農村女性の土地請負経営権をめぐる裁判 」参照)。

センターは、2013年までに、128件、こうした農村女性の土地紛争事件で、原告の代理をつとめた。しかし、そのうちの93件(72.6%)は、裁判所が訴えを受理しなかった(14)。次の事件では、そうした困難な状況にぶち当たった。

広東省恵州市の38人の出嫁女は、結婚後も村が分配した土地を耕し、村に税金を納めて生活してしたにもかかわらず、村は、彼女たちの土地を回収し、村が上げた収益(土地が徴用された際の補償金など)も彼女たちには分配しなくなった。2006年、彼女たちは、この問題を市の政府や婦女連合会(婦連)、省の婦連などに訴えたが、問題は解決せず、最後に全国婦連と北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターに訴えた。

センターの2人の弁護士は、『中国婦女報』の記者といっしょに恵州市に行って、法律的に問題を解決しようとしたが、現地の裁判所はこの事件を受理せず、「広東省ではこのような事件はどの裁判所も受理しないことになっている」と言った。センターの2人の弁護士は、そのような規定は違法だが、訴訟で解決するのは困難だと考えて、村が属している行政事務所に働きかけた。しかし、明確な回答は得られなかった。郭建梅主任は、その区の共産党の書記に電話して働きかけた結果、区の政府が、区と行政事務所と村の3者の会議を開いて、「出嫁女」にも平等な権利を保障しようとしたが、村民委員会は拒否した。「出嫁女」たちは、再びセンターに電話で訴えたので、センターは恵州市の市長と市の共産党委員会書記に法律上の問題と責任を記した書簡を出したところ、その半月後に、村が、土地が徴用された際の補償金を出嫁女にも分配し、2007年、問題は解決した(15)

このように、センターは裁判だけに頼るのではなく、当事者の利益のために、さまざまな手を尽くしてきた。「出嫁女」たちは、内モンゴル自治区のフフホト市の事件では、合計9千万元あまりの土地補償金を勝ち取り、広東省恵州市の事件では、一人数十万元の土地補償金を勝ち取っている(16)

李彦さんのケースや、広東省恵州市の出嫁女のケースは、他のさまざまな方法では解決せず、当事者は最後にセンターに訴えきている。この点からもセンターの役割がわかるだろう。

大学入試の男女差別

2012年には、一部の大学の一部専攻が入試で男女別の定員を定めて、男女の合格ラインを差別していることが問題になり、教育部に坊主頭になって抗議したフェミニスト行動派のパフォーマンスアートも話題になった。

北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、教育部が「国家の利益を考慮して、一部の特殊な職種あるいはポストに対する特殊な専門の人材の養成は、少数の学校の一部の専攻は適当に男女の学生募集の比率を調整することができる」と述べたことに対して、その「国家の利益」や「少数の学校の一部の専攻」、「一部の特殊な職種あるいはポスト」の具体的内容は何かについて情報公開を申請した。それに対して、教育部は、具体的な専攻を挙げつつも、それらの専攻では定員を男女別にすることを容認する回答をしたので、センターは、それを批判する法律的意見書を教育部に提出した(17) (「教育部、大学入試の男女差別について、外国語専攻などの専攻名を挙げつつ正当化――女性団体はすぐ反論」)。

女性差別撤廃条約

2007年、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、中国女性裁判官協会と河北省婦連と雲南省婦連の協力を得て、「政策制定者と法律執行者に対する『女性差別撤廃条約』および『婦女権益保障法』研修」プロジェクトをおこなった。これは中国が女性差別撤廃条約を批准し、婦女権益保障法を制定したにもかかわらず、立法や行政、司法においてそれらがきちんと踏まえられていないことに対処するためのプロジェクトだった(「女性差別撤廃条約と婦女権益保障法の研修プロジェクト」)。

以上は、主に私がこのブログで取り上げた問題についてのセンターの活動を記したにすぎない。しかし、これだけでも、さまざまな困難な状況があるなかで、センターがさまざまな問題について、さまざまな手段で取り組んできたことが理解できよう。他では問題が解決せずセンターに訴えてきた事例も多い。行動派のパフォーマンスアートが話題になった事件でも、センターが法律面から活動していることもわかる。

三 海外でも報道――ヒラリー・クリントンも批判

『ニューヨークタイムズ』も、衆沢の閉鎖を、中国当局の民間団体に対する弾圧として報じた(18)

上のニューヨークタイムズの報道を引用して、1月31日、いまアメリカ大統領選の民主党の指名候補争いをしているヒラリー・クリントン氏が、彼女のtwitterで、1995年の北京女性会議での彼女のスピーチ「女性の権利は人権である」という言葉も引き合いに出して、「このセンターは存続するべきだ――私は、郭を支持する」と述べた(19)

クリントン氏は、彼女がファーストレディだった1998年の6月29日、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターを訪問して、郭建梅さんと会見し、同センターについて「ground-breaking(草分けの、開拓者的な)」の活動をしていると賞賛したこともある(20)

また、郭建梅さんは、アメリカ国務省の2011年度の「国際勇気ある女性賞(International Women of Courage Awards)」を受賞している(21)。これは、「中国で法律へのアクセスから排除されている人々のための活動をするために、快適な世界を去った」ことなどが評価されての結果だが、ワシントンで彼女に賞を渡したのは、大統領夫人のミシェル・オバマ氏と当時国務長官だったヒラリー・クリントン氏だった。

今回の事件について、国外の政治家で発言した人物は、クリントン氏くらいしか見当たらないが、クリントン氏のツイートの背景には、女性としての人権問題への関心ということもあろうが、同時に、中国との駆け引きとか、対中姿勢の有権者へのアピールといった、政治的思惑もあるかもしれない。また、アメリカ政府の「人権外交」には、人権についての二重基準があることはたしかだ。

しかし、郭さんは、アメリカの賞だけでなく、2010年には、フランスのジュリア・クリステヴァなどが創設した「女性の自由のためのシモーヌ・ド・ボーヴォワール賞」も受賞している(22)

また、今回の事件については、他の国や地域のメディアも報じている。たとえば、フランスラジオ国際放送局(23)、ドイチェ・ヴェレというドイツの国際放送(24)、日本の共同通信(25)、聯合網(26)など台湾の各メディア、『サウス・チャイナ・モーニングポスト(南華早報)』(27)など香港の各メディアもこの事件を報じている。

『サウス・チャイナ・モーニングポスト』は、下の事件も、衆沢の閉鎖と同様の性格を持っていると見なしたのか、同じ記事で報じている。

1月25日、人権活動家らに法的支援などを提供するアメリカのNGO「チャイニーズ・アージェント・アクション・ワーキング・グループ(チャイナ・アクション)」の活動が「国家の安全に危害を与えている」という理由で、そのメンバーのピーター・ダーリン氏(スウェーデン国籍)が中国から追放された。中国当局は、チャイナ・アクションが外国からこっそり多額の資金を受け取り、中国に関する虚偽の情報が外国機関へ流れるよう仕向けていたと主張した(28)

四 センターの閉鎖をめぐるセンターへ攻撃

中国の『環球時報』は、「欧米のメディアが衆沢の閉鎖事件を大げさに宣伝するのは、野次馬的である」(単仁平)という論説を発表した。この論説は、センターの閉鎖の原因については明確なことを述べていないが、「通常、国外の資金が中国の公共社会の領域に入ることは複雑な影響を生じる。それらは、社会の建設のプラスになるかもしれないし、それらの資金の政治的傾向によって使用が選択されれば、社会に敵対的な緊張を高めるかもしれない」と述べており(29)、センターの閉鎖が国外資金の問題と関係していることを示唆しているように思われる。

実際、微博では、「解散させられたのは、彼女たちがアメリカ人の金でアメリカ人のために仕事をしたからだ。資本主義の走狗が人権擁護の看板を掲げたら、同情が得られるのか?」と言う人もいた(30)。こうした攻撃も、上のようなマスメディアの議論と無関係ではないだろう。

こうした「衆沢はアメリカ帝国主義の走狗だ」という攻撃や「衆沢は国外の反動勢力がわが国を転覆するためのものだ」という攻撃のほか、「衆沢は北京にあるのに、農村の女性のこともやっているのは、公益の旗印を掲げたスパイ機構だからだ」という攻撃なども一部のネットで出たようだ(31)

五 センター活動上の数々の苦労

上のような攻撃について、センターの元職員(@「花香-弥漫」さん)は、衆沢には「半年いただけで、離職して数年になる私でさえ、くやしくて涙をこらえきれない」と述べて、衆沢について理解してもらうために一文を書いた(32)。また、2011年に、「公益弁護士・郭建梅の苦難」という記事が『鳳凰週刊』という雑誌に掲載されたことがある(33)。この2つの記事から、センターの弁護士や職員の苦労をご紹介してみよう。見出しは私が付けた。

【低収入で、貧しい女性のために】

センターは、助けが必要な女性のために、完全に無料でサービスをしていた。弁護士費用も、出張費も取らなかった。センターの弁護士には、北京大学を卒業している人も2人いて、英語が達者で、外国での会議に不自由なく出席できる人も何人もいた。「もし彼らが商業弁護士になったら、年収はかるく十倍、あるいは百倍になるだろう人たちだった」という。李彦さんの事件を引き受けたとき、ある人が憶の値をつけた商業事件を頼んできたが、郭さんはいつもどおり断った。郭さんは、「李彦の事件は、もし自分が引き受けなければ、引き受ける人を見つけるのは難しい。大金が儲かるような事件は、自分がやらなくても、引き受ける人は簡単に見つかる」と述べた。

2009年の南方週末の報道によると、センターには、3人の事務職員を含めて、12人いた。郭建梅さんがセンターの主任だったが、彼女でも月給は6000元、他の弁護士は3500元、事務職員は2000元あまりだった。他には、祝日に2~300元、年末に500元が出るだけだった。郭さんでさえ、北京の人の平均的月収と大差ないと思われるし、弁護士の月収としては非常に低いと言えるだろう。

郭さんに、「商業弁護士をやりながら、その金を使って公益弁護士をすることはできないのか?」と尋ねる人もいた。しかし、それは郭さんにはできなかった。宋山木の事件のとき、宋が強姦したことは検察や警察が認めた証拠から見ても間違いなかったのに、宋の弁護士が、被害者が売春したのだと主張した。郭さんは、その発言に対して法廷で厳重に抗議し、ノートに「永遠に商業弁護士にはならない!」と書いた。郭さんは、「公益弁護士の感情の方向や理念、仕事の方法、事件を扱うテクニックは、商業弁護士とは全く異なり、道が違っている。どうやったら線路に自動車を走らすことができるのか?」と言う。

【さまざまな妨害や困難、無理解ともたたかって】

弱い立場の人や農村の人のための法律援助の仕事は、業界を守ろうとする勢力、地方保護主義、司法の腐敗、警察などの資質の低下、土地のごろつきやブラックな勢力の激しい妨害にあった。

ある省の女性から、夫から長年暴力をふるわれ、離婚後も暴力が続いているため、左目が失明し、鼻の骨も折れ、腰も麻痺しているのに、元の夫の勢力が強大で、現地ではまったく訴えが受理されないという訴えが来た。郭弁護士は、その元の夫の資料を調べてみて怒り心頭に発した。その夫は著名な弁護士だったのだ。このような事例からも、彼女の仕事が、社会の底辺の人々の立場に立って、強権と闘う性格を持っていたことがわかる。

危険な目にもあった。農村女性の土地権を擁護するために、郭さんは、2回も現地の政府に手錠をかけられそうになったことがあり、殴られそうになったこともある。郭さんと副主任の李瑩弁護士が河南の登封に行ったときは、村の男たちが集団で彼女たちが泊っていたホテルに押し掛けて、「家には家のおきてがあり、村には村の規則がある。北京から来た弁護士がなんだ」と大声で怒鳴り、身の危険を感じ、すんでのところでパトカーが到着した、ということもあった。

こうしたさまざまな障害にぶつかったうえ、周囲の人の無理解にも直面した。「なんでそんな事件をやるのか?」という疑問や誤解、ひどい場合には、「精神病だ」「誇大でセンセーショナルな宣伝だ」「有名になろうとしている」といったレッテル貼りもされた。

【海外からの資金援助について】

センターの事務所は簡素なものだったが、家賃はかかる。地方に主張するためには、交通費もかかる。シンポジウムを開ければ、場所代もかかれば、専門家を招く費用もかかる。職員の賃金やウェブサイトの費用などもかかる。翻訳は、多くの方がボランティアでやってくれたが、重要な文書は、専門の翻訳者に頼まなければならない。

しかし、国内の基金からは、長期的な資金援助はなかった。

だからこそ、衆沢は、国連やEC、大使館、国外の財団などのプロジェクトの資金をできるだけ多く申請してきたのだ。そして、衆沢の場合は、コストが低いのに、成果が大きかったからこそ、申請に成功したのである。また、国外の資金援助の資金に対する管理監督は厳格で、一つ一つの出費に対して、非常に詳細な報告が求められる。衆沢に対する悪口に憤っている@「花香-弥漫」さんは、出張のときに何を食べて、その価格はどうだったかも書かなければいけないし、膨大で詳細な中国料理などの名称を翻訳するのに苦労したと述べている。そして、このような地道な作業があったからこそ、援助が継続されたのだと言い、「陰謀論者」に対して、「自分で申請できるものなら、申請してみるようにお願いしたい。衆沢の中の人は、裁判や調査研究、講座、その他のNGOの仕事で多忙を極めていて、スパイをする暇はまったくない」、「衆沢が金のために売国をして走狗になったとか、公益のという羊頭を掲げて××を売っているとかいう者がいるが、私は、これが公益でないのかと言いたい」と述べている。

【「衆沢が休業して、私はがっかりすると同時にほっとしている」】

@「花香-弥漫」さんは、また、「いま衆沢が休業して、私はがっかりすると同時にほっとしている」と言う。「ほっとしているというのは、彼女たちがやっと休息できるからだ。大ボス(郭弁護士)は、とても善良な人で、公益をすることによって、うつ病になり、長年何度もそれを繰り返して、2013年[に私が衆沢にいたときは]、まださまざまな治療をしていたが、現在もよくなっているのか、はっきりしない」と述べている。

おわりに

いまアメリカにいる滕彪弁護士は、「郭建梅の衆沢女性法律センターのようなものは、実際は多くの人は半ば官制の色彩を持っていると考えている。一部の人権団体や人権活動家ほど急進的ではなく、多くの、人権においてデリケートな領域である法輪功とか、強制立ち退きとか、新彊・チベット問題のようなものには関わってこなかった。女性の権利は中国では最もデリケートな領域というわけではないのに、このような機構さえ容認できないのは、中共が社会全体に対する統制を明確に強めていることを示している」(34)と述べている。

滕彪弁護士の指摘は、正しい。ただ、だからといって、衆沢の活動自体が、もっと「デリケート」な領域の活動より価値が低いとか、苦労が少なかったとかいうのでないことは、これまで述べてきたことから明らかだろう。体制が直ちには弾圧しないような領域で、力の限り活動してきたことの意義は巨大である。

代表の郭建梅弁護士は、衆沢の閉鎖直後に、「衆沢は『休業』するが、北京千千弁護士事務所は存在し続ける」と述べた(35)。実際、現在も千千弁護士事務所の微博は今も発信を続けており、今年2月16日に出した新年のあいさつでは、「衆沢は休業したが、千千はまだある。どのようになっても、私たちの公益に関心を持ち支持する心と行動はいつまでも変わらない!」(36)というメッセージを出している。

(1)歇业通知」北京众泽妇女法律咨询服务中心2016年1月29日 15:57
(2)中国第一家妇女法律援助NGO遭强迫解散?」2016年1月29日 NGOCN原创 GiveNGOA5、「中国女权NGO“众泽妇女法律咨询服务中心”遭当局强迫宣告解散」维权网2016年1月29日。
(3)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 21:20
(4)中国女权NGO“众泽妇女法律咨询服务中心”遭当局强迫宣告解散」自由亚洲电台(RFA)2016年1月29日。
(5)以上は、「反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 21:20
(6)2006年度法制新闻人物十大法制新闻评选揭晓」法制网。
(7)郭建梅的磨难|丈夫刘震云:她顶多是学德兰修女,不是曼德拉」民间 2016年2月3 日(原題名およびソースは、「公益律师郭建梅的“磨难”」『凤凰周刊』2011年14期[2011年5月15日])。
(8)同上。
(9)中心主要成就」北京市千千律师事务所サイト(2016年2月24日確認)。
(10)职场性骚扰:法律如何帮弱者说“不”」『检察日报』2013年7月13日。
(11)董珊珊,不能瞑目的冤魂」法制与新闻 2010年8月9日。
(12)前东家今日歇业,生命暂停在20岁,我是来安利的」花香-弥漫的微博2016年2月1日 03:03
(13)呂孝権弁護士の北京市地下鉄への建議は、「关于在北京轨道交通运营中建立性骚扰防治机制的建议」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年9月13日)、その回答は、「北京市地铁公司关于北京轨道交通性骚扰防治信息公开申请的答复」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年9月13日)。
(14)频损“农嫁女”土地权 村规民约成法外之地?」『检察日报』2013年12月23日。
(15)以上は、「广东省惠州市38位出嫁女土地征用补偿纠纷案」北京众泽妇女法律咨询服务中心2010年7月19日。
(16)郭建梅「心怀希望 为公益前行」北京众泽妇女法律咨询服务中心2014年12月19日(出所:中华女性网)。
(17)北京衆沢女性法律相談サービスセンター(NGO)の教育部への情報公開申請は「北京众泽妇女法律咨询服务中心申请教育部公开有关男女分性别招生的信息」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年8月27日)、教育部からの回答は「2012年10月16日」(北京众泽妇女法律中心的博客2012年10月16日)、教育部に対する意見書は「众泽妇女法律咨询中心致教育部意见书」(网易女人2012年9月2日)。
(18) DIDI KIRSTEN TATLOW“China Is Said to Force Closing of Women’s Legal Aid CenterThe New York Times JAN. 29, 2016(中国語訳:狄雨霏「北京著名妇女法律援助中心被迫关闭」纽约时报中文网2016年2月1日)。
(19)Hillary Clinton“True in Beijing in 1995, true today: Women's rights are human rights. This center should remain—I stand with Guo. http://hrc.io/1JQCWy3 -H ” 7:56 - 2016年1月31日、Emily Rauhala“On eve of Iowa, Hillary Clinton chides China on women’s rights. Here’s why.Washington PostFebruary 1→「希拉里•克林顿抨击中国当局关闭妇女法律援助组织」自由亚洲电台(RFA)2016年2月1日、「希拉里•克林顿批评中国关闭“众泽妇女法律中心”」美国之音2016年2月1日。
(20)CLINTON IN CHINA: WOMEN; First Lady Visits Center For Women And the LawThe New York TimesJune 29, 1998
(21)2011 International Women of Courage Award Winners」U.S. Department of State
(22)同じ年に艾暁明さんも受賞しており、それは、日本の日刊ベリタの記事にもなっている(「四川大地震を描いたドキュメンタリー映画『私たちの子供』 ボーヴォワール賞受賞の艾暁明さんに制作の意図を聞く」日刊ベリタ2010年5月17日)。
(23)古莉「北京一妇女法律援助中心被关闭」Radio France Internationale (RFI) 2016年2月2日。
(24)长平「长平观察:妇女自己的法律中心」德国之声2016年2月2日。
(25)中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」共同通信2016年1月30日。共同通信の記事は、もちろん他のメディアも掲載している(「中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」『日本経済新聞』2016年1月30日、「中国の著名NGO活動停止 当局の締め付けか」『東京新聞』2016年1月30日)。
(26)陸女權組織 『眾澤中心』忽歇業」聯合報2016年2月1日。
(27)北京众泽服务中心今起歇业 专营妇女法援维权」《南华早报》中文网2016年2月1日。
(28)中国で拘束のスウェーデン人男性、テレビで『謝罪』」CNN 2016年1月20日。
(29)单仁平「西媒炒作众泽关闭事件是为看热闹」环球时报2016年2月2日。この論説は、衆沢については、「閉鎖の過程から見ると、今までのところ比較的温和で、衆沢も対抗する態度をとっていない」と述べつつ、「法律援助の領域では、以前ごく少数の過激な人権弁護士が法律と対立するようになり、悪い影響を与えたことも言わなければならない」と言う。また、この論説は、「管理機構も、法律文化領域のNGOも、デリケートなことについては抑制と理性を保持するべきである。前者は胸襟を開き続けて、一般的な規則違反や管理における摩擦をデリケートな方向に連想するべきではない」と言いつつ、「後者は管理措置の強化に正しく対処して、関連する変化を政治上の問題として大げさに扱って『政治的弾圧』と見なすべきではない」と言う。すなわち、全体として、衆沢に対して大人しくしているように威圧しつつ、衆沢の閉鎖について穏当なものであるかのように述べて、欧米の世論は「野次馬見物をして、調子に乗って火に油を注いでいる」と言って欧米のメディアを非難している。反論として、查建国「众泽关闭,国人有知情权(与环球时报争鸣之291)」(博讯新闻网2016年2月7日)がある。
(30)我是你认识的王小能的微博2016年1月30日 11:51
(31)前东家今日歇业,生命暂停在20岁,我是来安利的」花香-弥漫的微博2016年2月1日 03:03
(32)同上。
(33)郭建梅的磨难|丈夫刘震云:她顶多是学德兰修女,不是曼德拉」民间 2016年2月3 日(原題名およびソースは、「公益律师郭建梅的“磨难”」『凤凰周刊』2011年14期[2011年5月15日])。
(34)神州之大 连"众泽"都容不下」自由亚洲电台(RFA)2016年2月5日。
(35)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 19:21:20
(36)众泽妇女法律中心――千千律师所的微博2016年2月16日 09:38
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