2017-10

DV防止法をめぐる議論と運動――2015年を中心に――

<目次>

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動
 1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める活動 2. DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議 3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議 4.障害者の視点からの意見と建議 5.家庭内での性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動
 A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など
 B さまざまなアクション
 1.ネット上のアンケート調査 2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える 3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど 4. 中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝 5. 女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる
 C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

三 2015年12月の草案と成立した法律をめぐって
 A 前進面の指摘
 B 問題点の指摘
 C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点
 1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備 2.目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

2015年12月27日、中国のDV防止法――正式名称は、中華人民共和国反家庭内暴力法(中华人民共和国反家庭暴力法)なので、以下、反DV法と略す――が成立した(施行は2016年3月1日)。

このエントリでは、主に2015年の中国での同法をめぐる議論と運動を見ていきたい。法律や草案の文言自体については、別エントリで、成立した法律と2014年11月・2015年7月の草案とを全文翻訳して対照させたので、そちらをご参照いただきたい(中華人民共和国反家庭内暴力法――草案を含めた全訳、草案との対照)。

一 2014年11月の草案をめぐる議論と運動

2014年11月25日、国務院法制事務局が草案(意見募集稿)を発表し、12月20日までの間、広く社会から意見を求めた。パブリックコメントである。その後一週間ほどの運動についてはすでに一昨年、ご紹介しているので(「家庭内暴力防止法の草案発表、草案に対するさまざまな意見と活動」 2014年12月2日)、今回はそれ以後の動きをご紹介する。

一昨年ご紹介したとおり、2014年11月の草案については、以下のような意義と問題点が指摘されていた。
<意義>
・「人身安全保護裁定」(諸外国の「保護命令」に似たもの)が導入された。
・関係機関に対してDVに関する研修・統計を義務付けた。
・社会福祉機構や医療機関にDVについての報告を義務付けた。
・シェルターの設置を義務付けた。
<問題点>
・家庭内暴力の定義が狭く、法律上の家族成員間の暴力に限定されている。
・人身安全保護裁定について警察が何をするのかが書かれていない。
・シェルターが、その役割を果たせるだけの質を持ちうるかについて保証されてない。
・貧困者に対する法律扶助の規定がない。
・DV教育についての規定になぜか「小中学校」しか書かれていない。
・多くの機関の協力についての規定がなく、専門の反家庭内暴力機構(家庭内暴力防止委員会のような)が設置されない。
・民間団体の役割についても明確に規定されていない。

この草案に対しては、以下のような運動がおこなわれた。

1.同居・恋愛関係・同性愛なども法の対象に入れるよう求める運動

まず、一昨年も触れたが、2014年12月初め、レズビアングループ「同語」やネットマガジン「酷拉時報(Queer Lala Times)」が、反DV法が同居・恋愛・パートナーなどの親密な関係も対象にするよう署名を開始した(1)

また、12月4日は、中国の憲法記念日(2014年に定められた)であるとともに、法制宣伝日(2001年に定められた)でもある。この日、7都市(北京・広州・深圳・武漢・長沙・泉州・杭州)の女性たちが、それぞれの都市の婦女連合会(婦連)と公安局とに対して、2013年に「非婚の同居関係の暴力によって助けを何度求められたか? そのうちの異性愛の暴力と同性愛の暴力はそれぞれいくらか?」という点について情報公開を申請した。

この活動を呼びかけた韋洋さんは、「自分の身の回りにも、恋愛関係や同居の期間にパートナーから脅されたり、殴られたりした事例は多いので、反DV法が出来ると聞いたときは、非常に感激した。しかし、まさか意見稿には同居・恋愛中の暴力を扱っていないとは。私は非常にがっかりしたし、理解できない」と述べた(2)

さらに、12月24日には、北京の街頭で、2人のサンタクロースの扮装をした人がこづき合い、どなり合うパフォーマンスアートをした。2人の傍らでは、別の2人が「同性愛はどこにでもあるのに、立法部門の目には入らない」、「反DVには、あなたと私とta[他(彼)と她(彼女)の共通の音]の区別はない、DV被害に遭うことに性的指向の区別はない」というプラカードを掲げて、反DV法が同性間の暴力を視野に入れるよう訴えた(3)

2.DV被害者の加害者に対する犯罪への処罰軽減を規定することを求める建議

12月12日、全国12省の女性弁護士30人が、DVの被害者が加害者を死傷させた場合にDV被害を情状に入れることを求める建議を出した。具体的には、以下の2点を求めた。
 1.DV被害を刑事裁判の法定の量刑の情状に入れること。
 2.長期にわたる持続的なDVの被害女性が「暴力によって暴力を制して」加害者を死亡させたような事件には原則として死刑を適用しないこと(4)

3.人身安全保護裁定の執行機関を警察にすること、および民事訴訟の過程や直前でなくとも、また本人でなくとも申請が可能にするよう求めるDV被害者による建議

12月17日には、DV被害者60名が「人身保護安全裁定の適用範囲を拡大し、執行機関を明確することについての建議の手紙」を国務院法制事務局と公安部に送った。

発起人の陸蔓蔓さん(のちに李麦子さんと同性婚をした人である)によると、この建議は、四川省でDV被害者の李彦が夫を殺した事件がきっかけになった。李彦さんは、警察や婦女連合会に何度も助けを求めたが、助けを得られず、夫と争っているときに、過失によって夫を殺した。陸さんは、「もし李彦さんが暴力をふるわれていたときに人身保護命令制度があったら、夫を殺す惨劇は起きなかったかもしれない」と思ったが、意見募集稿には不十分な点があった。

陸さんは、12月15日、意見募集稿の「人身保護命令」について連署した建議の手紙を出すことを呼びかけたところ、2日間で60名の被害者の署名が集まった。

この建議では、以下の4点を求めた。

1. 人身保護裁定を執行する行政機関は、公安部門(警察)であることを明確にすること。
 意見募集稿では、裁判所を、人身保護裁定を出す権力を持つとともに、その裁定を執行する責任を持つと規定している。しかし、裁判所はあくまで裁判をする機関であって、財産ではないものの保護命令については、執行する警察力を持っていない。

2. 人身保護裁定の適用範囲を拡大すること。
 意見募集稿では、裁判所が人身保護手裁定を出すことができる範囲は、「離婚・扶養・養育・相続などの民事事件の過程中」と「訴訟を起こす前」だけである。すなわち訴訟を前提としており、かつ、訴訟が可能な主体は家庭内暴力の被害者だけである。しかし、被害者は、感情・家庭・経済などの原因により、そうした訴訟を起こせない場合も多い。だから、被害者が訴訟を起こしていなかったり、あるいは他の問題についての訴訟を起こしている過程であったりしても、裁判所に人身保護裁定を申請できるようにすること。

3. 人身保護裁定の有効期間を延長すること。
 クレイジーイングリッシュ(英語学習法の一つ)の創始者の李陽が妻のKimに対して暴力をふるった事件では、裁判所の人身安全保護裁定の有効期間は3カ月だったが、3カ月経ったら、Kimはすぐに李陽の悪意のハラスメントを始め、いかなる賠償金の支払いも拒絶した。このように裁定の有効期間が短すぎると、加害者に対する威嚇にならないし、有効期間が過ぎたら、加害者が言葉で脅すだけだと再度裁定を申請することも難しい。

4.強制的な司法関与制度を確立して、人身安全保護裁定の申請者の範囲を公安部門にも拡大すること。
 DV被害者は長期にわたる恐怖と脅しによって、自ら人身保護裁定を申請できないこともあるので、通報を受けた公安機関が被害者の代わりに申請できるようにすること(5)

4.障害者の視点からの意見と建議

12月24日には、多くの障害者団体や女性団体などが、障害者の視点から、意見と建議を出した。その建議は、主に以下の4つの点についてのものだった。
 1.家庭内暴力の定義を広げて、性暴力や経済・財産の剥奪・支配にも広げること。また、別れたパートナー、離婚した配偶者、後見人と被後見人、生活を共にしている非親族、関係が密接な介護者による侵害も家庭内暴力行為と見なすこと。
 2.家庭内暴力の予防・関与における障害者連合会の役割と責任を明確にすること。
 3.家庭内暴力の予防と処罰、被害者の人権保障など面で、障害者に対して合理的で便利な特別措置をとること。具体的には、「委託代理人」による訴えなどの手続きの主体を増やすことや、障害者に質問するときはソーシャルワークなどの専門の人々のサポートを提供するなど。
 4.人身安全保護裁定の申請は、訴訟手続きに付属したものでなくすこと。公安機関がその執行機構になるべきこと(6)

また、12月10日、深圳の東門歩行街で、1人のソーシャルワーカーが「傷ついた新婦」の扮装をして、DV防止立法への関心を持つよう訴えた。このパフォーマンスアートを呼びかけたのは深圳安瀾ソーシャルワークサービス社の黄さんだが、傍らで宣伝物を撒いたのは、障害者で、長年夫に暴力をふるわれてきた朱さんだった(7)。このように、障害者の被害者がこの問題についての活動において登場したことも特徴だろう。

5.家庭内の性暴力が隠蔽されていることを訴えるパフォーマンスアート

12月15日には、「赤ずきん」の扮装をした2人の若い女性(小猫さんと児玉さん[いずれも仮名])が、北京の後海の銀錠橋のそばで、「家族が円満ならば、何事もうまくいく(家和万事興)」と書かれた大きな扁額を背中に背負って、石畳に水で字を書くパフォーマンスアートをおこなった。水で字を書いても、時間が経つにつれて消えていく。そのことによって、彼女たちは、子どもが家庭内で性暴力に遭っても隠蔽される現状を示したのである。

中国でも、未成年者の性暴力被害の多くが家族によるものであることが明らかになっている。たとえば、北京青少年法律援助・研究センターの報告では、2006年~2008年にメディアで報道された未成年の性暴力被害は、知っている人によるものが68%であり、父親(実の父親だけではないが)によるものが61パーセントだった(この点については(8))。

小猫さんと児玉さんは、ネット上で知り合った人と議論していたとき、多くの人が未成年のときに親族による性暴力被害に遭った話をした。その中の多くは、家族や隣人に助けを求めても、拒否されたり、信じてもらえなかったりしたという(9)

2人のパフォーマンスアートは、とくに反DV法に向けてのものではないようだが、このアクションを報じた女声網の記事では、医者や教師など、未成年者と日常的に接触している人間の通報義務などにも触れており、反DV法とも関係するものだった。

二 2015年7月の草案をめぐる議論と運動

2015年7月28日、国務院常務会議が反DV法の草案を採択した。

8月24日には、この草案は全国人民代表大会常務委員会に提出され、同月27日におこなわれた全人代常務委員会での初の審議では、さまざまな委員から、精神的暴力や性暴力、同居の関係についても反DV法に入れるべきだという意見が出た(10)

9月8日には、中国人民代表大会ネットが、この草案を広く公表し、再び広く社会から意見(パブリックコメント)を求めた(反家庭暴力法(草案)全文中国人大网)。

A 「反DV民間唱導グループ」による検討と建議など

9月20日、「反家庭内暴力民間唱導グループ(反家暴立法民间倡导小组)」(広州ニューメディア女性ネットワーク、北京源衆ジェンダー発展センター[北京源众性别发展中心]、同語、北京為平、雲南明心ソーシャルワークサービスセンターなど)は中国社会科学院法学研究所公益研究センターと共同でこの草案についての研究討論会を開催した。

北京源衆ジェンダー発展センター主任の李瑩弁護士は、今回の草案が前年の草案と比べて進歩した点として、以下の3点を挙げた。

(1)最大の進歩は、人身安全保護命令が、独立した保護手続きとして出現し、他の何の訴訟の手続きに付属したものでなくなったことである。

2014年11月草案:
 第27条「人民法院が離婚・扶養・養育・他人の子の養育・相続などの民事事件を審理する過程において、家庭内暴力の被害者は人民法院に人身保護裁定を申請することができる。家庭内暴力の被害者は、訴訟を起こす前でも、人民法院に人身保護裁定を申請することができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第27条「当事者が家庭内暴力に遭う、または家庭内暴力に遭う現実の危険に直面したために、人民法院に人身安全保護命令を申請した場合は、人民法院は受理しなければならない。」

(2)「社会組織」を規定に入れたこと。

2015年7月草案:
 第3条「政府の関係部門、司法機関、人民団体、社会組織、都市・農村の基層の大衆的自治組織、企業・事業単位は、本法と関係する法律の規定にもとづいて、反家庭内暴力の活動をしなければならない」
 第9条「各レベルの人民政府は、社会組織が心理健康相談、家族関係の指導、家庭内暴力防護知識教育などのサービスをするのを支持しなければならない」
 なお、第6条にも「国家は社会の力が反家庭暴力の宣伝活動をするのを奨励しなければならない」とある。)

(3)告誡制度がきちんとした詳細なものになったこと。

2014年11月草案:
 第19条「家庭内暴力が治安管理行為違反や犯罪にまではならないとき、公安機関は加害者に二度と暴力をふるわないよう書面で告誡し、告誡書の副本を被害者の住所あるいはふだんの居住地の基層の大衆的自治組織・婦女連合会に送ることができる。」
 ↓
2015年7月草案:
 第16条「家庭内暴力の情状が比較的軽く、法によって治安管理処罰をしないときは、公安機関は加害者に対して批判教育、あるいは告誡書を出す。
 告誡書は、加害者の身分情報、家庭内暴力の事実の陳述、加害者が家庭内暴力をすることを禁止するなどの内容を含めなければならない。」、
 第17条「公安機関は告誡書を加害者、被害者、現地の都市・農村の基層の大衆的自治組織に渡さなければならない。
 都市・農村の基層の大衆的自治組織の工作人員あるいは社区(地域コミュニティ組織)の警官は、告誡書を受け取った加害者・被害者のところに行って調べ、加害者にもう暴力をふるわないよう促さなければならない。」

ただし、中華女子学院副教授の張栄麗さんは、告誡書の詳細な規定がなされたことは非常に良いと述べつつも、草案には告誡書に違反した場合の規定がないことを批判した。

その他にも、以下の点で進歩があったことが指摘されている。

(4)人身安全保護裁定違反に対する罰則が明確に記された。

2014年11月草案:
 第39条「加害者が人身安全保護裁定に違反した場合は、人民法院は民事訴訟法111条、115条、116条の規定によって処罰する。犯罪を構成する場合は、法によって刑事責任を追究する」
 ↓
2015年7月草案:
 第32条「被申請人が人身安全保護命令に違反した場合は、人民法院は訓戒をしなければならず、情状の軽重にもとづいて、1000元以下の罰金、15日以下の拘留に処す」

しかし、その一方で、この草案は、意見募集稿と比べてかえって退歩した点もあることも指摘されている。

(1)この草案は、DVの定義が身体的暴力だけで、精神的暴力・性暴力が含まれていない。2014年11月草案には精神的暴力は含まれていた。また、対象が「家庭構成員の間」に限られており。恋愛・同棲・元配偶者の間の暴力行為は対象にしていないが、2015年7月草案には里子の関係は含まれていた(李瑩弁護士の指摘)。

2014年11月草案:
 第2条「家庭内暴力とは、家族の成員の間で身体・精神などの面の侵害をすることを指す。
 本法で言う家族の構成員とは、配偶者・父母・子どもおよびその他の生活を共にしている近親族である。
 家族の里子の関係の人の間の暴力行為は、家庭内暴力と見なす。」
 ↓
2015年7月草案:
 第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である。」

(2)意見募集稿では、警察が通報を受けた後、どのように家庭内暴力を処置するかについての詳細な規定があったが、この草案では削除されている(ある基層の裁判所の院長の指摘) (11)

2014年11月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、状況にもとづいて、以下の相応の措置をとらなければならない
 (一)いま現在発生している家庭内暴力を制止する。
 (二)ただちに被害者・加害者・証人に質問して、録音・録画・撮影などの方法で関連する証拠を固めるとともに、書面の記録を作成する。
 (三)被害者がただちに医者にかかる必要がある場合は、医療機関と連絡をして処置や治療に協力し、必要に応じて傷の程度の鑑定をしなければならない。被害者が未成年の場合は、ただちに傷の程度の鑑定をし、きちんと処置をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定しなければならない」

(3) 2014年11月草案稿にはあった、未成年者に対してどのように質問するかについて詳細な規定や、業務研修や統計を義務づける規定、監獄・留置所・拘置所などでの加害者に対する教育の規定が削除されている(馮媛さんによる指摘(12))。

すなわち、2014年11月草案にあった以下の規定が削除されている。
 第16条「公安機関は質問をするとき、被害者と加害者を別々にして質問しなければならない。 
 公安機関は未成年者に質問するときは、未成年者の心身の特徴を考慮し、さらなる傷害を与えることを防がなければならない。
 未成年の被害者を公安機関に連れて行って質問するときは、法的代理人に通知して現場に来させなければならない。通知できず、法的代理人が来られない、来ることを拒絶する、あるいは法定代理人が加害者である場合は、未成年の被害者の成人の近い親族に通知してもよく、学校あるいは基層の大衆的自治組織の代表に通知してもよく、その状況の記録を残さなければならない。」
 第9条「人民法院・人民検察院・公安機関・民政部門・婦女連合会は反家庭内暴力活動をその系統の業務研修と統計の中に入れなければならない。」
 第12条「監獄・留置所・拘置所などの場所は、刑罰を科せられている、あるいは法によって拘留・逮捕されている加害者に対して法にもとづいて法制教育・心理カウンセリング・行為矯正をおこなわなければならない」

このように、以前の草案に比べても大幅な削除がおこなわれたため、王曦影さん(北京師範大学社会発展と公共政策学院副教授)は、次のように言っている。
 「[2014年11月の草案は]あるネット上の友人の論評によると、『非常に粗末な草案』だった。けれども、全国のフェミニズムの研究者と活動家たちは気落ちせずに、いっそう頑張って立法部門に対して大量の意見を出した。(……)しかし、今年8月に出た反家庭内暴力法の新しい草案には驚くべきものだった。民間の大量の意見と建議を取り入れてないだけでなく、さらに粗末で、1/3を縮めた内容だったからである。その修正の方法は、削れるところは削り、簡単にできるところは簡単にするという、『立法は大雑把なのがよく、細かいのはよくない』という原則に従ったかのようだった。」

王曦影さんは、とくに「加害者の男性に対する強制的矯正に口をつぐんでいる」ことを問題視した(13)

さらに、さまざまな不十分点も指摘された。

たとえば、馮媛さん(女性の権益とジェンダー平等のための民間組織「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席)は、上で述べたような問題を指摘するとともに、以下の(1)(2)の点で、草案の規定を原則的なものにとどめず、もっと具体的で、実効性があるものにすべきであることを指摘した。

(1)第7条に「医療機構は家庭内暴力の被害者の診療記録をきちんとつけ、反家庭内暴力を業務研修に入れなければならない」とあるが、日本の「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」は、「医師その他の医療関係者は、その業務を行うに当たり、配偶者からの暴力によって負傷し又は疾病にかかったと認められる者を発見したときは、その者に対し、配偶者暴力相談支援センター等の利用について、その有する情報を提供するよう努めなければならない」(第6条2)としており、このようにすれば、もっと予防のために役に立つ。

(2)第6条に「小中学校は、反家庭内暴力教育をしなければならない」とあるが、ベトナムの「家庭内暴力予防・制圧法」は、「教育・訓練省は、家庭内暴力の予防・制圧について、レベル別の教育機構の課程の要求、課程の設置に合わせて、指導する措置を提示しなければならない。国家教育システムの中の学校とその他の教育機構は、家庭内暴力防止・制圧の知識をその課程の中に取り入れる義務を負う」と規定していることが参考にできる。

また、馮媛さんは、以下の点において、社会をエンパワメントし、女性をエンパワメントする規定にすべきことを指摘している。

(3)第22条に「都市の農村の基層の大衆的自治組織、労働組合、共産主義青年団、婦女連合会などの単位は、家庭内暴力の加害者に対して法制教育と心理補導をおこなわなければならない」とあるが、法律執行機関と司法機関だけが、加害者に関連する措置を受けさせる権力がある。(14)

「反家庭内暴力民間唱導グループ」は、以上の議論を踏まえて、以下のような内容の全国人民代表大会に建議を提出した。そのポイントは、以下のようにまとめられる。

1.家庭内暴力の定義を完全にものにせよ
 精神的暴力と性暴力、恋愛・同居・元の配偶関係、養子関係の人の間の暴力も入れよ。

2.多くの機構が協力して家庭内暴力に関与せよ
 国家機関・司法部門・社会団体・企事業単位・基層の大衆的自治組織、婦女連合会・労働組合・共産主義青年団・障害者連合会・社会組織の役割と責任を明確にするとともに、力を持った反家庭内暴力の牽引機構を設立せよ。反家庭内暴力は、一つの系統・一つの部門だけでできるものではなく、警察への通報、助けを求める、医者にかかる、傷の程度の鑑定、庇護(シェルターなど)、人身安全保護、法律援助などの面で、多くの部門の統一的案配・調整・協力が必要である。

10月5日までの期間、同意する人々の署名もネットで集めたうえで、上の建議は提出された(15)

B さまざまなアクション

学者・専門家以外の人々も、さまざまな行動をした。

1.ネット上のアンケート調査

たとえば、草案では家庭内暴力の定義が法定の家族成員間の暴力だけに限定されているので、レズビアン団体「同語」は、9月11日から、「親密な関係に関する調査」を開始し、性的指向、親密な関係の状況、パートナーに対する暴力などについて尋ねるアンケートをおこなった(16)

とくに女性に対する暴力をなくす国際デーである11月25日前後には、以下の2~5のようなアクションがおこなわれた。

2. BCome小組、2015年も北京の地下鉄の車内で《女の歌》を歌い、チラシをまいて、女性に対する暴力反対を訴える

BCome小組(《ヴァギナ・モノローグス》の中国語版を上演しているフェミニストの劇団)は、2012年から毎年、11月24日か25日に、北京の地下鉄内で女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなってきた。2012年は、ヴァギナ・モノローグスの中から「ミニスカートは誘惑じゃない」という一節を演じ、2013年と2014年は、《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》(レ・ミゼラブルの劇中歌《民衆の歌》の替歌)を歌いつつ、チラシをまいて女性に対する暴力反対を訴えてきた。

BCome小組は、2015年も、11月25日に、7人ほどで、北京の地下鉄の車内で《あなたは女が歌っているのが聞こえるか?(女の歌)》を歌いつつ、ピンクのチラシをまいて女性に対する暴力反対を訴える活動をおこなった(17)。2015年は、国際女性デー前日の3月7日にバスの中で痴漢防止措置を訴えるための宣伝活動をする計画をしたことにより、5人のフェミニスト女性が刑事拘留された事件があったので、「今年はやるのは無理ではないか?」と私は思ったのだが、彼女たちは敢行した。ただし、この活動は、BCome小組の微博が掲載しただけで、前年までに比べて、活動の宣伝はずっと少ないようだ。

3.養育権が妻にある子どもを奪った中国中央テレビのキャスターを批判し、精神的暴力や元の配偶者からの暴力、職場の責任を法に入れることを訴えるパフォーマンスアートなど

中国中央テレビの柴華北キャスターは、妻に対して暴力をふるってきた。2012年、それに対して、妻の葉果さん(仮名)が離婚訴訟を起こした。2013年8月、北京市朝陽区人民法院は、柴キャスターのDVを認定し、離婚を認めるとともに、子どもの養育権を葉果さんに与えた。柴キャスターは控訴したが、2013年11月、北京市中級人民法院は、柴キャスターの控訴を棄却した。

けれども、その後19カ月経っても、柴キャスターは子どもを葉果さんに渡さなかった。

(1) 「人を雇う単位の反DVへの参与」シンポジウム

11月23日、「北京為平」などのNGOが、「人を雇う単位の反DVへの参与」というシンポジウムを開催した。このシンポジウムで、葉果さんのケースが討論の焦点になった。

「北京為平」の発起人の馮媛さんは、家庭内暴力の定義に、別れた後の関係や精神的暴力(子どもを利用した相手に対するコントロールやいじめを含む)を入れるべきことを主張した。

また、北京衆沢女性法律相談サービスセンターの林麗華弁護士は、DV事件において、離婚後の養育権について裁判所の判決の執行が困難なことはよくあり、中国では単位を通じて介入することが有効な手段になると述べた。林弁護士だけでなく、多くの女性の権利についての専門家が、人を雇う単位の反DVの責任を法律の条文の中に入れるべきことを主張した(18)

(2)裁判所前での「血染めのウェディングドレス」や署名によるパフォーマンスアート

12月24日は、子どもの養育権の問題について、北京市朝陽区法院が、柴華北キャスターとその前妻との調停を通知した日だった。

当日、裁判所の入り口で、2人の若い女性が、血で染まったかのように見えるウェデングドレスを着て、「婚姻は終わったのに、DVは終わらない 元の配偶者によるDVを速やかに法に入れよ」「子どもを奪うことは法を犯すこと 精神的暴力を法に入れるべき」と書いたプラカードを持って、柴キャスターに抗議した。2人は、百人近い母親の名前を連ねた「柴華北に子どもの養育権を返すように訴える」と書いた大きな紙(布?)も広げた。

活動に参加した2人は、柴華北キャスターのDVや子どもを渡さないことを批判するとともに、精神的暴力や元の配偶者からの暴力の問題の重要さを訴え、反DV法が、それらも対象にするよう主張した(19)

(3)職場である中国中央テレビ(CCTV)の前でのパフォーマンスアート

翌11月25日には、2人の若い女性が、中国中央テレビ(CCTV)の前で、「DVはゼロトレランス、中国中央テレビは手本を示せ」、「中国中央テレビの人気キャスター柴華北よ、あなたの子どもは母親を恋しがっている」というプラカードを掲げ、中国中央テレビが職員である柴華北キャスターに対する管理・監督をおこなうように訴えた。

馮媛さんは、「反DVについての職場の使用者の責任は、国際的にはすでに共通認識になっており、多くの国外の法律では、明確に職場の使用者の責任が規定されている。国内の多くの地方法規でも、職場の使用者の責任は強調されている。『反家庭内暴力法』の草案も、職場の使用者が職員に対して家庭内暴力反対の宣伝教育活動をしなければならないと述べているが、職場の使用者の責任は、明確で具体的なものにはなっていない。従業員のニーズに積極的に応えて援助をするだけでなく、加害者に対して批判・教育し、事情を斟酌しつつ処分をしなければならない」と述べた(20)

(4)馬戸さんら、中国中央テレビに数十名の母親が連署した建議の手紙

12月9日には、馬戸さん(北京郵政に女性であるために宅配便配達員採用を拒否されたことを裁判に訴えている女性)が、中国中央テレビ局の局長と同局の監察室に宛てて、従業員の柴華北さんに子どもの養育権を返させるよう、職場として責任を持って命じることを求める数十名の母親が連署した建議の手紙を送った(21)

4.中華女子学院のWoMen小組、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装で反DVを宣伝

11月25日には、中華女子学院のWoMen小組の9人(写真に写っている人数)も、少数民族の衣装や赤ずきんをまとった被害女性の扮装でDV反対を宣伝した(22)

これは法律的な要求とは直接関係ないように見えるし、学院やその周辺での活動にとどまっているようだが、2015年5月に微博を開始した新しいグループの活動であり、パフォーマンスアートの新たな広がりを示すものとしてご紹介した。

5.女性に対する暴力反対をテーマにした展覧会、中止させられる

11月25日には、「姦:ジェンダー暴力の傷害の文化的符牒――2015中国当代芸術招待展」も北京の今格芸術クラブで開催される予定だった。この展覧会の趣旨は、「女性を支え、暴力傷害に反対する」というもので、芸術家60人余りが参加することになっていた。

ところが、前日の24日の午後、政府当局側の人間が展覧の段取りをしている現場に現れ、中止を命じた。主催者は、展覧会のテーマと背景はけっして不適切なものはなく、そのことは、さまざまなメディアが報道していることによっても証されていると説明した。しかし、政府当局側の人間の回答は、「参与している人数が多く、手続きを経た許可を得ていないので、展覧会をすることは許可しない」というものだった。

25日の午後、芸術家たちが展覧の段取りをしてようとして今格芸術クラブに現れたときは、クラブの正門にはかたく鍵がかけられていた。

それにもめげず、肖魯、慶慶などの芸術家は、建物の外で自らの作品を使ってアピールをした。

この展覧会に出展する予定だった64人の芸術家の作品は、女性に対するDVをテーマにしたものだった。64人は男女半々だったということだが、これほどの人数が集まって、これほどの規模で行われることは、これまであまりなかった。(23)

実際、従来、女性に対する暴力やDVというテーマの作品展がこれほどの人数と規模でおこなわれたことはなかったように思う。だからこそ、当局は「参与している人数が多い」ことに、体制にとって不穏なものを感じたかもしれない。

C 27人の弁護士の連名の建議の書簡

12月21日、第12期全人代常務委員会第18回会議が開催されて、反DV法草案の二回目の審議がおこなわれたのだが、その前日の20日、全国10余りの都市の27人の弁護士が全人代法制工作委員会に対して連名の建議の書簡を出した(24)

この書簡は、12月16日、女性の権利に関心を持つ弁護士たちに対して連署が呼びかけられたもので、以下の点を要求するものだった(25)

1.立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること。

2.家庭内暴力の定義を完全なものすること:身体的暴力だけでなく、精神的暴力と性暴力を家庭内暴力の類型に入れること。家庭内暴力の行為の説明は例示式のものと概括式のものを結びつけて、法律をより活用しやすくすること。恋愛、同居、里子の関係の人々の間の暴力も家庭内暴力と見なすこと。

3.総則の中で、「多くの機構が協力して家庭内暴力に関与する」原則と具体的な規定を明確にし、もっと有力な反家庭内暴力を牽引する機構を設立するべきである。

4.国務院法制事務局の「反家庭暴力法(意見募集稿)」[=2014年11月の草案]の関連原則を復活させること。すなわち、家庭内暴力事件を処理する際には、被害者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならないという原則や、家庭内暴力にあった未成年・高齢者・障害者・重病患者に対しては特別な保護をしなければならないという原則を復活させる。

5.未成年者・高齢者などの弱者の人々の特別な保護については、詳細で完全な規定をしなければならない。すなわち、総則でそうした弱者に対する保護を明確にする、家庭内暴力の定義の中に、「幼い、老いた、知的障害の、病気にかかっているなど、独立して生活する能力がない家族の構成員を遺棄またはネグレクトする」、「未成年者を十分世話していない、後見をきちんとしていない、暴力的なしつけをしている」などを具体的行為として列記する、被害に遭った児童に対して国家の後見制度を増やす、強制的通報の属地管理を増やす、貧しくて弱い被害者、たとえば高齢者・障害者・未成年者の緊急の生活と医療救助制度を増やす、家庭内暴力を目の当たりにした児童に対する保護を増やすなど。

6.小中学校だけでなく、大学でも反家庭内暴力の教育をし、政治・法律の学院・大学やソーシャルワーク専攻の正式なカリキュラムの中にも入れなければならない。

7.家庭内暴力の処置の体制を完全なものにすること、具体的に言えば、家庭内暴力の処置として、首問負責制(最初の担当者が最後まで責任を持って対応する)を増やし、家庭内暴力についての危険性評価、加害者に対する心理的関与、地域コミュニティ矯正などの内容を増やすこと、強制通報制度と庇護措置を結び付けること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」の強制通報の責任者についての関連規定を復活させ、救助管理機構、社会福利機構、大衆的自治組織、小中学教育の研修機構を強制通報の責任者として加えること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第15条の公安機関が通報を受けた後に現場へ出動した際の措置を復活させること、国務院法制事務局の「反家庭内暴力法(意見募集稿)」第16条の未成年の被害者の具体的質問についての措置を復活させること。

8.家庭内暴力の被害者に対する庇護制度を明確に打ち立てること。すなわち、庇護をする義務を持つ人を明確にし、関連原則などについて詳細に規定すること、社会組織・単位・企業などがシェルターを設立することを奨励することを明確にすること。

9.家庭内暴力の特色に配慮して、証明責任や証拠の基準について詳細な規定をする。その中には、一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなうことや未成年者の証言の効力を明確にすることなどを含む。

10.人身安全保護命令の制度について、もっと詳細で完全な規定をする:緊急保護命令と通常保護命令など、人身安全保護命令の類型を増やす。申請人の範囲を拡大して、基層の大衆自治組織、婦連、救助管理機構、人を雇う単位も申請人になれるようにする。裁定の内容をもっと詳細で完全なものにし、共有財産の処理の制限、被害者に対する経済的補償・救助などの内容を含めなければならない。保護命令の期限を1年に延長し、また、延期を申請できることを明確にする。また、保護命令の執行機関を明確にする。たとえば公安機関にする。

11.法律上の責任をもっと詳細にする:各機構・各部門の責任と義務は、一つ一つ対応していなければならない(?)。告誡令違反の法律的責任を増やす。保護命令違反の懲戒を強化する。暴力によって暴力を制した被告の罪の決定と量刑の原則を増やす。具体的には、長期にわたって家庭内暴力に遭ってきた被害者が加害者に対して損害を与えて、犯罪になった場合は、処罰を免除、軽減、あるいは処罰を軽くする(25)

以上の1~11は、草案に対するそれまでの様々な要求を包括していると言えるだろう。

署名した弁護士は、梁晨、林麗霞、陳静、苟占芳、呂孝権、李桂梅、単薇、楊彦萍、秦懋雲、金剣南、趙麗娜、潘海帆、蒙瑞蓉、陳素芳、李小非、余華坤、余華押、唐為、黄溢智、辛鈞輝、彭勃、田咚、王慧、周清和、方鵬飛、塔拉、宋琳の各氏だった(26)


三 2015年12月の第2回審議稿と成立した法律をめぐって

12月21日の全人代常務委員会の第2回目の審議に際に、新たな草案が提出された。この第2審議稿は同月27日に採択され、成立した(「中华人民共和国反家庭暴力法」新华社2015年12月27日)。ほぼ原案のまま可決されたようだ。

A 前進面の指摘

成立した法律には、以下の点で前進があったことが指摘されている。

(1)家庭内暴力の定義に精神的暴力が入った。

2015年7月草案:
第2条「本法で言う家庭内暴力とは、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、家庭の構成員に対しておこなう侵害行為である」
 ↓
成立した法律:
 第2条「家庭内暴力とは、家庭の構成員間で、殴る、縄で縛る、傷つける、強制的に人身の自由を制限する、日常的に侮り罵る、脅迫するなどの方法で身体や精神などに対する侵害行為をおこなうことを指す」

(2)同居している人の間の暴力も入った。

具体的に言えば、成立した法律では、「附則」の第37条に「家庭の構成員以外に、生活を共にする人の間の暴力行為も、本法を参照して執行する」という規定が入った。

(3)人身安全保護命令を代わって申請する人を、親族から、公安機関、婦連、救助管理機構などに広げた。

2015年7月草案:
 第23条「当事者が強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族が代わって申請することができる」
 ↓
成立した法律:
 第23条「当事者が民事行為能力のない人や民事行為能力が制限されている人、あるいは強制・威嚇を受けているなどの原因で人身安全保護命令を申請できないときは、その近い親族、公安機関、婦女連合会、居民委員会、村民委員会、救助管理機構が代わって申請することができる」

(4)強制報告義務が拡大した。

2015年7月草案:
第14条「小中学校、幼稚園、医療機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第14条「学校、幼稚園、医療機構、居民委員会、村民委員会、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、仕事中に、民事行為能力がない人、民事行為能力を制限されている人で、家庭内暴力に遭っているか、遭っている疑いがある人を見つけたら、直ちに公安機関に通報しなければならない」

(5)小中学校という限定が外れた。

2015年7月草案:
 第7条「小中学校の反家庭内暴力教育をおこなわなければならない。」
 ↓
成立した法律:
 第6条「学校・幼稚園は、家庭の美徳と反家庭内暴力の教育をしなければならない」

(7)総則に国家の責任が明記された。

2015年7月草案:
 第3条「反家庭内暴力は全社会と一つ一つの家庭の共同責任である」
 ↓
成立した法律:
 第3条「反家庭内暴力は国家・社会・一つ一つの家庭の共同責任である」

(8)緊急時の公安機関の役割が拡大した。

2015年7月草案:
 第15条「公安機関は家庭内暴力の通報を受けた後は、ただちに現場に出動し、家庭内暴力を制止し、関係規定にもとづいて調査して証拠を集め、医者にかかるのを助け、傷の程度の鑑定をしなければならない。
 民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」
 ↓
成立した法律:
 第15条「民事行為能力のない人、民事行為能力が制限されている人が家庭内暴力によって身体に重大な傷害を受ける、人身の安全が脅かされている、あるいは誰も世話をしないために危険な状態になっているときは、公安機関は臨時の庇護場所か救助管理機構、福利機構に落ち着かせるよう民政部門に通知・協力しなければならない」

(9)草案でいったん削除されていた箇所の一部が復活した。

2014年11月草案:
 第6条「家庭内暴力事件の処理は、当事者の安全とプライバシーを保護し、被害者の意思を尊重しなければならない。
 家庭内暴力に遭った未成年者・高齢者・障害者、重病患者には、特別な保護をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (なし)
 ↓
成立した法律:
 第5条「家庭内暴力工作は被害者の本当の意思を尊重し、当事者のプライバシーを保護しなければならない。
 未成年者・高齢者・障害者・妊娠期・哺乳期の女性、重病患者が家庭内暴力に遭った場合は、特別な保護をしなければならない。」(27)


全人代常務委員会の刊行物『全国人大』の公式微信によると、意見募集の期間に8792人が4万通あまり意見を出した。この数字は、食品安全法や環境保護法より多く、そのうち多くの意見が反家庭内暴力法の細部を完全にするよう求めるもので、家庭内暴力の定義に精神的暴力が入っていないこと、恋愛や同居、元の配偶者など家族の構成員でない者の間の暴力行為の発生率の高さを無視していること、通報制度の責任の区分がはっきりしないこと、人身安全保護命令の執行主体の規定が不明であることなどだった。そのため第二審議稿は、修正をおこなったという(28)

B 問題点の指摘

その一方、以下のような問題点があることが多くの人に指摘された。

(1)家庭内暴力の定義に性暴力(婚姻内強姦を含め)と経済的支配は入らなかった。

この点については、陳敏さん(中国応用法学研究所研究員)が、「性暴力は身体的暴力と精神的暴力に簡単に分けられない。精神的暴力はいかなる形態の暴力にも付随する結果であり、性暴力はまして身体的暴力と同一視はできない」と批判している(29)

(2)恋愛中、別れた後、離婚後などの暴力は入らなかった。

(3)第37条の「家族成員以外の生活を共にする人がおこなった暴力」という条文についても、不十分さが指摘されている。

この規定についても、夏吟蘭さん(中国政法大学教授)は、「元の配偶者が含まれない点が不十分である。元の配偶者との間に起きる家庭内暴力と同居している関係の間の暴力は性質的に同じであり、家庭内暴力特有の隠蔽性・頻発性・周期性という特徴を持っている」と批判した。また、「生活を共にしている」という限定があるために、「直系の姻戚関係の間の暴力行為も家庭内暴力に含まれなくなる」ことも批判した(30)

(4)「生活を共にする人」には、同性愛者どうしには適用されないという解釈が、法案成立当日、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任によってなされた。

すなわち、AP通信の記者が、第37条に関して、「この定義には、同性愛の居住者が含まれるのかどうか?」と質問したところ、全人代常務委員会法制工作委員会社会法室主任の郭林茂氏は、「37条の意味は、第一に、家族の構成員以外、第二に、共同生活、第三に、本法を参照して執行するであり、本法を適用する、ではない。先ほど述べたように、家族の構成員以外の生活を共にする人には、後見、養子、同居生活が含まれるけれども、同性愛については現在のわれわれの法律には規定がなく、そういうこともない」と答えた(31)

ペンネーム「性愛大権」さんは、この回答について、「彼の『そういうこともない』という言葉には、とても驚いた。中国で同性愛・バイセクシュアル・トランスジェンダーなどの人々が広範に存在していることをまったく無視している」、「『反家庭内暴力法』はまだ異性愛覇権法だ」と述べた(32)

「北京為平」の共同発起人で、元DV反対ネットワーク/北京帆葆理事会主席の馮媛さんのこの法律に対する評価も見てみよう。

馮媛さんは、「反家庭内暴力法は、中国の歴史上初めて女性が提出し、女性NGOが初めて唱え、女性たちが協力して促進した法律である」とその意義を述べつつも、「しかし、この法律は強さが足りず、周到さが足りず、いささかの保護すべき人を排除している」として、中国中央テレビの柴華北キャスターのような、離婚後の子どもを不当に渡さないケースが、精神的暴力に当たるかどうかはっきりしないことや、生活を共にしておらず、家族の構成員でもない人からのストーカー的行為を挙げている。

馮媛さんは、さらに以下のような問題点を列挙している(33)。上で挙げた4点に続けて列挙しておこう。

(5)多くの機構の協力の規定が欠けている。「関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作」をするのは、事務局が婦連に置かれた政府の女性児童工作委員会であるが、この機構には、この重い任務を担うために必要な権威・メカニズム・人力が欠けている。多くの機構の協力の枠組みがなければ、各自がそれぞれやるだけであり、多くの部門や側面と関係する家庭内暴力問題に統一的に取り組むことができない。

(6)家庭内暴力の被害者に必要な、いささかのカギになるサポートとサービスが欠けている。たとえば臨時の生活援助以外の、被害者の住宅・就業・子どもの就学などの面の差し迫ったニーズは、この法律の中には書かれていない。証拠の面では、採択された文面は、その前の国務院法制事務局の意見募集稿[=2004年11月の草案]の中の挙証責任の合理的分配という内容と、法廷が代わりに調べて明らかにする職責とを削除した。被害者が多くの面で弱い立場であるために証拠を提供できないとき、協力や援助が得られるか否か問題である。

挙証責任の点ついては、夏吟蘭さんも、家庭内暴力は隠蔽性が強いので、一般の民事事件のように「主張するものが立証する」という原則では、被害者の主張はとおりにくいから、「人民法院は、家庭内暴力に関わる民事事件を審理する際は、挙証責任を合理的に分配しなければならない。被害者が客観的原因により自ら証拠の収集をおこなえないときは、人民法院が調査・収集しなければならない」という規定を加えるべきだと述べている(34)。この点は、すでに20日に27人の弁護士が主張していた、「一定の条件の下では挙証責任の転換をおこなう」ということである。

(7)カギになる機構であるのに、反家庭内暴力のための役割が与えられていないものがある。たとえば、検察機関・司法行政部門の職責が抜けており、郷・鎮政府は明文では予防の任務しか規定されていない。人を雇う単位(企業・事業単位)の役割は、批判と教育だけであり、明らかに不十分である。ほんとうは、人を雇う単位には、単位内の家庭内暴力の被害者に対して必要な便宜と援助を提供し、加害者に対しては処罰・処分をする義務と必要がある。

(8)草案の中の医療機構の業務研修の内容を落としている。多くの場合、医療業務従事者が家庭内暴力の被害者の最初の、悪い場合は接触する唯一の第三者なのでで、医療機構は必ず報告をしなければならない法律的責任がある。しかし、もし業務研修がなければ、多くの医療業務従事者には、家庭内暴力の被害者や被害者である疑いがある人を識別できない。研修をしていなければ、たとえば、頻繁に妊娠中絶をする女性に対して、それが家庭内暴力の結果であり、女性の性・身体・精神の各面の自主権が脅かされ、コントロールされ、侵害されている可能性があることに気づく医療関係者は少ないだろう。

(9)比較的曖昧な個所がある。たとえば、公安機関は保護命令の「執行に協力する」とある。公安機関が登場した点は、この条文はその前の草案よりも進歩している。しかし、執行に協力するという言い方は、不作為や責任逃れの理由になるかもしれず、裁判所が出した保護命令の影響力を損ない、保護命令制度の家庭内暴力を予防・抑制する実際の効力を損なって、被害者の権利の保障を難しくするかもしれない。

その他、以下のような箇所にも不十分さが指摘されている。

(10)第35条「学校、幼稚園、医療機構、都市・農村の基層の大衆的自治組織[成立した法律では、「居民委員会・村民委員会」となっている]、ソーシャルワークサービス機構、救助管理機構、福利機構とその職員は、本法第14条の規定にもとづいて公安機関に通報せず、重大な結果を引き起こした場合は、上級主管部門あるいはその単位によって、直接責任を負う主管人と他の直接責任を持つ人を法によって処分する」というのは、「明確さが欠けているので、明確にし、法律的責任を細分化すべきだ」と張雪梅さん(北京青少年法律援助・研究センター執行主任)は指摘する。なぜなら「反家庭暴力法草案は、強制的報告義務を規定した最初の法律であり、他の法律には規定がないので、『法によって処分する』という規定は、実践では使えない。だから、批判、教育、警告、過失として記録、除名、一定期間の職業活動停止、関連の職業資格剥奪などの処分をするべきだ。そうしないと報告義務が強制的なものにならない」からである(35)

他にも、27人の弁護士が主張していた点で、成立した法律には取り入れられていない事項は多い。

C 当初から基本的に変わらなかった根本的問題点

1.各部門のDV防止の責任についての規定の不備

呂頻さんは、すでに2014年12月、その前月に出た草案(意見募集稿)に対して、「責任がDV法の最大の問題である」を発表している。

呂頻さんは、「反DV法が解答すべき問題は、第一が、何がDVであるかで、第二が、各部門のDV防止の責任であるが、第一の意義は、第二によって決まる」という。「なぜなら、もし強力な防止規範がなければ、性暴力やパートナー間の暴力がDVの範囲に入るかどうかは、どうでもいいことになる」からだ。呂頻さんは、「第二の問題は、さらに3つの問題に分けられる」とし、「第一に、ある問題にはどの部門が責任を持つべきか、第二に、その部門がどのように責任を持つか、第三に、どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」ということだと述べた。

呂頻さんは、第一の「ある問題にはどの部門が責任を持つべきか」という点から見て、第4条の「県レベル以上の人民政府は、女性・児童工作の機構に責任を持ち、関係部門がきちんと反家庭内暴力活動をするよう組織し、協調させ、指導し、督促しなければならない」という規定について、こう述べる。

「女性・児童工作の機構」とは女性児童工作委員会を指しているが、同委員会は「議事を調整する機構」にすぎず、人力・財力も乏しい。女性児童工作委員会に対しては、国連の女性差別撤廃委員会も「政策を遂行するための権限または財源がない単なる調整機関であり、法律や政策のジェンダー評価をする権限を持っていない」と批判している(この点については、本ブログの記事「国連女性差別撤廃委員会の中国政府第7次、第8次合併レポート審議・総括所見とNGO」の「三、女性差別撤廃委員会の総括所見」の「女性の地位向上のための機構とデータ収集」参照。厳密には、「持っていないというレポートがあることに懸念を有する」という言い方であるが)。

また、呂頻さんは、第二の「その部門がどのように責任を持つか」という観点からシェルターについての規定を問題した。呂頻さんは、現在の中国のシェルターは「救助ステーション」にもう一つの看板を付けただけにすぎない場合が少なくないが、「救助ステーション」は流浪して住まいがない人のために短期的な生活救助をする施設であり、DVシェルターの機能やニーズとはほど遠いものであることを指摘している。被害者とその子どもは、緊急の避難所だけでなく、リハビリやサポートが必要なのだが、看板だけのシェルターは、婦連の紹介状が必要だったり、その土地に新関がいない場合でないと受け入れなかったり、長くて7日しか居られなかったりするので、シェルターの利用者は少ないという。だから、救助ステーションをシェルターに指定すれば、量的指標は容易に達成できるが、質的指標こそがボトルネックなのであり、そうでなければ、紙の上に書いたことは絵に描いた餅になるが、遺憾なことに、意見募集稿には質的指標についての規定が全くないと指摘している。

呂頻さんは、実際は、民政部門が直接シェルターを設置・運営する必要はなく、政府が政策とリソースを出して、民間団体にシェルターを運営させて、政府が評価・監督すればよいと述べている。実際、中国のシェルターは、初期には民間によって設立されたが、サポートや政策がなかったために夭折したので、政府が政策を出し、リソースを供給すれば、きちんとした評価と監督があれば、シェルターのボトルネックは突破できると呂頻さんは言う。

さらに、呂頻さんは、第三に「どのようにしてその部門が本当に責任を持つことを保証するか」という観点から、第33条の「人民法院は(……)被害者と加害者の住所あるいは通常の居住地の公安機関・基層の大衆的自治組織・婦女連合会に人身安全保護裁定の副本を送らなければならない」という規定を取り上げた。

呂頻さんは、「『副本を送る』という言葉は、気がかりだ。なぜなら、『副本を送った』後の話がないからである。すなわち、副本を送った後、もし加害者が人身安全保護裁定に違反したら、誰が最初の肝心のときに現場に行って制止するのか? 裁判官・地域コミュニティ組織・婦連は24時間当番をしているわけではなく、強制力もなく、それが可能なのは警察だけである。しかし、意見募集稿は公安機関が人身保護裁定の執行に責任を持つとは明記していない」と述べた。

呂頻さんは「権力部門には、責任の受け持ちを減らそうとする傾向がどうしてもある。家庭内暴力防止に対する大きな抵抗力の一つは、権力部門がそれを自分の職責だと見なさず、受け持とうとしないことである。『公正な裁判官でも、家庭内部のもめごとは裁きにくい』という類の言い方は、実際は関わりたくない口実である。」と指摘している(36)

呂頻さんが上の3つの点から問題にした各条文は、成立した法律でもほとんど変化しなかった。むしろ第二の点、つまりシェルターに関しては、「設置または指定(……)しなければならない」が、成立した法律では、「できる」となっており、後退している。第三の人身安全保護裁定(人身安全保護命令)の点に関しては、成立した法律では、公安機関は保護命令の「執行に協力する」と記され、若干の進歩があったが、「協力する」という言い方では「不作為や責任逃れの理由になる」ことは、馮媛さんが指摘しているとおりである。

呂頻さんが指摘した、それぞれの点に関する条文の変遷は、以下のとおりである。

<第一の点>
2014年11月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
2015年7月草案:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」
 ↓
成立した法律:
 第4条「県レベル以上の人民政府は、女性児童工作の機構に責任を負い、関係部門を組織・調整・指導・督促して反家庭暴力工作をおこなわせる責任を負う。」

<第二の点>
2014年11月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、シェルターを設立あるいは指定して、家庭内暴力のためにしばらく家に帰れない被害者に緊急の庇護と短期の生活救助をしなければならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時の住まいを設立して、家庭内暴力の被害者のために援助をすることができる。」
 ↓
成立した法律:
 第18条「県レベルあるいは区を設けている市レベルの人民政府は、単独あるいは救助管理機構に委託して臨時のシェルターを設立して、家庭内暴力の被害者のために臨時の生活の援助を提供することができる。」

<第三の点>
2014年11月草案:
 第33条「人民法院は人身安全保護裁定を出した24時間以内に、申請人、被害者、加害者に送達し、あわせて人身安全保護裁定の副本を被害者と加害者の住所あるいは平常の居住地の公安機関と基層の大衆的自治組織と婦女連合会に送らなればならない。」
 ↓
2015年7月草案:
 (規定なし)
 ↓
成立した法律:
 第32条「人民法院は人身安全保護命令を出した後、申請人、被申請人、公安機関、居民委員会、村民委員会などの関係組織に送達しなればならない。人身安全保護命令は、人民法院が執行し、公安機関、居民委員会、村民委員会などが執行に協力しなければならない」

2.法の目的における「家庭の調和、社会の安定の促進」

@千千和風さんは、「反DV立法は、暴力を引き起こす根本的な場としての『家庭』という存在を回避している」が、「こうした婚姻と親密な関係の制度は、当事者(ジェンダーと性的指向にかかわらず)が自分たちで相談して、お互いに自らが望む生活の方法を作り出す可能性を排除し、人々の生活の唯一の方法にする」、「反DV法は婚姻家庭の正統性を擁護しているが、それ自身が暴力である」と述べている(37)

千千和風さんのような観点から見て、ひとつ問題になるのは、立法の目的自体に「家庭の調和、社会の安定の促進」が入っていることだろう。

この点と関連して、2015年12月、27人の弁護士が、建議の「1」として、「立法の目的において、被害者に対する保護をはっきりと浮かび上がらせること」を求めていた。そのためか、成立した法律では、「家庭の構成員の合法的権益を保護する」ことが、最初に書かれるようになった。

しかし、以下の条文の変遷を見てもわかるように、立法の目的に書かれている内容自体は、ずっと変化していない。

2014年11月草案:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭と社会の安定を促進するために、憲法にもとづいて、本法を制定する。」
 ↓
 第1条「平等で、むつまじい、文明的な家族関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進し、家庭内暴力を予防・制止し、被害者の合法的権益を保護するために、本法を制定する。」
 ↓
成立した法律:
 第1条「家庭内暴力を予防・制止し、家庭の構成員の合法的権益を保護し、平等で、仲睦まじい、文明的な家庭関係を守り、家庭の調和、社会の安定を促進するために、本法を制定する」

以上、長々とご紹介してきたが、中国の反DV法には、さまざまな民間の議論や運動の成果が反映しているし、草案に対する要求もいくつかの点で実現した重要であろう。ここまで述べてきたように、家庭内暴力の中に(法律な家族ではない)同居者からの暴力も入ったこと、人身安全保護命令を裁判中でなくても申請できるようになったこと、公安部門なども人身安全保護命令の申請者になることができるようになったこと、「小中学校」という限定が外れて「学校」になったことなどである。

また、2015年7月の草案は、前年11月のものよりむしろ後退した点が多かったが、成立した法律では、かなり回復したことも重要だと思う。2015年7月に後退した原因は不明だが、3~4月のフェミニスト5女性の刑事拘留のような流れとも関係があるのかもしれない。ただ、法律が成立した同年12月も、広東省での女性労働者支援のNGOが弾圧されるなど、政治的締め付けは変わっていないにもかかわらず、一定の変化を実現したことは確かである。

しかし、その一方、上記のような根本的な点での修正がわずかにとどまったという面も見なければならないだろう。

この点はやはり女性運動の大衆的な広がりが作りえなかったことと関係していよう。そのことは、60人ほどの芸術家による展覧会が中止させられるなど、多くの人が集まるような運動に対する抑圧の厳しさと関係していることは間違いない。

また、この2月には、DV事件にも多く取り組んできた北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学女性法律研究・サービスセンター)が当局の圧力で解散に追い込まれたことなどは(38)、法律を実際に活用する上でも暗い影を落としている。

(1)联署呼吁:《中华人民共和国反家庭暴力法》纳入同居、恋爱、伴侣等亲密关系的保护」、「联名呼吁:中国反家暴法纳入同居恋爱暴力」同语2014年12月1日、「【请关注】改变,从现在开始:中国《反家暴法》意见征集」酷拉时报 Queer Lala Times 2014年12月4日。
(2)以上は、@兔子走丢了「七城公益人法制日”叫板“反家暴法」NGOCN 2014年12月5日。
(3)女权之声的微博【“圣诞老人”当众“互殴”,同性家暴法律管不管?】2014年12月25日 18:20
(4)女律师联名呼吁将“受家暴”纳入法定减刑情节」新浪新闻中心2014年12月15日(来源:法制日报)。
(5)以上は、「反家暴法意见征集:60名家暴受害者呼吁扩大人身保护令适用范围」女声网(ソース:女权之声[原刊时间:2014-12-18 発表時間:2014-12-18])。
(6)@何小婷「残障权利视角下 《反家庭暴力法(草案)》 的意见和建议」NGOCN2014年12月26日。
(7)女子装扮受伤新娘 身着染红婚纱街头反家暴」腾讯新闻(南方都市报 [微博]) 2014年12月11日。
(8)花季泪——来自北京青少年法律援助与研究中心的未成年人遭受性侵害案件分析报告」中青在线(中国青年报    2009年4月13日)。
(9)以上は、小猫,儿玉「她们用清水写下受害者故事,呼吁重视家庭内性侵害」女声网(原刊时间:2014-12-16 发布时间:2014-12-22)。
(10)全国人大常委会委员建议:性暴力、同居关系也应纳入反家暴法」澎湃新闻2015年8月27日(来源:法治中国)。
(11)以上については、「中国首部反家暴法草案有进步有退步」女权之声的微博2015年9月21日 17:40、「中国首部反家暴法草案有进步有退步 精神暴力、恋爱同居关系应入法」新媒体女性的微博2015年9月22日 13:17。
(12)冯媛「反家暴法能否不负众望,给时代一个交代?」NGOCN2015年9月2日。
(13)以上は、王曦影「反家暴法新草案:为何不强制矫治施暴男性?」荷兰在线2015年9月29日。
(14)(12)に同じ。
(15)以上は、反家暴立法民间倡导工作组「最后一天!反家暴立法修改建议需要你的联署」。
(16)关于亲密关系的调查」。この調査の呼びかけは、「关于亲密关系的调查」同語2015年9月11日→「为反家暴出力,填写亲密关系暴力在线调查」新媒体女性的微博2015年9月16日(原文来源:同语)。
(17) BCome小组的微博2015年11月26日 16:41
(18)民间组织呼吁用人单位承担更多反家暴责任」财经网2015年11月25日(出所『财经』)、苏惟楚「女权组织:在反家暴中用人单位应尽责」界面新闻2015年11月25日。
(19)以上は、「 “染血的新娘”拦路喊话央视名嘴柴华北 呼吁前配偶家暴入反家暴法」女权之声的微博2015年12月24日 15:14。
(20)以上は、「女青年行为艺术促CCTV监管“名嘴”家暴行为」女权之声的微博2015年11月25日 17:08。馮媛さんは『中国婦女報』でも、DVがもたらす各方面への経済的損失、DVと職場との関係、各国の企業のDV問題に対する対処について書いている(冯媛「反家暴,公司参与很重要」『中国妇女报』2015年12月8日)。
(21)妈妈联名撑家暴受暴妇女, 督促用人单位央视行使责任」女权之声的微博2015年12月9日 14:07。
(22) WoMen小组的微博 2015年11月25日 17:12
(23)以上は、「一个女权主义展流产之后,留下了什么?」女权之声的微博2015年12月2日 15:37。
(24)十余城市律师联名致人大,呼吁完善反家暴法草案」公益服务网2015年12月22日。
(25)以上は、「关于完善反家庭暴力法立法的律师联名建议信 」问道网2015年12月16日、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」女权行动派更好吃的微博2015年12月17日 12:17。
(26)以上は、「律师喊话人大,呼吁完善反家暴法草案」麦子家的博客2015年12月21日 15:57、「律师喊话人大:我们要一部完善的反家暴法!」麦子家的微博2015年12月21日 15:57。
(27)以上については、「反家暴法草案二审增加“精神暴力” 同居也适用 性暴力和前配偶依然未被纳入」新媒体女性的微博2015年12月21日 14:47、「二审都出了,我们要一部什么样的反家暴法?」女权之声的微博2015年12月22日 10:46、「反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日、「反家暴法保护“共同生活的人”成一大亮点 性暴力未入法让人遗憾」新媒体女性的微博2015年12月28日 12:03。
(28)反家暴法草案增加“精神暴力” 同居也适用」『南方都市报』2015年12月21日。
(29)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(30)同上。
(31)全国人大常委会办公厅12月27日新闻发布会」中国人大网2015年12月27日、「反家暴法中“共同生活人”不包括同性恋」法制晚报 2015年12月27日。
(32)性爱大权「《反家暴法》仍是一部异性恋霸权法吗?」荷兰在线2016年1月5日。
(33)冯媛「反家暴法之思:中国妇女还想要什么?」澎湃新闻2015年12月30日 15:47。
(34)反家暴法草案二审,专家:性暴力不可简单分化为身体和精神暴力」『中国妇女报』2015年12月25日。
(35)同上。
(36)吕频「责任是反家暴法的最大问题」网易女人2014年12月7日、吕频「中国首部反家暴法,草草的“草案”」网易女人 女人写时评vol.142。なお、中国のDVシェルターに関しては、呂頻さんの文章のすぐ後に、栄維毅「关注反家暴法:中国大陆家庭暴力受害妇女庇护现状与分析」(荣维毅的博客2014年12月18日)、李芙蕊「庇护所能成为中国受家暴妇女的港湾吗」(女权之声的微博2014年12月24日 18:50)も発表されている。拙稿「中国のDVシェルターの歴史と現状」『中国女性史研究』第16号(2007年1月)も参照のこと。
(37)千千和风「反家暴法维护婚姻家庭正统制,这本身就是一种暴力」荷兰在线2015年12月30日。
(38)反家暴法通过了,但做反家暴法律援助的机构被关了」新媒体女性的微博20161年1月29日 19:21:20。
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