8都市の女子大学生、教育部長に小中学教科書の性差別的内容の是正求める建議の手紙
建議の手紙を送った女子大学生たちは、「1908年3月8日、1万5000人の女性がニューヨークで男女平等の権利を勝ち取るためにデモをしましたが、女性たちのスローガンは『パンとカーネーション』でした。パンは経済的保障の象徴で、カーネーションは生活の質の象徴でした。私たちに幼い時からジェンダー平等な環境を保障し、教科書や先生のお話から、生徒たちが女性の価値を理解できるように希望します」と語っています(1)。
女子大学生たちはお互い会ったことはなく、インターネットで知り合ったそうですが、みな女性の権利の問題に関心を持っていたので、何かやろうということになったそうです。
女子大学生たちは、現在の教科書に対する不満を語り合ううちに、それが個人の問題ではないとこがわかりました。彼女たちが多くの国語や歴史、思想・道徳などの教科書を分担して調べたところ、以下のような問題があることがわかりました(2)。
【1】女性は、本文と挿絵に出てくる頻度が男性よりはるかに低い。女子学生たちが言うには、ある学者の報告によると、小学校の教材の12冊の中で、図版に男性が出くるのは198回だが、女性は130回である。物語の文中には、男性は152回出てくるが、女性は42回しか出てこない。また、高学年になるにつれて、主役として男性のほうが女性より多く出てくるようになる。
【2】女性の姿は、往々にして母親、お婆さんのような従属的な家庭役割、あるいは教師・看護師のような職業に限定されている。
【3】女性は、往々にして、無知であり、しっかりした考えがなく、能力が低く、同情され保護されるべき存在に描かれている。逆に、男性は、往々にして、知識が深く広く、独立自主で、志が大きく、能力が高い。
【4】歴史の教科書の内容の大部分は、男性の戦争の歴史についての学習であり、歴史の発展に対する女性の貢献は無視されている。傑出した女性も完全に教科書から姿を消しているか、十分な紹介がされていない。たとえば、中国同盟会の最初の女性会員である唐群英にも言及されておらず、近代民主革命の志士であり『中国女報』を創刊した秋瑾も、「革命家」としか記述されず、彼女の理想は書かれていない(3)。
彼女たちは、教育部に対して、こうした小中学校の教科書の中のジェンダー不平等な状況についてきちんと再検討して、文の選定や編集・執筆、原稿審査の過程で、ジェンダー平等の原則を守って、性差別的な、小中学生がジェンダー平等意識を形成する妨げになる内容を審査・削除するように求めました(4)。
もちろん、すでに中国でも、教科書の中の性差別に関する研究は以前からなされています。1992年の『中国婦女報』にも、北京外語学院女性学研討会による、「男とは何をすべきで、女は何をすべきか――伝統的性別役割の小学国語教科書の挿絵の中への浸透」という記事が掲載されています(5)。同年には、閔冬潮・杜芳琴「中国の歴史教科書における性別問題の分析」(遠藤祐子・丹野美穂・遠山日出也訳、『中国女性史研究』4号)も発表されています。2001年には「ジェンダーと教材文化研究」シンポジウムが開催され(6)、2004年には、史静寰『教材と教学のジェンダー世界に歩み入る(走进教材与教学的性别世界)』(教育科学出版社)という単行本も出版されました。この本では教科書についてだけでなく、授業のやり方や教室内でのコミュニケーションにおけるジェンダーの問題も明らかにされています(本ブログの記事「小中学校の教材と授業のジェンダー分析」参照)。その後も、王宏維「小学校の教科書の中の性差別」(2005年)(7)、喬暉「小学国語教材のジェンダー的偏見――フェミニズムの視点から」(2008年)(8)といった論文が新聞や雑誌に掲載されています。
しかし、女子学生たちが(小規模とはいえ)組織的に教育部にこの問題を訴えたのは、今回が初めだと思います。
マスメディアでも、今回の女子学生の行動は報道されました。この問題に対する各方面の意見や、国外(韓国・アメリカなど)では教科書から性差別的内容を削除したことを報じた記事ありました(9)。
また、「私は性差別にあった(我遭遇了性别歧视)」という微博(中国版ツイッター)のアカウントは、さまざまな性差別を報じている微博ですが、この微博は、今回の女子学生たちの行動に関連して、@宝儿DIANAさんが、中学2年の『思想道徳』の教科書を批判していることを伝えています(10)。
中学2年の『思想道徳』には、「異性と交際するときは、自分を保護することを習得しなければならない」ということを説いた個所があるのですが、そこに、以下のことが書かれていました。
日常生活の中で、女の子はどのようにして自分を守らなければならないだろうか? たとえば、次のようにである。慎重にして、警戒心を失わず、自分の言行・振る舞いをつつしみ、乗ずる隙を与えない。危ない場所を避けて、できるだけ、一人で夜間にへんぴな場所を歩かないようにする。一人だけで、男性と人目につかない場所にいることを避ける。透けた、露出した服装をせず、男性に対して軽薄な言行・振る舞いをしない。男性の誘い(映画、食事、お茶など)には警戒をする。
また、落ち着いて対応し、慌てて、どうしてよいかわからないことにならないようにする。性的侵害を受けたときは、拒絶する態度で(……)必要なときは、大声で叫び、機知を働かせて助けを求めなければならない。
上の記述に対して、@宝儿DIANAさんは、「まさか私たちの社会は、女性だけが教育を受けなければならないというのではあるまい? なぜ同じ年齢の男子生徒に対して、いかにして女性を尊重するかを教えないのか。社会の安全・秩序を維持するのに、女性だけに努力させるのは不十分だ」と批判しています。
この教科書には、以下のような記述もありました。
私たちは(……)性別によって異なる社会の要求に対してどのように適応するのかを学んで、自らの性別意識を増進することよって、男子生徒は男らしくなり、女子生徒は良い娘に成長することができる。
@宝儿DIANAさんは、上の「性別によって異なる社会の要求に対してどのように適応するのかを学ぶ」という個所について、「勉強している女の子が世俗の侵害を受ける」ことになることを懸念しています。
また、今回の建議の手紙は教科書の内容が中心だったようですが、今回の建議を出した女子大学生たちは、教師に対する批判も語っています。いま南方医科大学で臨床医学専攻している李南さん(仮名)は、理科の教科書の中で紹介されていた科学者の大多数は男だったうえに、教師が「女子生徒はたとえ成績がよくても、科学者にはなれない」と言ったことを批判しています(11)。また、李さんという女性は、ある数学の教師が「女子生徒にはあまり高い学歴は必要ではなく、30歳になる前に結婚することが一番重要だ」と言ったことにより、何人もの女子生徒が勉強をする自信をなくしたと語りました(12)。
このように女子学生自身が声を上げるようになってきたことが、現在の特徴だと思います。
(1)以上は、「九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日、女权行动派很好吃的微博3月7日 16:03、「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日、「教科书不爱巾帼只爱须眉?」『信息时报』2014年3月12日。Redio Free Asiaと『羊城晚报』は、教育部に手紙を送った女子学生を「9人」と記述しているが、『信息时报』は「10人」と記述している。
(2)以上は、「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(3)以上は、同上および「九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日。
(4)女权行动派很好吃的微博3月7日 16:03以外の、(1)の文献にはすべて記述されている。
(5)北京外語学院婦女学研討会(謝致紅執筆)「男人该做什么 女人该做什么――析传统性别角色在小学语文插图中的渗透」『中国妇女报』1992年1月3日。
(6)卜卫「女孩子读一读,男孩子想一想?」、赵萍「教材中的性别文化透析」(いずれも『中国妇女报』2001年8月14日)。
(7)王宏维「小学课本中的性别歧视」『南方日报』2005年3月3日→王宏维「时评:男尊女卑处处可见 小学课本中的性别歧视」新浪教育2005年3月3日。
(8)乔晖「小学语文教材的性别偏见——―从女性主义视角出发」『教育学术月刊』2008年7期→乔晖「小学语文教材的性别偏见—— 从女性主义视角出发」麓山楓2009年4月23日。
(9)「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(10)我遭遇了性别歧视的微博【教材也在传播性别歧视观念?】2014年3月21日 15:40。
(11)「9女生给教育部长"送礼" 呼吁教科书编写注重性别平等」『羊城晚报』2014年3月8日。
(12)「九名女大学生向教育部长邮寄面包和玫瑰」Redio Free Asia2014年3月7日。
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