2017-09

就職の男女差別に関する初の裁判が和解――会社が謝罪、3万元を支払う

曹菊さん(仮名)が昨年7月11日に起こした、就職の男女差別(北京巨人教育公司が「男性のみ」の求人広告を出し、曹さんが女性だったので門前払いにした)についての中国初の裁判は、12月18日午後、北京市海淀区人民法院で、初の審理がおこなわれました(これまでの経過については、本ブログの記事「求人(募集)の女性差別に対する初の提訴をめぐって」と「求人の男女差別をなくすための女性たちの粘り強い行動」参照)(1)

当日の法廷でのやり取り

原告側からは、原告の曹菊さん、弁護士の劉明輝さん・黄溢智さん(劉さんは中華女子学院教授でもある)が出廷しました。被告側からは、北京巨人教育公司の理事長で、北京海淀区新巨人学校の校長でもある尹雄さんと彼の弁護士が出廷しました。

法廷では、まず、曹菊さんが訴状を読み上げたのちに、被告に以下の3点を課する判決を求めました。
 [1]曹菊さんへの謝罪。
 [2]精神的損害賠償(慰謝料)として5万元を支払う。
 [3]訴訟費用は被告の負担とする。

曹菊さんのこの発言が終わると、すぐに尹雄校長は、「『男子のみ』という募集をしたのは、人事部門のミスだった」と認めました。ただし、彼の弁護士は「巨人学校は女性の勤務員が特に多く、事務関係の勤務員はみな女性だったので、本を運ぶとか、ウォーターサーバーの水を交換するとかいった力仕事をしてくれる男性がほしかった」と弁解しました。傍聴者は、「要するに、故意に差別をしたことは認めないという意味なのだろうが、弁護士が言っていることには証拠もないし、説得力がない」と思ったそうです。

尹校長は、「このたびの事件の弁護権を放棄する」と述べ、謝罪と訴訟費用の支払いをしたいと述べました。けれども、彼の弁護士は、慰謝料には「法律的根拠がない」と言いました。つまり、上の[1]と[3]の要求は受け入れるが、[2]の「精神的損害賠償(慰謝料)として5万元を支払う」という点は受け入れられないということです。

裁判官が調停を望むかどうかを原告側と被告側の双方に尋ねると、双方とも調停に同意しました(この時点で傍聴者は外に出された)。そこで、双方の弁護士が裁判官の前で金額を書きましたが、黄溢智弁護士が書いたのは「3万」元だったのに対し、会社側の弁護士が書いたのは「3000-5000」元であり、金額の開きが大きすぎたので、弁論を続けることになりました。

若干の議論をした後、また賠償金額の話に戻ると、尹校長は、曹菊が言った金額を受け入れると表明し、そのお金は、「『女性の平等な就職のための専門の基金』として、曹菊が差別反対活動をするのを支持したい」と述べました。このことについて、黄溢智弁護士は、「賠償であることを明確にせずに、給付だと言ったのは、そのほうが人聞きがいいし、会社が性差別に反対しているという態度を示せるので、PRにもなるからだ」と説明しています。

翌日の報道を見ると、曹菊が「贈与を獲得した」したという見出しで報じた新聞もありますが、巨人学校が「補償」をしたという見出しで報じた新聞や「賠償を獲得した」という見出しで報じた新聞もありますので(2)、マスコミも、会社側の言うことを額面どおりには受け取っていないのだと思います。

お詫びの手紙

尹校長は、法廷で、事前に準備してきたお詫びの手紙(3)を曹菊さんに渡しました。

その手紙は、冒頭で「巨人学校は全国で500近い教学スポットがあり、6000人近い従業員がいるが、そのうち女性従業員が総数の80%を占めており、会社には、就職の性差別をするという主観的な故意は存在していない」と述べ、次に、上で弁護士が言ったような「男性が必要だった」という主張を書いたうえで、「人事部門が求人情報を発表した時に『男性のみ』とだけ明記したことは、あなたに不必要な誤解を生じさせた」と述べています。

次の段落には、巨人学校がさまざまな社会的義務を果たしてきており、就業者の権利を軽視することは、われわれの望むところではない、といったことが書いてあります。

そして、最後の段落で、「会社は、この事件から教訓を得て、自らの活動の細部をいっそうきちんとしたものにする。女性の応募者の平等な就職という合法的権利を尊重するという立場から、会社があなたを傷つけたことについて、心からお詫びする!」と述べています。

尹雄校長は、当日、「弁護権を放棄したのは、わが校の就職差別が故意のものだと認めたわけではけっしてないけれども、この件では人事部門が不注意だったために、不必要な誤解を招いたので、私たちは曹菊さんに公にお詫びをしたい」とも述べており(4)、この手紙もそうした趣旨のものでしかないのですが、ともかく、「男性のみ」とした点について、「心からのお詫び」の文書はもらえたわけです。

当日の大学生らの裁判支援活動

法廷には、大学生がたくさん傍聴に来ました。しかし、法廷には十数席しかなかったので、入り口で廷吏に遮れられて、中に入れない人がおおぜい出ました。それでも、彼女たちは必死で中にもぐり込んだのですが、裁判官は、立って傍聴することを認めませんでした。劉明輝弁護士がとりなして、1つの座席に2、3人が座って傍聴することになりました。

法廷の外でも、開廷前に、裁判所の前で、支援者の3人の女性が、学士帽と学士ガウン姿で宣伝活動をおこないました。3人のうちの、向かって一番左の女性は「能力さえあれば、性別は重要ではない」と書いたパネルを掲げ、一番右の女性は「曹菊の裁判を断固として支持し、性差別に対してNOを言おう」と書いたパネルを掲げ、3人で声をそろえて、パネルに書かれたスローガンを叫びました。また、まん中の女性は、両手で茶碗を持ちました。これは、もし差別されて仕事が見つからなければ、乞食をするしかないということを表しているということです(写真:女权之声的微博【就业性别歧视第一案“曹菊案”开庭 志愿者法院门外声援】12月18日 13:57、同【“性别歧视第一案”结案 被告道歉并支付3万元作关爱女性平等就业资金】12月19日 12:43)。

裁判終了後の曹菊さんの話

和解が成立した後、曹菊さんは、感激で涙を流しました。曹さんは、「実は自分はつらいと思ったことはありません。私には弁護士が援助してくれ、多くの人が支持してくれましたので、1年間やってこられました。他の人はもっと困難なはずです。中国で権利を守るのはとくに難しいのです」と語りました。

曹さんは、また、「尹校長は3万元出して私を支持したいと言ってくれて、とてもうれしい。国家にはすでに法律があり、社会・メディア・裁判官・弁護士などもみな私のプライバシーを尊重してくれましたので、この1年あまりの間、私は何の圧力も受けませんでした。私の訴訟の事例をつうじて、私のような大学の卒業生は、恐れることなく、自分の権利を守るために立ち上がるべきことを伝えたい」と述べました(5)

曹さんは、法廷の外では、顔を隠すためにマスクをしていました。けれども、実は彼女自身は、顔をさらすことをあまり恐れていなかったそうです。顔を隠していたことについて、曹さんは、「他の大学生に、『顔を出さなくても、権利を守ることはできる』手本を示したかったから、ということもあります。顔を出さなければ、彼女たちも安心して立ち上がることができるでしょう」と言っています。

3万元の使い道について問われると、曹さんは、まだ考えているところだと言いつつも、「私が勝利したのではなく、みんなで一緒にやったからこそ勝利したのです。このお金も私のものではなく、意義のあることに使うほうが良い」と述べました。

1年あまりにわたった訴訟受理のための努力

この裁判は12月18日が初めての審理だったのですが、曹菊さんは、「私はもう何回ここに来たのか覚えていない」と述べています(6)

実は、昨年7月に曹さんが裁判を起こしてから今年9月まで、この訴訟は、裁判所に受理さえされませんでした(雇用の男女差別については、従来、中国ではそうしたことが非常に多かった)。そのため、曹さんや弁護士、支援者は、1年以上にわたって、以下のようなさまざまな努力をしてきました(詳しくは本ブログの記事「求人の男女差別をなくすための女性たちの粘り強い行動」を参照してください)。
 ・鄭楚然さんをはじめとした10人の女子大学生などの支援者たちが、会社の前で支援者がパフォーマンスアートをした。
 ・訴訟を受理しようとしない北京海淀区法院に対して、受理すべき理由を詳しく説明した。
 ・同法院の監察院や上級の法院・検察院に対して、訴訟を受理させるよう訴えた。
 ・曹さんは、巨人教育公司に対して行政処分を求めた。さらに行政訴訟を起こした(これは受理されたが、今年7月、敗訴した)。
 ・114名の女子大学生が連名で、北京市と海淀区の人民代表大会内務司法委員会に対して、海淀区法院に訴訟を受理させるよう求める書簡を送った。
 ・中国各地の7名の女性弁護士が、北京市や海淀区の法院と婦女連合会に対して、女性の権利のための訴訟として、曹さんの訴訟を受理させるように訴えた。
 ・以上について、マスコミに取り上げさせる努力をした。

また、このかん、この訴訟だけでなく、求人の男女差別問題に関して、中国の若い女性らは、行政機関へのいっせい通報など、さまざまな手段を尽くしてきました。

曹菊さん自身は、訴訟を起こした2か月後に、別の職場(貿易会社。職種は北京巨人教育学校と同じで、事務補助)に就職することができました。しかし、その後も、裁判のための活動は続けてきました。曹さんが最初に裁判を起こしたときの出発点は、単純に援助を求めただけだったそうですが、その後、自分の裁判が大きな影響を引き起こすにつれて、曹さんはこの裁判の意義を認識するようになったとのことです(7)

黄溢智弁護士の話

黄溢智弁護士は、和解が成立した日の夕方、『女声』誌のインタービューに応えて、以下のように述べました。

問:不立件(不受理)から立件(受理)になるまでに、どのような要素がカギになる働きをしたのか?

黄:私たちは海淀法院が立件しないことを上級機関に対して訴えた。回答はなかった。しかし、私は、裁判官が圧力を感じたことを間接的に知った。今年5月に行政訴訟をしたときに、私が立件法廷の裁判官に会ったら、裁判官は今、「立件しない」という裁定を書いているところだと言った。つまり、当時の態度は、「立件しない」ということだったのだ。その後、また、いささかの公然とした支援行動があった。すなわち、女子大学生と女性弁護士の建議の手紙だ。8月になってやっと初めて裁判官が自分から私たちに電話してきた。メディアが関心を持ったことが重要だったのかもしれない。
 そのほか、婦連も間接的に態度表明をしたことがある。去年多くの地の女子大学生が就職の性差別を集中的に通報した時期に[本ブログの記事「女子大学生らが全国8都市で『男性のみ』求人の企業267社を当局に通報、その結果は…」参照]、全国婦連が女子大学生の差別反対行動について支持すると公に言った(8)。これも曹菊事件についての間接的な回答だと理解できる。私は、婦連はこの事件をきっと知っていると思う。

問:なぜ募集の差別の訴訟は難しいのか?

黄:法律上は訴権があるけれども、実践するのは困難であり、さまざまな募集差別訴訟の立件はみな容易ではない。憲法は非常に多くの権利を規定しているけれども、中国では憲法に依拠した訴訟はできなくて、もっと具体的な法律に依拠しなければならない。たとえば、私たちが依拠した、2008年に発効した「就業促進法」のようなものである。

問:この「最初の訴訟」の法律的意義は、具体的には何か?

黄:募集の性差別が深刻であることは誰もが知っている。けれどもみんな裁判を起こさなかった。曹菊の訴訟は、募集の性差別を法律的手続きに入れるルートを切り開いた。募集の性差別について裁判を起こせることをみんなに知らせた。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

今回の和解については多くの新聞が取り上げました。しかし、その記事の中でも、近年は、求人広告には性別を書かずに、採用の過程で女性を(女性だからという理由を付けずに)拒絶するというやり方が増えているということも指摘されています(9)

曹菊さんの裁判は、募集の段階の話なので、今の日本ではかなり珍しくなった形態の差別だということも言えます。

とはいえ、日本でも、募集や採用の段階における差別を裁判で争うことは、昔も今も難しいことなのは確かです。また、恥ずかしながら、私自身も、当初は「今の中国では、この訴訟は無理なのでは……」などと思っていたので、長期にわたる粘り強い運動が実って本当に良かったと思います。

(1)今回のエントリは、基本的には、判決当日を中心とした原告側の最も詳細な記録である、「“又前进一步”――“就业性别歧视第一案庭审特写」『女声』142期(2013.12.21)[word]にもとづいており、注記のない個所は、同記事によるものです。この和解については、他にも、「就业性别歧视第一案和解 巨人学校放弃辩护权 公开道歉并给予女孩补偿」『北京晨报』2013年12月19日、「“就业性别歧视首案”3万元和解」『新京报』2013年12月19日、「“就业性别歧视第一案”调解结案 巨人教育当庭向原告致歉 」『北京日报』2013年12月19日、「北京巨人教育公司被指性别歧视 遭女大学生控告」新华网2013年12月19日、「“中国就业性别歧视第一案”和解 女生获赠3万」腾讯教育 [微博] 2013年12月19日、
“就业性别歧视第一案”当庭和解 个案胜利捅不破女性就业天花板」『中国青年报』2013年12月20日、「就业性别歧视第一案和解结案 原告获赔精神损害抚慰金3万元」『中国妇女报』2013年12月20日、「反对就业性别歧视 需更多“曹菊”打官司」『中国妇女报』2013年12月20日などが報じています。
(2)“中国就业性别歧视第一案”和解 女生获赠3万」腾讯教育 [微博] 2013年12月19日、「就业性别歧视第一案和解 巨人学校放弃辩护权 公开道歉并给予女孩补偿」『北京晨报』2013年12月19日、「就业性别歧视第一案和解结案 原告获赔精神损害抚慰金3万元」『中国妇女报』2013年12月20日。
(3)全文は、「“又前进一步”――“就业性别歧视第一案庭审特写」『女声』142期(2013.12.21)[word]の5頁に掲載されています。
(4)就业性别歧视第一案和解 巨人学校放弃辩护权 公开道歉并给予女孩补偿」『北京晨报』2013年12月19日。
(5)同上。
(6)“就业性别歧视第一案”当庭和解 个案胜利捅不破女性就业天花板」『中国青年报』2013年12月20日。
(7)职场歧视:一场悬在半空的诉讼」中国新闻周刊网2013年8月1日、「“就业性别歧视第一案”当庭和解 个案胜利捅不破女性就业天花板」『中国青年报』2013年12月20日。
(8)全国妇联权益部支持女大学生向性别歧视说“不” 坚决反对就业中的性别歧视」『中国妇女报』2013年2月1日。
(9)“就业性别歧视第一案”当庭和解 个案胜利捅不破女性就业天花板」『中国青年报』2013年12月20日。
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