2017-08

李陽の離婚裁判の判決について

「クレイジー・イングリッシュ」という英語学習法の創始者の李陽さんが妻のキム・リー(李金)さんに暴力をふるってきたことやキムさんが2011年10月に離婚裁判を起こしたこと、中国のフェミニストたちが李陽さんを批判するとともに、キムさんの離婚裁判を支援してきたことについては、以前、このブログで書きました(「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」)。

今年2月3日、その離婚裁判の判決が出ましたので、今回は遅ればせながら、その判決について簡単にご紹介させていただきます(以下、敬称略)。

一 判決の内容(1)

キム・リー(今回の報道には、なぜか「李金」という表記が多いので、以下「李金」と書きます)が李陽に対して起こした離婚裁判は、これまで4回の口頭弁論を経てきましたが(2011年12月15日、2012年3月22日、8月10日、2013年1月29日)、2013年2月3日、北京の朝陽区法院は、以下のような判決を下しました。

1.離婚について――原告の李金と被告の李陽との離婚を認める(この点についてはすでに李陽も同意していた)。

2.子どもの養育権について――3人の子どもは李金が養育する。

3.養育費について――本判決の効力が生じた日から7日以内に、3人の子どもの2013年12月までの養育費をそれぞれ5万元支払う。2014年からは被告の李陽は毎年1月31日より前に、3人の子どもが満18歳になるまで、一人あたり毎年10万元、養育費を支払う。

4.財産分割について――被告の李陽は、本判決の効力が生じた日から3か月以内に、李金に対して、財産を現金化した金額1200万元を支払う。

5.DVの認定と精神的損害賠償について――李陽の家庭内暴力を認定する。李陽は李金に精神的損害賠償5万元を支払う。


そのほか、裁判所は、李金の申請にもとづいて、以下の人身保護命令を下しました。

李陽が李金を殴打・脅迫することを禁止する。もし李陽がこの禁止命令に違反したならば、裁判所は情状の軽重にもとづいて、罰金・拘留に処し、犯罪を構成するときは、法によって刑事責任を追及する。裁定の有効期間は3ヶ月である。


二 判決に対する評価

呂頻(女性メディアウオッチネットワーク代表、DV反対ネットワーク)は、この判決の注目点として、以下の3点を挙げました(2)

1.李陽がDVをしたと認定したこと。統計によると、離婚訴訟の中でDVの存在を主張しても、大多数は認定されない。そのため、賠償なども不可能だった。

2.法院(裁判所)が李金のために人身安全保護命令を出したこと。被害者の人身安全保護命令は近年公に認められた反DVの重要な実務上の進展であり、2008年から全国の試験法院(人身安全保護命令を試験的に出す裁判所)はすでに合計約200件の保護命令を出している。

3.法院が3人の女児の養育権をすべて李金に与えたこと。婚姻法の「子供の成長の有利になるようにする」という原則の精神によって養育権についての判決を見ると、DV加害者は明らかに子供を養育するのに適していないが、現在の法律にはこの点に関する明文の規定はない。子どもが多い場合、よくあるやり方は、両方がそれぞれ養育権を持つということであり、兄弟姉妹が共同で生活するという人倫のニーズは重視されていない。

その一方、呂頻は、「遺憾と懸念」として、「李陽がDVのために支払った精神的損害賠償金はわずか5万元だったこと」を挙げ、「これは李陽にとっては、本当に小銭でしかなく、加害者の懲戒や被害者の慰めに効果があるとは信じがたい」と述べています(3)。もっとも、同時に、呂頻は、「DVが絡んだ離婚判決の中では、これは従来にない高額の賠償である」とも言っています。

郭建梅(元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター主任)も、この判決は「3勝1敗」だとしています。ただし、その内容は少しだけ違います(4)

郭も、呂と同じく、判決が李陽のDVを認定したことと人身保護命令を出したことは、成果として挙げています。また、DVに対する精神的損害賠償を認めたことについて、「金額は少ないけれども、非常に重要」だとしています。この点も呂と力点の差こそあれ、それほど、大きな違いはありません。

郭が、「1敗」として挙げているのは、財産分割についてで、「裁判所は李陽の真実の財産の状況を調べることができず、彼女が得られるべき補償を与えることができなかった」という点です。

裁判中、李陽が財産を譲渡・転売したため、財産の状況が複雑になったために、李金は、李陽がすでに譲渡した不動産や銀行口座の資金に対する権利を主張しなかったというような妥協をせざるをえなかったようです(5)

三 改正民事訴訟法にもとづく人身保護命令

なお、裁判所は、今回の人身保護裁定に関して、民事訴訟法第100条の行為保全に関する規定を適用したとしています。

中国の民事訴訟法(1982年制定)は、その改正案が、2012年8月の第11期全人代常務委員会第28回会議で採択され、同日の公布を経て、今年1月に施行されました(中华人民共和国民事诉讼法)。その改正点のポイントの一つが、民事保全制度が整備されたことだそうで(6)、第100条で「人民法院は、当事者の一方の行為あるいはその他の原因により、判決を執行するのが難しい、あるいは当事者のその他の損害を引き起こす可能性がある事件について、当事者の申請にもとづいて(……)一定の行為を命令を下しておこなわせ[→確保型行為保全]、または一定の行為を禁止する裁定をすることができる[→制止型行為保全。人身保護命令はこちらに入る]。当事者の申請がなくとも、人民法院は必要なときは保全措置を取る裁定ができる」と規定されました。

今回の人身保護命令は、この新民事訴訟法で定められた保全制度を初めて適用したものだということです(7)

四 裁判所前での支援運動は、判決当日までおこなわれた

この裁判に対しては、李陽の講演会やクレイジー・イングリッシュ総本部に対する抗議活動、裁判所前でのパフォーマンスアート、妻のキムを支援する1200余筆の署名運動など、これまでにない裁判支援運動が若い女性たちによって繰り広げられました(この点については、本ブログの記事「クレイジー・イングリッシュの李陽のDVと離婚裁判、フェミニズム運動」参照)。

判決の寸前の1月29日の法廷でも、数人の若い女性が、怪我をしたかのような化粧をし、血痕があるかのように赤色で染めたウェディングドレスを着て、「恥を知れ、加害者の李陽」、「DVは容認できない 加害者は制裁すべき」、「保護命令」といったプラカードを掲げて、キムに声援を送りました(8)

2月3日の判決の日にも、雪が舞う寒い中、血染めのウェディングドレス姿の若い女性(李麦子)が両手にプラカードを掲げて声援を送り、キムと抱き合って喜びました(9)

1月29日時点では、すでに判決もおおむね書き終わっていただろうと思いますが、ささやかながら、最後まで裁判支援のアピールは続けられたわけです(もちろん二審にもつれ込む可能性もありました。実際、李陽はいったん控訴したのですが、その後、控訴を取り下げました)。

今回、DVによる離婚裁判では従来あまり出なかったような判決が出たのは、こうした粘り強い裁判支援運動の力もあると考えられます。

(1)李阳离婚案落判 Kim几度落泪获赔1200万」正义网2013年2月3日。
(2)吕频「离婚判决让李阳为家暴付出了代价」『新京报』2013年2月4日。
(3)この点に関しては、李清も「李陽がDV行為のために支払ったのは5万元だけである。わずか5万元が、一人の女が数多いDVの中で受けた傷を本当に癒しうるだろうか?」と述べています(李清「李阳案判决远非反家暴胜利」陕西传媒网2012年2月4日[来源:嘉兴日报])。
(4)In China’s Most-Watched Divorce Case, 3 Victories, 1 DefeatThe New York Times February 4, 2013→「李阳家暴离婚案中的三胜一败」2013年2月7 日(来源:纽约时报中文网、翻译:梁英、谷菁璐)。
(5)李阳离婚 被发“人身保护令”」『北京晩報』2013年2月3日。
(6)宮尾恵美「中国 民事訴訟法の改正[PDF]」『外国の立法』2012年10月号。
(7)李阳离婚 被发“人身保护令”」『北京晩報』2013年2月3日。
(8)【李阳离婚案今日再开庭 志愿者声援Kim高喊"家暴可耻"】」女权之声的微博1月29日10:53。
(9)李阳离婚案判决 Kim:想尽快开始新生活」网易女人2013年2月3日、「【当历史发生,反家暴志愿者与KIM同在。】」麦子家的微博2013年2月3日23:51。
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