2017-10

杭州国際マラソンの賞金の男女差別に女子選手らが抗議、国際陸連へも訴え

来たる11月18日におこなわれる杭州国際マラソン(2012杭州国际马拉松)(主催:中国陸上競技協会、杭州市人民政府、浙江省体育局)の優勝賞金は、男子の部は3万元ですが、女子の部は2万元です。準優勝の賞金も、男子は1万5000元で、女子は1万元、3位の賞金は、男子は8000元で、女子は5000元、4位以下も同様に格差が付けられています(2012杭州国际马拉松竞赛规程)。

こうした賞金の格差に対して、出場を予定している女子選手の李双双さん(仮名)は、「なぜ、杭州国際マラソンの賞金には男女の別があるのか? 女子も男子と同じルートを走るのだし、男子と比べてけっして楽ではなく、むしろより多くの体力を使わなければならないのに」と疑問を呈しました。

10月24日、李双双さんは、なぜこうしたな差別があるのかについて、浙江省体育局と杭州市体育局に、それぞれ、情報公開申請表を提出しました。

新聞の取材に対して、杭州国際マラソンの組織委員長で、浙江省スポーツ競技センター主任である龍江さんは、その理由として、以下の2点を挙げました。
【1】「杭州国際マラソンは、男女で競争の激しさが異なる。今年の申し込み情況から見ると、参加する男子選手は、ハーフマラソンとフルマラソン合わせて3000人あまりいるが、女子選手は300人あまりしかいない」
【2】「杭州国際マラソンの例年の男女の成績も、一つの原因である。男子の最も良い成績はすでに2時間5分前後に達しているが、女子はまだ2時間30分あまりである。相対的に見て、男子の最高クラスの選手のほうが世界レベルに近づいているので、賞金が高いのである」(1)

私などは、「そうはいっても、マラソンに出場するまでの社会的ハードルは女子の方が高いのだから、男女の賞金は同一にするべきではないか」と大づかみに考えるのですが、上の龍江さんの議論に対して、中国では、以下のような反論が出ました。

まず、【1】の点については、柯倩婷さん(中山大学中文系副教授)が、「しかし、逆に、これまでの女性に対する賞金の額が低すぎたから、女子がおおぜい参加しなかったのだと考えられないだろうか?」(2)と反論しています。

【2】の点については、李昀さん(華南理工大学外語学院副教授)が、「これ[女子の記録のほうが世界レベルから遠いこと]は、主催者自身こそが反省しなければならないことではないか? 国際マラソン大会の女子の世界記録が2時間15分前後[で、杭州国際マラソンと15分あまり差があるの]ならば、なぜ、杭州マラソンの主催者は女性の参加を励ますためにもっと多くの措置を取って、記録を向上させずに、かえって差別的な競技制度を作って、女性が参加する積極性を挫かなければならないのか?」(3)と述べています。

中国でも、2009年に、上海マラソンが初めて男女に同額の賞金を出し、その後、厦門・広州などの国際マラソンも同額の賞金を出すようになっています(4)。たとえば、厦門国際マラソンでは、2004年の第1回から2008年の第5回までは、男子の賞金のほうが女子の賞金より高かったのですが、2009年の第6回からは同額にしました(5)

国際的に見ても、男のほうが女よりも賞金が多い競技がまだ多いようですが、テニスでは、2007年から4大国際大会すべてで、男女の賞金の額を同じにしました。

そうしたことから、李双双さんは、「女子の賞金が男子より低いという国際的慣例は、淘汰される時期だ」と述べているのですが、李さんが微博(中国版ツイッター)で賞金の男女差に疑問を発表すると、議論が巻き起こり、「男子のほうが体力があって、競技レベルが高く、競争も激しく、見る価値が高いのだから、賞金が高くても非難すべきではない」という意見を出す人もいました。

しかし、新華網も、武嶸嶸さん(北京益仁平センター)が「オリンピックを含めた各種のスポーツで、女性はすでに重要な位置を占めており、性別によって賞と賞金を分けるというやり方は女性選手を尊重しておらず、女子スポーツの向上にもマイナスである」「国際的に影響力のある大会はとくにこの面の平等に注意しなければならない」と言っていることを報じています(6)

龍江さんも、「今後は、男女の賞金を同じにすることを排除しない」とは述べました(7)

杭州国際マラソン組織委員会の回答

その後、李さんの情報公開申請に対して、杭州国際マラソン組織委員会から、以下のような回答が返ってきました。すでに新聞の取材に対して龍江さんが答えたことと大差ない内容ですが、以下、ご紹介します(8)

李双双(仮名):

こんにちは! あなたが郵送した政府情報公開申請表を拝見しました。出された問題について回答いたします。

杭州国際マラソンの賞金の設定に男女で差違がある理由は、以下のとおりです。

1、従来の慣例通りにしたこと:杭州国際マラソンはずっと過去の賞金設定の基準どおりにしてきています。初期も国際的な慣例にもとづいて設定しましたし、現在もまだ国際的に多くの競技で男女の賞金の設定が異なるという情況があります。

2、参加人数の区別:杭州国際マラソンは、ずっと男子の参加選手と女子の参加選手の比率に大きな違いがあり、去年を例にとると、フルマラソン・ハーフマラソン合わせて3000人あまりが参加しましたが、そのうち女子選手は300人あまりだけでした。男子種目の競争のほうが激しく、難度も高いのです。

3、競技レベルの違い:杭州国際マラソンはここ数年競技レベルが次第に高まり、絶えず世界各地から優秀な選手が参加してきていますが、その中では男子種目の全体的な競技水準の方が明らかに女子種目よりも高いのです。

ここ数年、組織委員会は競技レベルを向上させ、杭州国際マラソンがより良いブランドになるようにずっと努力しており、競技の賞金の金額をしだいに増額して、男女の賞金の差違をなくすことはすでに考えています。

(以下略)



国際陸上競技連盟への公開状

李双双さんは、当然、上の杭州国際マラソン組織委員会からの回答には納得できませんでした。そこで、国際陸上競技連盟に手紙を書くことに決め、1週間かけて、友だちにも助けてもらって、その手紙を英語に翻訳しました(9)

11月4日、李さんたちは、以下のような訴えを送りました(10)

尊敬する国際陸上競技連盟ならびにラミン・ディアック会長

私たちはマラソンの女子選手のグループです。謹んでこの手紙を国際陸上競技連盟にお送りして、杭州国際マラソンの賞金設定が男女を区別して対応する差別的行為であることを貴会に正視していただき、主催者の中国陸上競技連盟と2012杭州国際マラソンの組織者に対して、適切な措置を取っていただくようお願いします。

私たちは杭州国際マラソンの主催者側の性差別的行為に対して非常に怒っています。国連の「女性差別撤廃条約」にもとづけば、性差別の定義は、性に基づく区別、排除又は制限であって、政治的、経済的、社会的、文化的、市民的その他のいかなる分野においても、女性(婚姻をしているか否かを問わず)が男女の平等を基礎として人権および基本的自由を認識・享有または行使することを害し、または無効にする影響または目的を有するもののことです。杭州マラソンの組織者側が賞金を設定する際に、女子に男子よりも賞金を1万元少なくしたことは、女子選手のほうを低く、下に区別して扱うものであり、女子スポーツ選手の地位と能力を妨害し、否定するもので、赤裸々な性差別行為です。

(中略――ここで、上の杭州国際マラソン組織委員会の回答を要約して紹介)

私たちは、このような回答の内容に対して失望と不満を感じます。たしかに多くのスポーツ大会の賞金は男より女のほうが少ないという情況が依然として存在しており、それが国際的慣例でもあることは否定できません。しかし、現在の世界では、女性の地位は以前とは異なっており、ジェンダー平等が国際的に公認された価値です。私たちは、多くのスポーツ競技ですでに男女の同一労働同一報酬[同工同酬]が実現している(上海と厦門のマラソンなどの競技を含めて)ことを見ることができます。それゆえ、私たちは、国際的な慣例は平等で、公正な方向に改善されているところだと信じなければなりません。

次に、参加人数が多いから、賞金が多いということは、私たちには理解できません。賞金は参加申し込みの前に発表されるのですから、その時にはまだ申し込む人数はわかりません。もしも以前の年の申込人数を根拠にして女性の賞金を低くするのならば、まちがいなく不公正です。なぜなら、今年の男性の申込人数と女性の申込人数は不明だからです。もし本当に申込人数が原因ならば、組織委員会は、申込人数にもとづいて賞金を変動させるのが、より合理的なやり方です。根本的に言えば、ある程度は、これまでの毎回の女子に対する賞金が低すぎたから、女子の参加がじゅうぶん活発ではなかったのだと言えます。

最後に、男子種目の全体の競技レベルが女子種目より高いという点については、私たちはなおさら受け入れられません。世界のスポーツの歴史を見渡すと、女性はずっとスポーツ競技への参加を制限または排除されてきたために、男性に比べて、スポーツの主力選手が少なかったのです。その一方で、そのことを、女性の競技レベルが男性より低い証拠にするならば、これは、性差別の悪循環です! もしマラソンが国別や人種で区別して、異なった賞金を出さないのならば、なぜ性別によって賞金を区分する必要があるのでしょうか!

実際は、日の光と土壌を少し与えさえすれば、女性はすくすくと成長するのであり、女子スポーツの発展がその確かな証拠です。すなわち、女子のテニス・体操・水泳などの種目の興隆は、女子スポーツも素晴らしいものにできることを説明しています。マラソンも同じです。

それゆえ、私たちは、貴会が杭州国際マラソンの賞金の設定が男女で区別して対応する差別的行為であることを正視し、主催者の中国陸上競技連盟と2012杭州国際マラソンの組織者に対して、適切な措置を取っていただくことを希望します。それにもとづき、私たちは以下の提案をします。

・貴会の名義で声明を発表して、スポーツ競技において、あらゆる形態の女性選手を差別する行為と規程が出現することをを拒絶し、スポーツ競技の賞金の設定は、男女が同一労働同一報酬でなければならないことを承諾すること

・もしマラソンの賞金の設定と参加申込人数とを直接的に関連させるときは、申込人数にもとづいて賞金を変動させるよう組織委員会に提案すること。

(中略)

2012杭州国際マラソン女子選手
2012年11月4日(日曜日)



フェミニストグループが大きな役割――「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」結成

新聞が初めてこの問題を取り上げた10月25日、すでに、「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク(「性别平等倡导行动网络、Gender Equality Advocacy and Action Network)」(本ブログの記事「若い行動派フェミニストたちの『ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク』」参照)のフォーラムで、武嶸嶸さんは、「この杭州マラソンのアクションにおいて、私たちは一歩先を行っている。新聞記事が積極的に取り上げただけでなく、昨日[10月24日]新しく設立された『杭州フェミニズムグループ(杭州女权小组)』は非常にみごとなスタートを切った」(11)と語っています。

また、許小米さんという方のブログの10月25日付エントリにも、「ジェンダー平等アクショングループ[性别平等活动小组]はすでに始動した。その活動には、フルマラソンの賞金の男女不平等の現象に反対すること、およびそのフォローアップ活動が含まれる」と記されています(12)

つまり、この抗議活動は、当初からそうしたフェミニストグループの活動としておこなわれてきたということのようです(「杭州女权小组」と「性别平等活动小组」との関係は不明ですが、同一のグループを指している可能性も大きいと思います)。

また、国際陸上競技連盟への公開状の署名欄には、李双双さんをはじめとした14名の署名が記されていますが(13)、武嶸嶸さんや梁海媚さんなど、他の地区の「ジェンダー平等唱導・アクションネットワーク」の活動家のお名前も見えます。杭州国際マラソンには、フルマラソンやハーフマラソンのほか、13キロ、6.8キロや、カップルや家族で参加するもっと短いコースもありますし、彼女たちも実際に参加するのかもしれません。

そして、11月6日、「杭州ジェンダー平等アクショングループ(杭州性别平等行动组)」が、QQ群(中国のSNS)でその第1回大会をおこなったとのことです(この「杭州性别平等行动组」と前出の「杭州女权小组」や「性别平等活动小组」との関係もよくわかりませんが、やはり同一のグループを指している可能性もあります)。

その第1回大会では、11人のジェンダー平等に関心を持つ人々がさまざまな討論をおこなって、グループの名称を「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ(FM非密杭州性别平等工作小组)」に決めたそうです。「FM非密」という言葉に関しては、「F=Feminine、M=Masculine、FM=ジェンダー[性別]平等が電波のように早くオープンに伝わる=Female=もう秘密ではない。女性の声はもう秘密ではない!」という説明がなされています。ひょっとしたら、「非密」という言葉は、Feminismだけでなく、Fermiと掛けているのかもしれません(フェルミ粒子には電子も含まれますので……。ただし、少なくとも一般にはFermiは「費密」と訳されるようですが)

この「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」の簡単な規約は、以下のようなものだそうです。
・組織の使命――女性の権益を擁護し、杭州およびその周辺の地区の性差別の撤廃に力を尽くす。
・長期的目標――女性および性的マイノリティに対する差別を撤廃し、女性の自己認知を高め、民間の公益人士と公益組織の間の経験交流・協力互助を促進する。
・実際の目標――社会的にホットな問題に対する迅速な反応と社会問題の調査研究を通じて、政府・メディア・NGOとの間の意思疎通を通じて、女性と性的マイノリティの権益を擁護する。

また、このグループの設立を伝えたメッセージの末尾に「報道人:李双双」とありますので、杭州国際マラソンに抗議した李さん自らが大きな役割を果たしているのでしょう(14)

なお、「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」が設立させる以前に、許小米さんのブログの10月25日付エントリの中に、「フェミニズムアクショングループ『FM非密』が10月24日浙江大学で成立を宣言した。現在の活動は『杭州公共トイレ調査研究』である」という記述が出てきます(15)。このグループともメンバーが重なっていると、ないしは、このグループを一つの源流として「FM非密杭州ジェンダー平等活動グループ」が成立したのかもしれません。

いずれにせよ、以上から、北京や広州だけでなく、他の地方でも行動派のフェミニズムのグループが誕生しつつあること、そのグループが、ネットワークによって他の地方とも結びつきを持ちつつ、独自に積極的な活動をしている様子がうかがえます。

(1)以上は、「奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(2)柯倩婷「杭州马拉松奖金男人比女人多一万 凭啥」網易女人2012年10月30日。
(3)李昀「杭州马拉松奖金男人比女人多一万 凭啥(二)」網易女人2012年10月30日。
(4)奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(5)第1回のときは、1位が男子25000ドル、女子15000ドル、2位が男子15000ドル、女子8000ドル、3位が男子8000ドル、女子5000ドルだったとのことです(「厦门马拉松“男女平等” 2009年以前也是同工不同酬」厦门网2012年10月25日)。
(6)以上は、「杭州马拉松上演“秋菊打官司”」新華網2012年10月24日。なお、テニスの4大国際大会のうち、最後まで賞金の男女差があったウィンブルドン選手権での格差撤廃については「ウインブルドン選手権 賞金の男女差撤廃へ - 英国」(AFP2007年2月22日)参照。
(7)奖金设置男高女低是否合理? 杭州马拉松上演“秋菊打官司” 组委会回复:不排除今后实行男女同酬」『今日早報』2012年10月25日。
(8)杭州国际马拉松组委会对李双双政府信息公开的回应[word]」社会性別与発展在中国サイト。
(9)肝胆相照邮件组「女子选手就杭州国际马拉松组织方全程马拉松环节奖金设置性别歧视致信国际田径联合会」社会性別与発展在中国サイト2012年11月5日(来源:邮件组)。
(10)【致国际田径联合会的公开信】[word]」社会性別与発展在中国サイト
(11)嵘嵘「【杭马快报!】好给力呀!这么快收到正面的积极回复!」google group性别平等倡导计划2012年10月25日。
(12)Vera许小米「天下公――记方强的一次分享」纳米克星2012年10月25日。
(13)女子选手就杭州国际马拉松奖金设置性别歧视致信国际田径联合会」性別平等網2012年11月6日(内容は、(9)と同じですが、こちらの写真の方がやや見やすいようです)。
(14)以上は、吴靖怡「FM非密杭州性别平等行动组成立啦!」性别平等倡导计划2012年11月7日。
(15)Vera许小米「天下公――记方强的一次分享」纳米克星2012年10月25日。
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