2017-11

農村女性の自殺問題

 「農村に残された『留守女性』(2)」はしばらく後回しにして、今回は農村女性の自殺問題を取り上げます。

 近年、中国では農村の女性の自殺率が高いことが問題になっています。
 最近もNGOの農家女文化発展センターの謝麗華さんが、「毎年わが国では、自殺によって28.7万人が死んでおり、そのうち女性が15.7万人で、女性が男性より25%多い。また農村の女性の自殺は、都市の女性の3-5倍である」(数字は北京心理危機研究・関与センターの費立鵬さんの研究報告による。この報告の根拠は1995-1999年の政府の統計データなどによる)と述べています。

 謝さんが農村女性の自殺260件を調査したところ、自殺したのは15-34歳が90%、既婚者が68%、夫婦関係や家庭の矛盾による自殺が66%だったそうです。
 謝さんは、農村女性の自殺をもたらす5大要素として、1.男性中心と男尊女卑の伝統的観念と伝統文化、2.農民と農村女性の弱者としての地位、3.農村の組織構造と社会的サポートシステムの欠如、4.社会と公衆が自殺という現象と心理の問題を軽視していること、5.自殺の道具である農薬が簡単に手に入ることを挙げています。
 謝さんは、具体的にはとくに、「女性の自殺の大きな部分が家庭内暴力によって引き起こされている」と指摘しています(1)
 謝さんはまた、上記の農村の組織構造と社会的サポートシステムの欠如の問題についても次のように述べています。土地請負制になって生産の単位が生産隊から家庭になって、農村の社会組織がなくなった。男性が都市に働きに出て、女性の労働強度が増加しているのに、集団生活や文化生活が欠けていて、個人と家庭が孤立している。しかるに女性の唯一の組織である女性代表会議(婦連の末端組織)は計画出産の活動しかしておらず、女性はどこに助けを求めれば良いかわからない。
(以上は、謝麗華さんのブログ「家庭暴力与農村婦女自殺」エントリー[2006-11-21]より)(2)

 こうした問題に対する取り組みも始まっています。
 家庭内暴力に対する取り組みは、まだ小規模な活動ですが、家庭内暴力反対ネットワーク(反対家庭暴力網絡)の活動が有名です。
 また、とくに農村女性の自殺問題に焦点を当てた取り組みもあります。すでに1996年、『農家女百事通』(1993年創刊。2003年~『農家女』)誌は、農村女性の自殺が多いことから、個別の事件について追跡調査を始めました。その編集長だった謝麗華さんは、同誌に「彼女たちはなぜ自殺の道を歩んだか」というコーナーを開設、1999年には『中国農村婦女自殺報告』という本も出版します。

 『農家女百事通』誌は、2001年にNGO「農家女文化発展センター」に再編されますが、同センターは、2002年からフォード財団の資金援助を得て、「農村女性生命危機関与コミュニティプロジェクト」という農村女性の自殺問題への取り組みを開始します。

 この活動は婦連にも協力を求めますが、なかなか協力は得らなかったようです。ある婦連の幹部は「私たちのところには女性の英雄(巾幗英雄)、女性の腕利き(女能手)、女性の労働模範などの良い手本がたくさんいるのに、どうしてそういうプロジェクトをしないのか。自殺のようなことはマイナス面であり、それが露わになると、行政の成績に影響する」と言ったそうです。

 それでもいくつかの県の婦連からの協力を得ることができ、同センターは同年8月、河北省の3つの県の6つの村に「農村女性健康サポートグループ(農村婦女健康支持小組)」を設立します。
 「健康」といっても狭い意味ではなく、心理的健康のことです。また「心理的健康」といっても精神医学上の意味ではなく、「心、精神(中国語の「霊魂」)」という意味だそうです。
 「自殺関与グループ」などという名称にしなかったのは、そうした名称は刺激的すぎるというだけでなく、本末転倒になるからです。

 活動は、以下のような手順で進められました。
1.実情調査
 県の婦連と県・郷の病院の救急センターが共同で女性の自殺の情況を調べ、調査報告を作成。
2.リーダーの養成
 研修クラスを設け、リーダーや自殺しようとした人の研修をする。
 その中で、たとえば、以前はマージャン以外は何もやる気がしなかった人が、学習以後、廃品回収ステーションの仕事を請け負って、充実した生活をするなどの変化が生まれた。
3.カリキュラムの計画
4.女性健康サポートグループの設立
 2002年8月、河北省正定県の上曲陽村・西叩村に、2003年10月、海興県の后程村・張王文村に、2004年8月、青龍県の東蒿村・三十六◇村に設立され、以下のような活動をおこなった。
①文芸娯楽隊の活動‥‥たとえば、ある村では老若男女が秧歌(ヤンコ。田植え歌)を歌い踊る、エアロビクスなど。
②グループの活動室を設置。
③家族の健康の記録を作る。
④農村女性全員に健康診断。
⑤図書室や図書コーナーの設立。
⑥カラーテレビやDVD、書架などを活動室に配置、図書や科学技術のソフトを贈呈して、活動室を村民の閲覧室・情報交流の場、村民クラブに。
⑦農作業への科学技術の導入活動と結合。
5.プロジェクトの展開によって末端の女性代表会議の活動内容を充実させる
 従来は計画出産の活動しかしていなかったのを、プロジェクトと結びついた活動をするようになり、たとえば、ある村では、抑鬱症の女性や夫の賭博で借金がかさんで自殺を図った女性の相談や世話をするようになった。

 こうした活動の結果、上の村々では自殺者が出ませんでした。
 また、こうした活動がテレビや新聞でも取り上げられることによって、農村女性の自殺問題に対する社会的関心が高まったことも成果です。

 ただし、以下のような困難にもぶつかったとのことです。
1.村民委員会の改選の影響。健康サポートグループのグループ長は、一般に村の婦連の主任がするが、村民委員会が改選されて、新しい婦連の主任が無関心だったので、活動がストップしてしまった村があった。
2.貧困な県では、機構の簡素化がおこなわれているが、その際に、婦連が一番犠牲にされやすい。たとえば、ある村のグループ長は婦連の主任でないために、その村においてはポジションを得ていない。
3.婦連の活動方式は、相変わらず上から下への注入式に慣れており、草の根式には慣れていない。今後婦連の工作の重点を、やり手や有能な人から、農民や弱者層へと移していく必要がある。

 昨年、この「農村女性生命危機関与コミュニティ行動」の記録が、1冊の本にまとまりました。『生命危機関預社区行動──項目操作手冊』です。この全文が農家女文化発展センターのサイトで読めます。
 私もまだよく読めていないのですが、上の本には、プロジェクトに携わったさまざまな人々――婦連やサポートグループのリーダーの文章のほかに、そのメンバーである農村女性の体験記が収められています。また自殺を試みて失敗した後にグループに参加した農村女性の文章(口述筆記が多い)も多数収められています。

 なお、農村の自殺問題に関しては、呉飛さんElegy for Luck: Suicide in a Country of North China, berkley.Ca. :The University of California Pressがあり、近く中国語訳も『福殤:華北某県自殺研究』として出版されるようです。

 ※追記:近年は状況が変わってきているという指摘もあります。
 「中国の農村女性の自殺率が低下? その原因は?」(2011年10月13日付の本ブログの記事) 

(1)関西中国女性史研究会編『中国女性史入門』(人文書院 2005年)の「ドメスティック・バイオレンス」の項目(私が執筆)でも、以下のような農村女性へのアンケート結果を紹介しました。
 まず、「殴られたことがある」という回答が40.1%でした。都市に比べて農村は高率です(別の調査では、都市住民27.5%に対して、農民42.0%)。
 また「ある」と回答した人に、「殴られた後、どう思ったか」と尋ねると、12.7%も「自殺を考えた」という回答がありました。
(2)農村女性の自殺問題に関しては、さまざまな新聞記事も出ていますので、ご覧ください。たとえば「她們為何軽生―中国年軽女性自殺状況報告」などがあります。
  
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