2017-08

一部大学・専攻の入試合格ラインの男女差別に対する批判高まる

中国の大学入試は、原則的には大学や専攻ごとの入試はなく、「全国大学統一入試」としておこなわれます。もちろん難関校ほど合格ラインが高くなるのですが、それだけでなく、受験生の戸籍がある省ごとに合格ラインが異なることが特徴です。

それはともかく、「全国大学統一入試」としておこなわれるといっても、例外的に一部の大学や専攻では、「繰り上げ採用(提前录取)」と言って、その年の大学入試が終わった後、各校が学生を採用する以前に、時期を繰り上げて学生を採用しています。私はこの「繰り上げ採用」について詳しくは知りませんが、芸術系・体育系の大学、軍関係の大学のほか、外国語のうちの「小語種」と呼ばれる、英語以外の語学(ロシア語・ドイツ語・フランス語・日本語など)専攻などが、そうした方法をとっているようです(1)

この7月、この繰り上げ採用をしている大学や専攻の一部で、入試の点数が高い方から合格させるのではなく、定員を男女別にして、男性よりも女性の合格ライン(*)を高くしていることが、問題になりました。

(*)原文は「投档線」。「投档」とは、「(合格ラインに達した)受験生の身上調書を受験先に送付すること」だそうです。私は「投档」についてもよく知りませんが、最終的な「録取(試験合格者を採用する)」とは少し異なるようです。

男女の合格ラインの格差、男女別の募集――語学系など中心に、芸術・警察・税関関係の専攻でも

最初にこの問題を報じたのは、広東省の『南方都市報』です。7月8日、同紙は、以下のように、さまざまな大学の繰り上げ採用の広東省の合格ラインが、女性の方が男性より高いことを報じました(2)
・北京外国語大学・文科―男:629点、女:643点(14点差)
・北京外国語大学・理科―男:632点、女:647点(15点差)
・中国政法大学・文科―男:589点、女:608点(19点差)
・中国政法大学・理科―男:588点、女:632点(44点差)
・華南理工大学・理科―男:585点、女:622点(37点差)
・国際関係学院・理科―男:609点、女:628点(19点差)
・国際関係学院・文科―男:601点、女:624点(23点差)

中国政法大学や華南理工大学の場合は、専攻が国防で、以前は「男子のみ」採用であり、現在も女性を少数しか採らないのでこうした差別をしているということですが(それで良いかどうかは話が別)、北京外国語大学や国際関係学院の場合は、もともと男女の区別なしに採用できるはずの、外国語専攻のうちの「小語種(英語以外の語学)」専攻で、こうした差別をしていました。このような男女の合格ラインの格差は、他の省についても同じでした(3)

このような合格ラインの格差は、当然、多くの女性の人生に影響します。たとえば、海南省の張さんは、将来、外交の仕事をすることや外資系企業で働くことを目指していたため、志望大学は、北京の国際関係学院でした。張さんの全国統一入試の出来は、彼女にしてはあまり良くなかったのですが、それでも702点を獲得しました。彼女は英会話が得意で、面接試験まで行けば、必ず合格する自信がありました。ところが、国際関係学院の海南省での合格ラインは、女子は715点でした。男子の合格ラインは668点だったので、もし張さんが男子だったら、ゆうゆう面接に進めたことになります。張さんは、志望とは異なる、北京体育大学に進学せざるを得ませんでした(4)

また、中国人民大学と上海外国語大学は、今年初めて小語種の採用を男女別におこない、そのため合格ラインに男女差ができたと報じられました。

中国人民大学の場合は、理科は合格ラインが男女同じでしたが、文科の場合は、次のような男女差がありました(5)
 北京・文科―男:601点、女:614点(13点差)

上海外国語大学の場合は、省ごとの合格最低点が発表されており、20省のうち、12省で男女差がありました(6)
 天津・文科―男:607点、女:630点(23点差)
 天津・理科―男:574点、女:632点(58点差)
 遼寧・文科―男:615点、女:625点(10点差)
 遼寧・理科―男:562点、女:619点(57点差)
 吉林・文科―男:573点、女:602点(29点差)
 吉林・理科―男:553点、女:603点(50点差)
 黒龍江・文科―男:588点、女:607点(19点差)
 黒龍江・理科―男:594点、女:592点(-2点差) (ここだけ女子有利)
 福建・文科―男:617点、女:624点(7点差)
 福建・理科―男:627点、女:634点(7点差)
 山東・文科―男:629点、女:634点(15点差)
 山東・理科―男:643点、女:658点(24点差)
 広西・文科―男:551点、女:616点(65点差)
 広西・理科―男:553点、女:603点(50点差)
 甘粛・文科―男:583点、女:594点(11点差)
 甘粛・理科―男:581点、女:614点(33点差)

上海税関学院の場合も、北京・天津・上海・重慶・広東・河南・江蘇・江西・遼寧など多くの省・市で女性の合格ラインが高くなっています。たとえば重慶の文科では、男:596点、女:629点(35点差)、上海の文科でも、男:471点、女:476点(5点差)でした(7)

対外経済貿易大学は、小語種では、北京の学生を男女とも5名ずつ合格させたのですが、合格者の点数は以下のようでした(8)
 文科 男:最高点604点―最低点577点、女:最高点622点―最低点589点(最低点が12点差)。
 理科 男:最高点629点―最低点614点、女:最高点633点―最低点620点(最低点が6点差)。

対外経済貿易大学の事例もそうですが、小語種や芸術専攻の場合などは、志望者は女性が多いのに、男女の学生募集の比率を1:1に定めたために、女性の合格ラインが上がった場合が多いようです。呂頻さん(フリージャーナリスト、社会運動家)が調べたところ、北京外国語大学の2012年の繰り上げ学生募集では、小語種は、どの専攻も男女が1:1になっていました(http://zhaosheng.bfsu.edu.cn/wp-content/uploads/2012/05/2012年提前批次分省市专业计划.xls)。また、中国メディア大学の2012年の芸術類の本科の学生募集要項には、「放送、芸術・演出・監督専攻を採用するときは、男女別に順番をつけて、男女の採用比率が1:1になるようにする」(http://zhaosheng.cuc.edu.cn/wsm/shownews.aspx?id=1096)と書かれていました(9)

国防関係の専攻のようにも思われないのに、「女子学生の比率を30%以下にする」ことを目的に、女性の合格ラインを高くした大学もあります。たとえば、上海税関学院の学生募集の責任者は、「専門の特殊性ゆえ、女子学生の合格者は30%を超えないようにしている」と述べました(10)。また、国際関係学院の学生募集の責任者も、「私たちの学校の性質は比較的特殊であり、女子学生の人数は全体の30%を超えないように規定している」と述べています。

ジャーナリストの李思磐さんは、「学生募集計画で、堂々と『主に男子学生を募集する』と規定しているのは、国防などの特殊な状況以外に、警察・税関などの専攻もある。これらを募集している学校と将来の雇用単位は同じ系統に属しているから、学生募集の要求は、実は雇用単位の意思を体現していると推定できる。『捜査学』『税関管理』のような専攻がどのような理由で男子学生しか募集しないのかを説明できる人がいるのだろうか?」と言っています(11)

しかも、国際関係学院の学生募集の責任者が言うには、学校の学生募集の要項と計画はすでに教育部に知らせて承認を得ているというのです。上海外国語大学の責任者も「このたびの学生募集計画は、教育部の承認を得ている」と述べています(12)

呂頻さんは教育部に情報公開請求、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは意見書を提出

2005年にも、北京大学の小語種専攻が、女性の合格ラインを高くしていたことが報じられ、問題になったことがありました(13)。そのため、2006年、教育部は「2006年普通大学学生募集活動規定[2006年普通高等学校招生工作规定]」の中で、「教育部の許可なしに、大学が勝手に男女の合格比率を規定してはならない」と定めました。呂頻さんは、「当時はこの問題はもう全国的な法律のレールに乗せられて、ある程度の効果があったとみんな考えたし、今年は北京大学はこのような政策を実行していない」と述べています(14)

今回も、呂頻さんらによる民間団体である「女性メディアウォッチネットワーク(妇女传媒监测网络)」は、以上のような経過を含めて、「成績が良いことが間違っているのか?――大学の性別の合格ラインから男権の構造を見る」という長い論説を機関誌の『女声』の特集号で発表しました(15)

もともと呂頻さんは、7月8日に『南方都市報』の報道を目にすると、その翌日の9日には、教育部(日本で言う文科省)に対して、「政府情報公開条例」にもとづいて、「2012年の大学入試において、教育部は、どの大学のどの専攻に男女の採用比率の制限を許可したのか? その根拠は何か?」という点を情報公開するよう申請しました。呂頻さんは、「教育部は情報を公開して、受験生に説明し、それが合法であるのか、合理的であるのかを社会全体に監督してもらうように希望する」と述べています(16)

7月13日には、民間団体である「北京衆沢女性法律相談サービスセンター(北京众泽妇女法律咨询服务中心。もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)」は、教育部に、「一部の大学の一部の専攻が大学入試において性別で区分して合格させ、合格ラインが明らかに女が高く男が低い現象を監督是正することに関する法律的意見書」を郵送しました。

北京衆沢女性法律相談サービスセンターの意見書は、さまざまな大学の合格ラインの男女差について、女性差別撤廃条約や憲法、婦女権益保障法、教育法、普通高等学校招生工作規定に違反していることを指摘して、教育部に、こうした違法な男女差別について調査・是正・処分するよう求めるものです(17)

世論も、合格ラインに男女格差をつけることには批判的意見が多数派ではあるが……

『工人日報』の記者が取材したところ、大多数の人が「男女の合格点を区別するのは、性差別で、不公平だ」という意見でした(18)。また、新聞報道は、「ネットユーザーの多くが反対である」というふうに報じています。

インターネット上での投票でも、男女で合格ラインの格差をつけることに反対する意見のほうが、多数派です。けれども、以下の調査を見ると、けっして圧倒的多数派ではありません。

「大学の合格ラインを男女で別にすることを、どう思うか?」(新浪調査「高考录取划分男女线你怎么看?」)(下は7月23日現在のデータ)。

○「あなたは、男女で合格ラインを区別すべきだと思うか?」
 ・「区別すべきでない」:68.1%
 ・「区別すべき」:31.9%

○「男女で合格ラインを区別することは『公平』か?」
 ・「不公平」:65.5%
 ・「不公平に見えるが、実は公平。女性は試験技能が男性より優れているので、男性の合格ラインを下げることによって人材の損失を減らすことができる」:21.2%
 ・「公平」:13.3%

すなわち、男女で合格ラインに格差をつけることに反対する人は、7割未満にとどまっています。また、3つしかない選択肢の中に、「不公平に見えるが、実は公平。女性は試験技能が男性より優れているので~」という奇妙なものがあり、それが2割程度の支持を集めていることも特徴です。

もちろん、この結果には、インターネットの匿名投票ゆえの歪みのようなものがある可能性もあると思います。

しかし、ある記者が、20名の生徒に尋ねても、70%は男女で合格ラインを区別することに反対でしたが、30%の人は「ある程度の合理性がある」という考えだったとのことです(もっとも「ある程度の合理性がある」と答えた95%は男子生徒だったそうですから、性別による差異が大きいのだとは思いますが)(19)

合格ラインの男女格差を正当化する議論、それに対する反論

大学の入試関係の責任者が公然と合格ラインの男女格差を正当化する主張をしたり、新聞紙上に男女格差を正当化する論説が掲載されたりもしているという状況もあります。そうした主張や議論には、以下のようなものがあります。

(a)男女の学生数のバランスをとるため

北京語言大学の学生募集の責任者である林方さんは、次のように言います。「女子学生の比率が87%である語学系の大学では、『男女で合格ラインを分けて、特殊な類型の学生募集をする』という政策によってはじめて、数が多くない男子学生を集めることができる。このような政策は、教学の質を保証するために必要である。」「私たちには、男女が対話するシーンが必要だという問題がある。多くの場合、女の子が男子学生の役割をせざるをえない。また、クラスの男女の比率がアンバランスだと、総合的な発展もアンバランスだ」(20)

上海外国語大学の責任者も、「多くの外国語系の大学では、男女の学生数の落差が非常に明らかで、女の子が多すぎ、男の子が少ない。これが、男女の学生の合格ラインを別に定めている理由だ。つまり、男女の学生数の比率をもっと合理的にしたいのである」と述べています(21)

(b)就職率を良くするため

小語種専攻の男女の合格ラインに差をつけていた四川大学の責任者は、その理由について、一番肝心な問題は「就職」だと言い、「就職する企業が、男子学生を希望している。渉外や外交、出張などの仕事のときに、企業は男子学生のほうが便利だと思っている」と述べています。企業は「男子生徒を多く合格させろ」とは言わないけれども、採用の時は「男子学生しかいらない」と言うので、クラスの中の男女比を1:1にしているというのです。(22)

「女子学生の比率を30%以下に規定している」と言っている国際関係学院の学生募集の責任者も、「専攻に合った就職口は、男性が主だから」ということを理由にしています(23)

(c)女子学生ばかりだと、将来の教員養成にマイナスになる

「学科の持続的発展を保障するためである。これらの専攻の男子学生の数が少なすぎると、修士・博士も男女の学生の比率がアンバランスになるという問題が出てきて、教師の隊列の養成にマイナスになる」というような意見もあるそうです(24)

(d)女子は試験で高い点を取る能力があるだけで、男子は総合的能力がある

復旦大学の学生募集の責任者は、「一般に男子生徒は興味や知識が広いのに対し、女子生徒は往々にして試験で高い点数を取る能力がある」という理由で、女子学生が多い学科には、理科の学生が転入する機会を与えていると言います(25)。中国教育科学研究所の儲朝暉研究員も、「男女の天性から言って、女性は『専制的教育』の一元的基準を受け入れやすいが、男性は本能的に抵抗するので、試験では、女子学生は良い成績を取りやすい」ということを根拠にして、小語種の学生募集の合格ラインを男女で区別することを擁護しています(26)。『燕趙都市報』の評論員の燕子山さんも、「われわれの現在の受験教育体制と評価基準は、女子学生が勝利するのに有利である。」「一人の受験生の成績は、その生徒の総合的で全体的な資質を正確に反映しにくい。」「男子生徒と女子生徒で合格ラインを区別するのは、現在の受験教育体制とその結果に対して偏向を正すことになる」と述べています(27)

先に述べたように、ネット投票の選択肢にも、「女性は試験技能が男性より優れているので、男性の合格ラインを下げることによって人材の損失を減らすことができる」というものがありましたが、現在の中国では、この種の論説がかなりあるようです。

以上のような、男女の合格ラインの差別を正当化する言説は、どれもこれも、子どもだましだったり、露骨な女性蔑視だったりで、こうしたことを堂々と言えるというのは、社会における性差別の深刻さを示しているように思います。李思磐さんは、「大学がこのような違法行為をしているのに、ぬけぬけと大きなことを言っている」のは、「わが国の反差別立法には原則があるだけで、細則がなく、違法行為に対して具体的な懲罰の措置がない(……)からである」とも指摘しています(28)

当然のことながら、以上のような言説に対しては、以下のような反論がなされています。

(a´)「女子学生が多すぎる」という理由はダブルスタンダード――なぜ男子学生が多い専攻では女子学生を優待しないのか?

『女声』誌は、「歴史的にかなり長い間、高等教育の機会は男子生徒に多かったし、現在もいくらかの理工系の専攻ではまだ男子学生が多いにもかかわらず、『男子学生が多すぎる』という言い方はされない。いかなる歴史的時期にも、男子学生が優勢ないかなる専攻でも、『男子学生が多すぎる』ことを理由に女子学生を優待する政策がおこなわれたこともない」「女子学生が多いのは問題で、男子学生が多いのは問題ではないというのは、明らかに性別にもとづくダブルスタンダードである」と指摘しています(29)

華南理工大学教授の周雲さんも、「私の経験から言って、理工系の大学の多くの専攻では、男女比のアンバランスは外国語系よりもはなはだしく、私は『和尚クラス』(クラスの中に1人も女子学生がいない)・『お姫様クラス』(クラスの中に女子学生が1人しかいない)を教えたことも少なくないのであって、男が多くて女が少ないのは、普通のことである。けれど、私は、誰かがそのことに周章狼狽して、『男女の学生の数の格差が大きい』とか『不合理だ』とか騒いで、女子学生の合格ラインを6~70点下げて男女のバランスをとろうなどと言っているのを聞いたことがない」「これが女子学生に対する赤裸々な差別ではなくて、何であるというのか?」と述べています(30)

李思磐さんも、「1970年代、北京大学と南京大学の物理専攻の本科の女子学生の比率は、42%と37%に到達していた。しかし、1990年代になると、この比率は、それぞれ9%と8%に低下した。けれども、私たちは、『男女の比率のバランス』を取るために、女子生徒に、これらの専攻の敷居を低くしたという話は聞いたことがない」と述べています(31)

(b´)「就職する企業が歓迎しない」という理由は、就職差別に迎合するもの

この点に関しては、『女声』誌は、「いかなるポストに女性は採用できないかに関しては、国家の法律(女性労働者保護規定)がすでに範囲を明確にしており、かつ、それらは、女性を保護する目的である。外交の仕事をする人や翻訳者など、小語種専攻の人が就職するのに適したポストは、女性は完全に任に堪えるのであって、このようなポストから女性を排斥することは差別である。差別的な就業のニーズに対しては、大学は学生と一緒に食い止めるべきであり、自ら受け入れるべきではなく、まして、就職差別を教育の領域に前倒しすることによって、就職差別に迎合し、差別を助長するべきではない」と指摘しています(32)

(c´)女子学生が多すぎると学科の発展に影響すると考えるのは、女性の能力に対する偏見と中傷

ある論説は、「女子学生が多すぎると学科の発展に影響すると考えるのは、明らかに女性の知恵と能力に対する偏見と中傷である。ハーバード大学の学長のローレンス・サマーズも、『男女の先天的差異が、女性の理数領域における功績の少なさの原因である可能性がある』ということを述べて、大学内外の大きな批判にされされて、辞職せざるをえなくなった」と指摘しています(33)

(d´)「男の子の危機」論、教育における「陰盛陽衰(女が男より強くなった)」論に対する反論

「女子は試験で高い点を取るだけなのに対して、男子には総合的能力があるのに、現在の受験教育や入試のあり方は、男子の能力を評価していない、抑圧している」という議論の背景には、「男の子の危機(男孩危机)」論という、現在の中国で一定の影響力を持っている考え方があるようです。

2010年、孫雲曉の『男の子を救え (拯救男孩)』(ネット書店「書虫」のデータペースの中のこの本の書誌データ)が、中国の男の子は「学業の危機」「体質の危機」「心理的危機」「社会的危機」にさらされているから、男の子を救わなければならぬ、と説いて、ベストセラーになりました(34)。それをきっかけにして、「男の子の危機」ということが叫ばれるようになりました。

「男の子の危機」論は多岐にわたっていますが、その「学業の危機」のあらわれの一つとして問題にされたのが、教育における「陰盛陽衰(女が男より強い)」という現象であり、大学に関して言えば、1999年から2008年までの間に、大学入試で成績が最も良かった者に占める男子の比率が66.2%から39.7%に低下したこと、全国の大学の女子学生の比率が35.4%から45.7%に上昇し、2007年には新入生の中の女子学生の比率が52.9%になり、初めて男性を超えたことなどが挙げられています(35)

もちろん、教育に従事している李曙明さんという方が述べているように、まず、「かりに現在の教育体制や入試の方法に問題があるとしても、その解決の道は、より科学的な教育体制や入試の方法を探究・推進することにしかなく、採用の際に女子生徒を特別視することではない。努力して他の人よりも高い点数を取ったのに、女子であるという理由だけで合格にしないというのが、差別でないと言うのか?」と言えます(36)

また、徐安琪さんは、教育における「陰盛陽衰(女が男より強くなった)」という捉え方そのものを、以下のように批判しています(37)
 ・ユネスコの2009年の統計では、148の国家と地区の中で、女子学生が高等教育の学生全体の50%を超えているのが104(70.3%)あり、そのうち60%以上のところが27ある。しかし、中国では、大学、高級中学[日本で言う高校]、初級中学[日本で言う中学]、小学における女子学生の比率は、みな47%前後である。すなわち、義務教育から高等教育に至るまで、中国の女児の全体的な教育の機会は、まだ男児より少なく、農村地区ではもっと少ない。
 ・女性の入学率は急速に上昇しているけれども、教育レベルが高くなるにつれて女子学生の比率が低くなる現象は依然として変わっていない。2009年の高等専門学校・(大学の)本科・修士課程・博士課程に占める女子学生の比率は、それぞれ52.4%、48.9%、49.3%、34.9%である。
 ・名門大学への進学者数も、一概に女性が優勢とまでは言えない。たとえば2009年の上海から進学した人のうち、復旦大学に入ったのが男子422人、女子488人、上海交通大学が男子632人、女子407人、精華大学が男子48人、女子32人。北京大学が男子29人、女子36人であった。十数年前・二十数年前は、名門大学、とくに理工系の名門は、絶対的な男子学生の天下だったのが、現在は全体の趨勢としては、男女半々になったのであり、これは、社会の進歩であり、教育の公平さの結果である。
 ・女性は、たとえ学業上は完全に男子学生を超えたとしても、いったん伝統的に男性が権力を持っている職場に踏み入れたら、いわゆる「学業の優勢」は、ほとんどなくなってしまう。

また、北京師範大学教育学院教授の鄭新蓉さんは、「精華大学・北京大学のような、売れ行きがよくて、社会的報酬が高い専攻に、どれほど女性がいるというのか? 女性が得意な言語専攻だけで、ある程度優勢であるにすぎない」「現在、男性は社会的報酬がより高い専攻を選択するようになって、小語種専攻への関心は、もともと弱い」と語っています(38)

「女子は、専制的(=詰め込み式の)教育の試験で得点を取るのが得意なだけだ」という議論に対しても、徐さんは、「近年は、大学入試は、しだいに学生の総合的な資質と能力を見るようになっており、丸暗記だけでは高得点を取ることは難しくなっている。ところが女子生徒の成績は下降するどころか、日を追って上昇している」と反論しています。

実は1990年代から、女子生徒が大学入試で成績が良いことに対して「それは、女子は暗記が得意で、入試が上手だからにすぎない。現在の教育体制や受験制度は男子の能力を生かしていない」という議論が起こって、それに対して反論が出るという状況はあったようで(39)、その頃から同じような議論を繰り返している面もあると思います。それにもかかわらず、女性の高等教育への進出は進んできたわけです。

徐さんは、女性が大学に進学する比率が上昇した原因については、「計画出産の国策が全面的に推進されたこと」による部分が大きい、と述べています。すなわち「一人っ子がだんだん多くなって、女の子の価値が上がった。保護者は男の子と女の子に同じような期待を抱くようになり、養育・教育の面で同等のリソースを与え、サポートをするようになった」というのです。

とはいっても、単純に楽観はできないようです。『女声』誌は、最近、女性の高等教育への進出を抑え込む潮流が生じているのではないか、と危惧しています(40)
 ・2007年には大学の新入生の中の女子学生の比率が52.9%になり、2010年には大学の中の女子学生数が男子学生数を上回ると予測されたにもかかわらず、そうなっていない。
 ・最近、「全国大学統一入試」以外の、大学ごとの「自主学生募集」が拡大しているが(41)、その中で男子が優遇されている。「多くの学校が、女子生徒の点数が高い専攻では、通常20~40%の自主選択の中で『男に恩恵を与えて女を抑える』。これはすでに同業者ならば誰でも知っている『情理に合った』隠れたルールであり、まだ公衆に監督されていない不公正な客観的事実である」(42)

 先に述べたように、中国人民大学と上海外国語大学が、今年初めて小語種の採用を男女別におこなったことも、憂うべきことのように思います。

日本の場合とも比較可能な現象として捉えることもできるのでは?

日本でも、1960年代、大学に女子学生が増大すると、「女子大生亡国論」が一世を風靡したことがありました。

1980年代終わりから1990年代初めにかけては、東京の都立高校、とくに旧制府立中学の流れをくむ「名門校」で、男子よりも女子の方が募集定員枠が少ないために、女子の合格ラインが男子よりも高くなっていることが問題になったこともありました(43)。当時、いわゆる「名門校」の側は、「女子が入学すると学力が落ちて男子に影響する。受験競争に勝ち抜けない」「旧制中学時代からの男子校の伝統を守るのが大切」「女子は浪人を嫌い、4年生大学への進学率が落ちる」「トイレや更衣室など施設面で女子の増員に対応できない」といったことを女子を制限する理由として述べていたそうです(44)

以上のようなことは、女性の高等教育への進出に対する抑圧と見ることができると思います。

また、日本は、現在でも、欧米と異なって、中国同様に、女性の高等教育の在学率が男性より低いという特徴があります。たとえば、平成22年版『男女共同参画白書』は、女性の高等教育在学率について、「日本と欧米等諸国,韓国の高等教育の在学率を男女別に比較した」図を示して、「[日本の]女性の在学率は54.1%と,9割を超えている米国や北欧諸国と比較してかなり低いものになっている。また,韓国を除き,他の国では男性より女性の方が在学率が高くなっているが,日本では逆に女性の方が在学率が低いという状況にある」と指摘しています(「特集編女性の活躍と経済・社会の活性化」[pdf]p.21)。

今回の問題は、中国の高等教育への女性の進出と、それに伴う深刻な反動を明るみに出しましたが、日本と比較可能な現象と捉えることによっても、さまざまなものが読み取れる可能性があるように思います。

この記事の続報:「大学入試の男女差別に対する抗議活動つづく――差別を正当化する教育部を批判して、坊主頭になるパフォーマンスアートも」[2012年9月25日追記]

(1)大塚豊『中国大学入試研究』(東信堂 2007年)にも、芸術系大学、体育大学、軍関係の大学が「繰り上げ学生募集」をしてきたことが書かれています(p.120-121)。
(2)高校招生提前批投档线出炉 北大小语种文科又夺魁 香港中大理科再居首 提前批“女高男低”有高校男女生相差40多分」『南方都市報』2012年7月8日。
(3)たとえば、『南方都市報』が取り上げた北京外国語大学の浙江省での繰り上げ募集でも、以下のような男女の格差がありました。
・文科―男:661点、女:671点(10点差)
・理科―男:669点、女:674点(5点差)
(「多所高校招生面试性别歧视 海南高分女生未获面试资格」鳳凰網2012年7月18日[来源:時報])。
(4)多所高校招生面试性别歧视 海南高分女生未获面试资格」鳳凰網2012年7月18日(来源:時報)。
(5)人民大学小语种招生分数线“男女有别”」網易新聞中心2012年7月8日(来源:京華時報)。中国人民大学の小語種の場合、福建省の合格ラインも報道されていますが、文科は、男:634点、女:630点で、女子有利なのですが、理科は、男:645点、女:650点で男子有利でした(「上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日)。
(6)上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日。
(7)同上。
(8)北大小语种在京提档线公布」『新京報』2012年7月9日。
(9)公益人士就高校男女录取比例及录取专业申请信息公开」法制網2012年7月9日。
(10)上外提前批次分数线首次“男女有别” 广西文科录取线女比男高65分,网友认为有歧视之嫌」『青年報』2012年7月17日。
(11)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(12)法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)、「追求“性别平衡”引来“教育不公”?」金融界2012年7月21日(来源:天津日報)。
(13)もっとも、入試の合格ラインの不平等の問題自体は、それ以前から存在しています。1990年におこなわれた第1回中国女性の社会的地位調査でも、「あなたの周囲に、次のような不平等な現象がありますか(感じ方の強いものを、2項目選択してください)」という質問に対して、「入試で男女の合格点が不平等なこと」という項目を、都市部では27.6%の人が選択しており、女性の第一選択では「雇用機会の不平等」とほとんど肩を並べた高い比率を示していました(中国全国婦女連合会[山下威士、山下泰子訳]『中国の女性―社会的地位の調査報告』(尚学社 1995年 本文p.336-339,付録p.15-16)。ただし、当時は、メディアを見るかぎりでは、合格ラインの不平等は、中等専門学校や技術学校、職業高級中学について言われることが特に多かったです(遠山日出也「近代家族と民主主義──今日の日本と中国の家族を手がかりに」『女性学年報』第17号[1996年]p.82)。
(14)是性别歧视,还是合理平衡?」人民網2012年7月13日(来源:検察日報)。
(15)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word]。
(16)公益人士就高校男女录取比例及录取专业申请信息公开」法制網2012年7月9日、「公益人士发问教育部:高校招生凭什么限制性别比例?」『羊城晩報』2012年7月11日、「高校分数线男低女高为缓解男女比例失调?」EOL2012年7月11日(来源:新京報)。
(17)中心递交督请纠正高校部分专业高考录取性别歧视意见书」北京众泽妇女法律咨询服务中心サイト2012年7月13日、「关于督请纠正部分高校部分专业高考性别歧视的法律意见书」北京众泽妇女法律咨询服务中心サイト2012年7月16日、「法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)。
(18)高招分数“女高男低”性别歧视还是弱势补偿?」2012年7月13日(来源:工人日報)。
(19)高考招生男女有别 投档线最高相差44分」名城新闻网2012年7月15日。
(20)部分院校招生“男女有别”被疑性别歧视 教育部未回应」中国網2012年7月12日(来源:中国广播網)。
(21)追求“性别平衡”引来“教育不公”?」金融界2012年7月21日(来源:天津日報)。
(22)教育平等前的性别歧视从何而来――部分高校专业提高女生录取要求调查」『中国婦女報』2012年7月13日。
(23)法律NGO上书教育部:高校招生存性别歧视」新浪網2012年7月17日(来源:南方都市報)。
(24)"阴盛阳衰"只怪男生自己不争气 女生"躺着中枪"很无辜」新民網2012年7月18日(来源:紅網)。「多所高校部分专业分性别投档 被质疑涉嫌性别歧视」鳳凰網2012年7月11日(来源:新京報)にも、(a)~(c)のような主張が書かれていますが、「大学合格最低点 男性より女性高く 性差別に当たるとの指摘」(中国網日本語版2012年7月13日)も、『新京報』がソースであるこの記事を翻訳したもののようです。
(25)人大小语种录取分数线分男女 女生高男生13分」鳳凰網2012年7月14日(来源:中国青年报)。
(26)储朝晖:招生分数线“男女有别”公平吗?」財新網2012年7月19日。
(27)燕子山(評論員)「“男女区别划线”在招生上的实质公正」新浪網2012年7月12日(来源:燕趙都市報)。
(28)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(29)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word] 、p.4。
(30)换了马甲还是性别歧视」『羊城晩報』2012年7月21日。
(31)李思磐「高校招生分数“女高男低”有待立法解决」『東方早報』2012年7月23日。
(32)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word]、 p.4-5。
(33)"阴盛阳衰"只怪男生自己不争气 女生"躺着中枪"很无辜」新民網2012年7月18日(来源:紅網)。
(34)ここでは詳しくは述べられませんが、この本に対しては、『女声』や『中国婦女報』が強烈な批判を展開しました(「男孩真的需要被“拯救”么」『女声』75期[2011.3.28-4.3][word])、(「女权主义导致了男孩危机?——“拯救男孩”讨论之一」『中国婦女報』2010年6月2日、荒林「父权危机感之下的拯救男孩宣言」『中国婦女報』2010年6月2日、方剛「“拯救”男孩?荒唐!」『中国婦女報』2010年6月2日、「现代教育制度男孩成长的最凶猛杀手?——“拯救男孩”讨论之二」『中国婦女報』2010年6月3日、「“拯救男孩”,我不认为需要特别的关注」『中国婦女報』2010年6月3日、徐安琪「男孩危机:一个危言耸听的伪命题」『中国婦女報』2010年6月2日)。
(35)人大小语种录取分数线分男女 女生高男生13分」鳳凰網2012年7月14日(来源:中国青年报)。
(36)高校擅自规定男女生录取比例不妥」和訊網2012年7月13日(来源:重庆晨报)。
(37)男孩危机是个伪命题」新浪網2011年12月28日(来源:新民周刊)。徐安琪さんのこの観点は、すでに、徐安琪「男孩危机:一个危言从听的伪命题」(『青年研究』2010年1期)で詳述されています。
(38)教育平等前的性别歧视从何而来――部分高校专业提高女生录取要求调查」『中国婦女報』2012年7月13日。
(39)劉海峰・一見真理子・赤木愛和「中国における大学入試と女性の高等教育機会に関する研究[PDF]」(『創大教育研究』第10号)は、2「『女状元』の増大と入試改革に関する論争」参照。
(40)「好反是错?——从高校分性别划线看男权布局」『女声』118号(2012.7.2-7.8)[word] 、p.7-8。
(41)大塚豊『中国大学入試研究』(東信堂 2007年)も、第6章「市場経済移行期の大学入学者選抜――経済に揺り動かされる教育――」の第6節「市場経済化に依拠しない多様化・自由化措置」の3「受験機会の複数化」のなかで、「とくに一流大学が積極的に取り組んでいるのは個別大学が独自に実施する学生募集(原語は「自主招生」)である」として、2000年ごろから「自主招生」が拡大しつつあることを述べています(p.229-230)。
(42)徐安琪「男孩危机:一个危言从听的伪命题」(『青年研究』2010年1期)p.40。
(43)「『都立高、男女枠の撤廃を』 選抜検討委が報告書」『朝日新聞』1988年10月14日(東京)、「東京都立校の募集定員 『女子少数は差別だ』 東京弁護士会が報告書」『読売新聞』1988年10月14日(東京朝刊 都民2)、「都立高入試の男女別定員を見直しへ 父母の批判受け検討委」『毎日新聞』1988年12月9日(東京朝刊)など。また、これらの記事には、公立高校の生徒募集で男女別枠を設けているのは、東京都のほか、男女ほぼ半々になっている福井県などごくわずかだが、共学枠で募集していても、高校側が事実上、女子の入学者を制限しているところもあること、中学の進路指導で女子の合格基準を男子より高くしている場合もあることも伝えているものもあります(「公立高定員で男女別枠はなぜあるのか」『朝日新聞』1990年3月1日朝刊)。
 また、大阪府でも男女別の合格枠があり、そのことに対する疑問の声も出ているという記事が2001年に掲載されているなど(「公立校入試で男女別合格枠、不公平では(どうなってるの?)/大阪」『朝日新聞』2001年6月3日大阪1)、単純に1990年ごろの東京の問題とも言えなさそうです。
(44)上記「『都立高、男女枠の撤廃を』 選抜検討委が報告書」、および「公立高定員で男女別枠はなぜあるのか」『朝日新聞』1990年3月1日朝刊)。
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