2017-06

女性同性愛者らの組織「同語」、新献血政策に対して見解――男性同性愛者に対する政策の問題点も指摘

すでに本ブログで、この7月から中国が女性同性愛者の献血禁止を撤廃する新しい規定を施行したことや、それまでの女性同性愛者たちの運動についてはお伝えしました。

この件に関しては、その後も中国のメディアで取り上げられているのですが、その中では、男どうしで性行為をする人(MSM)については、相変わらず一律に献血が禁止されていることも話題になっています(1)。それらの報道の中には日本でも紹介されたものもありますが、それをもとに、2ちゃんねるでは、「男性同性愛者の献血、中国では禁止 (´・ω・`)『お前らもゲイの血なんかいらないよな』」とか、「『エイズが染るかも知んないけど差別はいけない』と専門家・・男性同性愛者の輸血解禁訴える」といった差別的なスレッドが立てられたりしていますので(そもそも中国で引き続き禁止されているのは、あくまでMSMの献血であって、男性と性行為をしない男性同性愛者の献血は禁止されていません。また、「エイズが染るかも知んないけど差別はいけない」などと言っている専門家がいるという報道はまったくありません。完全に捏造です)、今回は、この件に関する議論を紹介します。

この件に関しては、7月10日、中国の女性同性愛者らのための民間組織「同語(同语)」が見解(2)を発表して、女性同性愛者の献血が可能になったことを歓迎するとともに、男性どうしで性行為をしたことがある者の献血を一律に禁止していることを批判しました。

その声明の内容を以下、ご紹介します(抄訳であり、はしょっている部分もあります)。

2012年7月1日、衛生部と国家標準化管理委員会が共同で発布した「献血者健康検査要求」(GB 18467-2011国家基準)が正式に施行された。この基準は、もとのGB 18467-2001(1998年発布)に替わるものであり、「同性愛」問題において重大な修正をした。新しい国家基準は、ある特定の身分集団(麻薬を吸引したことがある者、同性愛者など)に対する概括的な禁止令を撤廃し、それに代わってハイリスクな行為を規制したのであり、明確な進歩性を持っている。

新しい国家基準の5.2.2条「安全な献血者の重要性」によると、「リスクが高い行為をおこなう献血者、たとえば静脈注射による麻薬中毒者だったことがあるとか、男どうしの性行為とか、血液によって伝染する病気(エイズ・C型肝炎・B型肝炎・梅毒など)の危険がある者とかは献血してはならない」。この条項を、もとの国家基準の4.5.3条の「エイズにかかりやすいハイリスクグループ、たとえば麻薬を吸引したことがある者、同性愛者、多くの性のパートナーがいる者」の献血を禁止していた規定と比べると、大きく改善されている。新しい国家基準は、同性愛者の献血を一括して禁止していたのを、男どうしの性行為をする者の献血禁止に改めて、女性同性愛の献血禁止令を緩めた。このことは、同性愛者差別をなくし、女性同性愛者の献血を励まし、血液不足を緩和する上で有利である。

同性愛・バイセクシュアル・トランスジェンダーの者の権益を唱えている民間組織の「同語」は、このたびの「献血者健康検査要求」の改正を歓迎する。私たちは、同性愛者という身分に対してではなく、リスクが高い行為に対して規制をした新しい献血政策は、中国社会の同性愛者たちに対する近年の認知の進歩を体現していると考える。

しかし、新しい政策には、なお若干の不十分な点がある。それは、男どうしで性行為をする者(MSM)に対する永久的な禁止令は、依然として性的指向に対する差別である疑いがあることである。

世界には、「男どうしの性行為」に対する献血を禁止、あるいは延期[原文が「拖延」なのでこう訳しましたが、性行為以後、検査でHIVに対する抗体が検出できない時期が終了するまでは献血を禁止するということ]する政策が広く存在している。しかし、そうした政策も、時代や科学技術の変化などの要因によって、たえず変わってきた。

イギリスもかつては男どうしの性行為に対しては、終身、献血を禁止していたけれども、2011年、この規定は改定された。イギリス保健省のサイトの2011年9月の情報によると、「血液・組織及び臓器安全諮問委員会」は、事実にもとづいて審議をして、男どうしの性行為の永久の献血禁止令を12ヶ月の延期政策に改める決定をした。新しい法律の規定は、過去12ヶ月間に男どうしで性行為をした人は、コンドームを使用したか否かにかかわらず、献血を禁止するというものである(3)。オーストラリアでは、男どうしの性行為に対する献血政策は、つとに2000年に永久禁止から1年間の延期政策に変わっている。2004年には、Michael Cainという名の男性同性愛者が、その政策は差別の疑いがあるという理由で、オーストラリア赤十字を裁判所に訴えた。裁判所は最終的には原告の請求を退けたけれども、時代の発展にしたがって献血政策は不断に審議・修正されなければならないことは認めた。この態度は、オーストラリア赤十字によっても採用された。

現在、南アフリカや日本などの国は、男どうしの性行為に対して、6ヶ月の献血延期政策をとっている。これが、世界中で最も短い献血延期の期限である。そして、EU・イタリア・スペインなどの法律には、男どうしの性行為に関する規定はなく、リスクが高い行為をした人の献血を禁止することを強調しているだけである。

男どうしの性行為をした者の献血禁止令は性的指向による差別と関わりがあるので、その禁止令の改正はなお各国で激しく議論されている。その改正方法には主に2つで、第一は、献血禁止期間を短縮することである。第二に、「男どうしの性行為」という言葉をなくして、かわりに「リスクが高い行為」にすることである。各国で状況が異なるために、この政策の変化のプロセスと方法は完全には同じでないけれども、検査技術の進歩とエイズ流行グループの変化にともなって、献血に関連する禁止令も時代とともに進化しなければならない。「同語」は、中国でも、男どうしで性行為をした者に対する終身の献血禁止令が、時代と科学技術の進歩にしたがって、最終的には過去のものになることを期待している。


他にこうした声明を出している同性愛ないしLGBT関係の団体は見当たらなかったのですが(献血それ自体は、同性愛者にとってそれほど切実な要求ではないからかもしれません)、さまざまな差別に反対する活動をしている陸軍さん(北京益仁平センター常務理事)も、新しい政策が女性同性愛者の献血を認めたことについては評価しつつも、男どうしの性行為をするものを排除したことは、「欠陥」であると指摘しています(4)

この件に関しては、「同語」の見解の中にある「第二」の方法をとるのが一番合理的でしょう。男どうしの性行為でも、セイファーセックスをしている人もいますし、男女間の性行為でも、リスクが高い性行為をしている人もいるわけですから……。

(1)我国女同性恋已可献血 有性行为男同仍被禁」新浪網2012年7月10日(来源:金陵晩報)、この記事の翻訳が、「ゲイの献血禁止 レズの献血禁止令解除 新『献血者健康検査要求』実施――中国」萍水園~KIDのKitschなブログ~2012年07月10日、翻訳ではないが、この記事がもとになっていると考えられるのが、「新献血法、女性同性愛者の献血OKに」人民網日本語版2012年7月10日。また、「解禁“女同”献血引议 专家称女同性恋者献血无危害」鳳凰網2012年7月11日(来源:京華時報)もあります。
(2)【同语发布】解读中国献血新国标:女同性恋献血禁令历经14年终获解除,男男性行为规范有待进一步改进」同语发布 2012年7月10日(同语サイト2012年7月11日掲載)。
(3)原文にはここに注はありませんが、その状況がわかる日本語記事として、「同性愛者の男性にも、献血の機会を提供」(Onlineジャーニー2011年9月13日)があります。
(4)专家称禁男同献血操作性低 解禁女同为接轨国际」人民網2012年7月16日(来源:京華時報)。この人民網の記事の出典である「禁男同献血操作性低 解禁女同为接轨国际」(京華網2012年7月14日)をもとにして書かれたのが、「男性同性愛者の献血禁止とその理由=専門家が差別撤廃訴え―中国」レコードチャイナ2012年7月16日です。ただし、レコードチャイナの記事は、「男性同性愛者」と「男どうしで性行為をする者」とを混同しているという点で、原文の記事とも、社会の現実とも異なっています。

[2012年7月18日追記] 2012年7月16日付レコードチャイナの記事の出典が誤っているというご指摘をコメント欄でいただきました。深くお詫びするとともに、記述を訂正させていただき、レコードチャイナの記事についての記述を、注(1)から注(4)に移動させていただきました。
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コメント

いつも貴サイトで勉強させていただいております。

レコードチャイナが参照しているのは以下の記事です。
http://news.jinghua.cn/351/c/201207/14/n3767941.shtml

男男性為者を同性愛者と混同しているというご指摘ありがとうございました。


ご指摘ありがとうございます。

> レコードチャイナが参照しているのは以下の記事です。
> http://news.jinghua.cn/351/c/201207/14/n3767941.shtml

ご指摘ありがとうございました。申し訳ありません、完全に私のミスです。[追記]でお詫びするとともに、本文を訂正させていただきました。

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