2017-07

痴漢を女性の服装のせいにする上海地下鉄の公式微博に対する、ネット内外での女性たちの抗議のうねり

「地下鉄に乗るのにこんな恰好をしたら、痴漢にあわないほうがおかしい」発言に対するネット上の抗議

6月20日、上海地下鉄第二運営有限公司の公式微博(中国版ツイッター)が、「地下鉄に乗るのに、こんな恰好をしたら、痴漢に遭わないほうがおかしい。娘さん、自重してください」という発言とともに、地下鉄のある女性の乗客を後ろから撮影した写真を掲載しました。その女性は、深い青色のワンピースを着ていたのですが、その絹の生地からは、下着とストッキングが透けて見えていました。

翌日以降、「フェミニズムの声(女权之声)」(女性メディアウォッチネットワーク[妇女传媒监测网络]の微博。同ネットワークは、インターネット誌『女声』も刊行している)をはじめとして、多くのネットユーザーが上記の記事に対して抗議の声を上げました。その主な観点は、以下の3点でした。
 1.服装は個人の自由であって、セクハラは権利を侵害する違法行為であり、被害者自身に理由を求めてはならない。
 2.地下鉄の会社は、法にもとづいて乗客の安全を保障すべきであり、被害者のせいにすることは運営機構の法律的責任を回避するものである。
 3.公式の微博は、出所不明で、乗客のプライバシーと名誉を侵犯している疑いがある写真を引用すべきではない(1)

ところが、上海地下鉄第二運営有限公司の公式微博は、上の記事を反省も撤回もしませんでした。むしろ、「善意の忠告であって、謝る必要はない」とか、肌を露出した服装をするのは「恥知らずである」といったことを主張した、他の地下鉄の公式アカウントや地下鉄の従業員の発言を転載しました。

多くの女性は、自らの経験から、「肌を露出した服装が、セクハラを招く」という「常識」に対して反論しました。彼女たちは、未成年者がセクハラの重要な被害者であること、男性もセクハラに遭うことを指摘しました。また、「肌を露出した気の強そうな娘は、地下鉄では痴漢にあまり遭わない。痴漢の多くは、控えめで弱々しく、おとなしそうな娘を狙う」という声も上がりました(2)

また、「もし『女が薄着をすることが男性の犯罪を誘発する』という言論をほおっておくなら、最終的には、女性はみんな、分厚い衣服を着なければ、外出を許されないということになる。正常な社会では、ある人がたとえ裸で大通りを歩いたとしても、警察に通報されることはあっても、彼女を侵犯することは許されない。これは基本的常識だ」という指摘もありました(3)

地下鉄内で抗議のパフォーマンス――理念は「スラットウォーク」と同じ

6月24日には、上海の地下鉄2号線で、2人の女性が抗議のパフォーマンスをおこないました。そのうちの1人は、全身を黒いベールで覆って、「涼しさは欲しいけれど、痴漢はいらない(要清凉不要色狼)」と書いたパネルを持ちました。もう1人は、黒い頭巾をかぶりつつ、乳房の形をした金属の器を2つ胸に付けて、「私はみだら(ふしだら)でもいいが、ハラスメントはしてはならない(我可以骚你不能扰)」と書いたパネルを持ちました。

[アクションのビデオ(初めはコマーシャルが出ます)]
视频: 我可以骚你不能扰

パフォーマンスをおこなった女性に対して、ネットメディア「網易」の記者がインタビューしているのですが(4)、その女性によると、前日に友人が数人集まった時に、今回の問題に対して何かできるのではないかという話になって、抗議活動をしたということで、それほど計画的なものではなかったようです。また、このアクションは「パフォーマンスアート」と呼ばれているのですが、その点に関しては、「それは重要ではなく、ポイントは、私たちが何を伝えるかだと思います」と語っています。また、2人が顔を隠した大きな理由は、「焦点を、2人が誰かということよりも、私たちのスローガンに当てたかった」ということにあるそうです。

また、「私はみだらでもいいが、ハラスメントはしてはならない(我可以骚你不能扰)」というスローガンについて、記者が、「騒(みだら、ふしだら)」という言葉には貶す意味があることをどう思うか尋ねたところ、その女性は、「この言葉は、極端ではあるが、私たちが伝えたい考え方に非常にぴったりで、実は『スラットウォーク(slutwalk 荡妇游行)(*)』の核心とも一致しています。もちろん多くの人は『なぜ非常に極端な言葉を使うのか?』と言うでしょうが、私は、『騒』という語が私たちの理念をまぎれなく伝えていると思います。『騒』は、身体の権利です」と答えています。

(*) スラットウォーク――カナダのトロントで警官が「性被害を避けるために、女性はふしだらな格好をするべきではない」言ったことをきっかけに始まった運動で、性暴力の被害者の落ち度を責める風潮を批判して、被害者の人権を訴えるために、女性たちが露出度の高い服で行進するもの。2011年4月3日にカナダで始まり、イギリス、オーストラリア、韓国などに広がった(5)。今回の事件をめぐっても、彼女たちの行動以前にも、『南方都市報』の微博が、スラットウォークについて紹介していた。

また、彼女は、「とくに我慢できない」意見として、「男性は下半身で思考する動物だから、それに挑戦するべきでない」という意見を挙げ、「これは、非常にごろつきのロジックだ」と言っています。彼女によると、「私たちが子どもの頃からの性の教育の中には、非常にアンバランスがあり、女性に対しては、抑圧することが主であるのに、男性は、ずっと励まされてきた」とのことで、「文化全体」がそうであって、「私たちの教育は、男性にどのように自分の性の衝動をコントロールするかを教えていない」と語っています。

新聞やテレビでも報道、フェミニズムの論説も

2人のパフォーマンス以後、この事件は、新聞やテレビでも報道されるようになり(6)、この事件を論じた各種の論説も登場しました。

論説はけっして女性(被害者)の立場に立ったものばかりではありませんでしたけれど、「最も責任を負うべき加害者をほおっておいて、とくとくと女性の服装について些末な揚げ足を取るのは、被害に遭った女性に対する二次加害にほかならない」(ジャーナリスト・姚景、『新京報』掲載)といったことを説く論説もありました(7)

また、方剛さん(北京林業大学副教授、同大学セクシュアリティとジェンダー研究所所長)は、自分のブログに「上海の地下鉄の抗議は、すばらしい!」というエントリを書きました(8)

方さんは、「中国の以前の社会的唱道には、パフォーマンスアートの方式はあまり見られなかった。けれど、今年は、良い始まりであり、『男性トイレ占拠』、『李陽[=「クレージーイングリッシュ」という英語の学習法の創始者。妻に対するDVが明るみに出た]に抗議する』、今回の『地下鉄のみだらとハラスメント』を含めて、みな非常に良い」と賞賛します。

方さんは、上海地下鉄の微博について、「結果的にはセクハラを励ますものになるかもしれず、少なくとも女性の身体の自主権、服装権を侵犯している」と批判します。方さんは、アメリカでの裁判を紹介しつつ、「もしある人がベンツを運転していたら、あなたは『この車はすごくいいので、私の占有欲を刺激したから、奪った』と言えるのか? もしある人が大きなダイヤモンドの指輪をしていたら、あなたは『これは値打ちがあって、きれいだから、自分を誘惑したので、私はそれを盗んでもいい』と言えるのか?」と問いかけ、「これら問題に対する回答は議論の余地がないことは明らかなのに、なぜ女性が涼しげな服装をしていたら、『誘惑する』かどうかが議論になるのか?」と問うています。

といっても、上のような点は、方さんを待つまでもなく、すでにネットでは指摘されている点です。しかし、下の発言は、方剛さんならではの言い方でしょう。

女が何を着ようと、女自身のことであり、これは、彼女の、身体の美や服装の美に対する理解である。『男の自然な生理的反応』は、あなた自身のことであり、あなたが自分で反応すればよく、自慰をしようが、性的な幻想をしようが、関係がない。けれど、手で触れることは、他人の権益を侵犯することである。


また、李思磐さん(マカオ大学社会学系博士課程院生)は、『東方早報』で、「服装の審査は、女性の空間を攻撃し抑圧する」という論評を発表しました(9)。李さんは、宋山木強姦事件や女性トイレ不足問題の際にもフェミニズムの立場から論陣を張ったジャーナリストですが(本ブログの記事「山木教育グループ総裁・宋山木の強姦事件をめぐる議論」「女子大学生の『男子トイレを占拠する』アクション」参照)、今回も、この問題が広く女性のあり方全体への攻撃・抑圧であることを詳しく論じました。

この[=上海地下鉄]微博の言下の意味は、「自重しない」女の乗客は、セクハラをされてもあたりまえだ、というものである。これはけっして新しい論調ではない(……)これは、男の性欲は、いったん刺激されたら、制約を受けずに、他の人を侵犯するのは合理的結果であり、被害を受けた人は、操行を審査されなければならず、もし彼女が「ふしだらな女」ならば、被害は合理的だ、というものである。

女性に対する服装の審査は、「(その場に)ふさわしい」という名目の下に、少なからぬ支持を得ている。これは、女性の身体のすがた、話し方、立ち居振る舞いに対して、従来、男性の視点から、人々が慣れっこになっていて気づかない審査メカニズムがあったからである。一方では、女性は、「女らしく」なければならず、服装や化粧によって女性としての身体的特徴をできるだけ際立たせて、男たちの目や心を楽しませなければならない。もう一方では、「女らしい」ことは女の原罪であり、男性に常軌を逸した行為をさせる原因になるものであり、女たちは、できるだけ手や足を揃えて、空間を収縮させて、「人を惑わせる」・「放蕩である」ことの境界で、もじもじし、絶えず自己審査をし、さまざまな不便に耐えなければならない。

「放蕩な女」に対する審査と称するものは、実際は女性全体に対するものである。なぜなら、このような審査は、すべての女性を「定義される」状態に置くものだからである。(……)

それゆえ、公共空間の管理者が女たちに対して審査のシグナルを発したときには、女性のネットユーザーは、このような保護を名目にした汚辱を拒絶して、資格審査のない公共空間と女たちの身体に対する主権の尊重を要求したのである。


地下鉄側の痴漢対策についての議論も

具体的な痴漢対策を求める意見も出ました。

たとえば、北京の黄溢智弁護士は、上海の地下鉄を管理している上海市交通運輸局と地下鉄を運営している会社に対して、地下鉄のセクハラ対策についての情報公開を求める申請をしました(10)

また、メディアでも国外の地下鉄の痴漢対策が話題になり、女性専用車両を求める意見なども掲載されています(11)

「インターネット上の最初の大規模な性差別反対のアクション」

『女声』誌は、今回の事件について、「これは、インターネット上の最初の大規模な性差別反対のアクションかもしれず、民間で、自発的に団結し、呼応している。これは、現在起きている、新しいバージョンの女性の権利闘争史である」と述べています。

これまでも、鄧玉嬌事件(本ブログの記事「鄧玉嬌事件をめぐって」参照)のときのように、女性の人権に関する事件をめぐって、インターネット上のうねりが起きたことはありました。しかし、鄧玉嬌事件は、女性の人権という文脈よりも、官僚批判や格差社会に対する批判という文脈で議論した人のほうが、はるかに多かったと思います。女性の権利を正面から訴えるネット上のうねりが起きたのは、たしかに今回が最初だろうと思います。

『女声』誌によると、従来は、インターネット上でも「女性の権利の主張はまだ非常に周縁化されており、微博での活発な公共の話題の中には基本的に女性とジェンダーの影はなかった」が、「初歩的変化は2012年初めに出現した。『男性トイレ占拠』が、女性の権利のアクションが新浪微博の話題になった最初かもしれない。わずか一週間後に新浪はこのキーワードでの検索を阻止したけれども、@女権の声は、唯一の民間の女性の権利のプラットフォームのアカウントとして、しだいに同志を集めた」。そして今回、「ずっと弱くて分散していたネット上のフェミニズムの声は、すでに空前の高さに達し、多くの目覚めた人々がすでに出会った」と評価しています。また、「同時に、オフラインの公の行動も継続しておこなわれた」ことや「マスメディア」の役割も指摘しています。

整理すると、『女声』誌の記述からは、今回の運動は、以下のようなものが結びついて展開したことがわかります。
○ネット上の行動
・@女権の声アカウント
・個人アカウント
・友好的メディアのアカウント(@網易女人など)
○オフラインの行動
・パフォーマンスアート
・マスメディア

ネットの匿名投票では上海地下鉄ブログ支持が約7割だが……

上海地下鉄公式ブログの記事については、すでに6月25日の時点で、微博上で3863件の評論が出され、それらは11923回転載されたとのことです(12)。その中には、上のようにフェミニズムのうねりがありました。

ただし、フェミニズムに無理解な意見も多かったですし、ネット上の匿名投票においては、以下の[1][2]で示すように、上海地下鉄公式ブログを支持する意見の方が多く、約7割だったというのも現実です。

[1]新浪サイトが、上海の地下鉄の微博の記事に対する「削除・謝罪要求」について、次の二者択一の形でアンケートをしたところ、以下のような結果でした(6月30日19時24分現在)(13)
 ・「支持する:削除して謝るべきである。服装は個人の私事であり、地下鉄側が無断で公開することは不適切である」――28.3%。
 ・「反対である:削除や謝罪の必要はない。結局は公共の場であり、地下鉄側が善意で忠告することは間違っていない」――71.7%。

[2]新浪微博が、「地下鉄の公式ブログが夏の服装は露出的にしないように呼びかけたこと」について、次の二者択一の形でアンケートをしたところ、以下の結果でした(6月30日現在)(14)
 ・「服装の露出は個人の自由であり、他人が干渉すべきではない」――16273人(31.2%)
 ・「女性の夏の服装は自分を保護する意識を持つべきであり、差別とは無関係である」――35920人(68.8%)

上のアンケートについては、設問のし方に批判が出ていて、ある女性は、[2]のアンケートに対して、「自分の主張は『女性には服装の自由があるべきであり、女性が何を着ていても、セクハラをされるべきではない』というものである」(15)と述べて、自分たちの主張を的確に伝えていないことを批判しています。

こうした設問のし方の問題を含めて、ネット社会はやはり男性社会であるということも露呈したわけです。

ただ、ネットが男社会であることはもちろん日本も同じことで、日本のyahooの匿名の投票あたりだと、もっとアンチフェミニズム的な結果になりそうです。こうした壁を乗り越えることは、日中共通の課題だろうと思います。

(1)以上は、「专题 拒绝“自重”——微博引爆反骚扰辩论(word)」『女声』第116期(2012.6.18—6.25)より。今回の事件については、『女声』の微博が先導的な役割を果たしているだけに、同誌のこの特集が最もまとまっています。本ブログのこの記事も、とくに注記のない部分をはじめとして、この特集に頼っている面が大きいです。
(2)この論点に関しては、Fz「我可以骚,你就能扰?」(東西網)が、これまでの研究をまとめて、以下のように結論付けています。「セクシーであることとセクハラとはあまり関係がない。人々の認識とは逆に、セクシーな服装をすればするほど、セクハラには遭いにくい。なぜなら、セクシーな服装は、女性意識が目覚めた後の自信の体現である面が大きいのに対して、痴漢が探す対象は、往々にして従順で軟弱な女性だからである。セクハラの成因は権力のアンバランスであり、両性の社会的地位が不平等であれば、セクハラを根絶することはできない」
(3)上海地铁请女性自重遭抗议:我可以骚你不能扰」中国新聞網2012年6月25日(来源:CCTV)。
(4)当時人NO.35对话“要骚不骚扰”抗议者」網易新聞。
(5)スラット・ウォーク(SlutWalk):フェミニズムの新しい形」壺齋閑話2011年6月 7日、「スラットウォークロンドン~女性に対する暴力に反対し、性犯罪の被害者の人権擁護を訴えるデモ」2011年6月11日、「英で下着姿の女性らデモ行進 『性犯罪服装のせい』に抗議」共同通信2011年6月13日、「スラット・ウォーク(あばずれの行進)の様子画像集」(NAVERまとめ)など参照。
(6)上海地铁微博称"女生穿太少不被骚扰才怪"引热议」中国新聞網2012年6月26日(来源:法制日報)など。網易女人サイトは、スラットウォークの写真の特集もしました(「荡妇游行:以欢乐反抗污名」網易女人2012年6月26日)。CNNやTHE CHINA PRESS(侨报)も報道しました(「外媒:地铁提醒女性着装防色狼引争议背后」中国新聞網2012年6月27日、「『不適切な服装が痴漢を招く』 地下鉄会社の投稿に非難集中 上海 」CNN2012年6月27日)。日本でも、「『露出多い服だと痴漢に遭いますよ』、地下鉄側の忠告に女性側『何を着ようと勝手』と猛反発―上海市」レコードチャイナ2012年6月25日、「中国、『痴漢防止』呼びかけ写真で騒動」TBSニュース2012年6月27日などの報道がありました。
(7)姚景「地铁公司能指责女乘客着装?」『新京報』2012年6月26日。
(8)方剛「上海地铁抗议,好!」方剛的博客2012年6月25日。
(9)李思磐「着装审查打压女性空间」『東方早報』2012年6月25日。
(10)北京律师申请公开上海地铁防治性骚扰措施」法制網2012年6月26日。
(11)看看国外地铁如何防止性骚扰」東方網2012年6月27日、「多国出狠招治理地铁性骚扰 东京地铁推女性专列」中国新聞網2012年6月27日(来源:広州日報)、「应对地铁性骚扰只有设立女性专用车厢」騰訊新聞2012年6月26日(来源:法制晩報)。
(12)专家称地铁呼吁女性着装自重不应止于提醒」央视《新闻1+1》2012年6月26日。
(13)(新浪調査)「上海地铁请女性“自重” 你怎么看?」新浪網。ただ、6月27日時点では、26.9%:73.1%だったので、ここ3日間で、「支持」の比率が1.4%伸びているなどの微妙な変化はあります。もっとも、下の[2]の「服装の露出は個人の自由であり~」の比率は0.04%しか伸びておらず、ほとんど同じです。
(14)官博呼吁着装自重引抗议―你怎么看着地铁官博呼吁夏日着装勿暴露?」新浪微博。
(15)专题 拒绝“自重”——微博引爆反骚扰辩论(word)」『女声』第116期(2012.6.18—6.25)。

[2012年10月24日追記]文中の脱字を修正し、語句の微細な修正(標語→スローガン)をおこないました。
[2012年12月25日追記]ビデオがリンク切れになったので、別のものに変更しました。
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