2017-08

李斌さんが安徽省の省長に――女性の省長(自治区主席)はやっと4人目、女性の政治的地位の低さが議論に

少し以前の話になりますが、今年2月15日、安徽省の第11期人民代表大会第5回会議で、李斌さんが安徽省の省長に当選しました。李斌さんは、中国で4人目の女性の省長(自治区主席を含む)です(1)

といっても、すでに昨年12月に、中国共産党の安徽省委員会の常務委員会拡大会議で、「中国共産党中央委員会が『李斌を中国共産党の安徽省委員会の委員・副書記・常務委員にするとともに、安徽省の省長の候補者にする』と決定した」(中国共産党中央委員会「安徽省政府の主要な指導的同志の職務の調整に関する決定」)ということが発表されています(2)

もちろん、その中国共産党の中央委員会の決定の中にも、「省長の職務の任免は、関係する法律の規定によって取り決める必要がある」とありますし、安徽省の人民代表大会では「無記名投票の方式」で李斌さんを省長にしたとのことです。しかし、対立候補が出たわけでもないようですし、李斌さんを安徽省省長にすることは、実質的には、中国共産党中央委員会が決めたと言ってもいいと思います。

また、李斌さんは、省長にはなりましたが、中国共産党の安徽省委員会では「副書記」であり、トップ(書記)は別人なのですから、上のように共産党主導でものごとが決まる中国においては、必ずしも省のトップとは言い難いのではないでしょうか?

それはともかく、中国でこれまで誕生した女性の省長(自治区主席を含む)は、以下のとおりです。
・顧秀蓮 江蘇省省長(1983年4月─1989年4月)
・烏雲其木格(Uyunqing) 内モンゴル自治区主席(2001年2月―2003年4月)
・宋秀岩 青海省省長(2005年1月─2010年1月)
・李斌 安徽省省長(2012年2月―)

中国には省・自治区・直轄市が合計30ほどありますが、中国では同一の時期に2人以上の女性省長が誕生したことはないので、中国の女性省長の比率は、1980年代以後(も)、ずっと3%かゼロだったことになります。

(なお、日本の場合は、女性知事が誕生したのは非常に遅く、2000年2月に太田房江さんが大阪府知事になったのが最初ですが、現在は、高橋はるみ・北海道知事、嘉田由紀子・滋賀県知事、吉村美栄子・山形県知事の3人が在任しているので、全国の知事の約6%が女性知事だと言えます。)

今年の国際女性デー(3月8日)から5月にかけて、上述のように女性省長が少ないことをはじめとした、中国の女性の政治参加の遅れ(ないし後退)が話題になりました(3)

今回中国で話題になったことの多くは、既にこのブログでも取り上げたことがあるのですが、今まで述べたことの単なる繰り返しにならないように、以下、「今回どのようなことが指摘されたか」をご紹介したいと思います。

全国人民代表大会[全人代]の代表――女性比率の停滞と国際的順位の低下(4)

全国人民代表大会[全人代]の代表(一般的な言い方をすれば、「議会の議員」)の女性比率(21.3%)は、世界の平均(下院または衆議院は19.0%、上院または参議院は17.8%)よりはやや高い。しかし、1995年の北京での世界女性会議以後、世界各国で女性議員の比率が大きく伸びたにもかかわらず、中国では伸びていないために(中国での歴史的変化については、本ブログの記事「全人代の女性代表の比率、21.3%にとどまる」参照)、以下のように、世界の中での中国の順位は、急速に低下している。
○1997年
・女性議員の比率が30%以上の国―5ヵ国(スウェーデン、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、オランダ)。
・中国の全人代の代表の女性比率―21%(世界で16位)。
○2000年
・女性議員の比率30%以上の国―8ヵ国(上記5ヵ国とアイスランド、ドイツ、南アフリカ)
・中国の全人代の代表の女性比率―21.8%(世界で22位)。
○2005年
・女性議員の比率30%以上の国―17ヵ国
・中国の全人代の代表の女性比率―20.2%(世界で38位)。
○2010年1月末
・女性議員の比率30%以上の国―26ヵ国(ルワンダ、スウェーデン、南アフリカ、キューバ、アイスランド、オランダ、フィンランド、ノルウェー、モザンビーク、アンゴラ、アルゼンチン、ベルギー、デンマーク、コスタリカ、スペイン、アンドラ、ニュージーランド、ネパール、ドイツ、マケドニア、エクアドル、白ロシア、ウガンダ、ブルンジ、タンザニア、ガイアナ)……欧州だけでなく、アフリカ、南米、オセアニアの国々も含まれている(5)
・中国の全人代の代表の女性比率―21.3%(世界で55位)。

(日本は、ここ20年ほどの間に増加したとはいえ、衆議院では11.3%で世界121位、参議院でも18.2%です(6))

女性閣僚の少なさ

2010年1月の時点で、女性閣僚の比率は、47ヵ国で25%を超えており、世界一のフィンランドは63.2%だが、中国では、26の部(日本で言う省)のうち、女性の部長は3人(11%)だけであり、世界で61位にすぎない(7)

(日本の女性閣僚は、ここのところ、2人程度のことが多かったですが、現在は小宮山洋子さんお1人です。)

女性幹部の比率は増大しているが、正職は少なく「女性領域」の仕事が多い

2009年時点で、行政の女性幹部は、省・部クラス以上の女性幹部は11%、地・庁クラスの女性幹部は13.7%、県・処クラスの女性幹部は16.6%だそうです。2000年には、それぞれ、8%、10.8%、15.1%だったそうですから、全体として伸びています。

ただし、女性の場合は、正職(○○長)が少なく、副職(副○○長)が多いということが以前から指摘されています。女性幹部には、「副職昇進」という現象があるそうで、たとえば、何魯麗さんの場合は、北京市西城区区長→北京市市長→全国政治協商会議主席→全国人民代表大会常務委員会委員長というルートで昇進したということです。つまり、一度も「トップ」には立たないまま昇進しています。

また、女性の場合、教育・科学・文化・衛生といった領域を担当する場合が多く、政治・経済・法律といった「重要」領域を担当する場合が少ないという問題もあります(8)。とくに女性の場合は、計画出産の仕事を担当する例が目立ちます。今回安徽省の省長になった李斌さんも、2007年に国家人口計画生育委員会の「党グループの書記」かつ「副主任」になり、翌2008年には「主任」になっており、計画生育の最高責任者でした(9)

あるいはまた、女性幹部には、以下の1~4の「四多四少」という現象があるとも指摘されています。
 1.「低いクラスの指導者が多く、高いクラスの指導者が少ない」
 2.「補助的なポストが多く、重要なポストが少ない」――行政実務のポストは、女性の31.2%、男性は23.2%。サービス業務のポストは、女性12.5%、男性8.2%。指導管理のポストは、女性22.0%、男性30.4%。専門技術ポストは、女性29.4%、男性35.0%。
 3.「名目だけのポストが多く、実際に職務のあるポストが少ない」――名目だけのポストを担当している女性は21.5%、男性は19.3%。実際に職務のあるポストを担当している女性は57.3%、男性は62.9%。
 4.「本職が多く、兼職が少ない」――人民代表にもなっているのは、女性は0.8%で、男性は1.1%、政治協商会議の委員になっているのは、女性1.0%、男性3.3%、党支部書記・支部委員、工会主席、職員労働者代表会議委员などの兼職も、女性の比率は、男性より明らかに低い(10)

中国共産党の指導部の女性比率の低さ

最初に李斌さんの安徽省省長就任について述べた個所で触れたように、中国の場合、議会の議員や行政の長・幹部よりも、むしろ共産党の幹部が重要な面があると思います。なぜなら、人民代表大会の審議はまだまだ形式的な面が強いですし、地方の各省も「地方自治体」ではないからです。

しかし、中国共産党の「中央委員」の女性比率は6.4%で、ここ30年ほどは、5~6%程度で低迷しています。その上の「中央政治局員」は20名以上いるのに女性は1人だけ(11)、さらにその上の「中央政治局常務委員」には、いまだかつて女性が就任したことはありません(歴史的変化などは、本ブログの記事「中国共産党指導部の女性比率」参照)。

今秋の中国共産党大会で、劉延東・中央政治局員が、女性初の中央政治局常務委員になると予想されているようですし(ウォール・ストリート・ジャーナルの記事にもそうあります)、上で述べたように女性幹部は増加傾向にあるのですから、その意味では、女性パワーが発揮されつつ面もあるのかもしれません。

しかし、全体としてみると、中国では、女性の政治参加は、世界の趨勢に比べて、ほんとうに伸び悩んでいると言わざるをえません。この点は、やはり女性運動の自律的発展を含めた、民主主義の発展が抑えつけられていることと関係しているのだろうと思います。

(1)李斌当选安徽省省长 系该省首位女省长」中国新聞網2012年2月15日。
(2)李斌任安徽省委委员、常委、副书记 王三运不再担任」中国共産党新聞網2011年12月11日(来源:安徽日報)。
(3)中国妇女参政不进则退 史上仅产生过4位女省长」中国新聞網2012年4月20日、「中国女官员“橄榄形”格局待解」新京報2012年3月8日、杜洁「妇女参政——老议题,新挑战」中国妇女研究网2012年3月8日など。このほか、ウォール・ストリート・ジャーナルが、シンガポール大学などが作成した“Rising to the Top: A Report on Women's Leadership in Asia [PDF]”という報告をもとに、中国の女性の地位が低下していることを指摘した記事を掲載し(“Women Lose Ground Gained Under MaoThe Wall Street Journal April 23, 2012)、その中国語版(「中国女性领导比例下滑」华尔街日报中文版2012年4月23日)や抄訳(「看不见的天花板:中国女性领导比例下滑」網易新聞中心2012年5月2日)がネットにも掲載されています。
(4)(3)の3つの記事や論文がともに指摘していますが、それらが依拠しているのは、全国婦連婦女研究所編『研究信息简报』2011年第3期(总第116期)の「2010年国际妇女参政主要状况」特集です。
(5)「欧州だけでなく、アフリカ、南米、オセアニアの国々も含まれている」ことを『研究信息简报』自体が指摘しており、その点が中国にとってもインパクトになったのだろうと想像されますが、発展途上国の場合、さまざまな特殊な要因が絡んでいることは間違いありません。たとえば、1位のルワンダは、女性議員が多い背景として、ジェノサイドで男性が大量に死亡したことが挙げられます。しかし、それだけでなく、やはり女性運動の力もあったようで(「世界で最も女性議員が多い国ルワンダ」FEM-NEWS)、女性議員比率が増大したことを、単に「特殊事情」扱いして済ませるわけにはいきません。
(6)国会議員の女性比率、日本は11%、121位」asahi.com2011年6月21日。
(7)杜洁「妇女参政——老议题,新挑战」中国妇女研究网2012年3月8日も触れていますが、依拠しているのは全国婦連婦女研究所編『研究信息简报』2011年第3期(总第116期)の「2010年国际妇女参政主要状况」特集です。
(8)以上は、「中国女官员“橄榄形”格局待解」新京報2012年3月8日。
(9)省委副书记、省长 李斌」安徽省サイト。
(10)杜洁「妇女参政——老议题,新挑战」中国妇女研究网2012年3月8日。詳しくは、「机关女干部成长调查报告」『中国婦女報』2011年7月26 日。
(11)この件に関しては、「中国女官员“橄榄形”格局待解」新京報2012年3月8日、「中国女性领导比例下滑」华尔街日报中文版2012年4月23日が触れています。
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