2017-03

学校における性的指向などによるいじめに関する調査

5月17日は、国際反ホモフォビア・トランスフォビア・デー(International Day Against Homophobia & Ttansphobia, IDAHO)(Wikipediaの説明)でしたが、この日を前にした5月14日、中国大陸初の、学校でのホモフォビア・トランスフォビアについての調査結果が発表されました。

この調査をおこなったのは、「愛白文化教育センター(爱白文化教育中心)」と「北京LGBTセンター(北京同志中心)」と「広州『同城』コミュニティー(広州“同城”社区)」という3つのLGBTのための民間団体です。今年4月から5月にかけて、性的指向やジェンダー身分による学校でのいじめについて、インターネットをつうじてオンライン調査をおこないました(1)

調査結果(2)

この調査では、421名の初級中学(日本で言う中学)、高級中学(日本で言う高校)、大学、職業中学の学生から回答を得ました。回答者の4/5近くは、同性愛者かバイセクシュアルでした(「性別」としては、男性50%、女性47%、トランスジェンダー1.4%、不明1.2%)。

回答内容は、以下のようでした。

性的指向やジェンダーによって学校で何らかのいじめにあったことがある―77%
・言語による攻撃(あだ名、嘲笑、悪意のからかいなど)にあった―44%
・身体に対する攻撃(殴る蹴る、平手打ち、押したり足を引っかけたりして倒される、髪の毛を引っ張られる) にあった―10%
・同級生か先生にセクハラされた(服を脱がされる、秘部を触られる、裸の写真を撮られる)―7.6%

学校でのいじめによって、学業上マイナスの影響があった―59%
・退学に追い込まれた―3%
心理的・精神的にマイナスの影響があった―63%
・憂鬱になった―42%、・憤怒、報復を考える―26%、・不眠―19%、・長い間おじけ恐れる状態―16%
身体的に軽傷・重傷を負った―5%
大酒を飲んだ、自傷した、自殺を試みた、感情の抑圧によって見知らぬ人と性行為をした―26%

いじめにあったとき、他の人のサポートを求めたことがある―33%
 そのうちの72%―関係が良い同年齢の人に助けを求めた

性的指向とジェンダー身分によるいじめをなくすためにやるべきこと(3つ選択、上位から)
・大衆的メディアが宣伝・提唱して反対する―76%
・国家の政策を改善して明確に禁止する―60%
・学校で関連するカリキュラムを開設する―44%
・学校にサポートグループを設立して、いじめに関心を寄せ、被害者をサポートする―43%

いじめの具体的な事例

この調査結果は、中国国内のマスコミでは、『南方都市報』が報じましたが(新浪網なども転載した)(3)、同紙は、学校内のいじめの実例として、以下の2人の方のお話を掲載しています。

○冰封さん(ゲイ)の場合

高校のときから寄宿舎住まいを始めた冰封さんは、学級委員長をつとめていたのですが、彼がゲイであることがわかったら、「変態、人妖、女みたいだ」と罵られるようになりました。それでも、冰封さんはみんなに認められようと努力したのですが、誰も彼の言うことを聞かなくなり、寄宿舎に帰ったら、机の上に「変態、ゴミ」といった文字がびっしりと書いてあったこともありました。

合唱コンクールの前の音楽の授業のとき、冰封さんはステージの上からみんなをまとめようとしたのですが、例によって、誰も言うことを聞きません。先生が来て、「このクラスは、男子が何人で、女子が何人なのか?」と尋ねると、ある男子生徒が「僕たちのクラスには、男子が22.5人と、女子が22.5人います」と答え、クラス全員がどっと笑いました。冰封さんは教室を出ると、グラウンドで号泣しました。その後は、彼はもうクラスの仕事をしなくなり、みんなに溶け込もうという努力もしなくなりました。

冰封さんは、当時は、人生には希望がないように感じ、高校3年になっても、大学に進学する気持ちにはなれませんでした。

○杉杉さん(レズビアン)の場合

杉杉さんは、今年大学を卒業したばかりの女性ですが、高校のとき、ガールフレンドへの手紙が見つかったので、家族に自分の性的指向をカミングアウトせざるをえなくなりました。それから4年間の同居期間中、杉杉さんの母親は、1週間に何度も彼女を殴るようになりました。机の上の電気スタンドで頭を殴ったために、杉杉さんに傷跡が残ったこともありました。

杉杉さんの母親は衛生学校の先生だったのに、「同性愛は病気だ」と思い込んで、彼女を精神病院に連れて行って、医者に診せました。医者も、母親の話を聞いて「性的指向を変える」薬を出したので、杉杉さんは怒って医者と口論をしたため、「同性愛の治療」からは逃げ出すことができました(中国でも、2001年には「同性愛」は、「精神障害分類と診断標準」から削除されて、病気とはみなされなくなったはずなのですが、実態としては、こうしたこともあるようです)。

けれども、家族は杉杉さんを監視するために、彼女の性的指向やガールフレンドとの交際を多くの先生に知らせたため、彼女のプライバシーは誰もが知るところとなりました。

その後、杉杉さんは、学校でさまざまな事実無根の噂を立てられ、同級生たちは、彼女が堪えられないような嘲弄とまなざしを浴びせました。杉杉さんは、男子生徒に、ガールフレンドが送ってきた写真を破かれ、便所に捨てられたこともありました。

杉杉さんは、以前は明朗な女子生徒だったのですが、同級生と話をしなくなり、ときには授業をさぼるようになりました。大学入試の数日前にも、母親は、杉杉さんとガールフレンドが連絡を取っているのを知って、刃物を持ち出して「死ね」と言い、もみ合ってるときに、杉杉さんは人差し指の動脈を切ってしまい、入試は失敗しました。

杉杉さんは復学しましたが、以前の同級生に「杉杉さんは、よく女子トイレに行って、盗撮をしている」というデマを流されました。杉杉さんは、全世界が彼女に背を向けたように感じ、どうしたら死ねるかを毎日考えるようになり、飛び降り自殺をしようとして止められました。その後も、いつもナイフで手の指を切るようになりました。

大学入学後は、同級生たちの思想が比較的開放的だったので、クラスの中でカミングアウトでき、同級生たちのとの関係も正常で、少しずつ暮らしやすくなりました。今は、できれば同性愛の団体に入って、現状を変えるために何かしたいと思っています。

大学ではLGBTのための団体が設立され始めているが……

2006年10月、中山大学に大陸初のLGBTのための正式の学生団体である「レインボー社(彩虹社)」が設立されましたが(本ブログの記事「同性愛者などの人権のための初の正式の学生団体」)、圧力がかかって、翌年には活動を停止しました。

といっても、必ずしも大学などに公認された正式の団体ではないようですが、2006年には、今回の調査をおこなったLGBTQの青年・学生のための「広州『同城』コミュニティー(広州“同城”社区)」や福建師範大学の「同心社」も設立されており、2009年には中国青年政治学院の「愛知社」が設立されました。2005年に設立された復旦大学の「知和社」は、ジェンダー全般に取り組んでいますが、LGBTに重点を置いているようです(4)

これらの学生の団体は、ミーティングや講座をはじめとしてさまざまな活動をしており(そうした活動については今度またご報告したいと思います)、大学では、少なくとも場所によっては、ある程度開放的な雰囲気もあるようです。

難しい中学・高校でのLGBTに関する教育、教師の研修に活路を見出す

しかしながら、広州「同城」コミュニティの責任者の豆豆さんは、「大学4年生でも、同性愛を理解していない人はまだ大勢います。まして高校や職業学校、インターネットを頻繁に使っていない中小都市や農村では、学校でのホモフォビアの状況はさらに深刻です。NGOなどのリソースを送り込むことも非常に難しいのです」と語っています。

愛白文化教育センターや広州「同城」コミュニティは、かつて北京と広州の高校で、研修や講座、サロンをやろうとしたこともあるそうですが、「大学に比べても、中学・高校で性教育を推進するのはまだ難しい」と「愛白」の責任者の江暉さんは語ります。数年前、江さんたちがボランティアの学生に活動ポスターを中学や高校の学校の中に張ってもらったところ、学校側が発見して、張った者を調査して処罰するように求めたそうです。

そうしたことがあったので、「愛白」は、その後は、高校の教師の研修のほうに力を入れるようになりました。たとえば、国家計画出産委員会の下級機関である「青リンゴの家」と協力して、中学・高校で性教育をしている先生や師範大学の学生の研修をしたそうです。また、今年8月からは、「愛白」と「同城」と北京LGBTセンターは、ユネスコと協力して、雲南で高校の先生の研修を始めるといいます(5)

もちろん日本でも深刻な問題

円山てのるさんが「日本での同性愛者の自殺予防対策の現状」(g-lad xx)で述べておられるように、最近、アメリカでゲイの少年の自殺が社会問題として報道されて注目を集めました。日本ではまだ社会問題として報道されていないものの、すでに「REACH Online 2005」という調査などで、セクシュアルマイノリティのいじめ被害や自殺未遂が多いことが明らかになっています。

円山さんも紹介しておられることですが、「REACH Online 2005」によると、ゲイ・バイセクシュアル男性の54.5%は、学校教育現場で「ホモ、おかま」などの言葉による暴力被害を受けたことがあり(3-4「いじめ被害、避難場としての保健室、性被害」)、65%はこれまでに自殺を考えたことがあり、15%前後は実際に自殺未遂の経験があった(3-5「心の健康状態―抑うつ、自尊感情―、自殺を考えたこと」)とのことです。また、「わが国における若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究」でも、「セクシュアルマイノリティの自殺未遂率は異性愛者の約6倍に相当する」という結果が出ているといいます。

今回の愛白文化教育センターや広州「同城」コミュニティーによる調査は、中国でも同様の問題があることを明らかにしたと言えます。『南方都市報』に掲載されていた具体的な事例はひどいものですが、日本でも自殺に追い込まれる方が少なくないということは、その背景には驚くような実態がたくさんあることを意味しているのだろうな、と思います。

(1)調査票は「基于性取向、性别身份校园欺凌行为在线调查」愛白網、調査を始める際の呼びかけは、「【MY Action】同城&爱白 全国基于性取向、性别身份校园欺凌行为在线调查」"朋友公益"同城社区ブログ2012年4月18日。
(2)中国校园恐同调查发布 多数学生曾遭欺凌」愛白網2012年5月14日、「【MY News】同城与爱白的中国校园恐同调查数据在京发布」"朋友公益"同城社区ブログ2012年5月19日、「校园同性恋生存现实 社团力量能否抵挡欺凌泛滥?」『南方都市報』2012年5月23日、「调查显示:大陆校园内因性倾向遭欺凌现象堪忧」歐洲時報2012年5月14日。
(3)校园同性恋生存现实 社团力量能否抵挡欺凌泛滥?」『南方都市報』2012年5月23日。大陸以外ではマカオ日報が報じ(「內地校園性向欺凌普遍」澳門日報2012年5月15日)、Gay Star Newsも報じています(“Over three-quarters of Chinese gay students bullied at school”Gay Star News2012.5.17)。
(4)その他、たとえば、北京大学でも、CGSA-College Gay Student Allianceという団体が2004年に設立されて、北京大学への登録は批准されなかったものの、活動を続けていたそうですが、2006年には活動を停止したそうです(江晖「校园环境下LGBT学生的生存状态和活动空间」童戈・何晓培・郭雅琦・毛燕凌・郭晓飞合編『中国“同志”人群生态报告(一)』北京纪安德咨询中心 2008年 p.295-296)。
(5)以上は、「校园同性恋生存现实 社团力量能否抵挡欺凌泛滥?」『南方都市報』2012年5月23日。
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