2017-08

農村に残された「留守女性」(1)

 今回は、最近少しずつ問題になりだした、夫が都市に出稼ぎに行って農村に残された女性=「留守女性」の問題についてまとめてみました。その第1回目です。

一、農民労働者の背後に埋もれた「留守女性」の問題

 農民の女性は、農民に対する差別と女性に対する差別という二重の差別を受けています。
 その具体的現れの一つは、前々回述べたように都市に出稼ぎに出た農民労働者の中でも女性は差別されているということですが、もう一つがこの「留守女性」の問題です。

 都市に出稼ぎに行った農民は、都市の中では差別されますが、それでも農村にいるよりは多くの金を稼ぐことができます。ですから女性も、未婚のうちは多くの人が都市に出稼ぎに行くのですが、結婚すると、子どもや家族のことがあるため農村に残らざるをえなくなる場合が多くなります。
 すなわち、「もし農民労働者の権益の焦点が、農民労働者が都市社会で受ける不公正な待遇であると言うならば、留守女性の受けている不公正は二重である。彼女たちは二元的な都市と農村の分割体系の下で大きな差別をされているだけでなく、農村の家庭の一方として男性の農民労働者の背後に埋もれている」(南京大学社会学教授・張玉林)というわけです。

 上海理工大学社会学教授の王波さんは「農民労働者の権益の問題はいまだかつてなく取り上げられているのに、留守女性の直面している巨大な圧力と困難はまだふさわしい関心を寄せられていない」と指摘しています(1)

二、留守女性の基本的情況

 「留守女性」は、全国で四千万人から五千万人に達すると言われます(1)

 2006年8月に徐州市の婦連が調査したところ、「留守女性」は、年齢的には31~45歳に比較的集中していました。
 夫が出稼ぎに行っている期間は、85%が1~5年、最も長い人では20年だったといいます。
 夫が家に帰ってくるのは、86%の人が「毎年1,2回」でした(2)

三、留守女性の困難

1.農作業と老人、子どもの三重負担

 上の徐州市の婦連の調査では、「家事と農作業は誰がやっているか」という質問に、100%、すなわち留守女性の全員が「自分」と答えました。
 南寧市婦連が2006年におこなった調査でも、80%の人は田畑の管理をしなければならず、77%の人は子どもの面倒をみなければならず、62%の人は老人の面倒を見なければならないとのことです(3)

a.農作業
 『中国経済週刊』の記者が「留守女性」を取材したところ、「労働力が足りない」「一人では忙しくて、手が回らない」「夫が早く金を稼いで帰ってきてほしい」という声が最も多く聞かれたといいます。
 なんといっても農作業は多くて重い肉体労働、疲れ果てます。
 また女性は技術教育を受けていないので、技術的労働も不得手です。たとえば、ある女性は農薬中毒になって「必死で水を飲む」こともあるとのこと。
 体が良くない女性にとっては、ぶつかる困難はいっそう大きい。たとえば、ある女性は一人で五頭の牛を飼っているため、毎日草を刈って餌をやらねばならず、疲労のために腰椎間板突出になりました。本来は手術が必要なのに、金がないために手術を受けられないといいます。薬代だけでも負担であり、夫はいないのに自分は病気で、気がもめてたまらないとのことです(1)

b.子どもの教育、しつけ
 農作業だけでも大変ですから、子どもの教育までなかなか手が回りません。
 一人だけでは、子どもをしつけることもままなりません。ある教師は、夫が出稼ぎの家では、勉強せずに外でぶらぶらしている子どもが比較的多いと述べています(1)
 また、農村の女性はあまり教育を受けさせてもらっていないために、子どもの教育も十分できない場合も多いようです。
 南寧市の婦連の調査では、「留守女性」の学歴は初級中学(日本の中学校)が58%、小学校が33%でした(3)。ある女性は「子どもに『母さんは字を知らないのに、何がわかるの』と言い返されて、とても辛い」と述べています(2)

c.親の世話、介護
 さらに「留守女性」には通常、世話をしなければならない老いた父母が一人か二人います。介護が必要だと大変です(1)

 要するに、女性は農業生産の主力軍になっているのに、農業労働のほかに伝統的な家庭役割を担わなければならないため、労働の強度も増し、労働時間も長くなるということです(1)
 『中国婦女報』の記者の調査では、「労働の負担が重く、体の具合が良くない」と答えた人が約75%を占めたといいます(2)

2.夫との関係:夫が愛人をつくる、離婚。

 夫が、華やかな都会で女性を作る場合もあります。豊県という県の婦連の調査では、「あなたは一番夫の何を心配していますか」という問いに対して、少なくない人が「愛人を作ること」と答えました。『中国婦女報』の記者の調査では、それが心配で夫と一緒に都会で働きたい女性が多くいるとのことです(2)
 もちろん出稼ぎの労働者の経済状態は良くないですし、そんな心配はせず、夫の健康と安全だけが心配だという妻もいます。
 ただ、交流が少なくて感情が疎遠になりがちであること、離婚事件が多く発生していることは確かです。

 また離婚する場合、離れて暮らしている夫の収入の状況がわからないために、夫に「貯蓄はない」などと言い張られて、財産分与が受けられないなど、女性の権利が十分守れないことも多いです(3)(4)

3.犯罪、とくに性犯罪の標的に

 村に残されたのは、女性と子ども、老人だけなので、治安・防犯の力が低下し、泥棒も増えています(1)

 「留守女性」はすでに農村の強姦事件の主な対象になっています。ある調査によると、農村の性侵害事件の被害者の70%は「留守女性」です。
 そうした事件の加害者はみな、夫が出稼ぎに行っていることを知っている同じ村の村民であり、隣り近所の者もいるとのことです。加害者の多くは犯行を繰り返しますが、被害者は強姦されたことで面子を失ったり、他人の噂になったりすることを恐れ、また家族の理解が得られないために事件を届け出られないといいます。
 『中国婦女報』の記者が取材した、ほとんどすべての「留守女性」はぐっすり眠ることもできないと言ったいいます。ある女性は、暑い日でも夕飯後に涼みに出ることもできず、夜は犬の声や人の足音にも身震いするとのことです(2)

4.精神生活

 南寧市婦連の調査によると、40%の女性にとって最大の娯楽はテレビを見ることで、他の娯楽は、市(いち)に行ったり世間話をしたりすることくらいだということです(3)

 「留守女性」はこのように、さまざまな面で困難な状況に置かれています。
 次の「農村に残された『留守女性』(2)」では、「留守女性」とジェンダーや性別分業との関係、「留守女性」問題に関する婦連の対策などについて述べたいと思います。

(1)張俊才・張倩「5000万“留守村婦”非正常生存調査」『中国経済週刊』2006年40期。
(2)邢志剛・李昭先「“留守婦女”生存状況堪憂」『中国婦女報』2006年12月5日。
(3)「南寧“留守婦女”生存状況堪憂」『中国婦女報』2006年8月26日。
(4)紹雨・会東・陸峰「関注農村“留守婦女”婚姻危機」『新華日報』2005年9月8日。
他に「走進農村留守婦女的現実生活 心頭的“三座山”」『半月談』(2005年11月10日)「“留守婦女”酸辣苦渋」(2006年11月7日)西部女性HPも参照してください。
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