2017-04

女性HIV感染者のリプロダクティブヘルスに関するニーズ調査

 中華人民共和国衛生部・国連エイズ合同計画・WHOが作成した文書によると、中国で生存中のエイズウィルス(HIV)感染者とエイズ患者は、2011年末で78万人であり、そのうち28.6%が女性だと見積もられています(中华人民共和国卫生部 联合国艾滋病规划署 世界卫生组织「2011 年中国艾滋病疫情估计[PDF]」2011年11月)(1)

 中国におけるジェンダー視点によるエイズ研究は、1995年の北京での世界女性会議以後(とくに21世紀になって以後)、始まりました。もちろんその中には男性同性愛者のエイズに関する研究もありますけれど、女/男に焦点を当てた研究としては、これまでに、単行本としては、龍秋霞『红丝带的思索[レッドリボンの思索]』(広東科技出版社 2003年)や張翠娥『差异与平等―艾滋病患者的社会性別研究[差異と平等―エイズ患者のジェンダー研究]』(社会科学文献出版社 2009年)が出版されています。いずれも、インタビューやアンケート調査などをもとにした実証的な著作です。

 龍秋霞『红丝带的思索』は、ユニフェム(UNIFEM)とユニセフ(UNICEF)の援助を受けて広東省女性研究センターが2002年から2003年にかけておこなった「ジェンダーとHIV/AIDS防止」研究プロジェクトの成果をまとめたものです。この本は、私は未読ですが、男女両性のエイズに対する認識・行為・態度の差異にもとづいて、エイズが流行している状況やエイズ流行の原因についてのジェンダー分析をおこなうことによって、エイズ政策にジェンダーの視点を入れることを訴えた本のようです。同書は、エイズウィルスの感染者や患者だけでなく、家族・ボランティア・教師・政府関係者・地域コミュニティの指導者などについても調査していることが特色だとのことです(2)

 張翠娥『差异与平等―艾滋病患者的社会性別研究』(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ )は、張さんが2006年に河南省南陽市の売血によるエイズ患者らに対しておこなったアンケート調査やインタビューにもとづいた著作です。この本は、エイズの流行に対するジェンダーの影響を明らかにするとともに、ジェンダー再構築に対するエイズの影響も論じています。

 2009年8月からは、フォード財団の資金援助を受け、マリー・ストープス・インターナショナル・チャイナ(Marie Stopes International China[玛丽斯特普国际组织中国代表处])による「女性エイズウイルス感染者の性と生殖の健康(リプロダクティブ・ヘルス)ニーズ調査プロジェクト」が開始されました。このプロジェクトは、女性HIV感染者自身のニーズに焦点を当てたものです。このプロジェクトは、ジェンダー問題の専門家である馮媛・何小培・葛友俐の3氏を迎えて、全国でアンケート調査や訪問調査をおこないました。この調査の調査員は、全国各地の感染者サポートグループの活動家でもある16人の女性感染者(3)です。彼女たちは単なる調査員ではなく、研究にも参与しています。

 昨年、このプロジェクトの成果として、「中国女性エイズウイルス感染者の性と生殖の健康ニーズ調査研究報告及び政策建議(中国女性艾滋病病毒感染者性与生殖健康需求调研报告及政策建议[PDF])」が完成しました(サマリーには英訳も付されています[p.5-8])。以下、その内容を簡単にご紹介します。 

 この調査では、全国18省(市・自治区)の450人の女性感染者にアンケートをおこない、そのうち63人にはインタビューもしたそうです。民族は、漢族が76.3%、少数民族が26.4%(チワン族29人、ウイグル族29人、イ族22人、回族13人など)です。平均年齢は38.5歳で、71%の女性に子どもがいます(子どもの93%はHIVに感染していない)。戸籍は、都市戸籍が36%、県政府所在地が11%、農村戸籍が52%です。教育程度は、初級中学(日本でいう中卒)が43%で最も多くなっています。感染経路は、51%が性行為、売血と輸血が12%ずつで、感染してから平均4.5年たっています。

 この調査研究の結果、以下のようなことがわかったそうです(上の冊子の「摘要」や五「研究成果と政策提案」の個所を基本に、他の箇所も参照して、私なりにまとめました)。


一、女性感染者の性と生殖の健康(リプロダクティブ・ヘルス)に関するニーズは、「基本的な生活と福祉」「安全で満足のいく性生活」「尊重された、質の高い性と生殖の健康の保健サービス」「性と出産の権益の理解と行使」に概括できる。この4つの面のニーズに対して、国家と関係機構は、すみやかに正視して、有効な対応をしなければならない

1.基本的な生活状況が明らかに損なわれた
 55%の被調査者(以下、「人」と略します)の基本的な生活条件は、HIVに感染した後、明らかに低下した。64%の人は財産が減り、16%の人は財産を失った。17%の人は収入がなく、家族に養われている。
 62%の被調査者は、HIVに感染したことによって、親密な関係の面でマイナスの変化があった(愛情が終わった、婚姻が破綻した、嫌われて相手にされなくなった、出産できなくなったなど)。同時に、子どもの監護権や面接権を失った人もいる。

2.安全で満足のいく性生活がない
 47.6%の人は、三か月以内に性生活がなかった。56%の人は、性のパートナーがいるけれども、望まない性行為または安全でない性行為(たとえば、相手はいるが、自分が性関係を持ちたくない。相手は望むけれど、自分はいや。私がしたいやり方は相手がいや、またはその逆など)に苦しんでいる。約32%の人は、相手がいないか、安定した性のパートナーがおらず、満足な性生活ができずに苦しんでいる。20%の人は、条件(居住条件、女性用コンドームがない、治療が必要など)を改善できずに苦しんでいる。
 ・感染後、1/5の人は、恋愛や婚姻、出産に関して「どうしようもない」と考えており、半数をやや超える人が、「現状を維持し、成り行きに任せる」と答えている。このような、自らの心理・認識レベルでの障害にまず対応する必要がある。
 ・周りの者(パートナー、看病する者、医者・看護師)の認識に問題がある。彼らにインタビューをしても、彼らは基本的に彼女たちの愛情や出産のニーズしか知らず、性のニーズはほとんど問題にしていない。
 ・安全でない性行為の要因を減らす必要がある。感染後に安全な性行為ができない原因は、半数以上が、「情報を知ってはいるが、相手にそれができない」ことであり、次が、「情報を知らない」ことである。「ときに安全な措置が取られない」最大の原因は、「身近にコンドームがない」ことである。

3.尊重を受けられる、質の高い医療・保健サービスが得られていない
 半数の人が、政府関係者や医療業務従事者が平常心で/非差別的態度で接するように望んでいる。女性感染者は、婦人科の検査・妊娠中絶・婦人科手術などの、生殖の健康の保健・治療のニーズが満たされておらず、そればかりか、しょっちゅう無視され、拒否され、差別されている。そうしたことが起きるのは、サービス提供者個人の専門知識・観念・態度に問題があるだけでなく、機構の姿勢や政策・措置、現在の体制の配置・運用にも問題があるからである。
 若干の医療・疾病予防・民政などの機構や人員は、意識的・無意識的に差別的態度をとっており、日常の相談と治療、コンドームの支給、婦人科検査、妊娠中絶、最低生活保障制度(生活保護)申請などの際に、官僚主義が存在するのみならず、態度と言葉が差別的である。サービスの項目についても、検査・投薬・医療器具・設備・費用の面で、彼女たちの戸籍や感染者としての身分を理由にしてサービスを拒絶したり、費用を引き上げたりする。感染者の個人情報を漏らすことさえある。(4)
 女性感染者の性と生殖に対する体制的・政策的な無視と否認は、感染者が十分な妊娠・出産期のサービスを受けにくい点に集中的にあらわれている。現在の政策は、母子感染の防止についてしか明文で責任主体とサービス内容を規定していないが、女性感染者の妊娠出産期の性と生殖の健康面のニーズは、それだけには全然とどまらない。一般の母子保健機構は、女性感染者のための、妊娠出産期を含めた性と生殖の健康の面での診療サービスがないか、拒絶し、エイズ指定病院は、その面の専門的サービス能力がない。
 女性感染者の性と生殖の健康のニーズに直接対応するプロジェクトは多くなく、わずかに若干の国際機構、たとえば「国境なき医師団」のような国際民間組織が展開するプロジェクトだけが女性感染者の性と生殖の健康と権利を促進する助けになっていたが、近年、そうしたプロジェクトは、相次いで減ったり、終わったりした。

4.性と出産の権益が阻害されている
 女性感染者が結婚や出産をするか否か、ジェンダー暴力・性暴力を受けないか否か、離婚後の子どもの保護監督権、財産権、治療と保健のサービスの権利、合理的賠償の権利を得られるか否かは、個人・機構・体制のあり方の影響を受けている。
 まず、出産する(しない)意志を実現するというニーズが阻まれている。57%の人が出産の面で直面している問題は、経済的困難と医療・保健の制約である。13%の人は、自分が出産するか否かという意思が他人の圧力を受けている(たとえば、子どもが欲しいけれど、誰も賛成しない[3.8%]、自分は子どもが要らないが、相手が希望する[3.5%]、相手の父母から[男の子を産めなどと]圧力をかけられる[5.7%]など)。
 各種の家庭内暴力を受けずに、平等に尊重されたいというニーズがある。少数民族では、出産するか否かの問題によって(たまたま、またはしょっちゅう)怒鳴られたり、殴られたり、排斥され孤立している人が合わせて27%いる(全体の平均では14%)。31%の少数民族の人が出産の問題によって冷遇されたり、皮肉を言われたりしている(全体の平均では17%)。
 不合理な制度や規定を変えたいというニーズがある。移転の自由は憲法と法律で規定された権利であるが、戸籍管理によって、女性感染者は、男性よりもさらに多くの不便をこうむっている。たとえば、戸籍がない居住地では、無料の婦人科の検査などの福利を享受できないなどである。

二、女性感染者はさまざまな手段で、能動的に自らの性と生殖の健康のニーズに対応し、自らの声を発している。その主要な現れは、以下の1~3である

1.個人の努力によって、マイナスの要素を転換させ、肯定的変化を求めている
 「現在の状況(HIVに感染している)の下で、あなたは愛情・婚姻・出産の面でどのような考え方をしていますか」と尋ねたところ、34%の人は「私にはなお幸福を追求する権利がある」または「事を謀るは人に在るも、事の正否は天にあるので、自ら努力して得る」と回答しており、比較的積極的な考え方をしている。実際、17%の人は、親密な関係についてプラス方向の積極的変化(新しい愛情・婚姻・子どもを得る)があった。ある女性は、感染を知った後に、毅然として暴力的な婚姻から逃れ、新たな都市で新しい幸福を得て、子どもを出産した。

2.集団的な力を強め、サポートネットワークをつくる
 病気を縁に知り合った友人(病友)は、家族に次ぐサポートの力である。43%の人が感染の状況を自ら告知したい対象として病友を選んでおり、これは、性のパートナーに次ぐ。
 インターネットは、地理的な限界を乗り越え、プライバシーを保護した状況の下でサポートネットワークを拡大する助けになっている。27.6%の人がインターネットとQQ群(内輪のSNSの一種)によって、他の感染者と知り合った。
 この調査は、各地の感染者グループ、とくに、活動的な女性感染者とサポートグループに委託しておこなったため、78%の人が住んでいる場所に、感染者をサポートするグルーブか民間組織のグループがあり、60%の人が住んでいる場所に、専門に女性感染者をサポートするグループか民間組織があった。51%の人が、1つまたは多くの感染者のグループまたは民間組織に参加している。20%の人が、住んでいる場で、女性感染者をサポートするグループまたは民間組織に参加している。
 愛情や婚姻、性と出産の面で問題にぶつかったとき、48%の人は、感染者の組織に話をしている(次が配偶者。この点は、かなりの人には、配偶者などの親密な関係の人がいないことと関係があるかもしれない)。

3.行動、とくに各種のメディアを運用することによって、この集団の性と生殖のニーズについて声を上げている
 85%の人が女性感染者の性と出産のニーズのために何らかの行動をしている。66%の人は「他の感染者といっしょに討論して」いる。17%の人が政府に提案をしている。29%の人が何らかのメディアによって女性感染者の性と出産のニーズを表現し伝えている(そのうち10%は、インターネットに書き込んだり、ビデオや録音を発表したりしている)。
 インターネットは、女性感染者が知識や情報を得て、交流をし、分かち合い、意見と要望を出す重要なツールになっている。QQ群は、それに比べると使用率は高くないけれども、若い人、特にエイズが流行していない中小の都市や町に住んでいるために周囲には病気の友人がいない人にとっては、非常に重要な役割を果たしており、彼女たちが腹を割って話をしたり、自分の法律的権利を理解したりする場になっている。

三、政策の提案

1.関連する医療保険サービスの内容を増やし、手に届きやすくする
 ・サービスがカバーする範囲を増やすとともに、手に届きやすくする。たとえば、女性感染者の妊娠出産期の保健を制度化する。
 ・医療・保健・予防に携わる人々(とくに末端の人々)の言葉と行為、技術方案に対する規範管理を強化する。
 ・診察・カウンセリングにおいては、女性感染者を援助できるカウンセリングやソーシャルワーク、ピア・エデュケーションの面の人員が必要である。少なくとも、感染者をサポートする組織あるいは女性感染者のボランティアが、性と生殖の健康の面のピア・エデュケーションやサポートをするために参与することを支持しなければならない。
 ・予防センターあるいは指定病院など、感染者が相対的に集中しているところでは、常に、または定期的に性と生殖の健康(心理的な面も含む)に関する講座・相談と各種の形態の教育活動をおこなう。

2.教育と情報宣伝を改善する
 ・女性感染者は教育を受ける機会が比較的少なく、教育程度が低いことを考慮して、彼女たちに合った方法、とくに文字を使わない、見てわかる手段を使って、予防や保健、権利保障やサービスに関する情報を伝える。
 ・メディアで働く者たちは、女性感染者の愛情と性などの親密な関係に対するニーズを正視し認め、女性感染者の性生活や出産するか否かなどについての自由意志・自主・自決を促進し、一方で、他の者が女性の性と出産の権利を無視し剥奪することを防止するとともに、もう一方で、他の者(とくに夫と夫側の家長)が女性を性と出産の対象として扱って、彼女たちの自らの性と出産に関する意思を放棄させるよう強制することを防がなければならない。
 ・女性感染者がインターネットを含めたメディアを活用することを支持しなければならない。性をポルノや低俗と同一視する勝手なやり方を改めて、「ポルノ一掃、非合法サイト取締り」などの方法でおこなわれるインターネットの取締りが、女性感染者の性と生殖の健康を促進する情報とサイトに災いを及ぼさないようにしなければならない。

3.政策・法律・体制を改善する
 ・女性感染者に対する医療や保健の予算の増額、医療関係者の研修など。
 ・医療機構が女性感染者を押し付け合ったり、拒絶したりすることをやめ、不合理に高い料金なども取らないようにする。母子感染の防止だけでなく、妊娠・出産期の保健サービス、妊娠中絶その他の婦人科の治療・出産保健サービスを充実させる。
 ・女性がコントロールできる避妊と安全の措置(女性用コンドームなど)に関する研究開発と応用などを推進する。
 ・無料の検査(通常の検査、婦人科の基本的検査)・治療などを拡大する。
 ・公共サービスを一体化するプロセスにおいて、戸籍の制限を撤廃して、女性感染者が居住地で基本的な性と生殖の保健サービスを受けられるようにする。
 ・最低生活保障(生活保護)・低家賃の賃貸住宅・貧困救済などの政策を設計・実施・調整する際、女性感染者、とくにシングルマザーのニーズに配慮する。
 ・感染者の結婚・出産・養子を取ることを認めるようにする。とくに「婚姻法」「伝染病防止法」およびその施行において、結婚をしばらく猶予する規定を撤廃する(5)
 ・青少年に対する性教育を積極的に実施する。また、性教育の中に、女性の性の自主・平等・尊重・責任、安全な性行為(セイファーセックス)の内容を組み入れる。性教育には、女性感染者など、性についての周縁的集団が参与することが必要である。男性に、安全で責任を持った性行為をさせるようにする。


 以上をご覧になればわかるように、徹頭徹尾、女性感染者のニーズに寄り添った調査だと思います。

 この調査研究はマリー・ストープス・インターナショナル・チャイナの事業ですし、研究者と当事者とを同一視することもできません。とはいえ、この調査研究は、女性感染者自身が調査者となったうえで、研究にも参与しており、女性感染者自身が自らのニーズを調べ、要求をまとめる一つの機会にもなったのではないかと思うのです(もちろん、感染者の視点がこの研究報告に寄与していることも、言うまでもありません)。

 この調査研究の過程で、2011年5月に、中国で初めて「女性感染者の性と生殖の健康のニーズ研究討論会」も開催されました(6)

 また、この報告の内容自体も、女性感染者が主体的な行動をしていることを明らかにしており、単なる「犠牲者」「被害者」ではない感染者像を描き出していると思います。今回の調査対象は女性感染者グループのメンバーやその周辺の人々が多いと考えられますから、女性感染者全体に当てはめることはできませんが、インターネットなどによって、ある程度の広がりを作り出していることもわかります。

 また、この調査は、リプロダクティブヘルスのうちの、女性感染者の「性」のニーズにもきちんと向き合っている点にも特色があります。

 また、近年エイズについて少数民族の問題が注目されるようになったこともあって、それぞれの事項について漢族と少数民族とに区別して統計を出していることも、この調査の特色かと思います。この調査からは、全体として見ると、少数民族の方が状況が悪いことがわかります。ただし、「政策の提案」では、少数民族に関する言及は、「エイズが流行している農村、とくに少数民族地区では、女性感染者が質の高いサービスと正確で信頼できる情報と意見を得られるようにする」という箇所だけであり、物足りなさを感じました。

もちろんリプロダクティブ・ヘルス以外にも、問題とニーズは多い

 今回の調査は、あくまでも女性感染者の「性と生殖の健康(リプロダクティブ・ヘルス)」に関する調査だということには気を付けなければならないと思います。女性感染者グループのネットワークである「女性抗エイズネットワーク・中国(女性抗艾网络-中国)」の何田田さんは、この2年間の自分たちの調査研究でわかった「女性HIV感染者の直面する問題とニーズ」として、「心身の健康の問題」「経済的苦境」「差別される状況」の3点を挙げています(7)。リプロダクティブ・ヘルスにも、その3点はすべて関わっているわけですが、リプロダクティブ・ヘルス以外にも多くの問題があることは言うまでもありません。

 たとえば、「心身の健康の問題」としては、何さんは、「女性はHIVに感染した後、仕事を続けるほかに、家事・農作業・子どもの養育などの仕事もしなければならないのに、感染あるいは薬の重い副作用のために健康が損なわれ、しょっちゅう仕事を失うか、自分で仕事を辞めなければならなくなる」とか、「一部の女性感染者は、自責と後ろめたさという心理があらわれ、かつ、これらの心理が絶えず繰り返され、友だちとの交友も減り、自分は他の人より劣っていると思い、自信を失い、自分に価値が認められなくなって、劣等感を持つ。一部の女性は差別され、見捨てられ、暴力を振るわれたために、悲観・絶望・厭世という心理が絶えず生まれ、心理的健康状況が心配に堪えない」といったことが挙げています。

 また、「経済的苦境」としては、「健康が原因で仕事を辞めたのち、女性感染者の経済的収入は大幅に減少し(……)夫に頼るか、実家に援助してもらうしかなくなるが、日和見感染の治療と薬物の副作用の対抗のために多額の金銭を使うので、ますます経済的に困難になる。夫を亡くした後の女性感染者は往々にして婚家と実家の両方に嫌がられる。こうしたシングルマザーは、非常に経済的に困難である」といったことが挙げられています。

 ですから、女性感染者のニーズとしては、「心理的サポート」や「生活保障」などが挙げられています。具体的には、前者については、「女性感染者グループの活動能力をサポートし、発展させる、女性感染者の中にピア・エデュケーション員を養成する」といったことが挙げられており、後者については、「貧困な母親は生活保障が必要である。『エイズ孤児』を救助するだけでなく、母親も適時に救助が得られるならば、彼女の子どもも『孤児』にはなりにくいだろう」といったことが書かれています。

 以上のような、リプロダクティブ・ヘルス以外の点についても、量的・質的にきちんとした調査研究が必要だと思いました。

※本ブログの記事「女性HIV感染者の運動」もご参照ください。

(1)毎年の新しい感染者について言えば、2007年、全国婦連と衛生部による「女性エイズ防止工作会議」が開催された際、「毎年新しく報告されるエイズウィルス感染者の男女比は、1990年代は5:1だったのが、現在は2:1になっている」と報道されて、女性感染者の比率の上昇が注目を集めました(「中国女性艾滋病感染者比例明显上升」新華網2007年6月5日、「新报告:艾滋病感染者男女比例升到2∶1」広州日報→新華網2007年6月6日)。
(2)この段落は、劉伯紅、李亜妮の書評(「对艾滋病的社会性别分析――读《红丝带的思索》」『婦女研究論叢』2005年1期→社会性别与公共政策サイト2006年10月3日に転載[ただし注は省略されている])にもとづいて書いています。また、王英 陈澜燕 张红漫 李慧英「HIV/AIDS流行控制中的社会性别分析」『中国艾滋病性病』2004年6月(第10 卷第3 期)も同じ研究プロジェクトにもとづいて書かれた論文です。龍秋霞さんについては、「“我出名是因关注艾滋病的人太少”——访广东省“从社会性别角度研究艾滋病”第一人龙秋霞女士」(金羊網2005年12月1日)参照。
(3)広西の「女性抗エイズネットワーク・中国(女性抗艾网络-中国)」(これについては本ブログの記事「『女性抗エイズネットワーク・中国』設立」で取り上げました)の何田田さんのほか、北京歓顔女性グループ(北京欢颜女性小组)、賀州水果楽園(贺州水果乐园)、中国愛之関懐組織(中国爱之关怀组织)(南寧)、瀋陽蛍火虫工作組(沈阳萤火虫工作组)、山西新絳同様紅小組(山西新绛同样红小组)、個旧苦草工作室(个旧苦草工作室)、雲南載托普薬物依存治療リハビリセンター(云南戴托普药物依赖治疗康复中心)、天同小組(天同小组)、浙江互助会ネットサポート(浙江互助会网络支持)、河南登封陽光女性家園(河南登封阳光女性家园)、美麗人生・依依茉莉女性グループ(美丽人生・依依茉莉女性小组)、「天の半分」河北永清感染者互助グループ(半边天河北永清感染者互助组)、西昌月城女児グループ(西昌月城女儿小组)、中国愛之関懐組織(広州)の各グルーブの女性が調査員になっています。
(4)こうした点については、「<調査>診療の拒絶も! 医療従事者と役人・教師の3割がHIV感染者を差別―中国」(レコードチャイナ2009年12月1日)という報道もあります。
(5)中華人民共和国婚姻法第7条は、「医学上結婚すべきではないと認められる疾患に罹患している者」は「結婚を禁止する」と定め、第10条では、「婚前に医学上結婚すべきではないと認められる疾患に罹患し、結婚後もまだ治癒していない場合」は「婚姻は無効である」と定めています(鈴木賢・廣瀬眞弓「中華人民共和国婚姻法 邦訳[PDF]」北大法学論集 53[1])。婚姻法の中には、「医学上結婚すべきではないと認められる疾患」の名称は書かれていません。しかし、1995年に制定された中華人民共和国母子保健法(中华人民共和国母婴保健法)第9条は「婚前医学検査によって、指定伝染病にかかっていて伝染期間内(……)であると診断された者に対しては、医者は、結婚を予定している男女双方に、結婚をしばらく見合わせなければならないという医学的意見を言わなければならない」と規定しており、同法第38条では、本法で言う「指定伝染病」とは、「中華人民共和国伝染病防止法(中华人民共和国传染病防治法)」の中で規定されている「エイズ・淋病・梅毒・ハンセン病および医学上結婚と出産に影響を与えるその他の伝染病」を指していると書かれています。
 こうした規定に対しては、エイズ問題に取り組んでいる北京愛知行研究所も、改正を求めています(「就婚前自愿艾滋病检测咨询、梅毒检测咨询给国务院法制办、国务院防治艾滋病工作委员会和卫生部的信函[北京爱知行研究所2011年5月30日发布]」、「北京爱知行研究所就清理歧视艾滋病患者法律法规的建议 [北京爱知行研究所2011年12月28日发布]」)。
(6)首个中国女性感染者性与生殖健康需求研讨会在京召开」中国发展简报2011年5月17日。
(7)女性HIV感染者面临问题和需求——来自女性社区组织的调研和发现」女性抗艾网络-中国ブログ2011年9月24日。
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