2017-10

[日本]『女性学年報』の特集「『女性センター』という経験」を読む

昨年刊行された『女性学年報』第32号が「『女性センター』という経験」という特集をしている。現在、全国各地にある女性センター(男女共同参画推進センター)についての特集だが、非正規職員や利用者の視点から考察されていることが特色である。

この特集は、以下の4本の企画ないし文章から構成されている。
「座談会――女性センターで働いて――」
「女性センターで、働き続けるということ、闘い続けるということ――インタビュー 本多玲子さん」
「京都市女性協会裁判を振り返って――雇用身分による賃金格差の是正を求める――」(伊藤真理子)
「座談会――利用者の立場から語る女性センター――」

以下、それぞれについて、私がとくに関心を持った個所をご紹介しつつ、思ったことなども少し述べてみたい。

「座談会――女性センターで働いて――」

「女性センターで働いて」は、女性センターで非正規職員として働いたことがある5人の方(金糖さん、飯田さん、青野さん、向井さん、釈さん)の座談会である。

座談会に出席した方の多くは、女性としての生きにくさを感じて、フェミニズムに出会うなどして、男女平等のために役に立ちたいというような思いがあって、女性センターの職員になっておられる。

しかし、女性センターは、その方々の思いを生かせるような場ではなかった。向井さんによると、「最終的な決断をするのは自治体の職員で、仕事も、やりたいことを全然させてくれないという感じです。」「行政の人が何をしたいのかをよくよく考えてみたら、報告書に『これだけの人が集まりました』と書きたいだけ。ただ、それだけのような気がしました」ということである。青野さんも、「結局、国から降りてきたプランに沿ってつくれられた事業計画の中で、決められたことを決められたようにやってくれるコマが欲しかっただけなんですよね。」と言っておられる。非常に行政主導で、非正規職員一人ひとりの思いは生かされにくい場のようだ。

また、雇用条件がさまざまで(パート職員、嘱託職員、「正職員」、自治体からの出向している人など)、ピラミッド構造があることが、非正規職員が働くうえで障害になっていることも指摘されている。金糖さんが働いていたところでは、常勤の正職員が中間管理職になって「すごく好き放題してたっていうか、かなり権力を握っていたんですね。そのせいで、非正規職員はすごく働きにくいという日常がどんどん進んでいきました」という。

釈さんは労働組合を立ち上げたのだが、組合で初めて要求したのは、「情報を共有してほしい」ということだった。それまでは自治体の人と上級専門職だけで会議をやっていて、一般の職員は出席できなかったという。たまたま釈さんのいた部署は誰でも会議に出席できたのだが、「そしたら自治体の人がね、嘱託とかそんな人たちが一人前にね、会議に参加してるということでね、目が点になってね。あの人たちには理解できない世界ですよ」ということだ。

しかも、釈さんが組合を立ち上げて要求を出したとき、管理職はひどい対応をした。管理職は、釈さんに対して、「自分やったらね、皿洗いしてでもね、何としても働く」とか、「あなたはね、再婚はないんですか」(釈さんは、離婚して働いていた)とか、「あなたには裏切られた」とか言ったというのである。

青野さんは、「女性センターとしてのミッションを本当に果たそうとしたのであれば、仮に出だしの雇用形態はすごく複雑であっても、目標として『均等待遇を目指しましょう』ってこともできたわけですよね。でも絶対にそれをしなかった。どこの女性センターもそれをしなかったですよね」と述べておられるが、この指摘は重い。

また、非正規職員に対するこうした差別は、男女共同参画の推進自体にもマイナスになっているようだ。

たとえば、青野さんは、「非常勤職員としてセンターで働いている人たちっていうのは(……)市民運動や地域活動から女性問題につながって、自治体が女性センターをつくったときに専門職員として採用されたという人が多くて、地域との結びつきがすごく強いんですよね。そういう人たちを本当は核として取り込んでいかなければならないはずだったのに、それを非常勤という名の下に除外していったというか」と言い、釈さんは、「敵視している」とまで言っておられる。

次のインタービューで登場する福岡市の女性センター・アミカスの嘱託相談員の本多玲子さんも、「私たちは現場を担う専門職として、会議の場で発言してきました。でも、全然相手にされない。」「今どういう支援が必要とされているかは相談を受けている現場がいちばん知っている。それなのに、私たち現場の声が、ほとんど重要視されていない。」「私たちに求められるのは『クレームがないように、相談を受けてね』ってことぐらい。」とおっしゃっている。

私は、上のようなご発言を読んで、非正規職員に対する差別を解消してその方々の力を生かすことは、その方々の人権にとって重要であるだけでなく、女性センターの活性化や発展にとっても重要だと感じた。まして、いまアミカスなどでおこなわれているという「5年で雇い止め」というルールなど、働いている方々の経験の蓄積と継承を断ち切って、サービスの水準を低下させるものでしかない。

だとすれば、女性センターの利用者も、もっと非正規職員の地位や権利に関心を持つことが必要だろう。私は、ウィングス京都の非正規雇用の相談員だった伊藤真理子さんの、正職員との差別是正裁判を一度傍聴させていただいたことがあるが、裁判の意義の割には、支援者が少なかったように思う。「働く女性の人権センター いこ☆る」からの支援はあったとのだが、ウィングス京都の「利用者」からももっと支援が必要だったのではないか。

もちろん従来から女性センターの利用者の運動はあり、近年では、ドーンセンターの存続運動(「好きやねんドーンセンター」の運動)には多くの利用者も参加しておられた(私も本ブログで「ドーンセンター売却反対のマーチと署名」という記事を書いた)。しかし、この存続運動について、ある方から、「非正規職員が視野に入っていない」という趣旨のことを指摘されたことがある。そうした点を改善して、さらにバージョンアップした運動をする必要があろう。

「女性センターで、働き続けるということ、闘い続けるということ――インタビュー 本多玲子さん」

このインタビューは、福岡市男女共同参画センター・アミカス嘱託職員ユニオンの執行委員長の方へのインタビューである。

本多さんたちは、採用されたときに、「4回更新の5年まで」という雇用年数の制限を押し付けられたが、毎年それとたたかって雇用を継続させてきた。しかし、センターが市の直営になった後、はっきり「5年を経たら更新しない」と決められてしまった。それでも、運動の結果、今働いている人については、それまでの「実績と経験が反映される」と称する「特別選考試験」に合格すれば、継続して働けることになった。けれど、その試験で、一部の人(15年とか22年働いてきた図書館の職員、育休を取りながら通算6年働いてきた相談員)が不合格になった(p.22-28)。

こういう長年働いてきた、いわば実地ですでに「試されずみ」の人を、簡単なレポートや短時間の面接で不合格にするというやり方は、本当に理不尽だと思う。もちろん、その人が任に堪えないことが実地で判明していたなら話は別だが、それまで何か問題を指摘されたこともなかったという。

本多さんたちが組合を作って良かったことの一つが、センターのさまざまな部署の人がみんなで集まって、話ができるようになったことだという。その中では、労働者としての要求はもちろんだが、「女性センターはどうあるべきか」という話も出て、それが、スタッフどうしの意見交換会に発展したという。意見交換会には管理職も参加したのだが、そこでは、本多さんによると、「三年で異動する管理職よりも、私たちの方が詳しいと思っているから、ある意味、教育の場だと思ってやってきました」とのことである(p.32-33)。まさに嘱託職員の方が「先導」して、センターのあり方を改善したわけであり、本多さんが「本当に私たちは給料分、いや、倍は働いていますよ」とおっしゃるのも、もっともだ。

また、本多さんたちは、労働組合の中でも、嘱託職員の問題を、自治労の福岡県本部の中の一番端の問題から、中心課題の一つにまで、がんばって持ってこられたという。いま、自治労の中で頑張って闘っているのは、ほとんどが、切実な要求がある非正規の女性中心の組合だとのことで(p.35-36)、ここでも「先導」的役割を果たしておられるわけである。

本多さんは、「限られた予算でも本当にちゃんと男女共同参画を実現したいとか、女性の自立をサポートしたいっていう『こうしたい』という想いや熱意を持つ人がいきいきと働けるようにすれば、今よりも、もっとよくなると思います。今の行政の仕組みは、『がんばっているNPOと対等に協同しよう』ではなくて、『予算がないから安く上げよう』ばかり。直接人を雇うと労働問題とか起こるから外部委託という方向に流れている」(p.37-38)というが、本当にその通りだと思う。

いまの女性センターは、第一線の現場の声を軽んじて、専門的な箔は「社会的にポジションの高い外部の有識者に付けてもらう」という「仕組み」になっていることも書かれている(p.37)。私は、こうした「有識者」扱いされる側の経験とかも伺えたら、面白いかもしれないと思った。そうした方々も、たぶん、それぞれの分野では良心的な学者や弁護士だったりすると思うのだが、なかなかそうした良心が発揮できない(ひょっとしたら、「できない」のではなく「しない」とか「関心がない」のかもしれないが……)状況もわかるといいと思った。

「京都市女性協会裁判を振り返って――雇用身分による賃金格差の是正を求める――」(伊藤真理子)

この一文は、京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)で嘱託職員として働いてこられた相談員の伊藤さんが、同センターを運営する京都市女性協会に対して正職員との賃金差別是正を求めて起こした裁判について書かれたものである。

この裁判については、伊藤さんご自身がサイトを作っておられる(京都女性協会事件)ので、詳しくはそれをご覧いただきたい。私も、インターネット新聞JANJANに記事を書いたことがある(「ウィングス京都裁判、高裁で控訴棄却――非正規職員への賃金差別を『特化された業務』として容認」[タイトルはJANJANの編集部が付けた])。

私は上の記事を書いた際に伊藤さんの裁判文書はかなり読ませていただいたが、今回の伊藤さんの一文は、これだけで裁判のポイントがつかめるうえ、伊藤さんのご自身の思いがストレートに、まとまった形で書かれており、とても良いと思った。

伊藤さんが裁判を闘うエネルギーになったのは、次の3つの要素だったという(p.42-45)。
・正規職員との2倍近い格差があり、生活保護費よりも低いような「非正規雇用」の賃金
・その差別処遇をしているのが、女性の人権と男女平等を推進するはずの「女性センター」であったこと
・差別と闘うことを使命とする、自らの「ソーシャルワーカー」としての仕事

伊藤さんは、全国の女性センターの非正規雇用の実態を、内閣府の統計を使って詳しく明らかにされている(p.46-49)。

伊藤さんは、さらに、敗訴となった地裁・高裁判決の論理を詳細に検討なさったうえで、そこから今後の課題も導き出しておられる(p.49-57)。この箇所を読むと、この裁判が「人権と労働法の歴史的展開を背景にもつ裁判」(p.57)であることがよくわかる。

伊藤さんは、「全国の女性センター非正規職員が団結して全国規模で労組を結成すれば、大きな力を得るに違いない」(p.58)と述べておられる。私も、そうしたものが、各地域の大学非常勤講師組合のように、たとえ組織率はまだ低くても、マスコミも一定取り上げるくらいに注目され、当局の側もそれを意識した対応をせざるをえなくなればいいと思った。

「座談会 利用者の立場から語る女性センター」

この座談会は、日本女性学研究会の運営委員や『女性学年報』編集委員のうちの7人の方(片山さん、松本さん、竹井さん、鈴木さん、荒木さん、古沢さん、桂さん)によるものである。

この座談会は、参加者が自分にとっての女性センターの意味を具体的に出し合う中から、さまざまな角度から女性センターを考えるものであり、興味深い。

私がまず関心をひかれたのは、冒頭の片山生子さんのお話である。片山さんは、大阪市立婦人会館で1988年から1990年まで開催された連続講座を受講した際、その講座をもとにした自主グループを作って活動や研究をし、その成果をまとめた冊子もお作りになったという。当時、この婦人会館には、こうした自主グルーブがたくさんあって、それらを一つにまとめる「連絡協議会」もあったそうだ。片山さんたちの自主グループには、婦人会館からも、「イベントを企画すれば」という働きかけがあったり、片山さんたちが企画をしたら、講師料やチラシの費用を出してくれたりしたという。そのグループは、片山さんにとって、「自分を育ててくれた場所」といった感じの場だそうだ。

片山さんが参加なさったようなグループは、以前は他にもあったようだが、最近はあまり聞かないように思う(私が知らないだけかもしれないが)。なぜなのだろうか? 最近は、他の場でもできることだからだろうか? けれど、大学のゼミなどは、どうしても若い学生中心になるだろうし……。日本女性学研究会のような場なら、できるようにも思うが(『女性学年報』もその流れを汲んでいるとは思う)、その日本女性学研究会も最近は会員が減っている。

ドーンセンターのフェスタが「[女性]運動系がどんどん減っていって」、なくったとか(松本さん)、運動系が「全体に高齢化してって、活動が昔よりは活発でなくなっているのかな」(荒木さん)といった状況は、非常に心配だ。この点が、この座談会でもたびたび話題になっている「バックラッシュ」を押し返せていない重要な一因だと思うからである。

新しい人があまり入ってこなくて高齢化しているという問題は、女性運動に限った問題でなく、日本の市民運動や左翼が共通して抱えている問題だと思うので、そこにはさまざまな要因があるのだろうが、その状況を変えるために、なんとか女性センターを活用できないかと思う。そのためには、女性センターを誰にでも「もっと、使いやすく、いろんな工夫をまだ試していったらいいんじゃないか」――たとえば「ここ一、二年で市の図書館と相互利用ができるように変わって(……)すごく良くなった」(古沢さん)とか、「大きなもの[センター]一つというよりも、たくさんあるというほうがいい」とか、「いろんな既存の団体とつながっていく側面(……)をもう一度強めて欲しい」(荒木さん)といったことが重要になるだろう。私は、「高齢化」の問題との関係でいえば、荒木さんのご発言に含まれるのかもしれないが、若い人や新しい人が気軽に活動に参加したり、若い人どうしで集ったりしやすい工夫が何か必要な気がする。

この座談会では、女性センターが、大学の図書館にも、インターネットにもない「情報の宝庫」であることが、一つの重要な価値として多くの人から語られている。

女性センターの活動のうちには「インターネットでカバーできる部分」(古沢さん)もある一方、そうでない部分もある(なぜなら、インターネットは、「ガセとかもいっぱいある」から「基本的なことがわかった上でアクセスする」必要がある[桂さん]とか、「まとまった情報ではない」[荒木さん]とか)。だとすれば、これは座談会のテーマから外れるが、インターネットで運動する側も、ネットの特色を生かしつつ、カバーできる範囲を増やし、ネットの弱点を克服していく努力をする必要があると思う。もちろんネットでは不可能なことがらもあるが、出来る範囲で、個人サイトレベル、団体サイトレベル、ポータルサイトレベル、各サイトの連携のしかたなど、さまざまな努力をすることができよう。

また、今回の特集で取り上げられているような個々人の声や闘いこそが一番重要であることはもちろんだが、今回の特集をきっかけにして、「女性センターの非正規雇用」とか「女性センターと女性運動」とかいったテーマで学術論文や著作を書くような人も、もっと現れてほしいとも思う。そうした形でも、このテーマが、学問の「メインストリーム(?)」に食い込むような影響力を持つことも必要ではないだろうか。

私が以上で述べたのは、今回の特集の内容のごく一部にすぎない。今回の特集では、そのほかにも、ハコモノ重視への批判、相談事業の重要性など、さまざまなことが論じられている。ぜひ手に取って、ご覧いただきたい。『女性学年報』は、第29号でも「どこから向き合う?――女・フェミニズム・男女共同参画――」という特集をしており、第30号には、女性センターに長年勤務されてきた桂容子さんの「フェミニズムと男女共同参画の間には、暗くて深い河がある」という論文が収録されている。あわせて参照していただきたい。

私は女性センターの職員でも、ヘビーユーザーでもないので、上で書いたような私の感想は、思いつき程度のものでしかないと思う。しかし、幸い、以下のように、今回の『女性学年報』の特集を取り上げる、「『女性センター』という経験」と題する学習会がおこなわれる。私も参加させていただいて、皆さまの考えをうかがって勉強したい。

■日時:2012年2月26日(日)午後1:30~4:30

■発言者:
 本多玲子さん(アミカス相談員・アミカス嘱託職員ユニオン執行委員長)
 伊藤真理子さん(元京都市女性総合センター相談員)
 落合桂子さん・佐々木真由美さん(ほっぷの会メンバー)

■主催:「女性センター」を考える学習会実行委員会
(いこ☆るワーキンググループほっぷの会、女性学年報編集委員会)

■参加費(資料代+お茶代)500円
■会場:エル・おおさか5階 会議室501 交通アクセス
■問合せ:
女性学年報編集委員会 joseigakunenpo(at)gmail.com
働く女性の人権センター いこ☆る icoru(at)nifty.com
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