2017-10

「第4回(2011年)セックス/ジェンダー事件批評」

 昨年12月、「第4回(2011年)セックス/ジェンダー事件批評(第四届(2011年)年度性与性别事件评点公告)」が発表されました(第1回~第3回については、本ブログの記事「2008年『中国10大セックス/ジェンダー事件』」「2009年度『中国10大セックス/ジェンダー事件批評』」「『第3回(2010年)中国10大セックス/ジェンダー事件批評』」参照)。

 この活動は、2008年に、セクシュアリティやジェンダーの研究に携わる10名あまりの中年・青年学者によって開始され(発起・召集人は方剛さん)、今年度は下に挙げた15名がおこないました。この活動は、1年間に中国大陸で起きた、社会的関心を集めたセクシュアリティやジェンダーに関する事件を選んで、性の人権とジェンダーの多元的平等の視点から論評するものだそうです。この活動をつうじて、性の権利とジェンダーの平等を促進し、社会の民主と寛容を増進させることが目的であり、それゆえ、必ずしも有名な事件を選んではいないとのことです。

<メンバー>
 陳亜亜(上海社会科学院文学研究所研究員、サイト「女権在線」責任者、フェミニスト)
 方剛(北京林業大学・性と性別研究所所長、性社会学博士、セクシュアリティとジェンダー研究に携わる)
 郭巧慧(青少年性健康教育基地主任、北京読你心意心理機構[遠山注:心理の健康と性の健康の教育をおこなう機構]責任者、青少年の性健康教育と心理健康教育を提唱・推進)
 郭暁飛(法学博士、中国政法大学教師、主に性法学の研究に携わる)
 黄燦(独立セクソロジー学者、芸術家、世界華人性学家協会性文学芸術委員会副主任、『華人性文学芸術研究』編集長、主に女陰文化と妓女問題の研究に携わる)
 胡曉紅東北師範大学女性研究センター副教授、哲学博士、主にジェンダー研究に従事、ジェンダー教育の視点を重視)
 李扁(中国青少年エイズ防止教育工程発起人、青愛プロジェクト専門基金事務局主任、中国青年性学フォーラム招集者、生物学修士、主に性教育、エイズ防止教育活動に従事)
 彭濤(ハルピン医科大学性健康・教育センター副主任。主に性の健康の研究と教育に携わり、ジェンダーの視点にもとづいて健康を促進)
 沈奕斐(復旦大学社会学系教師、復旦大学ジェンダーと発展研究センター副秘書長。研究方向は、ジェンダーと家族)
 王小平(性社会学博士、山西師範大学副教授、主に性社会学研究に従事)
 魏建剛(北京ジェンダー相談センター[北京纪安咨询中心]執行主任、同志亦凡人ビデオ監督、主にセクシュアリティとジェンダー、そのほか多元的権益運動に従事)
 朱雪琴(フェミニズムカウンセラー、ソーシャルワーカー、主にジェンダーと性の研究に従事)
 張敬婕中国メディア大学メディアと女性研究センターで教える。国連ユネスコ「メディアと女性」教席、中国法学会反DVネットワークのメンバー、メディアとジェンダー、文化の研究と教育に尽力)
 張玉霞(新疆大学中文系副教授、新疆大学女性研究センターのメンバー、中国メディア大学映画学博士課程在学、ジェンダー研究に従事、大衆メディアの視角に重点)
 張静(中華女子学院教師、中華女子学院性とジェンダー研究センターのメンバー、ソーシャルワーカー。主に青少年の心理健康教育と相談、青少年の性教育、児童と青少年のソーシャルワークに携わる)
 趙合俊(中華女子学院法律系准教授。法学博士。性と人権理論、性の法律研究に携わり、人権と法律の視角に重点)

 以下、今回の内容を、適当に端折りつつ紹介します。順番は、事件の発生順だそうです。

1.「人民大学ヌードモデル」と「浴室結婚相手募集事件」

事件の回顧
 中国人民大学徐悲鴻芸術学院の女子学生・蘇紫紫(百度百科の記述:「苏紫紫」)がヌード写真の展覧会をし、続いて裸でメディアの取材を受けた。
 バレンタインデーには、干露露(女優。百度百科の記述:「干露露」)の母親が、インターネット上に干露露の入浴ビデオを発表して結婚相手を募集し、続いて母と娘が[ベッドで]睦みあっているビデオをネット上に公開した。
 大多数のネットユーザーは、この2つの事件は、売名と利得のための俗悪な宣伝であると考えた。

コメント
 この2つの事件は、ともに身体の自由な表現と家父長制社会の主流イデオロギーとの間の衝突を示している。その焦点は、女性が裸の身体を公開することに対するタブーである。しかし、人々が彼女たちに対して汚名を着せる眼差しで見るとき、彼女たちは、自らの主体性によって汚名に挑戦し、身体の公共空間を開拓し、生命主体の自由の歓喜を体現したのである。

この事件についての日本でのネット報道
 ・「中国ヌードモデル蘇紫紫(Su-Zizi)が裸でインタビュー」PINK探偵2011年1月12日。
 ・「女優ガン・ルールーが“母娘ヌード”公開、『モラル疑う』非難の声も―中国』Record China2011年10月27日。

2.耽美小説の作者が刑罰を科された

事件の回顧
 江鶴は長い間インターネットで色情小説を発表してきたネット作家であり、彼女の小説は、同性愛・SM・親族間の性関係の描写に満ちており、数年間に200篇あまりの性愛小説を発表してきた。そのために、江鶴は2011年3月、わいせつ物伝播罪(*)を犯したとして、拘留4ヶ月の刑を言い渡された(*→「ネット掲示板にBL小説アップで腐女子逮捕=『わいせつ物伝播罪』ってなに?―中国」[KINBRICKS NOW2011年1月10日]参照)。
 また、この年、河南の鄭州公安局のインターネット警察部隊が、全国で「耽美(BL)小説網」の32名の契約作者を逮捕した。その大部分は20歳前後の女の子であり、そのうちの多くの人は、江鶴と同様の運命に見舞われた。

コメント
 刑法367条は「色情的内容を含む芸術的価値がある文学・芸術作品は、わいせつ物とは見なさない」と明文で規定している。これらの耽美的作品は、わいせつな作品なのだろうか? 国家新聞出版総署の文書の中では、同性愛とポルノとを同列に置いており、映画審査も、あらゆる同性愛を、たとえ「プラトニックラブ」であっても禁止している。これらのことは、同性愛の文学作品に対する取り締まりは、異性間の「わいせつな作品」より厳しいのではないかと疑わせるに足る。
 「わいせつ」な表現も憲法上の表現の自由である。男性どうしの情欲についての女性の著作は、性的指向の平等の確固たる同盟軍であり、中国式の「ゲイとストレートとの連盟」であって、取り締まられない自由がなければならない。

この事件についての日本ネット報道
 ・「中国の腐女子に衝撃=ネット掲示板にBL小説転載の女性逮捕」KINBRICKS NOW 2011年1月8日。
 ・「中国の鄭州でBL小説サイトが摘発され関係者が大量に逮捕される」「『日中文化交流』と書いてオタ活動と読む」ブログ2011年3月28日。

3.人民代表大会の代表が「貞操嫁入り道具論」を言う

事件の回顧
 一昨年、上海市の人民代表大会の代表の柏万青がテレビ番組で、未婚の若い女性は自尊・自愛しなければならず、「過度に放縦」になってはならないと述べた。彼女は「貞操は女の子が結婚する際、婚家に持って行く最も貴重な嫁入り道具だ」と強調した。今年、この話題が蒸し返され、女性の「貞操」に関する大論争が起きた。柏万青を支持する人もいたが、もっと多くの人がこの言論は性差別だと批判した。柏はあるテレビ番組の中で、若い女性を気にかけるからこそ、あのように言ったのであり、一度「貞操を失った」からといって、「貞節でない」ことにはならないと述べた。また、男性も貞節でなければならないと述べた。また、ある人は、「貞操」は心理上の貞操であり、必ずしも身体上の「処女」ではないと強調した。

コメント
 「嫁入り道具論」は、女性の身体をモノ化し、女性の身体自主権を剥奪し、女性の身体をうやうやしく男に捧げるものである。これは、典型的な家父長制的「貞潔論」である。
 多くの支配は「保護」と関心に基づいているのであり、その本質は、文化構造の罪過を公共道徳に変えるものであり、個人の生活に対する粗暴な干渉である。一度するか一万回するかの回数の区別はけっして重要ではなく、重要なのは女性の身体自主権であり、それゆえ、女性の自由意志ならば、一回もしなくても、一万回しても、「貞操」である。身体は自由であり、「貞操観」は、人を貴賤に分けることによって、女性をさらに抑圧するものであり、いかなる性別の人も、その害毒を受けるべきではない。身体も心理も自由なのであり、心理的に「貞操を守る」ことなど言うべきではない。なんで、女性を一回縛りつけるだけでなく、一生縛りつけ、身体だけでなく、心も縛りつけなければならないのか?

この事件についての日本でのネットの論評
 ・「処女の処の字は」ブログ「辣子辣嘴不辣心 小妹嘴甜心不真」2011年3月5日。

4.北京大学教授が「愛人事件」で解職された

事件の回顧
 北京大学のある教授が2009年に麗江で若い女性と出会い、性的関係を持った。教授は、その女性の北京大学受験を助けることを承諾した。2011年4月、教授は、その若い女性が北京大学に合格できなかったので、教授の家族を脅して、30万元を賠償金として強要したと警察に届けたので、警察が介入した。多くのネットユーザーは、この女性に同情を表明し、矛先を北京大学教授に向けて、「愛人を囲った」ことを譴責した。北京大学は「その行為が教師の身分にふさわしくなく、北京大学の声望・栄誉を損なった」という理由で、教授の教師の職務を解除した。

コメント
 事件は、双方が身分上から見て、たしかに不平等な権力関係にあった。私たちは、優勢な資源を持つ一方が、自己の職業権力を利用して性的な誘惑・騙しを行うことに反対する。なぜなら、それは、弱い側の性の自主権を妨害するからだ。もし教授がこの事件で確かに自己の職務権力を利用して、ウソの承諾をすることによって自己の私欲を満足させたならば、このような行為は、私たちが譴責・排斥しなければならないものであり、関係機構が処罰をしたのも、決して根拠がないことではない。
 けれど、私たちは権力関係が不平等な人間の間の自主的な愛あるいは性に反対はしない。個人の性関係は私領域であり、簡単に身分関係によって権力関係を定義することも、ステロタイプであり、無責任である。教師は「性の規範」の犠牲者になる義務はなく、私生活は個人の権利であって、職業に縛られるべきではない。個人の私生活の選択によって、職業領域での処罰をすることは、人権に対する侵犯である。
 大学はこのような明確な懲罰をすることによって、この職業あるいはその機構が「まじめで」「純潔」であるというイメージを守ろうとした。これが耳を覆って鈴を盗む(頭隠して尻隠さず)ことであるかどうかはともかく、問題の本質は「職業機構の管理者はどんな権利があって、一人の公民の私生活ゆえに、彼の仕事の機会を奪うことができるのか?」ということにある。

遠山補足
 新華網をもとにした下のレコードチャイナの記事によると、教授は、女子高生と愛人関係になった後に、その女子高生がケガをして北京大学を受験できなくなった際、「大学を世話する」と約束したということのようです。ただし、PINK探偵の記事は、男性のほうが、北京大学教授であるという身分を利用したというニュアンスが強いです(中国メディアの報道は確認していません)。

この事件についての日本のネット報道
 ・「北京大の既婚教授、女子高生と愛人関係=停職処分に―中国」レコードチャイナ2011年8月29日
 ・「中国北京大学教授、大学入学を餌に20歳女性と不倫」PINK探偵2011年8月24日

5.同性愛者たちが「ホモフォビア」の言論に反撃した

事件の回顧
 女優の呂麗萍(リュイ・リーピン)が「恥」「罪人」などの言葉で同性愛者たちに対して悪意の中傷をしたため、同性愛者が抗議をし、中国中央テレビを含む多くのメディアも、同性愛者の味方をした(→詳しくは、ゲイサイトの「淡藍網」による「『2011年中国10大セクシュアル・マイノリティニュース』」の1、2参照)。

コメント
 (「淡藍網」が述べていることのほかに、以下の点を指摘しています。)
 ・ニューメディア(インターネットなど)が重要な働きをした。
 ・主流のメディアが初めて「同志」という言葉で同性愛の集団を代表させた。このことは、同志文化の影響力をはっきりと示した(遠山補足:「同志」という言葉は、「LGBT」と訳されることも多く、とくに「同性愛」者だけを指しませんが、他の国と同様、おそらく中国でも、セクシュアル・マイノリティの中で、バイセクシュアルやトランスジェンダーは[場合によってはレズビアンも]軽視されがちな現状の反映として、このコメントのように、「同志」=「同性愛者」という理解がなされることもあるようです)。

6.クィア映画祭10年

事件の回顧
 6月、民間のLGBT団体が主催する第5回クィア映画祭が開幕した。2001年に第1回同性愛映画祭を開始してから現在までに10年が経過したので、組織委員会は意気込んで、これまでにない盛況の映画祭にしようとした。けれども、開幕直前に、この活動は関係機関によって止めるように命じられた。このような不利な局面にもかかわらず、組織者たちは止めることを拒絶し、毎晩、バーやコーヒーハウスを探して臨時の上映場所するというゲリラ的な方法をとることによって、関係機構の妨害を逃れ、映画祭の主要な活動を可能にした(→本ブログの記事「第5回北京クィア映画祭は当局に中止を命じられるも、ゲリラ的に開催」参照)。

コメント
 わが国で公開上映される映画・テレビの作品は、近年少し同性愛の内容も出てきたとはいえ、全体としては「同志文化」の表現・伝達はおろそかにされ、無視されている。すなわち、同性愛者[の役]の出演率は非常に低く、出演する同性愛の人物も、公衆の同性愛に対するステロタイプな印象を踏襲している。
 このことは、明らかに、映画審査制度が主流の価値観と同盟を結んで、異性愛文化に合致しないあらゆる表現形態を萌芽状態で扼殺しようとしていることを示している。民間のクィア映画祭はこのような不利な状況の下で発展し、すでに持続時間が最も長い中国大陸の地下映画祭になっており、現体制に対するクィア文化の嘲弄と逆説的風刺を体現しているとともに、クィア文化をはっきりと示す主体的行動になっている。

7.金星がトランスジェンダーの身分のために排斥された

事件の回顧
 著名なダンサー・金星が、トランスジェンダーであるために、当局の圧力によって、あるコンテスト番組の審査員を下された(詳しくは、「『2011年中国10大セクシュアル・マイノリティニュース』」の9参照)。

コメント
 大衆と異なる性的指向・性別選択は、絶えず差別されているわけではない。金星を例にとると、彼女は比較的高い社会的名声を得ているので、多くの人は、中国社会がもう十分に多元的で包容的になったかのように錯覚する。しかし、実際は、いかに成功していても、汚名(スティグマ)化されたセクシュアリティ/ジェンダーの選択は、大きな刀のように頭上にぶら下がっており、いつ、どのようにして落ちてくるかわからない。その人が必要なときは、相違は無視され、その人を排斥するときは、相違が強調される。これが性差別の日常的あらわれである。

8.李陽の妻が反家庭内暴力のために立ち上がった

 9月、KIMがミニブログで、彼女の夫で「クレージー・イングリッシュ(英語の一つの学習法)」創始者の李陽の家庭内暴力を暴露して、メディアと公衆の議論を引き起こした。李陽は最初このことから逃げていたが、公衆が強く問いただしたので、ついに彼は謝り、KIMと共に心理的補導に参加することを承諾した。けれど、すぐに彼は妻と意思疎通することを再び拒絶し、しきりにメディアに登場して、上調子なことを言って自分の行為について詭弁を弄した。KIMはその後離婚を申し立てた。

コメント
 この事件は、メディア・司法機関・公衆がどのように家庭内暴力に対応するかの試金石だったと見ることができる。KIMの行動はすばらしかったけれども、他の人々にはそれぞれ問題があった。加害者の李陽は、自分の行為について過ちを認めていない。メディアは、視聴率のために絶えず李陽を番組に招いて、弁解とPRの機会を提供し、公共のリソースであるメディアとして、KIMのような弱い立場の女性にもっと多くの話をする機会を与える義務があることを軽視した。少なからぬ公衆も、家庭内暴力に対する正確な認識が乏しく、李陽に対して寛大でありすぎ、かえってKIMを責めることを言った。
 最も重大なのは、この事件において、法律執行機構が、制度と経験が欠けていたために、李陽の行為に対して制裁を加えることができず、かえって、KIMに対してかなりの二次被害を与えたことである。私たちは、政府がもっと責任を持って、反家庭内暴力の法律を早く制定するよう訴える!

遠山補足
 『中国婦女報』の「2011妇女权益年度新闻报告」(2012年1月5日)も、この事件を取り上げていますが、同紙の記述(佟吉清執筆)は、この事件について、当事者の陳述や専門家のコメントなどによって「家庭内暴力が、家庭内部の事柄でも、小事でもないことが、しだいに共通認識になった」というふうに、マスコミの報道の肯定的側面のほうに注目しています。

この事件についての日本語のネット報道
 ・「中国のDV事情(前編)――カリスマ教師の豹変」CRIonline(中国国際放送局)2011年10月13日、「中国のDV事情(後編) ――発生の原因にスポット」CRIonline(中国国際放送局)2011年10月14日。
 ・「『クレイジー英語』のカリスマ教師李陽 DV事件の釈明で四面楚歌?」InsightChina2011年11月30日。

9.性教育が何度も問題になった

 本年度は、性教育に関するさまざまな話題があった。
 まず、華中師範大学の性学専攻の修士卒業生の彭露が性教育の教師になりたかったにもかかわらず、仕事を見つけるのが難しかった。
 つづいて、北京市の小学生の性教育の試験的教材『成長の歩み(成长的脚步)』の挿絵や文が性交の概念を紹介していることが、「(現実より)進みすぎている」とか、はては「わいせつだ」とさえ思われた。
 8月12日、この国際青年デーが「青少年性健康教育基地」によって「青少年性健康教育宣伝デー」と命名され、全国に向けて性教育を推進するよう唱えた。
 10月、上海の「性別教育」の教材『男の子女の子(男孩女孩)』が出版され、上海の18の小学校で試みに教えられた。その内容は『成長の歩み』と大同小異だった。
 11月、あるメディアが、雲南省がアメリカの「貞操を守る性教育」を背景にした「三生教育」(本ブログの記事「禁欲主義的性教育によるアメリカの宗教右翼の中国への浸透に警戒の声」参照)を推進し続けていることを報道し、セクシュアリティやジェンダー学の学者に批判された。

コメント
 性教育の話題が4年連続で「年間のセックス/ジェンダー事件」に入選した。性教育をめぐって毎年多くのニュースと紛争があるのは、その背後に異なった価値観の争いがあるだけでなく、異なった教育理念の衝突があるからである。性について話すことが既に普通になった今日、青少年に対する性教育がこのように難しいのは、成人が青少年に対して「性が無い人間像」を期待することや、「保護」の名の下に青少年に対して社会的統制をすることと関係している。
 性教育の推進の困難さは、一部の管理者に性教育の理念が欠けていて、青少年の性教育に対するニーズを無視していることとも密接な関係がある。性のタブーを強調する「貞操を守らせる」授業は多くの省・市に浸透しやすいのに、性の権利とジェンダーの平等を推進することに努力する性教育はしばしば挫折するのは、政府の一部の役人が「功績があることを求めず、過ちがないことを求める」傾向によって、よく説明できる。
 私たちが提唱すべき性教育は、全面的な性教育である。すなわち、知識・責任・自己保護・ジェンダー平等・性の多元性・性の人権であり、そのうちの一つも欠けてはならない。青少年にとって有益な性教育は、青少年の性の面における自主権・選択権・決定権を承認しなければならない。

この事件についての日本語のネット報道
 ・「小学生向けの性教育テキストが賛否両論 エロ漫画との声も」新華社日本 新華通信2011年8月23日。
 ・「小学生向け性教育テキストに『イラストがエロすぎる』との批判=変わらない親心―北京市」KINBRICKS NOW2011年8月19日。

10.洛陽性奴隷事件

事件の回顧
 ある洛陽の男子が地下室を購入し、1年かけて4メートルの深さの穴倉を掘って、次々とナイトクラブの女性を騙して連れてきて監禁し、性の対象にした。また、その男子は監禁している女性を外に連れ出し、売春させて金を稼がせていた。最も長く監禁されていた女性は、2年間も監禁されていた。9月初め、一人の女性が逃げ出して警察に通報し、犯人は検挙された。同時に、警察は地下室から2人の女性の死体を発見した。各方面から非難されたので、洛陽市は「百日大戦」という取締り活動を展開して、全市の小さな美容美髪庁、小さなダンスホール、小さな浴場、小さな旅館、小さなネットカフェの取締りを強め、いわゆる「ポルノ、賭博、薬物」などの違法犯罪活動を厳しく取り締まった。

コメント
 セックスワーカーが強盗や窃盗、身体の傷害にあったとき、警察には助けを求めにくい。なぜなら、彼女たちを取り締まる者たちには助けを求めにくいからである。何人かの被害女性は長い間失踪していたのに、何事もなかったかのようだったが、彼女たちの人間関係のネットワークは働いていたのだろうか? 監禁していた女性が売春のために連れ出されていた時さえも警察に事件を届けられなかったのは、同様の怖さがあったからではないだろうか? セックスワーカーの人身の安全と権利は、この事件が起きたことによって警察によって重視されることなく、逆に、またも風俗取締りの理由になった。事件後の取締りの措置は、いったい救いなのか? それとも新たな被害者に警察に届けにくい雰囲気を作り続けるものだろうか?
 メディアは「性奴隷」という見出しで人目を引いたが、このようなポルノ小説のような「性奴隷」の描写は、ニュースの中で大々的に報ずるにふさわしいものだろうか? ある意味で、社会とメディアの「性奴隷」に対する関心の裏には、「集団的な情欲」が隠れている。

遠山補足
 『中国婦女報』の「2011妇女权益年度新闻报告」(2012年1月5日)の記述(呂頻執筆)は、この事件について、「『彼女たちはなぜ反抗しなかったのか』という古い問題が再び出現したが、これは、傍観者の精神的優越感に由来するものであり、実際は被害者を暗に譴責するものである。本当は『なぜこのような事件が発生したのか』ということを問題にしなければならない」と述べて、法律や主流道徳が風俗営業に従事している人を隔絶していることが、彼女たちが暴力を受けやすい原因になっていることを述べています。

この事件についての日本のネット報道
 ・「風俗嬢6人を地下室に監禁、『性の奴隷』としていた男を逮捕―河南省」KINBRICKS NOW 2011年9月22日、「【洛陽性奴隷事件】政府職員の犯罪は『国家機密』なのか? スクープの記者を市政府が脅迫―河南省」KINBRICKS NOW2011年9月23日。
 ・「河南省・地下の奴隷部屋に女性監禁・・4人救出し2遺体発見」エクスプロア上海2011年9月22日、「洛陽奴隷部屋監禁事件続報~公安局長の謝罪会見と犯行の動機」エクスプロア上海2011年9月25日。

11.上海の女子中学生の性売買事件

事件の回顧
 11月、上海の警察が女子中学生[日本で言えば、中学生と高校生]の「援助交際」団体を「検挙」したことをメディアが伝えた。20名余りの参加者はみな在学中の中学生であり、そのうち2人は14歳になったばかりだった。彼女たちはお互いに紹介し合って、成人男性に性のサービスをし、経済的な報酬を得ていた。この事件が公表されると、世論は騒然となり、これらの女子中学生に対して、「金銭のために『倫理道徳』に背いた」などと道徳的に譴責する声で世間はいっぱいになった。

コメント
 女子中学生が性を売った事件に対する関心の背後には、隠された性的想像がある。すなわち、主流社会が、セックスワークに対する苦慮を未成年の身体の上に転移しているのである。強烈な道徳的譴責の裏には、社会の責任の軽視がある。
 青少年も同様に、性教育を受ける権利、性の侵犯を拒絶する権利、自己の身体をどのように使用するか決定する権利を含めた「性の権利」を持っている。
 青少年が身体権を行使することで傷つくか否かは、いかなる外界の圧力もない状況の下で、傾聴しなければならないことである。成人が未成年者の考え方を理解するには、必ず、腰をかがめ、身をかがめて、彼ら自身が話すことを聞かなければならず、大人としての態度で禁止したり、叱ったり、観察してはならない。そうしなければ、年齢による抑圧と差別になる。

遠山補足
 『中国婦女報』の「2011妇女权益年度新闻报告」(2012年1月5日)の記述(呂頻執筆)は、この事件について、「『援助交際』という曖昧な新語によって、性道徳についての旧い詢喚[interpellation? ラカンなどの精神分析の概念で「呼びかけ」といった意味?]が繰り返された。性道徳の関心が成人女性ではなく、少女であるとき、気を揉むことがさらに正当化され、ポルノ的な消費価値もさらに生じる。しかし、少女の売春が成人女性の売春よりもさらに恥ずべきだということはけっしてなく、買春客と比べればましてそうである。女性と男性、未成年者と成人という道徳の二重基準は虚偽であり、むしろ、未成年者の違法行為と犯罪に対しては、司法関係者であれ、報道関係者であれ、より寛容な態度でなければならない」と述べています。

この事件についての日本のネット報道
 ・「上海で女子高生ら20人が援助交際、『日本の悪影響が彼女らを』」サーチナ2011年11月6日。
 ・「上海女子中高生『援交』事件、9校20人が関与」人民網日本語版2011年11月7日。
 ・「<レコチャ広場>上海の女子中高生たちはなぜ体を売ったのか? 集団援交事件から考える―中国」レコードチャイナ2011年11月8日。
 ・「上海で10代の女子高生20名による援助交際が発覚」エクスプロア上海2011年11月7日。
 ・「【中国ブログ】上海の女子高生が援助交際、『価値観崩壊』とブロガー憤怒」サーチナ2011年11月9日。
 ・「日本の『援助交際』がなぜ中国でも出現したのか?」中国網日本語版(チャイナネット)2011年11月9日。
 ・「上海で集団『援交』事件 摘発された少女に中学生も」insightCHINA2011年11月9日。
 ・「上海で『援助交際』摘発 原因は日本の『腐敗文化』?」MSN産経ニュース2011年12月3日。

 これで終わりですが、以上でわかるように、この「セックス/ジェンダー事件批評」は、コメントに力を入れており、「私たちは、公衆とメディアに、事件ではなく、私たちのコメントに注目していただくよう希望する」と述べています。たしかに、それぞれのコメントは、性の権利とジェンダー平等の見地から書かれていて、貴重です。今回取り上げたニュースは、日本(語)のメディアも取り上げているものが少なくないのですが、そうしたメディアとも異なった視点を提供していると思います。

 ただ、コメントの中には、やや抽象的・観念的なコメントや一般論にとどまっているコメントが目立つように感じます。もう少し具体的事実を積み上げることによって(場合によっては取材をして)、議論に肉付けをする必要があるのではないでしょうか? またせっかく学者が書いているのですから、学問的な到達点を紹介するなどの工夫をしてもいいと思います。

 また、前回は各コメントに署名が入っていたのですが、今回はまた無署名になりました。一口に「性の権利とジェンダー平等」の視角と言っても、人それぞれ異なりますから、コメントでは、個々の文の文責はいちおう明確にしたほうが良いように思われます。

 また、2の事件について、「男性どうしの情欲についての女性の著作は、性的指向の平等の確固たる同盟軍である」というコメントは、日本で「BL(やおい)とゲイ」との関係についてさまざまな議論がなされている状況から見ると、単純すぎるように感じられます。しかし、中国は、「わいせつ」以前に、「同性愛の表現の自由」が大きな焦点になっていますから、こうしたコメントが自然に出てくるのだと思います。いや、日本でも堺市立図書館からのBL排除騒動(最終的には排除は阻止されたが)のような問題があり、その際、上野千鶴子さんも「ゲイとBL系の間には根深い溝があることは事実です。しかし、BLバッシングの中にある、明らかなホモフォビアを看過するわけにはいきません。ここでは小異を捨てて共通の敵に対して共闘してもらいたいところです」と述べているように(*)、こうした問題については、ゲイの側、さらには同性愛者以外の人々もBLに対する排除や偏見の問題に関心を持つことが重要ではないかと思いました。

(*)上野千鶴子「堺市立図書館、BL本5500冊排除騒動の顛末」『創』2009年5月号。この事件については、寺町みどりさんのブログ「みどりの一期一会」に、「堺市立図書館で『特定図書排除』事件はなぜ起きたのか?」(『む・しの音通信』68号)をはじめとして、他県でのジェンダー図書排除問題などを含めて、同ブログの「『ジェンダー図書排除』事件」カテゴリーで論じられています。なお、堺市の事件のとき排除されそうになったBL本のリストを分析したところ、「性描写がほとんどないか、まったくない本がリストに指定されている」「男性読者向けの本は、男女の性行為の度合いにかかわらず指定されていない」「同性愛文学作品のほとんどが書庫などに置かれているのに対し、ヘテロセクシュアル(異性愛)男性向けの『官能小説』は、その多く開架に置かれている」という特徴が見られたといいます(詳しくは「特定図書排除に関する住民監査請求 補充書」[特定図書リストについての分析―123])。中国のケース(で疑われている事項)と共通するものがあるように思います。
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