2017-10

葉海燕さんが広西を拠点に中国民間女権工作室の活動を再開

 今回は、昨年セックスワークの合法化を街頭で宣伝したために、当局に弾圧された中国民間女権工作室の葉海燕(流氓燕)さんのその後について、まとめてみました(これまでの経過については、本ブログの記事「『第1回セックスワーカーデー』、中国民間女権工作室、セックスワーカーの互助団体の萌芽」、「葉海燕らによるセックスワーク合法化の街頭宣伝と葉の拘束、第2回セックスワーカーデー中止をめぐって」、「中国民間女権工作室(葉海燕ら)に対する当局の弾圧と同工作室の活動停止」など参照)。

葉海燕さんが「セックスワークも仕事である」と宣言するに至るまで

 その前に、先日、『南方都市報』の記者が、葉海燕さんのセックスワーク問題についての今までの活動についてご本人に取材していましたので(1)、まず、その記事の大体の内容を以下にご紹介します。

 葉さんはセックスワーカーの権利について訴えるために、2005年、武漢で中国民間女権工作室を創設し、ネット上でも「紅塵網」というサイトを開設しました。2006年1月には、自宅の電話を使って、「紅塵熱線(ホットライン)」というセックスワーカー向けの電話相談も開始しました。

 電話相談の過程で、葉さんは、深圳のセックスワーカーの瑶瑶さんという人と知り合い、彼女にもサイトを管理してもらうようになりました。瑶瑶さんは、自分自身がセックスワーカーなので、セックスワーカーの情況をよく理解していたうえに、葉さんと価値観の衝突もなく、聡明でよい人だったとのことで、葉さんも厚く信頼していたそうです。

 ところが、瑶瑶さんは、2006年末、接客をしていたときに殺されてしまいます。葉さんは大きなショックを受けました。

 瑶瑶さんの事件が起きる前は、中国民間女権工作室と紅塵網は、他の中国の大多数の機構と同様、セックスワーカーの健康保護とエイズ防止のための活動を中心におこなってきました。けれど、瑶瑶さんの死後、葉さんは、「なぜ彼女たちの生存環境はこのように劣悪なのか?」「彼女たちに対する社会の差別と暴力は、まさか当然だと言うのではあるまい?」「法律は彼女たちに対して公平なのか?」といったことを深く考えるようになりました。

 葉さんは仕事を辞め、すべての力を女権工作室に注ぐようになりました。

 2009年ごろには、葉さんは「セックスワーカー問題の根源は、社会の彼女たちに対する差別と暴力にある。この問題を解決しなければ、コンドームの使用率を向上させることもできない」と考えるようになりました。

 葉さんは言います。「ある人は『売春婦になる原因は、善良な者が娼婦になることを強いられるか、安逸をむさぼって働くのを嫌っているかの2つしかない』と考えている。けれど、あなたがセックスワーカーと接触したら、彼女たちは普通の人でしかないことがわかるだろう。セックスワーカーになるのも、生きるためであり、家族を養うためである。なぜ他の仕事を選ばなかったのかと問えば、学歴がなくて、技術を必要としない仕事にしか就けないからかもしれないし、もう少し良い物質的生活を求めたいということも当然ある。」

 しばらくの間、葉さんは、セックスワーカーの人々の信頼を得るために、何度か実際に売春をしてみました。葉さんは、それまでは「売春と一夜限りの恋との違いは、金を貰うか貰わないかだけだ」と考えていたそうですが、実際やってみると、その大変さに震えあがりました。「客の要求が多くて、自分自身の思いや尊厳を顧みることはまったくできない」。

 葉さんは言います。「誰が『セックスワーカーは、安逸をむさぼって働くのを嫌っている』と言うのか? 仕事はきついし、たくさん接客するのに、収入は少ない。警察はしょっちゅう拘留したり、罰金を取ったりするから、仕事はいつもできないし、金も罰金でみんな取られてしまう。客に対する選択権はあるのか? 今日は飯を食う金がなく、明日は子どもの学費が必要なのに、客が『コンドームを使うな、使うならやめる』と言ったら、どうするか?」

 こうした考えから、2009年、葉さんは「セックスワークも仕事である。セックスワーカーも公民として各種の基本的権利を保障されるべきだ」と宣言しました。「けれど、実際は、現在、社会のセックスワーカーに対する差別は、彼女たちが強盗・強姦・殺害されても同情されず、警察も気にかけないまでになっている」と葉さんは言います。

 本ブログで前回までにお伝えしてきたような警察の介入によって、中国民間女権工作室に資金を援助してくれるプロジェクトはなくなってしまいました。また、武漢の警察が絶えず葉さんの家主に圧力をかけたために、葉さんは次々に引っ越さざるをえなくなります。最後には、葉さんは、武漢を離れて、広西チワン族自治区の友人のもとに身を寄せざるをえなくなりました。

第2回エイズ防止とセックスワーク国際研究討論会での発言

 葉さんは、今年6月、国連人口基金が北京で開催した「第2回エイズ防止とセックスワーク研究討論会(2nd Internationl Workshop on HIV Prevention in Sex Work)」に出席して、以下のような発言をしました(2) (要約・抜粋です。翻訳にも不正確なところがあると思います)。

 私はかつて小学校の教師でしたが、家庭が貧困だったので、20歳を少し過ぎたとき、南方でカラオケの相手をする女性(陪唱小姐)をしたことがあります。当時、私の身の回りには多くのセックスワーカーがいましたけれど、私の思想はまだ主流の思想の影響を受けており、女性の性の自由と社会的名誉を金銭のために失いたくありませんでした。

 しかし、2010年、私は非常に貧困な日々を経験しました。私には仕事がないのに、家賃を払う金が必要であり、子どもを養う金も必要でした。私は男性と性の取引をしました。

 現在は、私は賃金をもらうようになり、どうにか自分の子どもを養うことができるようになりましたので、セックスワークはやめました。

 しかし、大多数のセックスワーカーは、このような選択はできません。セックスワークは、大多数の貧困な女性にとっては、仕事であり、生きるための手段であり、生存の苦境を解決する唯一のやり方なのです。

 去年、中国の公安部が、セックスワーカーを「売春婦(売淫女)」でなく「過ちを犯した女性(失足婦女)」と呼ぶようにするという情報を聞いて(遠山注:2010年12月11日の公安部治安管理局局長の劉紹武の発言)、私は希望を感じました(遠山注:といっても、葉さんは、他の場では、「失足婦女」も「差別的な言葉」だと指摘しています(3)。その点をここでは言っていないのは、この会議には、政府関係者も出席しているので、政府の変化をひとまず肯定したうえで議論しようとしたからだと思います)。

 しかし、残念ながら、その後も、セックスワーカーのエイズ防止関与の領域では何の良い変化もありません。

 現在、以下のような問題が普遍的に存在しています。

 1.コンドームが依然として、犯罪の証拠になっています。そのため、多くの場所では、コンドームを置いておくことはできず、セックスワーカー自身もコンドームを持つことができないため、コンドームなしの性の取引も普通のことになっています。

 2.掃黄(売買春取締り)のために、セックスワーカーの生存空間は以前よりもさらに狭くなり、自己を保護する力も弱くなりました。彼女たちの一部はすでに固定的なレジャー施設から他の「隠匿された」職業に入りました。たとえば、ホテル、スーパーマーケット、さらには自動車による野外での取引さえしています。

 3.掃黄によって、客が少なくなり、収入も少なくなったために、コンドームのコストが相対的に高くなって、買いにくくなったり、そもそも使わなくなったりしています。

 4.商売がやりにくくなったため、客の「コンドームなしでセックスしろ」という要求に対しても、黙って受け入れます。

 私は、掃黄はエイズ対策にとってけっして良い影響はなく、貧困なセックスワーカーと彼女たちの家庭を傷つけるものだと考えます。

 ここで、私は、NGOの活動を6年間おこなった草の根の願望を述べたいと思います。

 第一に、セックスワーク問題においては、エイズ防止とセックスワーカーの生存を最も重要なこととして扱い、[売買春を禁止している]法律をセックスワーク集団のエイズ防止の上での突破できない障害にはしないことです。

 なぜ国家がエイズ防止のために社会全体を動かし、全人民に参与するよう提唱しているかと言えば、私の理解では、エイズ防止の大きな堤防のどこかに裂け目があれば、私たちの予防活動全体が意義を失ってしまうからです。しかるに、セックスワーク集団は、法律的原因によって、みんなに回避される大きな裂け目になっています!

 私は、若干の異性愛の男性感染者も性的に活発であり、その一部は、性の売買の経験があることを皆さんに知ってほしいと思います。私には、すべての男性にコンドームをつけさせる自信はありません。しかし、私たちには、少なくともすべてのセックスワーカーが、自分を保護する力を持ち、彼女が数十元の収入を放棄しても、コンドームを付けることを選択したいと思うようにすることはできます。

 セックスワーカーはエイズの第一の被害者です。こんなに多くの感染者が普通の人々の中に潜在しているとき、誰がセックスワーカーの健康と生命に関心を持つのでしょうか。社会に普遍的に差別が存在するときに、誰がセックスワーカーの健康と生命を気に掛けるのでしょうか。

 第二に、国家が、セックスワーカーのケアをするグループの発展を重視することです。

 過去五年間に同性愛者のためのエイズ防止グループは急速に発展し、全国に少なくとも300はあります。けれども、セックスワーカーと直接橋渡しをし、交流をする組織は、まだ20を超えていません。これは、人口が非常に多い中国では、明らかに微小な数字です。

 私は、セックスワーカーが、人に感染させやすい危険なグループとしてみなされるのではなく、普通の女性として、基金や政府、民間組織から健康サービスを提供されることを希望いたします。


広西の玉林市博白県の自宅を拠点にして活動を再開

 今年8月1日、葉さんは、中国民間女権工作室が主管する団体として、「浮萍健康服務工作室」(「浮萍」とは浮草の意)を商工登記(企業として登記)しました。詳しい事情はわかりませんが、商工登記をするというやり方は、中国では非営利団体が法定NGOとして登記をすることが難しいために、便宜的におこなわれている方法のようです。ですから、浮萍健康服務工作室の活動の内容としては、中国民間女権工作室がやってきた、電話相談とか、セックスワーカーのもとに出向くアウトリーチ活動などが書かれています(4)

 また、葉さんは、中国民間女権工作室のサイト(中国民间女权工作室)を再建し、12月3日に公開しました(5)

 さらに、葉さんは、広西の玉林市博白県の自宅の客間を、活動のためのセンターとして提供しました(6)。12月4日には、そこで浮萍健康服務工作室の会議を開き、9人のボランティアなどが参加して、今後の活動として、上映サロンを毎週1回おこなう[映画やドキュメンタリーを上映するようです]、ポスターを発行する、アウトリーチ活動で宣伝資料を配布する、などのことを決めました(7)。 

 葉さんは、武漢市での活動にも引き続きタッチしています。すでに中国民間女権工作室の旗下に、「武漢市姉妹花健康サービスセンター(武汉市姐妹花健康服务中心)」という団体が設立されています。「センター」といっても、経費がないため、専用の部屋はなく、資料などは個人の家に置いているそうですが、それでも、責任者が2人、ボランティアが7人いて、電話相談のほか、毎月のアウトリーチ活動(写真:武汉姐妹花外展图片)によって、リプロダクティブヘルスやエイズ防止のための活動をしていることが公表されています(8)

 さらに、葉さんは、武漢でまた事務所を開設できないか、資金などの提供を求めているところです(9)

 当面は葉さんは以前のようなセックスワーク合法化のための公然とした街頭宣伝はできないのではないかと思いますが、武漢を追われた後も、不屈に活動を続けておられることがわかります。

(1)“流氓燕”, 挑战者的落寞离场」南都網2011年9月6日。
(2)第二届艾滋病防治与性工作研讨会叶海燕新浪微博直播内容及发言稿(北京)」China AIDS Group 中国艾滋病网络【China AIDS:6622】2011年6月30日、「第二届艾滋病防治与性工作研讨会叶海燕发言稿(北京)」中国発展簡報2011年7月1日。「発言稿」とあるように、これは事前の原稿であり、実際には、発言の途中でセックスワーカーの状況が頭をよぎって涙を流したり、時間の関係もあったりして、葉さんは、この通りには発言できなかったそうです。なお、この研究討論会(ワークショップ)については、国連のサイトにも記事があります(UN-led Workshop Engages Sex Workers to Reduce HIV Transmission in China)。
(3)呼吁中国媒体停止一切歧视女性性工作者的报道」流氓燕的博客2011年8月29日。「失足婦女」への改称については、他の論者もその限界や問題点を厳しく指摘しています(楊光志「改叫失足妇女 徒具姿态的悲悯」『生活新報』2010年12月13日、羽戈「捍卫权利比改名“失足妇女”更重要」2010年12月13日、張楠之「取消“卖淫女”称呼 更要取消标签式歧视」華声在線2010年12月13日、堂吉偉徳「改称“失足妇女”更需防范“强拆思维”」『南方都市報』2010年12月14日、「公安部改称“失足女” “尊重”背后的软暴力」『女声』62期、凝眸「软暴力之下何来“尊重”?」網易女人2010年12月14日)。
(4)浮萍健康服务工作室今天正式成立,拿到营业执照了」流氓燕的博客2011年8月1日、「关于浮萍健康服务工作室的运转」流氓燕的博客2011年10月12日。
(5)叶海燕「中国民间女权工作室网站再一次开通!」中国民間女権工作室サイト2011年12月3日。
(6)中国民间女权工作室网站开通了,武汉需要一间办公室」流氓燕的博客2011年12月6日、光永「一元放映沙龙」中国民間女権工作室サイト2011年12月6日。
(7)光永「博白县浮萍健康工作室会议结果」中国民間女権工作室サイト2011年12月6日。
(8)叶海燕「武汉市姐妹花健康服务中心简介」中国民間女権工作室サイト2011年12月3日。
(9)中国民间女权工作室网站开通了,武汉需要一间办公室」流氓燕的博客2011年12月6日。
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