2017-09

中国の女性副省長――「中国女性発展要綱(2011-2020年)」をめぐって(その2)

 前回の記事「『中国女性発展要綱(2011-2020年)』をめぐって(その1) 」の続きです。

 「中国女性発展要綱(2011-2020年)」の記者会見における質疑応答(1)で、AP通信の記者は、「中国では、みんなが『中国の女性は天の半分を支えている』と言っているけれど、政治への参与の領域を見ると、劉延東国務委員一人だけが天の半分を支えている。どのような要因が現在の状況をもたらしたと考えているのか?」と尋ねました。

 それに対して、宋秀岩さん(国務院女性児童工作委員会副主任、中華全国婦女連合会副主席・書記処第一書記)は、「あなたは今、劉延東政治局委員・国務委員(*)の名前を挙げたが、全国人民代表大会副委員長に3人の女性がおり、全国政治協商会議副主席にも4人の女性がいる」、「省、地区、県政府指導部の女性配属率は、2000年がそれぞれ64.5%、65.1%、59.8%だったが、昨年は87.1%、89.4%、86.2%に上昇した」「省の政府に女性の副省長がいる省が87.1%である」といったこと述べました。
 (*)「政治局」とは、中国共産党中央政治局のこと(Wikipediaによる説明)。国務委員については、中華人民共和国国務院についてのWikipediaによる説明参照。

 しかし、まず、現在、政治局委員は25人もいますし、国務委員も10人います。それなのに、そのどちらにも女性は1人(劉延東)しかいないという事実がある以上、宋さんの説明は説得力に欠けます。全国人民代表大会や全国政治協商会議の副委員長は、あまり実権がないと思いますし。

 地方の政府指導部の中に女性が増えていることは確かです。女性副省長に関しては、宋さんの発言を受けてでしょうか、会見の翌日、人民網が「中国には26の省に28名の女性副省長がおり、最も若い副省長は43歳である」という見出しで、28人の副省長(直轄市の女性副市長と自治区の女性副主席を含む)の写真と経歴を詳しく紹介した記事を掲載しました。中国の31の省のうち女性の副省長がいないのは、遼寧・吉林・湖南・貴州・青海だけで、甘粛と広東には2人の女性副省長がいるそうです(2)

 しかし、現在、中国には、女性の省長は1人もいません(2010年1月に、宋秀岩さんが青海省長から、全国婦連の党グループ書記・副主席・書記処第一書記に転任して以降:本ブログの記事「ただ一人の女性省長・宋秀岩さんが辞職──歴史的にも女性の省のトップはごく僅か」参照)。副省長というのは、各省に7、8人いるのですから、女性が各省に1人程度いても、それほど女性の地位が高いとは言えません。

 人民網の記事からは、28人の女性の副省長のうち、6人は少数民族で、6人は共産党でない人(民主同盟、民主進歩党、九三学社、農工民主党、無党派)であることもわかります。これは、「指導部に女性も1人は入れなければならない」「少数民族も1人は入れなければならない」「党外の人も1人は入れなければならない」という中央の要求がそれぞれあるために、「女性であり、かつ少数民族である人(または党外の人)」を1人だけ指導部に入れておく(→そうすれば、マジョリティである漢民族の男性がより多くのポストを占めることができる)という状況が若干あることを示しているのではないかと思います。こうした現象は、中国でも、「無知少女」=「無党派(または民主党派)であり、かつ知識人であり、かつ少数民族である女性」を指導部に選出するやり方だとして、批判の声が上がっています(3)

 また、女性副省長の件に関しては、『南方日報』の記事(4)は、人民網が述べていない以下の1)~4)の点も指摘しています。

 1)女性副省長がいない省のうち、2008年の改選以来ずっと女性副省長がいなかったのは貴州だけで、他の省は、任期中に職務の調整で他の部署に転出したため、欠員になった。その際、女性の副省長を補充する措置は取られていない。
 →この点は、「女性の副省長を置く」という方針も、けっして確固としたものではないことを示していると考えられます。

 2)女性の副省長の大多数は、教育・科学技術・文化・衛生・スポーツなどの仕事を担当している。
 →この点は、ある種の性別役割分業であり、女性の副省長は、より重要であると考えられている財政、経済、工業・農業、建設などの仕事は担当していないことを示しています。唯一の国務委員である劉延東さんの職務も、「教育、科学技術、文化・メディア、スポーツ、香港・マカオ」担当です(5)

 3)中国の女性の政治参加構造には、「三多三少」(副職が多く、正職が少ない、虚職[実権のない職]が多く、実職[実権のある職]が少ない、周縁の部門が多く、主力のラインが少ない)という問題がある。
 →この点は、これまでご紹介してきたことで理解していただけると思います。

 4)一部の地方は、中央の「各レベルの指導部には少なくとも1名の女性幹部がいなければならない」という目標を、「指導部には女性幹部が1名いればいい」と理解する。だから、女性の「比率」を規定しなければならないと提案する学者もいる。
 →この観点から、「中国女性発展要綱(2011-2020年)」を見ると、「県レベル以上の地方政府の指導部の中には1名以上の女性幹部がいなければならず、かつ一歩一歩増やさなければならない」となっており、不十分であることがわかります。

(1)2011-2020年中国妇女儿童发展纲要新闻发布会举行」国務院婦女児童工作委員会サイト2011年8月10日。
(2)中国26省份共有28名女副省长 最年轻女副省长43岁」人民網2011年8月10日。新華網日本語版も、「87.1%の1級行政区政府指導部に女性進出」(2011年8月10日)と報じています。
(3)最近も、「制度框架下的“无知少女”现象研究——基于湖北省女性领导干部的访谈」(『婦女研究論叢』2011年2期)という論文が出ています。
(4)26省有28名女副省长 男女干部同龄退休呼声高」『南方日報』2011年8月10日。
(5)梁旭光主編『民主政治進程与婦女参政』(済南出版社 2003年)にも、「指導部の中の女性幹部は正職が少なく、重要な仕事を担当している者は少ない。」「私たちのアンケート調査[山東省での調査]では、[女性の]処クラスの幹部20人のうち、全面的に責任を負っているのは1人(5%)であり、経済・司法の仕事を分担しているのは1人(5%)、文教・衛生・計画生育の仕事を分担してるのが13人(65%)であり、大衆団体[婦女連合会、青年団など]を分担しているのが5人(25%)であり(……)女性の指導幹部が主に分担しているのは文教・衛生・計画生育・大衆団体の仕事であり、全面的に責任を負っていたり、経済・司法など経済建設の中で非常に重要な仕事を分担している者は少ないことがわかる」(184-185頁)とあります。
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