2017-11

『中国婦女運動百年』――誰のための豪華写真集?

 今年3月、中華全国婦女連合会編『中国婦女運動百年』(中国婦女出版社 2011年)が出版された。この本は、同会が国際女性デー100周年を記念して刊行した写真集である。

 本書は、A4サイズ、369ページであり、700点余りの図版(大半が写真)を収録している。赤い箱入りで、重さが3kgもある豪華本であり、680元もする(ネット書店「書虫」のデータベースの中のこの本のデータ。日本円でも、「書虫」の割引価格でも23510円した)。

中国婦女運動百年2


 本書の構成は以下のとおりである。

第1章 啓蒙と覚醒 1910~1921
 三八国際女性デーの誕生
 辛亥革命と女性運動の起こり
 五四運動の中の各界の女性の闘争

第2章 抗争と解放 1921~1949
 建党初期の女性運動
 革命と戦争の年代の女性運動(女性が反帝反軍閥闘争に参加する、女性が革命根拠地を建設・防衛する、女性が抗日救亡に身を投じる、女性が解放戦争を支援する)

第3章 新生と自強 1949~1978
 女性が解放されて立ち上がり主人になる(法律を公布し女性の権益を保障する、抗米援朝)
 女性が社会主義建設に身を投じる(女性が農業生産に参加する、女性が工業生産に身を投じる、女性が社会事業に参与する、女性が国防建設に参加する、女性の国際交流)

第4章 開拓と奮進 1978~2010
 女性の発展の新時代
 女性の事業の全面的進歩(女性と経済、女性と社会事業、女性と軍事、女性の広範な交流)

 近現代の中国の女性の図版(写真)を集めた書籍として、私がいま持っているのは、呉燕編著『百年中国社会図譜 従小脚女人到社会半辺天』(四川人民出版社 2003年)(ネット書店「書虫」のデータベースの中のこの本のデータ)であるが、同書は240ページ余りで、掲載している写真数は(同書の中には記されていないが、ざっと数えてみると)大体3~400枚である。すなわち、『中国婦女運動百年』のほうが、2倍程度の枚数を掲載している。ただし、重複している写真はそれほどないので、『百年中国社会図譜 従小脚女人到社会半辺天』も有用であるし、同書は、「女性運動」以外の写真、たとえば1920-40年代の「都市の女性の『新しい生活』」の写真なども比較的収録しているという特徴もある。

 『中国婦女運動百年』には、今回初めて公表される貴重な歴史的写真も少なくないという(「新作推荐:中国妇女运动百年」中国婦女研究網2011年6月13日)。また、『中国婦女運動百年』は写真用の上質の紙を使っており、サイズも大きいため、比較的写真の細部がわかるようになっており、『百年中国社会図譜』にも収録されている同一の写真であっても、『中国婦女運動百年』の方が、若干ながら、鮮明な場合がある。もちろん古い写真は元々の画質が悪いので、単にボケボケの写真が大きくなっただけ、というものも多いのだが……。

 私には、第2章「抗争と解放」が一番見ごたえがあった。私はこの時代についてはあまり研究していないこともあり、どの写真が初出なのかわからないが(もっと写真の来歴を書いてほしいと思う)、女性のさまざまな運動の写真に思わず引き込まれた。鮮明でない写真に、粗末な服装の女性たちが写っているものが多いのだが、デモの写真、女性兵士、女性の生産(農業、裁縫など)参加の写真などがある。全体しては、抗日戦争など、戦争に関係したものが多い。

 中華人民共和国建国後を扱う第3章と第4章は、章の冒頭に、毛沢東(第3章)、小平・江沢民・胡錦濤(第4章)という歴代の指導者の女性に関する言葉と彼らが女性の活動家に接見している写真とが掲げられている。

 また、第3章と第4章は、女性に関する会議や、女性指導者・傑出した女性・模範的女性労働者の写真の比重が高い(第2章にも女性指導者の写真などはかなりあるが)。一般の女性大衆が農業生産や工業建設に参加している写真あるが、それらも、『人民日報』や『人民画報』に掲載されているような記念撮影的な写真、女性が笑顔で頑張っている写真が多い。こうした写真しか残っていないのであろうか?

 それでも、中華人民共和国初期の写真は、当時の婚姻法の宣伝や、土地改革による女性への農具の分配、識字クラス、元妓女の生産参加などの情況の一端がわかって興味深いものもあった(といっても、これらも、多かれ少なかれ、記念写真的なものであると思われるが)。

 改革開放後を扱っている第4章は、他の章と異なり、ほとんどが美しいカラー写真である。その分、印刷費もかかっていると思うが、資料(史料)的価値はほとんどないように思う。なぜこの章に70ページも費やすのであろうか?

 また、「婦女連合会」の歴史ではなく、「女性運動」の歴史の本なのであるから、改革開放後については、もっと個々の女性NGO(せめて法定NGOでいいから)の活動の写真くらい載せるべきではないか。本書では、女性NGOが先駆的におこなってきた法律相談やDV反対の宣伝活動についても、婦女連合会がおこなっているものしか取り上げられていない。

 また、本書は、女性運動史の本でありながら、性差別の問題は、少ししか扱われていない。その点とも関係するが、女性が抑圧された面、歴史の暗い面は、封建社会や帝国主義によるものしか描かれていない。もちろん、そうした問題は、必ずしも本書に限ったことではないし、そもそも近現代史や運動史の暗部を示す写真はあまり残っていないのかもしれない。しかし、たとえば、中国の新聞や雑誌にたまに掲載されている、女性の状況に対する風刺漫画などを収録することによって、女性運動が直面した困難や障害も示すこともできたと思う。また、改革開放以後に関しては、さまざまな写真が残っているはずだ。たとえば、中華全国婦女連合会の機関紙の『中国婦女報』にも、とくに1988年~1989年ごろは、下のような写真が掲載されていた。上が江蘇省の郷鎮工場で働いていた15歳の女性の児童労働者であり(1988.7.27 ニ面)、下が民主化運動のときに天安門広場に登場した『中国婦女報』の隊列である(1989.5.19 一面)(この2文は、7月28日追記)。

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 本書は、各章に軍事関係の項目があり、中国の女性運動と戦争や軍事とのつながりを感じさせられる。この点は、もちろん、抗日戦争など、中国革命が起きた歴史的条件によるものではある。しかし、第3章でも、抗米援朝(朝鮮戦争支援)に6ページが費やされており、非常に若い、あどけないような(20歳未満のように見える)女性兵士が戦場に赴いている写真(187頁)には、胸が痛んだ。改革開放後を扱った第4章でも、「女性と軍事」が1つの項目になっており、初の女性の戦闘機パイロットたちや国慶節の閲兵式の写真が掲載されている。

 本書は、最初に述べたように、680元の箱入り豪華本である。『百年中国社会図譜 従小脚女人到社会半辺天』は、ページ数が2/3程度だったとはいえ、価格は38元で、本書の1/20程度だった。本書が良質の紙を使っていることは、たしかに写真集としてふさわしいであろう。しかし、このような高価な豪華本にすることが、中国の女性にとってどのような意味があるのか、疑問に思わずにいられない。一般の女性がこのような高価な本を手に入れるとは思えない。むしろ、中華全国婦女連合会の古い、権威的な体質を示している面があるのではないだろうか。

 上でも述べたように、第3章と第4章の冒頭に政治指導者を置いていることや、第4章では、多数のカラー写真を配して、中華全国婦女連合会の下で現在の女性がひたすら明るく活躍している姿を強調していることにも、同会の体質は示されていると思う。

 ただ、初出の写真も少なくないのならば、日本でも、どこかの大学図書館が購入しておいてほしいと思うが、NACSIS Webcatで調べてみたところ、まだ購入した図書館はないようである。やはり高価すぎるのが問題であろうか? 実は私も価格を確認せずに注文して、あとで後悔したのであるが……。

[おことわり]最初に書いた文に「また、朝鮮戦争に行く前の男性と労働模範の女性とが結婚式を挙げている写真(169頁)も掲載されているが、戦場に行くことと結婚とが関係していたとしたら……と考えると複雑な気持ちになった(この写真が撮影されたのは休戦間際の1953年であるから、おそらくこの男性は無事に帰ってきたと思うが)」と書いていたのは、誤読で、戦場での結婚式でした。それはそれで、特異なものだと思いますが。
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