2017-10

台湾の小中学校でのセクシュアル・マイノリティについての教育開始を前にした議論

2011年度から小中学校で多元的な性的指向について教育を開始

 昨年3月、台湾の教育部は、2011年度から小中学校(国民小学、国民中学)でもセクシュアル・マイノリティについての教育を開始することを発表しました(1)

 具体的には、2011年度から施行される「97年国民小中学九年一貫課程要綱(100学年度実施)[97年國民中小學九年一貫課程綱要(100學年度實施)]」の「重要テーマ」の一つの「ジェンダー平等教育」の「段階別能力指標」(合計69の指標がある)として、「国民小学5、6年」段階で、1-3-3「多元的な性的指向を理解する」を挙げ、「国民中学」の段階では、1-4-3「自己の性的指向を理解する」を挙げました(「國民中小學九年一貫課程綱要重大議題(性別平等教育)[PDF]」p.3)。

 現在おこなわれているのは、2003年に作成された「92年国民小中学九年一貫課程要綱[92年國民中小學九年一貫課程綱要]」の「両性教育」のテーマを、2004年に「ジェンダー教育平等法(性別平等教育法)」が施行されたために、翌年「ジェンダー平等教育」に改めたものですが(性別平等教育[word])、上の赤字箇所のような指標はありませんでした(「國民中小學九年一貫課程綱要重大議題(性別平等教育)修正草案對照表[PDF]」p.6参照)。

 教育部は、多元的な性的指向を含めたジェンダー教育をするために、大学に委託して教師向けのハンドブックを作成したり、教師の研修に着手したりしています(2)

反対派の署名運動

 ところが、この4月、インターネット上に、反対派の署名運動が出現しました。あるサイト(【反對教育部在國小國中性別平等教育中納入同志教育】連署書)では、以下のような訴えに賛同する署名を求めています。

 私は、教育部が100学年度[中華民国100年=2011年]から国民小学・国民中学のジェンダー平等教育の中に同志[=セクシュアル・マイノリティ、LGBT]教育と多元的な情欲という内容を組み込むのに反対する。「同性グループ交友期」から「同性親友期」に入る段階にある小中学校の学生に、多元的情欲と同志教育をすることは、その年齢の成熟度の子どもに「性自認」と「友人関係」における混乱を生じさせ、学生の心身の健康な発展を損なうからである。

 私は、個人の性的志向を尊重し、差別しないけれども、この年齢の段階で多元的情欲と同志教育をすることには反対である。


 また、「台湾真愛聯盟」を名乗る団体は、「教育部が国民小学・国民中学のジェンダー平等教育の中で性の解放を奨励することに反対である」という署名を呼びかけています(連署反對教育部在國中、小實施同志教育與多元情慾內容)。この署名は、教師向けのハンドブックの記述が「児童のジェンダーの認知を混乱させ、青少年に性行為をするよう奨励するとともに、多元的情欲(同性愛、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クエスチョニングさえ)および多元的家庭(男と男の結婚、女と女の結婚、性と愛が分離したパートナーなど)を発展させようとしている」と述べ、「私たちは、個人の性的指向を尊重し、差別しないけれども、小中学の教育段階で、多元的情欲・多元的家庭・多元的婚姻の教材を加えることに反対である」などと訴えています。具体的には、教師向けのハンドブックに、「ジェンダー平等社会像」として「婚姻が男と女で構成されるとは限らない」と書いてあったり、LGBTプライドパレードへの参加について書いてあったりすることを問題にしています。

 署名を集めている団体の実体ははっきりしないのですが、どうも一部の保守派のキリスト教の団体が関わっているようです(3)

賛成派も署名運動

 そうした動きに対して、台湾青少年性別文教会(臺灣青少年性別文教會(好性會) )などセクマイ・クィア系の団体は、小中学校でのセクマイ教育に賛成する署名(支持教育部在中小學教育納入同志教育)を集めました。

 この署名では、小中学校でセクマイについての教育をすべき理由として、だいたい以下の10項目のようなことを挙げています。
 1.セクマイの生命の価値を重視する……汚名と差別という逆境の中で成長しているセクマイの生命の価値を軽視してはならない。
 2.性的指向による差別を減らす初級の予防になる……小学校から教育を始めることは、性的指向による差別をなくし、セクマイの学生に対するいじめを防ぐ上で有利である。
 3.子どものセクマイが存在している事実を正視する……多くの人は、小中学生のときに、すでに自分が同性愛か異性愛かがわかっており、異性愛の教育だけでは、すべての学生のニーズに対応することはできない。自分のジェンダーと性的指向に直面する時こそが、学校が多元的な性的指向についての教育を提供する最も適切な時期である。
 4.セクマイの孤独と絶望感を減らす助けになる
 5.同性親友期は、同性関係だとは解釈しようがない……「同性グループ交友期」から「同性親友期」に入るというのは、異性愛中心の発想にすぎない。多くの同性愛者は小さい時は同性の親友はまったくおらず、むしろ異性の友だちと仲が良い。
 6.セクマイが異性関係に陥るのを防ぐ……セクマイが異性の友人との交際やお見合いをして異性婚姻をするよって双方の家族が傷つくことを防ぐ。
 7.セクマイは興国である。情欲と道徳とは関係ない……異性愛の婚姻を神聖な唯一の価値と見なすことに反対する。異性愛の情欲も、同性愛の情欲も、品徳とは無関係である。同性関係の性を異性関係の性と比べて危険だとみなすことは、同性関係に対する差別である。安全な性行為を教えないことは、未婚の妊娠や性病の伝染の問題をさらに大きくするだけだ。歴史的にセクマイはずっと存在している。セクマイの著名人の傑出した行動を見ると、セクマイは国を滅ぼさないだけでなく、国を振興することができる。
 8.異性愛の婚姻だけを尊ぶことに反対する……同性の婚姻と家庭も、幸福な婚姻と家庭になりうる。
 9.多元的な異性関係を理解するのに有利である
 10.セクマイに対するフレンドリーさは、小さい時から教えるべき……学童のセクマイに対する差別と偏見は根深く、それらをなくすのは非常に困難である以上、セクマイに友好的になる教育は、小さいときから根本的にやらなければならない。

 また、この署名は、2005年に公布された「ジェンダー平等教育法施行細則(性別平等教育法施行細則)」がすでに「ジェンダー平等教育の関連課程は、感情教育・性教育・同志[セクマイ、LGBT]教育などの課程をカバーして、学生のジェンダー平等意識を向上させなければならない」(13条)と規定していること、その後も議論が積み重ねられてきたことを述べて、「小中学校に多元的な性的指向を組み込むことは、性急な政策ではない」とも主張しています。

・この署名の発起団体は、以下のとおりです。
臺灣青少年性別文教會、臺灣青少年性別文教會好人團、國立東華大學Rainbow Kids同伴社、慈濟技術學院七彩撿樂社、國立屏東科技大學性別暨同志研究社(嫐社)、國立高雄師範大學同志文化研究社、國立中山大學G.Bi.拉同志文化研究社、國立成功大學TO‧拉酷、南華大學彩虹平道、國立中正大學酷斯拉、國立彰化師範大學性酷社、國立中興大學性別文化研究社、國立臺灣大學女性研究社、國立政治大學陸仁賈、高中生制服聯盟、元智大學性/別元素讀書會、小YG行動聯盟、陽光酷兒中心、國立屏東高級工業職業學校輔導室、集合出版社、台灣伴侶權益促進聯盟

・署名団体は、以下のとおりです。
彩虹天堂-中區同志健康文化中心、成蹊同志生活誌、國立中央大學性/別研究室、國立清華大學性別研究社、國立台灣大學浪達社、台灣TG蝶園、Bi the Way拜坊雙性戀社團、h*ours café、國際陰陽人組織OII-Chinese、國立台灣海洋大學酷兒社、台灣同志諮詢熱線協會南部辦公室、台灣同志家庭權益促進會、網氏/罔市女性電子報、彩報、婦女新知基金會、基本書坊G Books、國立台灣大學性別與空間研究室、輔大好社FJUGoodclub、QinS Queer in South、國立臺灣大學男同性戀社NTU GayChat、台灣性別平等教育協會、高雄醫學大學性別所、應許者基督徒行動聯盟

 また、この署名とは別に、国立中央大学性/別研究室の何春蕤教授は、台湾真愛聯盟の署名について、「自分は台湾の性解放の始祖だが、真愛聯盟は性解放とは何かがわかっていない。教育部の要綱は、性解放にはまったく到達していない。真愛聯盟は教育部を過大評価している」(大意)といった批判をしました(4)

教育部の対応

 台湾の教育部も、4月27日、セクマイ教育導入に反対する署名に対して、「教育部は法によってジェンダー平等政策を推進しており、その中の多元的ジェンダー教育は、けっして学生に自分の性的指向を変えるよう導くものでなく、多元的な性別に友好的な教育環境を構築し、ジェンダーによるいじめと差別を減らすものである」と表明しました(5)

 教育部訓育委員会主任の柯今尉さんは、学生にセクマイ教育をするのは「主にジェンダー平等を促進し、学生に多元的文化を正視させて、異なった性的指向を尊重し、受け入れるよう指導するためである。教育方法は概念が主である。また、セクマイはジェンダー教育の中の一つの小さな部分なので、あまり多くの細かな点を書くことはできない」、「教学の際は、情欲や性行為などをあまり詳しく教えることはしないし、プライドパレードについても、セクマイの公民の権益という点から考えるのであり、課程の中では、セクマイの私人の行為は取り上げない」と述べています(6)

実際にどれほどの教師が授業で教えるのかが問題

 反対派の署名の数自体は、台湾真愛聯盟のサイトのものは3万足らずですし、新聞報道を見ても、千単位の数字しか報じていませんので、たいしたことはないようです。やはり問題は、課程要綱施行後、どれほど実際に教室で性的指向やセクマイについて教えられるのか、ということだと思います。セクマイに関する内容は、ジェンダー平等教育の中でも、ごく一部のようですし……。

 台湾青少年性別文教会の秘書長の王振囲さんは、「ジェンダー平等課程要綱が施行されても、授業時間数は規定されていない。現在、多くの小中学校では、課程要綱どおりに授業をしていないという状況から見て、たとえジェンダー平等課程要綱が施行されても、どれほどの教師が授業でやるのか疑わしい」と述べています。また、王さんは、教師向けのセクマイについての教材はあっても、学生にはそのようなものはないことも指摘しています(7)

 といっても、台湾の状況は、やはり日本よりは進んでいると感じますが……。

[関連記事]
台湾の小中学校でのセクシュアル・マイノリティについての教育が保守派の反対で難航・後退」(本ブログ2011/10/31)

(1)同志教育 納入國中課程」『聯合報』2010年3月8日、「2011年度より、台湾で同性愛が教育要綱に」みやきち日記2010年3月12日。
(2)教育部の性別平等教育全球資訊網の中の「課程與教學」のページで、ジェンダー平等教育のための教師用ハンドブックがダウンロードできます。その中には、『他愛他(彼が彼を愛する)』『她愛她(彼女が彼女を愛する)』という同性愛をメインテーマとして扱った漫画冊子もあります。また、「教育部性別平等補導群」という、大学教授や小中学教師によるジェンダー平等教育の推進グループのサイト(教育部九年一貫課程與教學『性別平等教育』議題輔導群)にも、性的指向や多元的ジェンダーについての教学の経験が収められています。
(3)反対・賛成両派の署名運動については、「反同志教育連署 烏龍一場」『台湾立報』2011年4月20日、「同志教育列課綱 社團家長掀論戰」『中国時報』2011年4月20日など、新聞記事でも報じられています。
(4)指責教部性解放 真愛搞錯對象」『台湾立報』2011年4月28日。
(5)更多認識、不再歧視—談性別平等教育融入100學年國民中小學九年一貫課程七大領域實施教學」性別平等教育全球資訊網2011年4月27日、「性平課程納同志 減少性別霸凌」『台湾立報』2011年4月27日。
(6)同志入課程 教部盼教尊重接納」『台湾立報』2011年4月27日。
(7)反同志教育連署 烏龍一場」『台湾立報』2011年4月20日。
関連記事

コメント

台湾の事情を取り上げるのは非常に嬉しいですが、台湾と中国を混同しないでください。

コメントありがとうございます

> 台湾の事情を取り上げるのは非常に嬉しいですが、台湾と中国を混同しないでください。

コメントありがとうございます。台湾の位置づけについては、私は恥ずかしながら勉強不足で、しっかり考えてきませんでした。今後意識して考えていきたいと思います。

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