2017-06

出稼ぎ女性の労働条件と企業の社会的責任

 昨日はクリスマスでしたが、先日、次の記事がドイツの雑誌に掲載されたそうです(メールマガジン「China Now!」第32号[2006年12月22日]より転載)(1)

「メリークリスマス!には中国労働者の血と汗 ドイツのおもちゃと中国労働者の権利」

クリスマスにはプレゼントが贈られる。サンタクロースは遥か彼方の中国からドイツの子どもたちのためにプレゼントを運んできてくれる。中国労働者の血と汗とともに。

クリスマス関連の商品のなかで、おもちゃの80%は中国、とくに中国広東省の大小何千もの玩具工場からの輸入品だ。近年、中国の玩具工場の劣悪な労働状況が西側メディアで報道され、人権団体や労働NGOなどが問題に取り組んでいる。ドイツの週刊誌の記者、ウォルフガン・メンデルは、広東の玩具工場を半月かけて取材した。

「こいつらみんな田舎者だろ、十回も怒鳴ってやっと仕事を理解する」。王と名乗る職制が、工場の作業ラインでメンデルに説明する。そこは宇宙船のおもちゃをつくっているライン。室内は毒ガス室のようだ。何十人もの労働者が小さなプラスチックの部品を手に持って塗装している。部品が小さいので目の近くに持ってこなければ作業ができない。作業する労働者でマスクをつけているものはごくわずかだ。室内に充満した塗料のにおいは人体にとって有害で、マスクなどほとんど役に立たないのだが。記者が作業室にいたのは短時間であるが、すぐに頭痛やめまいがした。ここの労働者はふつう一日16時間も働く。長時間、そして長期間このような有害な空気を吸っている。このような有害な空気は、若い労働者たちの体内を蝕む。メンデル
記者は、多くの労働者の顔に発疹があり、腕に赤い水ぶくれがある状況を確認している。

テディベア、バービー人形、ジグソーパズル、おもちゃのお城、電子ゲーム機……、ドイツの子どもたちにとっての夢のような世界は、中国の労働者にとっては往々にして悪夢の世界でもある。23歳の曹宇さん(仮名)がメンデルに語ったところによると、彼の玩具工場は「地獄」だという。毎朝、この「地獄」に行かなければならないかと思うと恐ろしくて仕方がないが、他にどうしようもない。この8ヶ月ずっと、毎日十数時間続く仕事は、作業ラインを流れてくるプラスチックの小さなタイヤとバンパーをおもちゃの車に取り付ける作業だという。手と指は腫れてしまい、他のラインに移りたいと希望を出したが、認められなかった。

曹宇さんの働く工場は他の多くの工場と同じく、一年で最も忙しい時期は6月から8月だという。欧米のクリスマスセール市場にあわせて生産するからだ。その時期、労働者は毎日18時間働くことも珍しくない。ときには納期に間に合わせるために、徹夜の日が続くこともある。曹宇さんも三日間不眠不休で働いた記録をもっている。一年でもっとも暇な時期に月1回の休日をもらうことができるという。それほど働いてどれくらいの賃金をもらうのだろうか。食費と宿舎費を除けば、手元に残るのは600元(約9000円)。彼の工場では、就業時間内のトイレの回数が決められているという。男性は3回、女性は5回、それを上回った場合、罰金をとられるという。

中国の玩具工場における労働者の基本的人権の蹂躙が国際的な問題になっている。さまざまな国際世論の圧力の下、世界玩具連合会は、中国における労働条件に関する調査を始めた。二年に一度、調査員を中国の玩具工場に派遣して調査を行っている。同連合会は、これまでに500の工場に労働条件合格証書を交付した。

しかし中国では抜け穴が横行している。ある女性労働者がメンデル記者に語ったところによると、彼女の工場の経営者は、調査が入るまえに労働者に対して嘘を報告するように奨励し、すばらしい嘘をついた者には100元のボーナスを支給するという。そしてこの工場には世界玩具連合会から労働条件合格証書が交付されているという。

中国の玩具工場の劣悪な労働条件は、多くの労働争議を引き起こしている。ある小さな玩具工場の経営者はメンデル記者にこう語った。「(もしこのままの状態が続けば)社会的な大混乱がおこるだろう。そうなるまでに多くの時間を要しない」。
原文:「ドイツの声」(http://www.dw-world.de/dw/article/0,2144,2276204,00.html)

 この記事を読んで、私は故・松井やよりさんが8年前に書いた「おもちゃ工場で焼死する少女たち」(2)という文章を思い出して、「まだまだあの頃と変わっていないな」と感じました。
 松井さんの文は、1993年の深圳の致麗玩具工場で大火で87人の労働者が死亡し、そのほとんどが農村から出稼ぎに来た若い女性だったことを伝えています。この工場には防火設備は何もなく、廊下や階段は製品が積まれて、ふさがれていたとのことです。
 松井さんの文はまた、玩具工場で働く労働者の大部分は、農村から出稼ぎに来た年若い女性であること、玩具工場のほとんどが香港系企業だが、先進国の多国籍企業の下請けが多いことも述べています。
 そうした状況に対して、香港の労働・人権団体が「香港玩具連合」を結成して、このような悲劇を繰り返させないよう全世界に訴えました。欧米の労組や人権団体もこの問題を取り上げたために、1996年に国際玩具産業協会も行動基準を作ったが、その基準や監査はきわめて不十分なものだったことです(3)

 もちろん上のような問題は、欧米だけに関わる問題ではありません。
 玩具工場についてではありませんが、たとえば同じ「China Now!」のHPにも、日本企業ユニデンの中国工場で、昨年と一昨年に女性労働者ら1万数千人が、長時間労働や低賃金、労組の結成が認められないことに抵抗して起こしたストライキについて詳しく述べられています昨年のストライキについての記事一昨年のストライキについての記事)。

 最近は日本のマスコミも、中国では都市と農村の格差がひどく、農村からの出稼ぎ労働者は劣悪な労働条件で働いていることや、彼らの抵抗は抑圧・弾圧されていることをしばしば報じるようになりました。
 これらの報道は、中国の実情を伝えるという点で意義があると思います。

 ただ、私は、日本のマスコミ(特に右派系のマスコミ)の報道は、以下の点が弱いように思うのです(まだきちんと分析したわけではありませんが)。
 1.中国のそうした社会的格差とジェンダーとのかかわり。
 2.中国にも、まだ力は弱いとはいえ、格差を是正しようとする人々がいることへの注目(「中国はひどい国だ」という、「国」単位の話にばかりなりがち)。
 3.中国の出稼ぎ労働者の無権利状態や彼らの抵抗に対する抑圧を、日本企業も利用・加担していること。そうした意味での企業の社会的責任(CSR)への関心。

 今回はとくに3.の点について述べると、日本の企業やマスコミは、上述のような意味での社会的責任に対する関心が欧米の企業やマスコミに比べても弱いと思います。

 げんに、経団連(現 日本経団連)が設立した「海外事業活動関連協議会」が出版した『「中国における企業の社会的責任(CSR)」報告書』(2005年)も、次のように述べています。
 「欧米企業では‥‥各社が世界共通の行動規範に基づき、関連会社及びサプライヤーへのリスク・レベルに応じた定期的監査を実施している。監査の方法は業種により異なるが、各社のプログラムに基づき、社内外の監査チームが自社の定める行動規範にもとづいて監査を行っている。」
 「これに対し、日本企業では、サプライ・チェーン・マネジメントへの取り組みはまだ始まったばかりであり、体制の整備やCSR担当者の任命などが急がれる」(2頁)。
 経団連が設立した団体の報告書さえ、上のように認めているわけです。
 欧米の監査でさえ最初に述べたような状態なのですから、日本企業は本当にまだまだと言えるでしょう。

 マスコミも、中国に進出した日本企業やその下請けの劣悪な労働条件について報じることは、ほとんどありません。
 現に、ユニデンの中国工場の一昨年のストライキについてはまったく報じられておらず、昨年のストライキについても、「反日」との関係で少し報じられただけでした(ストライキは、日本企業に限らず起きています。また、この工場でも2000年頃から何度も起きていましたので、「反日」と関連づけるのは基本的におかしいです)。

(1)このメールマガジンは、下の「China Now!」というサイトが発行しているものです。
新ブログ
http://chinanow.blog28.fc2.com/
旧サイト
http://www5f.biglobe.ne.jp/~chinanow/
(2)松井やより「おもちゃ工場で焼死する少女たち 世界に広がるおもちゃキャンペーン」『女たちの21世紀』14号(1998年4月。アジア女性資料センター発行)。同号には「致麗おもちゃ工場火災の犠牲者たちを訪ねて―今も続く苦しみ―」というレポートも掲載されています。
(3)中国の玩具工場の労働問題に関しては、香港基督教工業委員会研究報告のページに詳細な報告が掲載されています。
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