2017-04

『中国流動女性土地権益状況調査』刊行

 今回の大震災により被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。

 私は、被災された方々への義援金として募金させいただいたのはもちろんですが、その他、原発関係の署名のほか、RC-NET(レイプクライシス・ネットワーク)の緊急アピール「災害時性暴力被害への対策を求めます」にも賛同させていただきました。中国でも2008年5月の四川大地震(汶川地震)の後、同年6月には「24の民間団体が共同で被災地の女性の権利を訴える建議を発表」(本ブログの記事)していますし、ジェンダーの視点は大事だと思います。非常時には、弱い立場の人々にしわ寄せがいきやすにもかかわらず、そうした人々の訴えは無視されがちだと思うからです。

 さて、話は変わりますが、昨年12月、呉治平主編『中国流動女性土地権益状況調査(中国流动妇女土地权益状况调查)』(社会科学文献出版社 2010年)(ネット書店「書虫」のデータべースの中のこの本のデータ)が出版されました。この本は、簡単に言うと、中国の農村から都市に出てきて仕事をしている「流動女性」が農村で所有している土地の権益がどうなっているかを調査した報告です。

 中国では、農村から都市に出稼ぎに行った労働者が、都市において、さまざまな面で差別されていることはよく知られています。とりわけ女性は困難な状況に置かれているわけですが、農村でも、女性は、土地の権利が男性に比べて保障されていません。その中でも、都市に行った女性の土地の権利は、とりわけ侵害されやすい。このように、農村から都市に移住した「流動女性」は何重にも困難な状況にあります。

 本書の第1章「研究の紹介」では、従来、流動女性の問題は、農村女性や流動人口の問題の一部として触れられることはあっても、それを単独で扱った研究は少なかっこと、まして流動女性の土地権益を専門に扱った研究はほとんどなかったことが指摘されています。

 そのため、NGOである北京農家女文化発展センター(北京农家女文化发展中心)は、2009年、北京市の流動女性を対象にして、アンケートとインタビューによる調査をおこないました。本書には、専門家グループのメンバーとして、葉敬忠、劉伯紅、劉篠紅、李昌平、張虹、金文成、郭建梅、謝麗華の各氏が参与しています。

 第2章「主題報告」が調査結果を概括的に述べていますので、以下、その内容を、大づかみにご紹介します(正確な要約ではありません。とくに法律や経済の専門用語については、不正確な箇所もあると思います)。

一 流動女性の基本的情況と主要な特徴

 今回の調査した千名あまりの女性は、全国の30の省から来ていたが、そのうちでは河北・河南・山東・甘粛の出身の人々が比較的多く、農業戸籍の人が95.9%だった。

 大多数の流動女性は、原籍地では農業を営んでいたが、現在は、商業・小売・サービス業に従事していたり、家事労働者や介護労働者であったり、ホテル・観光・娯楽施設のサービス員である人が多かった。

1.流動女性の年齢構造……今回の被調査者は、20~49歳の人が多く、平均年齢は32.6歳だった。

2.流動女性の学歴……初級中学(日本で言う中学)卒が最も多く、47.9%であり、小学卒が19.2%、高級中学(日本で言う高校)卒が16.1%だった。

3.流動女性の婚姻情況……未婚が24.3%、初婚が71.7%だった。

 上の1~3の状況は、関係部門が発表している北京の流動人口の状況の統計と基本的に合致しており、このサンプルは、流動女性全体を比較的よく代表していると言える。

4.流動女性が都市に出てくる以前の職業……もっぱら農業:45.0%、通学:31.5%。35歳以下の人は、通学していた人が多い。

5.流動女性が都市に出て来た主な動機……「土地から得られる収入より、出稼ぎの収入のほうが高い」49.2%、「都市では創業しやすく、チャンスが多い」17.2%、「見聞を広め、技術を学ぶ」11.5%。

二 流動女性の土地権益の現状

1.流動女性の土地権益の全体的状況は憂うべきもの

〇農村には土地を持っていない…流動女性全体の18.8%
 その理由:
 ・結婚したときに土地を失った…49.6%
 ・婚姻関係の変化(離婚など)によって土地を失った…31.8%
 ・土地が徴用された9.1%
 ・他人に暴力で占拠された…3.0%
 →主な理由は、婚姻変動である。

▽未婚の流動女性
 村に土地を持っている…67.3%、持っていない…20.0%、わからない…12.7%
 「土地を持っている」人のうち――
 ・父親の名義[名下]…73.1%
 ・本人の名義…15.4%
 ・母親の名義…6.9%

 宅地に関しても同様で、44.8%の未婚の流動女性が原籍地に宅地を持っているが、父親の名義が80.8%。

▽既婚の流動女性
 婚家の村に土地を持っている…51.2%、持っていない…43.1%、わからない…5.7%
 「土地を持っている」人のうち――
 ・配偶者の名義…43.4%
 ・本人の名義…36.3%

 宅地に関しても、65.8%の女性が婚家に宅地を持っているが、54.8%が配偶者の名義。

2.流動女性のうちの「まだ嫁いでいない女性」の土地権益の問題

 農村の土地分配のポイントは、家が単位であり、戸主はみな男性であることである。大部分の未婚女性は、名義上は土地を持っているけれど、実質上、その土地使用の権限は空洞化している。たとえば、浙江一帯で盛んに行われている「測婚測嫁」という慣習では、若い娘が結婚年齢に近づくと、たとえ結婚していなくても、遅かれ早かれ結婚して村を出て行くと考えて、実家に持っている土地を回収するか、土地を調整するときに土地を与えないか、少ししか与えない。また、青海省湟中県M村では、土地を調整するたびに、満18歳になった女子の土地はみな回収する。さらに、重慶大足県B村二社では、このような村規さえ実施されている:出稼ぎに行っている未婚の女性が土地の譲渡補償金を得ようとすれば、まず病院に行って「貞潔鑑定」を受け、処女でなければ土地を分配しない(1)。これらの規定は、女性が遅く結婚する権利や結婚しない権利を完全に剥奪している。

3.流動女性のうちの「嫁に行った女性」の土地権益の問題

 「嫁に行った女性」が結婚のために土地を失うという現象は比較的重大である。既婚の流動女性が土地を失うのは、嫁に行く/入るの2つの段階にあらわれる。

 (1)流動女性が嫁に行った後、実家の自分の土地は? 
 ・すぐに集団が回収する、または土地を調整するときに集団が回収する…49.6%
 ・親族に譲渡する…23.5%
 ・本人の所有のまま…20.2%
 しかし、たとえ実家が彼女の土地を持っていたり、親族に譲渡したりしていても、本人が収益権を持っているわけではない。

 (2)婚家に入った後は?
 ・婚家の村で土地を持っている…51.2%
 ・土地を持っていない…43.1%(そのうち、実家にも土地を持っていない…26.4%)

既婚の流動女性全体の13.1%は、実家にも婚家にも土地を持っていない。

4.流動女性のうちの「都市に嫁いだ女性」の土地権益の問題

 「都市に嫁いだ女性」、すなわち非農業戸籍の男性に嫁いだ農村戸籍の女性が土地の権益を侵害されることも、比較的普遍的である。

 私たちの調査では――
 ・35%前後の村は、非農業戸籍に嫁いだ女性に請負田を与えていない。
 ・46%の村は、彼女たちに宅地を与えていない。
 ・38.5%の村は、土地の株主配当の面で、非農業戸籍に嫁いだ女性に村民としての待遇を与えていない。
 ・35.4%の村は、土地徴用補償費の面で、非農業戸籍に嫁いだ女性に村民としての待遇を与えていない。

 また、よその農村から都市に出稼ぎに来ている相手と結婚した場合も、村民としての待遇は与えられていない。

5.流動女性のうちの、娘2人の家と娘が多い家の土地権益の問題

 農村では、男が娶り女が嫁ぐ「夫方居住」の婚姻モデルが主なので、娘2人の家と娘が多い家は、男が女の家に行って結婚することによって、土地を失う現象がしばしば発生している。中国の農村では、娘2人の家と娘が多い家は、婿を取るしかないという習俗ないし隠れたルールがある。

 私たちの調査対象者の村では――
 ・娘の婿には、一律に土地を分配しない…15.1%
 ・分配する…15.6%
 ・土地の調整の際、村に土地があれば分配する…32.3%

6.流動女性のうちの、離婚した女性と配偶者を失った女性の土地権益の問題

 今回の調査では、離婚女性の事例は27だが、65.0%は、離婚後も実家に戻らず、47.6%は、離婚後は実家でも婚家でもない土地に住んでいる。しかし、10.0%の離婚女性しか元夫の村で土地を持ち続けられず、実家の村であらためて土地を分配されたのも、20.0%である。
 ↓
 実家の村にも、婚家の村にも土地や住まいがない離婚女性が大多数で、出稼ぎに行って糊口をしのぐしかない。

7.「城辺村」と「城中村」の女性の土地補償金の分配の問題

 都市化によって、「城辺村(都市のそばの村)」と「城中村(都市の中の村)」の土地の価格が上昇して、女性の土地をめぐる紛争も増大した。

三 流動女性の土地権益が損なわれている原因の分析

1.政策・法律が不完全で、女性の土地権益に対する隠れた侵害に対して保護する力が弱い

 わが国の農村は家を単位にして土地が配分されており、また、戸主の大多数は男性である。このような配分制度自体の中に女性に対する隠れた差別がある。また、「人が増えても土地を増やさない、人が減っても土地を減らさない」という、一見性別には中立的に見える政策も、実質的には流動女性の土地権益に対してマイナスの影響をもたらしている。

2.村規民約における性差別的条項が、女性の土地権益を直接に侵害している。

 現下の農村では、若干の村規民約(村のきまり)がまだ性差別的傾向を持っている。また、村規民約に対する監督にも盲点が存在する。村民自治や村規民約が、流動女性の土地権益を侵害する手段になっていることがあり、とくに村民大会や村民代表大会の決議、村民委員会の決定などの形式で、結婚適齢期を過ぎた女性や嫁に行った女性、都市に嫁いだ女性、離婚した女性の土地権益が公然と侵害されており、村規民約と法律法規が抵触している。

3.「夫に従って住む」という婚姻居住モデルの、女性の土地権益に対する超文化的強制

 現在大多数の農村は、まだ『男尊女卑』の伝統的観念を踏襲しており、嫁に行った娘は撒いた水であり、集団経済組織の収益の分配にはあずかれない。

 流動女性の土地権益の問題は、土地分配の過程においてジェンダー意識が深刻に欠如している現状を集中的に反映しており、彼女たちが土地を失う主な原因は、「性別」によるものである。流動女性と土地との関係は、男権の支配・覇権構造の中に嵌め込まれており、これが彼女たちの土地権益が侵害される深いレベルの根源である。

四 流動女性が土地に執着する度合い

1.土地の重要性についての流動女性の認識……土地は「重要」または「非常に重要」が62.3%

2.土地権益についての流動女性の認知の情況……彼女たちは、国家の土地政策や自分の土地の権益、流出地の農村の公共事務については関心が低く、あまり知らない。

3.故郷の公共事務についての流動女性の関心の程度……低い。

4.故郷の土地の処置についての流動女性の態度……32.8%の女性が土地を回転させることを希望しており、そうすれば、収入を増やせるうえに、後顧の憂いをなくして、安心して仕事ができると考えている。

五、流動女性の土地の回転についての意思と希望

 農村の女性の土地権益を保証するという前提の下で、農村の土地の回転を積極的に推進して、人口の都市化を促進して、彼女たちを真に都市に根付かせることには、わが国の都市と農村の二元的構造を打破するうえで積極的な意義がある。

1.流動女性の現下の家の中の土地の回転の基本的情況

 流動女性のうち、土地の請負以来、回転させた経験のある比率…17.9%
 ―その形式…代わりに耕してもらう:49.7%、賃貸し:28.2%、下請け:9.4%
 ―その収益…貨幣:36.5%、農産物などの現物:20.8%、親族・友人に無償で:39.9%
 ―その回数…1回:93.1%

2.流動女性が家の土地を回転させようと願う理由

 主な理由は、「よそで仕事をする」ため。

3.家庭の土地の回転の決定に対する流動女性の参与度

 54.4%の流動女性が、家庭の土地の回転の決定に参加していない。

4.流動女性の権利保護意識と権利保護の効果

 「土地がない」という問題に対して……ほおっておく:87.3%、村民委員会に調停を請求する:6.7%、政府の主管部門に解決を求める:3.7%、法律援助を求める:1.0%

 さらに注意すべきは、自分の土地権益が侵害されているという事実を意識していないということである。77.3%の未婚女性と85.5%の既婚女性は、自分の村の村規民約や土地分配に性差別はないと考えている。

 また、一定の行動をした人のうち、96.5%は「成果がなかった」。

5.将来の方向についての流動女性の見方

 将来の計画……北京で長く生活して仕事をする:33.4%、北京には留まらない:22.3%、まだその点についての計画はない:44.4%。
 ただし、60.0%の女性が、理想の仕事が見つからなければ、故郷に帰って農業で生活したいと答え、56%の女性が、もし、郷里に帰った人に職業選択や創業の優待政策をするなら、それらの政策を利用することを考えるという。

6.自分の土地問題の解決についての流動女性の希望

 ・女性の戸籍の変化に従って、土地を変えてほしい(女性の戸籍がそこに移ったら、そこが土地を分配してほしい)…30.4%
 ・女性の土地相続権を厳格に保護してほしい…20.9%
 ・土地は変えないでいいけれども、女性が婚姻の変動によって土地を失ったら、一定の保障が得られるようにしてほしい…14.9%
 ・政府が女性の土地の権利を明文で規定して、女性の土地問題を市場の取引を通じて解決してほしい…13.2%
 ・婚姻居住の慣習を変えることによって、女性が土地を失う問題を改善してほしい…6%

 流動女性の土地に対する要求は、農村女性全体の土地に対する要求とは異なっている。
 1.土地に対する依頼性は強くない。また、土地に対する要求は、都市にいる期間や年齢、学歴、都市での収入と関係がある。
 2.流動女性の土地に対する認識は多元化している。都市に嫁いだ女性は完全に都市の人になることを望んでいるが、未婚の女性の土地に対する希望はもっと漠然としている。離婚した女性は農村の土地を所有し続けることを希望しており、住宅に対してもより強いニーズを持っている。
 3.流動女性のうち、若い女性は子どもの教育や子どもの将来に関心を持っており、子どもが学校で勉強することによって、本当に都市の人になることを希望している。しかし、中年の女性は、金を稼いで金を溜め、故郷に帰って農業をして親を養うことに関心を持っている。

六 流動女性の土地権益を保障する対策と提案

1.党と国家の農村の土地制度の長期的安定を堅持・擁護し、農村の土地の市場化改革を一歩一歩推進する

 農村の基本的経営制度を堅持するカギは、農民に十分で、保障のある土地請負経営権を付与して、現行の土地請負関係を安定させ、長く変わらないようにすることである。条件が熟した地方では、沿海の発達した地区の農村改革の経験を参考にして、集団所有の土地を株式所有権化し、いまの家族の人数(嫁に行った女性、離婚した女性、配偶者を失った女性、都市に嫁いだ女性、女婿を含む)に応じて、土地の権益を株式所有権に変えて個人に分配し、株式所有権を一定の範囲内で譲渡・相続することを許可する。土地の株式所有権化改革は、流動女性が婚姻の変動などの原因で本来享有すべき土地権益を喪失することがないように保証する一つの重要な方法である。

2.関係する政策・法律を整備し、制度の面からいっそう流動女性を含む農民の土地権益を規範化する

 ・集団経済組織のメンバーの資格や権益(収益の分配や土地徴用の補償金、不動産の使用権など)について法律で明確に規定する。
 ・土地の権利証書に権利人の姓名を明確に記載することによって、女性の土地請負の資格が空洞化することを避ける。
 ・女性が嫁に行ったときや夫婦が離婚したとき、女性が結婚後も戸籍を移さないときにも、女性の土地の権利が保障されるよう明確に規定する。流動女性も、他の村民と同じように土地の集団的収益を分配される資格を持てるようにする。

3.村規民約の制定と実施をいっそう法律によって規範化し、流動女性の利益の実現と表出のメカニズムを構築するよう努力する

 ・農村の基層建設を主管する各クラスの民政部門が、村民委員会に対して村規民約を定時に検査する工作制度を設けて、違法な村規民約に対して監督と是正をおこなう。
 ・流動女性が村規民約の制定に参与するメカニズムを構築し、村民委員会・村民代表大会が村規民約を制定・改定する際には、少なくとも30%の女性が参加しなければならないと明確に規定する。

4.戸籍制度の改革を一歩一歩推進し、都市と農村との統一的な社会保障と公共サービスのシステムを早急に構築する

 ・できるだけ早く都市と農村で分割されている戸籍制度の制限を打破し、都市戸籍の人口の量と比率を増やす。最終的には戸籍制度の壁をなくして、都市と農村が一体化した発展を実現する。
 ・大部分の流動女性が含まれる非正規就業者をできるだけ早く社会保障システムに組み込み、戸籍制度にもとづく都市と農村の福利待遇の差異を一歩一歩縮小し、基本的公共サービスを均等化する。土地を失った女性に対しては、最低生活保障をし、土地のない離婚女性に対しては、特別な政策的優待をする。流動女性に対して、就業能力を高める研修をする。

5.流動女性の土地権益の保護工作を重視し、流動人口の土地権益に対する行政・司法の救済ルートを広げることに力を入れる

 流動女性の土地権益を侵害する違法行為を行政が厳しく取り締まる。同時に、行政や法律の救済のルートを広げる。たとえば、「農村土地請負経営仲裁法」を厳格に執行して、紛争の調停・仲裁システムを構築する。流動女性の土地権益の侵害事件について、裁判所は、いかなる理由があっても受理を拒絶してはならない。県クラス以上の市・区に女性法律援助サービスセンターを設置する。流動女性の権益を保護する民間組織を育成する。

6.土地権益の男女平等を実現し、ジェンダー主流化を積極的に推進するプロセスを加速する。

 政府は、ジェンダーの視点を政策の制定と実施の過程に組み入れて、男女の両性が平等に社会経済の発展に参与し、改革発展の成果を共に享受できるようにする。「広東南海モデル」は、女性の土地権益を保護する政府の主体的役割を十分に発揮した模範例である。南海区は、「南海区農村出嫁女およびその子ども問題解決事務局」を設立し、村規民約と集団経済組織の規約の中の「出嫁女(嫁に行った女性)」を差別する条項をチェックして是正するとともに、農村集団経済組織のメンバーの資格に合致した「出嫁女」とその子どもに対して、「同籍・同権・同齢・同株・同利」の原則で株式所有権を案配した。「南海モデル」の主な経験は、行政の導きと関与を主とし、司法的強制を補助としたものであり、政府がジェンダー主流化を推進し女性の土地権益を保護する重要な役割を体現している。

7.古い風俗習慣を改めて、文明的な新しい気風を築く活動を都市と農村で深く広範に展開する

 流動女性の土地請負経営権を保障するためには、土地制度に手をつけるだけでは、完全には問題を解決することはできない。中国の農村社会における「男権」中心の文化的伝統を改造してはじめて、この問題を根本から解決することができる。第一に、ジェンダー意識と男女平等に関する基本的国策の宣伝教育・提唱活動を全面的に展開すること、第二に、「夫方居住」主導の婚姻モデルを変え、「妻方居住」など多様な婚姻居住形態を提唱すること、第三に、中国の農村における、しばしば息子だけが財産を相続できる「跡取り息子文化」を変え、家族の財産相続の男女平等の権利を提唱すること、第四に、男性中心の農村の古いきまり・しきたりを捨て去って、文化の上から「男権」中心の伝統的ジェンダー関係を変革することが必要である。

 第三章以降は、以下のように、「各論」として、「主題報告」で取り上げた各問題について論じられています。
 第三章「流動女性の土地認識の分析」
 第四章「農村から都市に出て仕事をしている女性と土地」
 第五章「婚姻変動と流動女性の土地権益」
 第六章「農村土地政策の変遷と流動女性の土地権益」
 第七章「流動女性の土地権益の法律的保護」
 第八章「ジェンダーの視角の下の流動女性の土地権益」

 さらに、「付録」として、インタビューなどにもとづくケーススタディが収録されています。

 本書は、中国の複数の有力な新聞でも取り上げられており(2)、注目を集めています。

 昨年3月からおこなわれた、全国人民代表大会常務委員会による婦女権益保障法の法律執行検査でも、「嫁に行った女性」の土地権の問題は、三つの重点領域のうちの一つでした。また、昨年7月には、全国婦連権益部が「土地を失った女性の土地権益および生活状況の報告(失地妇女土地权益及生活状况报告)」を発表しました(『2009~2010年:中国女性生活状況報告(No.4)』[社会科学文献出版社 2010年(ネット書店「書虫」のデータベースの中のこの本のデータ)]に収録)(3)

 中国の農村で、結婚や離婚の際、女性の土地権が保障されにくいことは、1950年代に土地改革がおこなわれた頃から問題でした(4)。この問題に関しては、改革開放後しだいに関心が高まってきましたが(5)、こうした本格的な調査報告が出されるようになったことは、うれしいことです。

 『中国流動女性土地権益状況調査』は「広東南海モデル」に触れていますが、これについては、本ブログでも取り上げたことがあります(仏山市南海区政府が農村の『出嫁女』の土地権益問題を解決)。その他にも、ここ2~3年、ごく一部の地方ではありますが、地方の立法・行政・司法レベルで、また民間団体によって現実を変革する試みも目立つようになりました(6)

 今年3月には、全国婦連が、農村の女性の土地権の問題に関して、だいたい以下のような呼びかけをしました。
 1.農業部・国土資源部は、女性の土地権益をテーマにした調査研究をおこない、農村の家族内の土地・財産関係を規範化する。土地請負経営権証書・宅地使用証書・家屋所有権証書には、夫婦双方の姓名を登記するなど。
 2.中央組織部・民政部・農業部は、基層の党支部や村民委員会に、村規民約の中の性差別的条項を改めさせる。
 3.国家人口と計画出産委員会は、男女平等の村規民約への改訂・執行を、計画出産の宣伝内容に組み入れる。
 4.農業部門と最高人民法院は、行政と司法の救済制度を整備する。農業行政部門は、土地請負仲裁機構を整備し、仲裁の形式で農村女性と村民委員会の土地権益の紛争を解決するようにさせる。最高人民法院は、こうした案件について指導意見を出し、案件受理の問題を解決する。
 5.財政部門・国土資源部は、弱者層の保護基金を設立し、土地徴用の過程における弱者層を救済する。
 6.司法部門は法律的知識を普及させて、広範な農村の人々に男女平等の基本的国策を理解・認識させる(7)

 この呼びかけには、全国婦連の調査はもちろんですが、『中国流動女性土地権益状況調査』の成果も生かされているようです。さまざまな調査研究・提言と各種実践との関係については、まだあまり調べていませんが、それぞれがあいまって農村の女性の土地権益を保障する流れ――まだごく小さな流れですが――を形成しつつあるように見えます。

(1)この規定は、メディアで報道されたこともあり、現在ではすでに廃止されています(「流动妇女失地主因是婚姻变迁」『南方都市報』2011年1月19日)。
(2)(1)のほか、「中国女性农民工失地八成源自结婚或离婚」全国婦聯新聞-人民網2011年1月24日(来源は『工人日報』)、「解决流动妇女土地权问题应和城市化一并考虑——専家学者谈农村流动妇女土地权益保障」『中国婦女報』2011年1月21日。
(3)この報告についての新聞などの報道は、「全国妇联《失地妇女土地权益及生活状况报告》显示:农村妇女土地权益保障水平低于男性」『中国婦女報』2010年8月27日、「失地妇女土地权益及生活状况报告出炉」新浪女性2010年8月25日など。
(4)Kay Ann Johnson,Women,the Family and Peasant Revolution in China, The University of Chicago Press, 1983, Chapter6など(この本については、私の書評が『中国女性史研究』第2号[1990]にあります)。
(5)日本語でも、何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)があります。
(6)昨年の動きに関しては、「捍卫妇女土地权益亮点频现」『中国婦女報』2011年1月5日。
(7)全国妇联呼吁: 切实维护农村妇女土地相关权益」人民網-全国婦聯新聞2011年3月15日。
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