2017-06

『中国職場性差別調査』出版

 昨年、李瑩主編・張帥副主編『中国職場性差別調査(中国职场性别歧视调查 A Study of Gender Discrimination in the Workplace in China)』(中国社会科学出版社)が出版されました(ネット書店「書虫」データベースの中のこの本のデータ)。この本は、中国語と英語の両方で書かれていますので、中国語が読めなくとも、英語さえ読めれば、全文を読むことができます。

 この本は、NGOの北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの「中国職場反性差別」課題グループ(以下、「課題グループ」と略す)がおこなった調査にもとづいて書かれています。この調査については、一昨年6月、本ブログで「職場の性差別についての調査報告」として簡単にお知らせしましたが、今回、本になりましたので、もう少し詳しくご紹介します。

 本書に収録されている張帥「中国職場性差別状況研究報告」が、調査結果を包括的にまとめていますので、以下、それをやや詳しく紹介します。

一 調査方法及び調査対象の基本的状況

 課題グループは、2008年6月から約1年かけて、3000人の労働者に対してアンケート調査をおこない、そのうち有効回答が得られた2707人(女性1548人、男性1110人)の回答について分析しました。あわせて、インタビュー調査などもおこないました。

 調査対象者の基本的状況は、以下のとおりです。
 ・年齢…16~25歳が30%、26~35歳が38%、36~50歳が12%、51~55歳が18%など。
 ・婚姻の状況…未婚41%、既婚57%、離婚2%など。
 ・勤務先[単位]の性質…行政機関11.3%、事業単位25.8%、国有企業11.3%、私営企業34.2%、合弁・外資企業7.4%、その他10.0%。
 ・職業…政府部門12.4%、製造業14.8%、販売・広告・市場19.8%、教育・医療・科学研究24.5%、飲食・娯楽・サービス14.1%、法律・監査・会計3.7%、その他10.8%。

二 職場の状況の分析

(一)性別と招聘の状況

1.性別による採用拒否

 「応募の過程で、自分が女性であるために拒絶された経験がある」女性が、23.6%いました。

 さらに、課題グループは、「現実には『隠れた差別』の存在により、求職における性差別は、データが示すよりも、さらに深刻なはずである」「とくに2008年に就業促進法が施行されて以後は、大多数の単位は、募集の過程では、直接的で明示的な性差別的な要求はしなくなり、かわりに採用の段階で、性による選別をするようになった」として、具体的には、女性の応募者よりも男性の応募者に関心を示すとか、面接の際、女性の応募者には恋人の有無やいつ結婚するかを尋ねるとか、最終的に採用されるのは男性が大多数であるといった例を挙げています。

 また、大学院卒以上において、女性であるために拒絶された経験がある人の比率が高くなっており、高学歴の女性に対する性差別が深刻であるとも指摘しています。

2.採用過程における性別不平等

 28.0%の人が「同じ仕事についているのに、採用した男女の成績が明らかに異なっている」と答えました。また、16.0%の女性が「成績が男性より明らかに良かったのに、採用を拒絶されたことがある」と答えました。

 「成績が男性より明らかに良かったのに、採用を拒絶されたことがある」のは、勤務先の性質別に見ると、合弁・外資企業が25.5%、行政機関が22.8%と高く、職業別では、政府部門が23.1%と最も高くなっています。

3.労働契約あるいは協定の中の性差別的条項

 使用者の中には、労働者と労働契約を結ぶ際、労働契約や関連する規則の中に、性差別的色彩がある条項を押し付ける場合があるそうです。たとえば、「従業員規則」において、「女性労働者が契約期間内に結婚した場合、契約は自動的に解消される」とか、「この職場で仕事をする者は、結婚年齢は、女は25歳より早くてはならず、男は28歳より早くてはならない」とか定めるといって場合があるということです。

 2008年に「労働契約法」が公布・施行された後は、同法に「使用者は、女性労働者を採用する際、労働契約において、女性労働者の結婚・出産を制限する内容を規定してはならない」(第27条)という条文があるため、使用者も、おおっぴらに労働契約や協定に性差別を書き込む行為は控えるようになったそうですが、それでも、今回の調査では、「数年内に結婚してはならない」という契約または協定、「数年内に妊娠してはならない」という契約または協定に署名を迫られたことがある人が、それぞれ、4.1%、3.4%いました。こうした条項は、私営企業で多く見られるとのことです。

4.出産適齢期なのに出産していない女性、年齢の高い女性に対する差別

 「あなたの勤務先では、出産適齢期なのに、出産していない女性を採用したがらないか?」という質問に対して、21.5%の人が「はい」と答えました(「わからない」という回答が36.9%)。この質問に対しては、合弁・外資企業の従業員に「はい」と答えた人が多いです(35.2%)。

 また、「あなたの勤務先では、40歳以上の女性を採用したがらないか?」という質問には、41.5%の人が「はい」と答えました(「わからない」という回答が32.9%)。

(二)性別と賃金・待遇

1.性別と仕事の報酬

(1)女性労働者の「三期(妊娠・出産・哺乳期)」における配転・減給
 回答者の勤務先で、女性労働者が妊娠・出産・哺乳期に配転や減給を強制されることが「いつもある」と答えた人が6.9%、「ときたまある」と答えた人が14.0%でした(ほかに、「わからない」が28.7%)。また、在職期間に妊娠したことがある女性に尋ねると、「減給された」が12.1%、「配転された」が14.2%でした。これらの状況は、合弁や外資企業に比較的多かったとのことです。

 課題グループは、現実の情況は、この調査が示したデータより深刻であると考えています。その理由は、以下のようなものです。
 ・低いクラスの就業領域は女性が大多数を占めていて、たとえば、よその土地から都市に働きにきた女性は、家事・清掃などの職種に集中しているが、彼女たちは基本的な法律知識が乏しいために、多くの女性は妊娠したら、自発的に離職することを選択する。
 ・使用者は、大多数の場合は、妊娠・出産・哺乳を理由にして配転や減給をするのではなく、さまざまな理由を付けて配転や減給をし、そのために取る手段もさまざまである。

(2)男女が同一労働で同一賃金でない情況
 15%の人が、「勤務先で同じ仕事をしている男性労働者が女性労働者よりも報酬が高い」と答えました(他に、「わからない」が24.4%いた)。

 「性別があなたの賃金に影響を与えているか」という質問に対しては、19.5%の人(そのうち64.6%が女性、34.5%が男性)が「はい」と答えました。

2.性別と待遇

(1)女性労働者の「三期」内の解雇
 自らの勤務先で、女性労働者が妊娠・出産・哺乳期に使用者によって解雇されることが「いつもある」と答えた人が3.1%、「ときたまある」と答えた人が8.2%でした。回答者本人が、妊娠・出産・哺乳期に解雇されたことがあるという答えも、6.7%でした。

(2)女性労働者の勤務先の福利待遇
 「女性労働者は男性労働者よりも、勤務先で金を集めて建てた住宅を購入できる資格を得るのが難しいか?」と尋ねると、7.9%が「はい」と答えました(「いいえ」も37.5%にとどまっており、「自分の勤務先は、金を集めて住宅を建てていない」という答えが26.2%、「わからない」という答えが27.6%でした)。また、「あなたは、勤務先で金を集めて建てた住宅を購入できる資格を持っているか?」という問いに対して、「いいえ」と答えた人の61.0%が女性でした。この問い対する答えは、学歴や勤続年数による違いが大きいのですが、性別も影響しているということを示しています。

(三)性別と職場の昇進

1.高給の部署または管理職の女性の比率

 「あなたの勤務先では、女性労働者が、給料が高い職位または管理者層に明らかに少なすぎますか?」と尋ねると、36.0%の人が「はい」と答えました。

2.女性の研修の機会

 「あなたの勤務先では、女性労働者は男性労働者よりも研修の機会が少ないですか?」と尋ねると、15.7%の人が「はい」と答えました。女性の場合は、18.1%が「はい」と答えています。この問いに対しては、国有企業に勤務している人が、「はい」と答える比率が高かった(23.7%)とのことです。

3.女性の抜擢の機会

 「あなたの職場では、男性労働者は女性労働者よりも抜擢される機会が多いですか?」と尋ねると、33.9%の人が「はい」と答えました。女性は、35.8%が「はい」と答えています。合弁・外資企業と国有企業では、「はい」と答える人が半数近くでした。

4.職場での昇進に対する性別の影響の主観的評価

 「女性が子どもの世話をしていることと家事を担っていることが、昇進の機会に影響しているか?」という質問に対して、52.1%の人が「はい」と答えました。男性で「はい」と答えたのは、46.8%でしたが、女性は、56.4%が「はい」と答えました。また、婚姻状況で区別すると、既婚者は、2/3近くの人が「はい」と答えたということです。

(四)性別と職場のセクシュアル・ハラスメント

1.職場のセクシュアル・ハラスメント禁止規定

 42.6%の人が「自分の勤務先には、セクハラ禁止規定はない」と答え、「ある」と答えたのは、26.9%だけでした。行政機関の人は69.7%が「ない」と答えました。

2.職場で女性が遭うセクシュアル・ハラスメントの形態

 20.2%の女性が、望まない「ポルノ的な話・笑い話」を聞かされたことがあると答え、13.4%の女性が、望まない「ポルノ的な写真・絵」を見せられたことがあると答え、5.7%の女性が、望まないのに「身体をなでられた」ことがあると答え、4.0%の人が「性行為を強制されたことがある」と答えました。

 「ポルノ的な話・笑い話」と「ポルノ的な写真、絵」については、秘書や管理的な職務の女性に多く、「身体をなでられた」ことがあるのは、サービス的な職務の女性に多かったとのことです。

3.セクシュアル・ハラスメントをする人

 「同僚」が28.7%、「上司」が17.2%、「その他」が54.1%でした。「その他」については、「顧客」がかなりの比率を占め、医療現場では「患者」が一定の比率を占めているということです。

(五)性別と定年の状況

1.両性の定年の差異

 「あなたの勤務先では、男性労働者の定年が女性労働者よりも遅いか?」という質問に対しては、「はい」が59.3%、「いいえ」が10.3%、「わからない」が30.4%でした。

 回答者の勤務先の正式の定年を男女別に見ると、以下のようでした。
 男……56~60歳:76.0%、51~55歳:11.6%、50歳以下:6.9%、61歳以上:5.5%
 女……51~55歳:53.1%、50歳以下:38.7%、56~60歳:7.5%、61歳以上:0.7%

 勤務先の性質別に見ると、以下のようになっています。
 行政機関では、男は56~60歳が80.4%に対し、女は51~55歳が71.3%。
 事業単位でも、男は56~60歳が86.9%に対し、女は51~55歳が68.4%。
 国有企業では、男は56~60歳が78.5%に対し、女は50歳以下が56.3%で最も多く、次いで51~55歳が37.9%であり、男女差がより大きくなっています。
 私営企業では、男は56~60歳が63.3%に減りますが、女は50歳以下が53.5%で、51~55歳が34.2%と、やはり男女差が大きいです。
 合弁・外資企業では、男は56~60歳が68.2%に対し、女は50歳以下が54.3%で、51~55歳が41.4%となっています。

 職種別に見ると、たとえば、以下のようです。
 政府部門では、男は56~60歳が78.3%に対し、女は51~55歳が71.2%。
 教育・医療・科学研究では、男は56~60歳が87.5%に対し、女は51~55歳が65.4%。
 製造業では、男は56~60歳が78%に対し、女は50歳以下が59.1%と、男女差がより大きくなっています。
 飲食・娯楽・サービス業では、男は、56~60歳が47%と唯一半数以下になり、51~55歳が26.5%いますが、女は、50歳以下が60.3%と、60%を越えます。

2.定年と性差別との関係の認定

 「女性労働者の定年が男性労働者よりも早いのは差別だと思うか?」という質問に対して、「はい」と答えたのは26.4%(女性は31.8%、男性は18.8%)でした。「わからない」という答えが16.0%(女性15.5%、男性16.3%)で、57.6%の人は「いいえ」と答えました(女性52.4%、男性64.9%)。

 女性でも、「いいえ」という答えの方が多いわけですが、「行政機関」に勤務する女性の場合は、「はい」という答えが「いいえ」よりも3.6%多く、勤務先の性質別で、唯一「はい」という答えが多かったとのことです。職業別では、「法律・監査・会計」の仕事をしている女性が、「はい」という答えが「いいえ」という答えよりも18.2%多く、唯一、「はい」という答えの方が多かったということです。

3.性別とレイオフ、企業内早期退職の状況

 「あなたの職場では、レイオフや企業内早期退職をしている女性労働者は男性労働者よりも多いか?」という質問に対しては、23.8%の人が「はい」と答えました(「いいえ」が31.2%、「わからない」が45.0%)。最も「はい」が多かったのは、「国有企業」に勤める人で、44.4%でした(「いいえ」は16.7%、「わからない」は38.9%)。

(六)職場の性差別に対する理解と対応

1.職場の性差別に対する理解

 「仕事の中で性差別を受けたことがあるか?」という質問に対しては、15.4%の人(女性の場合は16.7%)の人が、「はい」と答えました。課題グループが女性にインタビューをしたところ、「多くの人は、『職場の性差別』について、はっきりした概念を持っておらず、彼女たちは自分の経験だけにもとづいてこの概念を定義している」ことを発見したということです。

2.職場で性差別が存在する原因について

 アンケートで、5つの選択肢から選んでもらったところ、以下の順でした。
 1.「求職者が多すぎ、需要と供給のバランスが崩れ、使用者側が選択できる幅が広い」…50.1%(女性50.3%、男性49.8%)
 2.「女性は担っている家事が比較的多いので、仕事に影響する」…45.1%(女性47.7%、男性41.6%)
 3.「勤務先が出産関係の費用を負担するので、女性を雇うコストが男性より高い」…32.5%(女性35.8%、男性32.5%)
 4.「勤務先に性別平等意識が欠けている」…34.1%(女性36.5%、男性30.9%)
 5.「女性の仕事の能力が男性より低い」…23.2%(女性10.8%、男性23.2%)

 インタビュー調査では、他に、「伝統的文化観念の影響」、「企業文化」「社会の趨勢」、政策や法律の無力さ、などを挙げる人が多かったということです。

3.職場の性差別に対する対応(女性に対する質問)

 1.「関係部門に訴える」…32.4%
 2.「理によって勤務先と争う」…26.5%
 3.「やむなく我慢する」…25.6%
 4.「裁判所に訴訟を起こす」…16.9%
 他に、「職場を辞める」「インターネットで助けを求める」といった回答がありました。

 インタビュー調査では、大多数の女性は弱気になっていることや、法律の保護がなかなか得られない状況が語られています。もちろん単に黙っているわけではなく、婦連や法律相談に訴えたり、会社に要求したりしているのですが。

4.職場の性差別をなくす提案

 「どのようにして職場の性差別をなくすのか」という質問に対する答えをまとめると、以下のようになったそうです。
 1.法律で性差別を規制する、法律上責任を明確にする。2.政府が法律を強力に執行する。3.救済のメカニズムをきちんとしたものにする。4.監督と検査。5.職場の性差別に反対する宣伝を強化する。

三、結論と提案

(一)研究の結論

 1.招聘において性別にもとづいた差別が依然として重大であり、高学歴の女性の採用拒否率が高い(←一)。
 2.職業の性別分離が依然として存在し、就業構造全体における女性の地位は男性よりも低い(←三)。
 3.妊娠期・出産期・哺乳期における性差別や、男女同一労働同一賃金でない問題が依然として顕著である(←二―1、2(1))。
 4.男女の職場の待遇と職場の昇進の面での差異は依然として顕著である。子どもと家事が、女性の職場での昇進を妨げる二大要素と見なされている(←二―2(2)、三)
 5.20%以上の職場の女性がポルノ的な笑い話をされたことがあり、40%以上の職場にセクハラを禁止する規定がなく、50%以上のセクハラの源は勤務先の外にあり、職場でのさまざまなセクハラが職場の女性の発展を阻害している(←四)。
 6.60%近い人が「女性労働者の定年が男性労働者より早い」ことを差別でないと考えており、同一年齢の定年の推進を阻害する意識になっている(←五)。
 7.一般の人は、「労働市場の供給が需要より多い」ことが職場の性差別を引き起こす第一の原因だと考えている(←六)。

(二)提案

1.健全な就業と労働市場に関係する法律・政策を打ち立て、実効あるものにし、それを招聘・採用・任用などの段階において真に男女平等原則を体現できるものにする。また、いささかの国家・地区で成果を上げている経験を参考にする
 (1)雇用差別反対のための専門の法律を制定する。その法律は、労働者の就労の全ステージにおける性差別を規制するものにし、また、立証責任を労働者側だけに求めないものにする。
 (2)社会が補償する出産保険制度を設立し、女性の出産のコストを社会化することによって、企業の出産保険を社会の出産保険に転換する。そうすることによって、男性を雇っても女性を雇っても、女性の特殊な生理周期による損失がないようにして、男女の採用の差別をなくす。
 (3)労働市場の監督管理を強化し、法律的責任を明確にする。性差別に対する罰則を強化するとともに、政府部門による監督・検査を強化する。また、性差別をした者に対する懲罰的賠償制度を儲ける。
 (4)事前審査と事後救済制度を設立する。

2.ジェンダー平等政策を評価・監督する専門の機構を設立する
 アメリカやイギリス、オーストラリア、わが国の香港地区のように、「平等機会委員会」のような、独立して職場の差別事件を専門に扱う機構を設立する。

3.政府が財政・金融・工商・税収・労働などに関係する政策を制定する際は、ジェンダー意識を組み入れ、性差別に反対するために適切な政策的傾斜をかける
 (1)政府が関係する政策を制定するとき、「障害者就業条例」が一定の比率の障害者を雇うことを義務づけているように、一定の比率の女性を雇うことを義務づける。
 (2)女性を多く雇っている企業に対する税金の軽減や褒賞の授与。
 (3)社会保険費を社会保険税に変えて、納税を強制することを考慮する。
 (4)男女ともに育児休暇を与える。
 (5)一部の女性が短時間就労を選択できるようする。ただし、彼女たちに対する社会保障はきちんとする。

4.人を雇う組織と労働者に対して、関連する法律・法規の学習・宣伝・研修をおこなって、単位の遵法意識を高め、労働者の法律意識と権利保護意識を増強する
 とくに、出稼ぎの女性労働者は学歴や就業の層が低いので、彼女たちに対して、技能訓練とともに、権利意識を養う研修をすることを各レベルの政府の計画に組み込む。

5.法律的救済のルートを作り、差別される集団のために司法的保障を提供する
 雇用差別に対して、民事・行政訴訟だけでなく、憲法訴訟ができるようにし、憲法の司法化を実現する。若干の地方政府が発布している差別的な法規や規則、決定に対して、違憲審査制度を作る。

6.差別・性差別の法律上の定義を明確にした基礎の上に、差別反対の関連知識を教育体系に組み込む

 この本には、以上の報告のほか、10人の女性労働者らに対するインタビューと10件の女性労働者に対する差別事件(定年、セクハラ、妊娠による解雇など)の報告が、それぞれ約50ページにわたって収められています。


 以下、上述の報告を読んで、私が思ったことを簡単に記します。

 ・この調査は、大づかみにではあるが、採用から退職・解雇に至るまでの全ステージにおける、職場の男女差別のさまざまな形態についてに調査している。この点が最大の特色である。サンプル数も多い。

 ・ただし、調査の対象になっているのは同じ職場の中の男女差別についての調査であって、男女で職業や職場が異なることによって生じる格差については、直接には扱われていない。非正規の問題も少なくとも直接には扱われていない。

 ・しかし、男女差別の各形態ごとに、勤務先の性質や職業の種類による差異については分析されており、この点も、今回の調査の特色だと思う。ただ、これらの差異については、元データが記されていない個所があり、また、結論部分では、それらの差異に触れられていないのが残念である。

 ・募集・採用における差別について言えば、以前、本ブログでこの調査を報告した際にも触れたことだが(「職場の性差別についての調査報告」)、公務員採用(行政機関、政府部門)で性差別が目立つ点に対して、中国のフェミニストや雇用差別に反対する人々から厳しい批判がある。

 ・管理職の比率や研修・抜擢の機会の男女格差については、もし日本の職場で同じ質問したら、恐らくより多くの人が男女格差の存在を指摘するだろう。この点は、日本と中国の意識の違いもあるのかもしれないが、やはり基本的には、これらの面では日本の方が男女差別が大きいからだろう。

 ・セクハラに関しては、中国では、まだ使用者のセクハラ防止義務が全国的な法律では定められていないので、「自分の勤務先には、セクハラ禁止規定はない」と答える人が多いのは予想どおりである。ただ、「ある」と答えた人も26.9%いるが、それは、どのような形で定めているのだろうか?

 ・この研究で強調されているのが、「性差別」という概念について、多くの人がはっきりした理解を持っていないということである。たとえば、「課題グループが個別にインタビューをしたところ、職場の性差別についての理解は各人で異なっているけれども(……)みんなが理解している差別概念は、たいへん主観的で、また、たいへん抽象的である。職場の性差別が包含する範囲は、けっして就職する時に限られないが、現実には、大衆の職場の性差別についての認識は、往々にして就職の時と妊娠後に遭う差別的な応対に限られていると言わなければならない」。それゆえ、「課題グループは、現在、わが国では法律の上で『差別』『性差別』などの基本概念の線引きをすることが極めて重要で、かつ緊急性を持っていると考える。なぜなら、差別の概念と範囲についての曖昧さは、社会全体の反差別の認識と反差別の推進の過程に直接影響(……)するからである」(p.29)と述べられている。私は、この点については、中国の社会では、社会的な運動が制約されているために、まだ「差別」についての議論が、メディアでも、学問上でもきちんとおこなわれていないことと関係があるのではないかと思う。といっても、日本も、国連の女性差別撤廃委員会から「国内法に差別の具体的な定義が欠けている」と指摘されているのだが(※)。

 (※)国連の女性差別撤廃委員会は、日本政府に対し、2003年の最終コメントでは「委員会は、憲法が両性の平等を規定しているにもかかわらず、国内法に差別の具体的な定義が含まれていないことに懸念を表明する」と指摘し、2009年の最終見解でも、「委員会は、憲法では男女平等の原則が正式に定められていることに留意する一方、本条約が直接かつ明確に国内法に取り込まれていないこと、及び本条約第1条に従った女性に対する差別の具体的な定義が国内法に欠けていることに、依然として懸念を有する」と指摘している。

 ・「同一労働同一賃金」でない状況というのは具体的にはどのような状況なのだろうか? 雇用形態が異なるのだろうか? 

 ・定年の男女差について、今回の調査のように職場の性質や職種によって区別して、その実態を統計的に明らかにしたデータはあまり見かけないので、貴重な調査報告だと思う。この調査報告からは、とくに女性労働者(工人)の場合は、定年が50歳以下に抑えられているという点も、明確に浮かび上がっている。それとともに、定年の男女差を差別だと思わない人が多いことが問題になっているが、この点については、性差別についての意識の問題もあろうが、とくに生産現場の中高年女性などの場合、「リストラのリスクが高く賃金の上昇が望めない状況であれば、受給月額が多少低くなっても早期定年退職を選んだ方が、安定的な収入(年収)を確保して、しかも時間と体力にゆとりができ、かつ年金の累計額も大きくなる」(澤田ゆかり「定年退職年齢の男女差と年金をめぐる言説」『近きに在りて』58号[2010年11月]87頁)という状況があるからのようだ。こうした状況に対応した議論を展開する必要があるだろう。今のところ、『中国婦女報』あたりに掲載されている議論は、そうなっていないように思う。
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遠山日出也

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