2017-03

公衆トイレなどの便器数の男女比を改める動き

 中国の公衆トイレは、建設部の「都市環境衛生施設設置基準(城市环境卫生设施设置标准)」にもとづいて設置されていますが、男女の便器の比率については、1988年に制定された「都市公衆トイレ計画・設計基準(城市公共厕所规划和设计标准)」が、「男女の便器の設置比率は2対3あるいは1対1にするのが適当である」と規定しています(第3.2.1条)。現在のところ、国内の大多数の都市の公衆トイレの便器の比率は、1対1だと報じられています。

 しかし、男と女では用便に必要な時間がまったく異なるので、男女の便器の比率が1対1では、しばしば女子トイレの前に行列ができたりします。便器が足りないために、女性は、時間の面でも、身体に対する負担の面でも、男性より困難を強いられている――そうした状況が中国でも指摘されています。

学校のトイレの便器数の男女比に関して

 トイレの女性用の便器の数を保障する規定は、まず、学校のトイレについて、一部地方で作られはじめたようです。

 以前お伝えしたとおり、2008年11月に制定された「広東省未成年者保護条例」(2009年1月施行)は、「学校の公共トイレなどの施設の建設・配置・使用においては、未成年の女子学生の生理的特徴に配慮しなければならず、女子トイレの一人当たりの実際の使用便器数は、男子トイレの便器数より多くなければならない」(第22条)と規定しました(本ブログの記事「学校の女子トイレの便器の数を男子トイレよりも多くする規定」参照)。

 続いて、2009年5月に改正された「陝西省『中華人民共和国未成年者保護法』実施規則(陕西省实施〈中华人民共和国未成年人保护法〉办法)」(2009年6月施行)も、同様の規定を置きました(第23条)(1)

 学校の場合、授業時間と休憩時間が決まっているので、女子生徒がトイレのために授業に遅れたりすることがないように、女子便器を確保する動きが起こったのかもしれません。

公衆トイレの便器数の男女比に関して

 公衆トイレについてはどうでしょうか?

 河南省鄭州市では、公衆トイレの男子トイレの面積が女子トイレの面積より大きく、ひどい場合は、3/4が男子用に充てられている場合もありました。そこで、2007年、市長の趙建才が「私は、今後鄭州で公衆が集まる場にトイレを建設する場合は、必ず女子トイレの面積を男子トイレよりも大きくしなければならないという『規定』を宣言しなければならない」と述べました(2)。ただし、何か法律的な規定を設けたというわけではないようです。

 しかし、2010年5~10月に開催された上海万博では、男女の便器の比率を1対2.5にしました。というのは、事前に、上海緑化・市容[都市の外観]管理局が調査チームを作って、さまざまな人の公衆トイレの利用時間を調査することによって、男女のトイレの使用にアンバランスが生じないようにしたためです。その結果、一時を除いて、女子トイレに長い行列はできなかったそうです。この結果を受け、上海では2011年から新しく設置するトイレの男女の便器の比率も、1対2.5にするということです(3)

 昨年大きな話題になったのは、2010年12月に施行された広東省珠海市の「珠海市婦女権益保障条例(珠海市妇女权益保障条例)」が、「新しく建築または改築する公衆トイレでは、女性の便器の比率は男性の便器の比率の1.5倍以上でなければならない」と初めて明確に規定したことです(第22条)(4)。「珠海市婦女権益保障条例」は、ほかにも、「婦女事務諮詢委員会」という、女性に関わる法規について市政府に意見や提案を出す機関を設けたり、DVに対する人身安全保護裁定や「ジェンダー統計」についての規定を置いたりするなど、さまざまな点で新しいものです(5)(珠海市の条例の人身安全保護裁定に関する規定については、本ブログの記事「DVに対する人身安全保護裁定(人身保護命令)の現状」五-2で言及しました)。『中国婦女報』も、「2010女性権益報告」で、この珠海市婦女権益保障条例を取り上げていますが、記事の中で、陳本建さんは、こうした良い条例ができた背景に関心を示し、香港やマカオの経験を参考にしたことを含めて、多くの専門的機構や専門家・学者の活動があったからではないかと述べています(6)

 陳本建さんは珠海市が「改革開放の最前線の都市」であることにも触れていますが、広東省では、ほかに仏山市も、女性便器の比率は男性便器の比率の1.5倍と決めています(7)。また、2010年春には、深圳市政治協商会議の徐華委員らが、「女性トイレに行列ができるのは、予算にジェンダーの視点がないからだ」と主張して、同会議の第5期第1回会議に、「ジェンダー予算の試行に関する提案」を提出しています(8)

 広東省以外でも、杭州市の西湖景区では、2010年に新しく改造したトイレでは、男女の便器はそれぞれ51と92で、男女の比率が1対2近くになりました。これは「観光客が満足するように」という目的でおこなったようですが(9)、福建省政府事務局が2010年11月に出した「都市の公衆トイレ建設に関する実施意見(福建省人民政府办公厅关于福建省城市公厕建设的实施意见)」も、新しく設置する公衆トイレの男女の便器の比率を1対1.5から1対2の比率にすることを規定しています(二-(二)の箇所)(10)。そのほか、いくつかの地方の新聞が、公衆トイレの男女の便器の比率の問題を取り上げています(11)

背景は?

 このように昨年あたりから公衆トイレの便器数の男女比を改める流れが出てきているようですが、なぜ昨年あたりからこうした動きが顕在化したのかという点については、私にはよくわかりません。もちろん大きな歴史的背景としては、女性の社会的活動が活発化したことがあるのでしょうし、上海万博などの場合には、国外の目を意識したという面もあるでしょう。陳本建さんが推測しているように、女性が要求を実現するために(広い意味での)運動をしていることも想像されるのですが、私には具体的なものはつかめていません。

 トイレの便器の男女比を改める動きは、もちろん中国だけのことではなく、「FEM-NEWS」(三井マリ子さん)は、2006年1月21日付けで「トイレの男女平等、世界中に」という表題で、「男女平等トイレは、ポッティ・パリティ(Potty Parity)と呼ばれる。アメリカでは、女性用を男性用より広くすることを義務づける建設基準のことを指す。NYを初め多くの州や都市で、この制度が確立しつつある。ストッキングをはいていたり、子ども連れだったり、生理上のニーズなどから、統計によると女性は男性の2倍時間がかかるという。だから女性トイレの前には長蛇の列。スタジアムなどでは、『男性トイレ誰もいない?』と、我慢しきれず男性トイレを使う女性も。ポッティ・パリティは、アメリカだけでなく、シンガポールでも法制化されている」と伝えています。こうした意味では、トイレの便器の男女比を改める動きは、男女平等の流れの中にあることは間違いないのですが……。

 なお、本ブログの記事「『第3回(2010年)中国10大セックス/ジェンダー事件批評』」で挙げられた、昨年陝西師範大学に出現した立式の女性トイレも、女性用トイレが不足していることへの対応という面もあります。立式の女性トイレを推進する人は、「女性が小便する時間は、男性の3倍かかるのだから、女性用の便器を男性の1.5倍にする程度では足りないし、かといって、男性用の3倍の女性用トイレを作るのは浪費である」と主張しています(12)。たしかに女性用の便器の比率を男性の1.5倍にする程度では、上海緑化・市容管理局の調査チームの調査に基づく1:2.5という数値に比べて、まだ女性用が少ないのでは? という疑問がわきます。もっとも、地域や施設による男女の公衆トイレの利用状況には差があるでしょうから、一概には言えませんが……。

 男女の便器の比率の問題はともかく、立式女性トイレについていえば、たしかに小便に関しても歴史や文化による差異はあるようで、畢恒達さんは「昔、エジプトでは、宗教的な要因で、小便のときに男はしゃがみ、女は立つことによって、神を冒涜しないようにした。イスラム教徒は、男女ともしゃがむ姿勢を取る。マオリ人は、服装上の装飾品の要因によって、男はしゃがみ、女は立った。19世紀の日本の女性も、木の桶の前に立って小便した」と言っています(13)。畢恒達さんの言っていることが正確かどうか、私は知りませんが、たしかに生理的な要因だけが現在の小便スタイルを生みだしたと考えてはいけないでしょう。

 そのほか、性別に関係なく使えるトイレ(无性别公厕)の設置の問題などもありますが、この点については、まだほとんど調べられていないので、また別に書きたいと思います。

(1)草案段階の報道は、「《陕西省实施办法(修订草案)》拟规定学校女厕厕位应多于男厕」女権在線2009年3月26日(来源:華商報-華商網)。以前の規則(「陕西省实施〈中华人民共和国未成年人保护法〉办法」)には、こうした規定はありませんでした。
(2)河南郑州规定新建公厕中女厕面积要大于男厕」新華網2007年10月26日(来源:東方今報)。
(3)明年起女性如厕不再“受累”」解放牛網2010年10月26日。
(4)珠海首次立法规定男女厕位比例」2010年10月29日、「公衆トイレの便器数、男女比を法律で決める―中国珠海市」サーチナ2010年11月1日、「珠海立法规定男女如厕比例1:1.5 获网友盛赞」深圳新聞網2010年11月5日、
(5)《珠海市妇女权益保障条例》呈现八大亮点」珠海婦女網2010年12月2日。
(6)2010妇女权益年度报告」『中国婦女報』2011年1月4日。
(7)珠海立法规定男女如厕比例1:1.5 获网友盛赞」深圳新聞網2010年11月5日。
(8)女厕排队事关性别预算」『羊城晩報』2010年6月2日。
(9)杭州西湖景区改造公厕男女厕位比近1:2」中国新聞網2010年11月12日(来源:銭江晩報)。
(10)福建出台文件规定男女公共厕位比例」中国新聞網2010年11月15日。
(11)公厕设置如何体现男女平等」『四川日報』2010年3月2日、「公厕设置厕位应该“重女轻男”」蘭州新聞網(来源:蘭州晩報)、「女性出游为何常遇如厕难?3大原因寻根究底」中国新聞網(来源:南方日報)2010年12月7日、「公共场所如厕 女士总是在等」毎日甘粛2011年1月21日(稿源:中国甘粛網-西部商報)
(12)男女厕位之比为 2:3 , 并不是好办法」女性方便新観念サイト。
(13)畢恒達「男人来自火星,女人来自金星?」(2009/9/14)中山大学性別教育論壇サイト。
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