2017-09

館長雇止め・バックラッシュ裁判、三井さんの勝訴が確定

1.最高裁が豊中市と「とよなか男女共同参画推進財団」の上告を棄却

 三井マリ子さんは、2000年、大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の初代館長(全国公募による、非常勤)として、独創的な企画を打ち出すなど全力で仕事を進め、その実績は市やセンターにも高く評価されました。しかし、そうした三井さんの仕事が目ざわりだったバックラッシュ勢力(男女平等の推進に反対する勢力)が市やセンターに圧力をかけ、その圧力に屈した豊中市などは、非常勤館長職廃止して館長を常勤化する「組織変更」を三井さんに知らせないままに進めて、三井さんを雇止めし、2004年、新館長への採用も拒否しました。

 三井さんは上のように訴えて、豊中市と「すてっぷ」を運営する「とよなか男女共同参画推進財団(以下、「財団」と言う)」とを相手取って、損害賠償を求める裁判を2004年12月に起こしました。大阪地裁の一審判決(2007年9月)は原告敗訴でしたが、、大阪高裁の二審判決(2009年3月)は、三井さんの逆転勝訴でした。高裁判決は、豊中市が「一部勢力(=バックラッシュ勢力)」の圧力に屈して、三井さんの人格権を侵害する形で雇止めをしたことに対して、豊中市と財団に慰謝料などの支払いを命じました(詳しくは、本ブログの記事「 (日本)館長雇止め・バックラッシュ裁判、高裁で逆転勝訴」参照)。豊中市と財団は高裁判決を不服とし、最高裁に上告しました。

 しかし、最高裁は、今年1月20日付けで、両者の上告を棄却しました(1)[←下の「全文を表示」の個所をクリックしてください]。

 三井さんは、今回の棄却決定について、「豊中市は、男女平等を進めるセンターの館長の私に、職場情報を知らせず、その一方で、『本人は辞めることを承諾している』とデマを流して、私の首を切りました。こんな仕打ちを、高裁は『人格権の侵害』として断罪し、それを最高裁が認めたのです。陰湿で無礼な首切りは犯罪的行為と決まったのです。訴訟に費やした7年間がこれで報われました。今晩から、ぐっすり眠れます」と語っています(この裁判を支援する「ファイトバックの会」のプレス・リリース「最高裁、豊中市らの上告棄却!」より)。

 この裁判ついては、私はしばしば本ブログで取り上げただけでなく、書面・意見書の要旨や自らの感想をまとめた特集ページを作成していますので(「館長雇止め・バックラッシュ裁判(原告・三井マリ子さん)」)、そのページをご覧いただければ、これまでの詳しい経過がお分かりいただけると思います。

[以下の目次]
2.この裁判の意義について
3.三井さん勝利確定緊急集会も開催――豊中市は今回の事件について謝罪や再発防止を
4.支援運動で起こった問題を払拭することも必要 ――――――――――――――――――――――――――
2.この裁判の意義について

 三井さんは、この裁判を起こした理由として、自らの雇止めの背景には、日本の女性にとって重要な2つの大きな問題である、「非常勤労働者」の問題(=自分が首を切れらたのは、多くは女性である非常勤労働者だったからだということ)と「バックラッシュ勢力」の問題があることを挙げていました(三井マリ子陳述書)。

 弁護団の寺沢勝子弁護士は、今回確定した大阪高裁の判決の意義として、以下の2点を挙げています。 

1 豊中市の不法行為責任を認定
 (……)女性差別撤廃条約や男女共同参画社会基本法にてらせば、バックラッシュ勢力の言い分はおよそ、根拠がなく、男女平等の理念に反するものであるにもかかわらず、バックラッシュ勢力の執拗で暴力的な攻撃に屈する地方自治体も出てきている。
 このようななかで、バックラッシュ勢力の攻撃の詳細を明らかにし、この攻撃に屈して、攻撃に対して毅然と対峙して男女平等を推進してきた三井さんを、市と財団が一緒になって、財団から排除した過程を明確に認定し、公務員としてあってはならない行為であるとして不法行為を認定したこの判決は「一部勢力」に対する地方自治体のありようを厳しく問うものである

2 人格権の侵害を認定
 この判決は、三井さんの地位を地方公共団体の特別職の非常勤職員の公務員に準ずるとして、雇止および不採用についての雇用契約における債務不履行または不法行為は認められないとしたという問題はある。
 しかし、国、自治体の非常勤職員の期間満了を理由とする雇止め(不再任用)について、労働者が勝訴するのは、きわめて難しい状況にあって、地方公共団体の特別職の非常勤職員の公務員に準ずるとされる事案において人格権侵害による慰謝料請求が認められた意義は大きい。とりわけ、説明を受け、情報を得て、協議に積極的に加わり自らの意見を述べることなく、財団から排除されることに対して人格権侵害を認めたことは、期間が満了したことのみで雇止めが一方的に行われている現状においては、大きな意義がある
 最高裁で確定した昭和町事件では、再任用にあたって差別されないことをもって人格権侵害による慰謝料請求が認められたが、これに続いて国、自治体の非常勤職員に準ずるとされるケースについて人格権侵害による不法行為が認められたのは、国、自治体で働く非正規雇用労働者には大きな励ましになる(2)


 寺沢弁護士の解説を読むと、三井さんが挙げた日本の女性にとって重要な2つの問題において、この裁判が大きな成果をあげたことがわかります。

 私自身は男性です。私がこの裁判にかかわる理由については、以前、日本女性学研究会の機関誌『Voice of Women』で以下のように述べたことがあります(3)

 私は「ある一つの社会における女性解放の程度は、その社会の一般的解放の自然的尺度である」と言われるように、いつ世であれ女性解放は、民主主義全般の発展と深く関わる重要問題だと思っています。

 この裁判に即して言えば、いま日本では、一人一人の個を圧殺するナショナリズムが強まり、海外で戦争をする国になりつつあります。また非正規雇用が男性にも広がっており、私自身も非正規雇用です(仮に正規になれたとしても、かつて以上に「会社人間」的働き方が求められるようです)。こうした流れが続くならば、私の未来は暗く閉ざされると感じるので、抵抗しなければと思います。

 そのために私は平和運動や非常勤講師運動にも参加しているのですが、男女平等へのバックラッシュは、ナショナリズムの強化をジェンダーの面から支えています。また非正規雇用が女性に多いこと自体は何ら変わっていませんから(もともと非正規が多かった女性に、近年さらに非正規が増えているので)、この問題を解決するためにも女性の自立を軽視するジェンダー構造の変革が必要です。だから私はこの裁判を応援しているのです。


 上のような点でも、この裁判は大きな成果をあげたと思います。

 今回の事件で豊中市や「すてっぷ」に圧力をかけたのは、「日本会議」やその関連団体である「教育再生・地方議員百人と市民の会」の議員や活動家でした。これらの団体は、選択的夫婦別姓、男女混合名簿などの男女平等政策に反対するとともに、憲法改悪や天皇崇拝を推進しています。また、これらの団体は「新しい歴史教科書を作る会」と密接な関係を持っており、外国人の地方参政権にも強固に反対するなど、偏狭なナショナリズムを煽っています。たとえば、「すてっぷ」の窓口にやってきて圧力をかけた増木重夫氏は、「教育再生~」の事務局長でしたが、排外主義的団体である「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の関西支部長でもありました。

 こうした勢力とそれに屈した行政に対して、女性解放の視点から異議を唱えたのがこの裁判でした。すなわち、この裁判は、フェミニズムの視点から反動勢力に反対し、ナショナリズムに側面から歯止めをかける役割を果たしたと思います。この裁判の支援者の9割以上は女性でしたが、女性たちの運動があったからこそ、こうした勢力に行政が左右されることを食い止める判決が勝ち取れたのです。せっかく憲法改悪やナショナリズム一般に反対しても、もし女性解放の視点に立った運動がなければ、反動勢力は「伝統(家族)を守る」といった美名の下、人々の家父長制的意識を基盤にして勢力を確保するでしょう(もちろん、逆に、かりに性差別に反対しても、民族差別などに反対する視点がなければ、バックラッシュ勢力に十分には対抗できないということも言えますが)。

 また、『労働法律旬報』で寺沢弁護士が述べている、特別職の非常勤公務員の雇止めや当人への説明・協議抜きの雇止めが野放しになっている現状に警鐘を鳴らしたという点は、当然、そのまま男性の非正規労働者にとってもプラスになります。

 私は、反動勢力や非正規雇用に女性解放の視点から対抗したこの裁判の意義をさらに広げ、今後の運動にも生かしていきたいと思います。

3.三井さん勝利確定緊急集会を開催――豊中市は今回の事件について謝罪や再発防止を

 判決を受けて、地元豊中市で以下の集会が開催されます。ぜひご参集ください。

☆館長雇止め・バックラッシュ裁判勝利集会――最高裁が豊中市上告棄却!☆(4)

 2011年2月6日(日)午後6時~
 阪急豊中駅前すてっぷセミナー室(エトレ豊中内)[アクセス]

 この集会では、三井マリ子さんのほか、弁護団の寺沢勝子さんと島尾恵理さん、豊中市議の坂本やすこさんと木村真さんらが発言なさる予定です。

 参加費=無料

 主催=すてっぷ裁判を考える豊中市民の会&非正規雇用を考える会
 連絡=電話 090ー8149ー0008


 今回の集会でも発言なさる豊中市議の坂本さんや木村さんは、豊中市に対して、三井さんに謝罪することや「すてっぷ」で何が起ったかを究明して市民に説明すること、関係者を処分すること、再発防止策を立てることなどを求めておられます。
 ・坂本やすこ市議:「やったあ! 三井マリ子さんの勝訴が確定 豊中市は真摯に受けとめ、三井さんに謝罪を!」『メール版[ガラス張り通信]』第234号(2011/1/26)
 ・木村真市議:「すてっぷ館長雇止め裁判で三井マリ子さん勝訴・豊中市敗訴が確定 」ブログ『ほぼ週刊 まこと通信』2011/1/24。

 坂本やすこさんによると、今まで市議会でこの問題について質問しても、豊中市は「係争中だから答えられない」の一点張りで逃げてきたのに、判決確定後、現在の人権文化部長に三井さんへの謝罪や市民への説明を求めると、人権文化部長は「判決は出たので、これで終わりかな…。すでに損害賠償をした。法的に何かする意志はない」と答えたということです。

 問題が起きたら、謝罪や再発防止が求められるのは、当然のことではないでしょうか? 木村議員も指摘していることですが、「損害賠償」も市民の税金から出ているのですし……

4.支援運動で起こった問題を払拭することも必要

 なお、高裁判決の際も述べたことですが、今回の勝利判決によって、この裁判を支援する会である「ファイトパックの会」の一部の方々(とくに世話人会の方々)の問題点が忘れ去られるようなことがあってはならないと思います。高裁での勝訴判決のキーワードになったのは「人格権」という概念であり、高裁判決が批判したのは、人格権を侵害した不当な排除でした。ところが、「ファイトパックの会」は、支援運動の中で、人格権を侵害するような誹謗中傷や不当な排除をおこないました(5)。裁判での貴重な成果にも背く、こうした行動を清算しなければ、今後、この裁判の成果を広げる上で障害になるのではないでしょうか? もちろん現世話人の方々は今回の勝訴に大きな役割を果たされていますが、問題点があったことも認めていただき、問題を払拭していただきたいと思います。

(1)今回の最高裁の棄却決定は、支援団体のファイトバックの会のサイトに原文が掲載されていますが(豊中市財団[PDF])、いずれも以下のような内容です。
第1 主文
 1 本件上告を棄却する
 2 本件を上告審として受理しない
 3 上告費用及び申立費用は上告人兼申立人の負担とする。
第2 理由
 1 上告について
 民事事件につい最高裁判所に上告することが許されるのは、民訴法312条1項又は2項所定の場合(※)に限られるところ、本件上告理由は、理由の不備・食い違いをいうが、その実質は事実誤認又は単なる法令違反を主張するものであって、明らかに上記各項に規定する事由に該当しない。
 2 上告受理申立について
 本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項(※※)により受理すべきものとは認められない。
 (※)[民事訴訟法312条] 上告は、判決に憲法の解釈の誤りがあることその他憲法の違反があることを理由とするときに、することができる。
2 上告は、次に掲げる事由があることを理由とするときも、することができる。ただし、第四号に掲げる事由については、第三十四条第二項(第五十九条において準用する場合を含む。)の規定による追認があったときは、この限りでない。
一 法律に従って判決裁判所を構成しなかったこと。
二 法律により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。
三 専属管轄に関する規定に違反したこと(第六条第一項各号に定める裁判所が第一審の終局判決をした場合において当該訴訟が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときを除く。)。
四 法定代理権、訴訟代理権又は代理人が訴訟行為をするのに必要な授権を欠いたこと。
五 口頭弁論の公開の規定に違反したこと。
六 判決に理由を付せず、又は理由に食違いがあること。
 (※※)[民事訴訟法318条] 上告をすべき裁判所が最高裁判所である場合には、最高裁判所は、原判決に最高裁判所の判例(これがない場合にあっては、大審院又は上告裁判所若しくは控訴裁判所である高等裁判所の判例)と相反する判断がある事件その他の法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる事件について、申立てにより、決定で、上告審として事件を受理することができる。
(2)寺沢勝子「大阪高等裁判所で逆転勝訴――雇止め、不採用で人格権侵害を認定」『労働法律旬報』No.1724(2010年7月下旬号)18頁。
(3)遠山日出也「11月例会テーマ『館長雇止め・バックラッシュ裁判について』」『Voice of Women』274号(2006年9月)9-10頁。
(4)ブログ「広島瀬戸内新聞ニュース」の「三井さん勝利確定緊急集会」、ブログ「FEM-NEWS」の「集会『最高裁、豊中市の上告棄却』」をもとにして書きました。
(5)以下は高裁での勝訴判決の際に述べたことですが、もう一度繰り返すと――
 ・ファイトパックの会のブログなどで、証人であった桂後任館長(その後辞職)に対して、根拠薄弱な憶測にもとづいて、事実と異なる誹謗中傷をおこなったこと(他の人に対しても、誹謗中傷と言いうる記述があった)。
 ・桂さんへの謝罪に向けて動いた世話人らを排除したメンバーで、ウラで秘密裏に「ニュー世話人会ML」を作ったこと、そのMLで彼女たちに世話人をやめさせるための相談もおこなったこと
 ・桂さんへの謝罪は一応おこなったものの、その後、かなり骨抜きのものにしたこと
 ・以上のような問題に関して、事実と異なる宣伝をしてきたこと
 詳しくは、「ファイトバックの会 謝罪問題まとめ@wiki」を参照してください。
 高裁判決にも、桂さんに対する誹謗中傷を正当化するような箇所はまったく含まれていません(というか、そもそも原告側の準備書面にも、桂さんに対する誹謗中傷を正当化するような個所は含まれていなかった)。もちろん、上のような運動のやり方を正当化する個所もありません。むしろ、高裁判決は、「人格権」を軽視するやり方を断罪しています。「名誉」も人格権の一部ですし、高裁判決は、ファイトパックの会の一部の人々のように、当人との相談や説明抜きで、ウラで画策して不当に人々を排除したり、その人々についての「異なる事実」を流したりするやり方を批判しているのです。
 支援運動のこうした問題点については、今後、さらなる解明や克服が必要だと思います(実は、私自身も、ある証人[桂さんではない人です]に対して、ファイトパックのブログで、人格的次元の攻撃や一面的な事実認識にもとづく非難をしたことがあり、その点を反省しています)。
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