2017-04

最高人民法院による婚姻法の司法解釈(三)の意見募集稿をめぐって

 11月15日、最高人民法院は、「『中華人民共和国婚姻法』の若干の問題に関する解釈(三)」(意見募集稿)[最高人民法院「关于适用《中华人民共和国婚姻法》若干问题的解释(三)」(征求意见稿)中国法院網2010-11-15]を発表し、広く社会に対して意見を求めました。解釈の(一)と(二)は、それぞれ2001年12月と2003年12月に公布されていますが(「关于适用《中华人民共和国婚姻法》若干问题的解释(一)」「关于适用《中华人民共和国婚姻法》若干问题的解释(二)」)、今回の(三)は、夫婦の共有財産と個人財産の区別の問題を中心にして、女性の生育権などにも触れています。

 この意見募集稿は身近な問題を扱っているため、世論の関心が比較的高いようです。女性団体も、12月2日に北京衆沢女性法律相談サービスセンター(もと北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター)が研究討論会を開催し(1)、12月9日には全国婦連権益部と全国婦連女性研究所も共同で研究討論会を開催しました。それぞれの研究討論会では、意見募集稿に対して修正提案もおこないました(2)。広東省婦連と広東省法学会も、11月19日に研究討論会を開催しました(3)。『中国婦女報』も特集記事を組んでいます。

 以下では、さまざまな意見の中からいくつかをご紹介します。

1.女性の生育権、堕胎権をめぐって

 意見募集稿第10条「夫が、妻が勝手に妊娠を中止して生育[出産、産育というような意味]権を侵害したことを理由として損害賠償の請求をすることは、裁判所は支持しない」

 『南方都市報』で、沈彬さんという人が、上の条項を指して、この草案は「女性に無条件の、一方的な、制約されない堕胎権を与えており、事実上、男性の生育権を侵害している」と述べ、「夫婦が共同で創造した生命については、女性の側だけで勝手に決めてはならない」と主張しました(4)。同様の主張は、他にも若干あったようです。

 それに対して、呂泉さんは、「男女で出産について意見が一致しないとき、男性が女性の堕胎という選択を否定したら、沈彬さんの考え方でいくと、女性は堕胎して損害賠償させられるか、男性の意思に従って子どもを生むしかなくなり、女性は出産の道具になってしまう」と批判しました(5)。呂頻さんも、「出産は女性の身体を通してでなければできず、また女性の身体を通してのみ可能なのだから、女性が最後の決定をするしかない。」「もしそれが男性に対して不公正だと考えるなら、それは、男性には子宮がないという自然の仕組みのせいでしかない。当然、この仕組みのために、男性は永遠に妊娠・出産・堕胎の苦痛や危険、犠牲を体験しないことを忘れてはならない。女性が出産の負担の不公正に恨み言を言えないからには、男性もまた、公正という名の下に、堕胎の最後の決定権を譲り渡すことに恨み言をどうして言えようか」と述べました(6)。 

 また、柯倩婷さん(中山大学)は、「実際は、中国の法律は女性が堕胎権を享有することを明確には規定していない」ことを指摘しました。すなわち、柯さんは「女性の堕胎権は、『憲法』『人口と計画生育法』『母子保健法』などの関係する条文から導き出されるものであるが、前2者の法律は女性が計画生育を執行する義務を有しており、そのために堕胎の権利をもっていると規定している。これらの『義務が方向づけた』法律は、権利についての線引きを軽視している。『母子保健法』の規定は、妊娠を中絶する3つの状況を規定している:胎児に重大な遺伝的疾病がある、重大な欠陥がある、母親の生命・健康を損なう、である。これは、優生学の原則にもとづいた法律であり、胎児の生命権を最も重要な原則にはしていない」と述べました。

 柯さんは、さらに踏み込んで、「過去30年の計画出産の法律執行過程に存在した問題を反省して、『女性には堕胎しないことを選択する権利もある』ことを提起し、もっと多くの代替策を探究して、画一的な禁止令の代わりにすれば、社会の進歩をさらに推進する助けになるであろう」とも述べました(7)

2.夫婦の共同財産制をいっそう弱めた――結婚前に不動産の頭金を払っていたら個人財産になるのでは、現状では女性に不利

 意見募集稿第11条「夫婦の一方が結婚前に不動産の売買契約をし、個人の財産によって銀行ローンの頭金を払い、結婚後の不動産登記を頭金を払った側の名でおこなった場合は、離婚の際は、その不動産を不動産権利者の個人の財産とし、まだ返済していない部分の借金を不動産権利者の個人の債務として認定できる。
 婚姻関係が存続している期間に夫婦の共同の財産によって返済した部分は、離婚時の不動産価格の市場価値および共同で返済した借金の借金全体に占める比率などの要素を考慮して、不動産の権利者がもう一方に対して合理的な補償をおこなわなければならない。」


[歴史的経過]

 1950年に制定された婚姻法は「夫婦双方は家庭財産に対して平等の所有権を処理権を有する」(第10条)と、夫婦の共有財産制を定めていました。

 しかし、1980年婚姻法は、夫婦の共有財産を「夫婦が婚姻関係継続中に取得した財産」に限定しました。ただし、1993年の最高人民法院の「人民法院の離婚事件における財産分割処理問題に関する若干の具体的意見」は、「一方が婚姻前所有していた個人財産で、婚姻後双方によって共同で使用・経営・管理されたもの、および家屋その他の比較的価値の高い生産資料は8年経過後に、貴重な生活資料は婚姻期間4年経過後に夫妻共有財産となる」としました。

 しかし、2000年に婚姻法が改正された後の2001年末の最高人民法院の司法解釈は、こうした共有財産への転化を否定しました(第19条)。当時、加藤美穂子さんは、中国の婚姻法が「転化共有財産」を否定したことについて、「経済的強者の保護の方に傾いているともいえようか」と述べました(8)。また、郭礫さん(黒龍江省女性研究所)は、「市場経済への転換は女性が直接に社会経済の中から労働報酬を獲得する機会を、程度の差こそあれ、減少させる。夫婦財産制の規定に関する婚姻法の修正案は、疑いもなく『泣き面に蜂』である」と言って批判しました(9)

[今回の司法解釈について]

 今回の司法解釈では、不動産は、結婚前に頭金を払った側の個人財産になります。その点で夫婦の共同財産制をいっそう弱めたわけですが、不動産の頭金を出すのは、男性(夫)側のことが多いので、この司法解釈は男性側に有利です。

 「中国の結婚後の居住モデルの主流はなお『夫方居住』であり、とくに広大な農村ではそうである。都市の少数の婚姻では夫婦自らが家を買うけれども、大部分は依然として男性側または男性側の家族が結婚後の家を買うか、頭金を支払い、女性側は、家屋の付帯設備や家電・家具を買い、自動車さえ買う。家屋は消耗が少なく、価値が増す製品だが、家電や自動車は、消耗が大きい製品である。もし婚姻が何年か続いたら、女性の当初婚姻に対する物資の投入は、投入して青春とサービスと同じように消耗してしまう」(傅寧[中国メディア大学メディアと女性研究センター])(10)

 呂頻さんは、次のように述べます。

 「ジェンダー制度によって、往々にして女性は収入が少なく、無償労働に対する貢献が大きいので、夫婦共同財産制は、このような情況の下では、彼女たちの家庭の中での平等な地位を保護しうる。中国の現在の婚姻モデルと資源の性による分配状況の下では、夫婦の共同財産制を弱めることは、大多数の状況の下では女性にとって不利である。
 男性側が結婚後に住宅を提供するのは中国の伝統の一つであり、農村の父母には息子のために『家を建てて、嫁をもらう』伝統があり、計画経済の時代の都市の住宅の分配も男性に偏っていた。このような偏向のために、男性は住宅をつうじて婚姻の主導権を増大させ、女性は『夫方居住』によって、生活の自主性、とくに離婚の自主性を減少させた。
 都市の住宅の市場化は、このような伝統をけっして弱めず、むしろほとんど結婚の前提の一つにした。『結婚前に頭金を払い、結婚後の共同で返済する』という住宅獲得モデルは、男性側の圧力を緩和し、『共同の奮闘』は、夫婦の婚姻における協力精神を強化した。このような協力は通常、女性にとっては『経済的収入を獲得しなければならないだけでなく、家庭の中の無償労働を担わなければならない』という二重負担を意味していたのだけれども。しかるに、司法解釈の三は、ある程度、この『共同の奮闘』を女性にとって神話に変えるかもしれない。なぜなら、結婚後に共同で奮闘しても、住宅の分割権を得られないのだから。」(11)

 呂頻さんは、「司法解釈の三が、結婚後の共同の返済部分について、住宅価格の上昇という要素と返済の比率を考慮して『合理的な補償』を与えなければならないと規定している」点についても、「補償が合理的か否かは各人で感じ方が異なっており、そこにはすこぶる危険性がある。『合理的な補償』に対する期待は、もう一方がしっかりと不動産を持っていることには遠く及ばない」(12)と述べています。

 上の点を改善するための提案として、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、頭金の比率が「不動産の総価格の50%以上」の場合は個人財産にし、「50%以下」ならば夫婦の共同の財産にして、債務も共同で負うべきだとしています。なぜなら、「男性側の頭金の比率は10%か20%の場合さえあり、多くの場合、大部分の家を買う金は結婚後に夫婦が共同の財産で返済するのであって、この時、もし家屋を男性側の個人財産として認定するならば、女性側は離婚したら『着のみ着のままで家を出て』いかなければならないのであり、明らかに公平を失している」(13)からです。

3.婚外の愛人と別れる際の補償をめぐって

 意見募集稿第2条「配偶者がいる者が他の人と同居し、同居を解除するために財産上の補償を約束し、一方がその補償を支払うよう要求するか、または補償した後で気が変わって返還を主張しても、人民法院は支持しない。ただし、合法的婚姻の当事者が夫婦の共同の財産権を侵犯したことを理由に返還を主張するのは、人民法院は受理し、具体的状況にもとづいて処理しなければならない。」

 この条文については、二つの方向から批判が寄せられています。

 まず、北京衆沢女性法律相談サービスセンターは、「この条文は(……)実質上、非法同居の関係の下での約束を条件付で認可しており、合法の配偶者の合法的利益を明らかに侵害している。なぜなら、このような第三者に与える財産上の補償は、個人財産ではなく、夫婦の共有財産であり、もし他人に贈与しようとするなら、必ず夫婦双方の同意がなければならない。本条文は、夫と妻と『第三者』との矛盾を調和させることは全くできない。もし権利が侵害されたと思ったら、権利侵害の訴えをして解決するべきである」と述べています(14)

 方剛さん(北京林業大学人文学院准教授)と陳亜亜さん(上海社会科学院文学研究所研究員)は、まったく逆の意見です。「婚姻法が事実婚を否定していることは、女性の権利に対する剥奪として、既にずっと以前から非難されている。『愛人』の補償を支持しないのは、婚姻内の『過ち』を『愛人』個人の身に転嫁することである。たとえ婚外の恋愛が過ちであっても、この『過ち』は『愛人』個人だけに負わせるべきではない。これらの条文[ここでは、上の第11条も含めて言っているようです]の修正は、すべて現在の一夫一婦の婚姻制度を維持するためものである。逆に言えば、このような条項を制定しなければならないのは、現在、一夫一婦の婚姻制度が現実のレベルでは危機に陥り、挑戦されているからだ。これらの条項は、『私有財産の保護』と『婚姻の中の女性の保護』という名目によって、婚姻における父権の統治を維持するものである。」(15)

 また、全国婦連権益部と全国婦連女性研究所の研究討論会では、「出席した専門家は、第2条は、司法解釈には適していない、価値の方向づけの問題である(と考えた。……)また、現実の生活では、配偶者がいる者と他の人との同居の情況は複雑多様である。同居相手にも、たしかに過ちがある者もあれば、配偶者がおらず、相手に配偶者がいることを知らなかった者もいる。また、配偶者が補償に使う財産は個人財産かもしれず、夫婦の共有財産かもしれない。裁判所は具体的な状況にもとづいて区別して処理するべきであり、簡単に画一的に処理すべきではないと考えた」ということです(16)

 今回の司法解釈の全体的な性格などについては、まだ私にはわかりませんが、どんな点が議論になっているのかを少し紹介してみました。

(1)在北京举办的“婚姻法司法解释(三)征求意见稿”研讨会上,与会者呼吁——应该听听农村妇女的声音」『中国婦女報』2010年12月3日、「北京众泽妇女法律咨询服务中心《关于适用<中华人民共和国婚姻法>若干问题的解释(三)》(征求意见稿)意见」婦女観察網2010年12月8日。
(2)全国妇联“婚姻法司法解释(三)”专家研讨会召开」中国婦女研究網2010年12月20日。
(3)应关注婚前房产归属中的女性权益」『中国婦女報』2010年11月23日。
(4)沈彬「[时事评论]沈彬专栏:堕胎只是女性的生育权吗?」『南方都市報』2010年11月17日。
(5)呂泉「[批评/回应]女性堕胎权让男性生育权走开」『南方都市報』2010年11月18日。
(6)呂頻「[批评/回应]何必为妇女堕胎权惊呼」『南方都市報』2010年11月19日。
(7)「有人侵害男性生育权吗」『女声』59期(2010.11.15-11.21)[word]。計画出産についてのデリケートな問題に踏み込んだせいか、柯さんの文は、新聞には掲載されませんでした。
(8)加藤美穂子『詳解 中国婚姻・離婚法』(日本加除出版 2002年)155頁。
(9)郭礫「新婚姻法与离婚妇女的财产权——“胡海英离婚案”个案研究」香港中文大学中国研究服务中心午餐演讲会(2003.10.29)。
(10)傅寧「法律的性别为男?」『中国婦女報』2010年12月8日。
(11)呂頻「削弱共同财产制,法律给妇女出难题」『中国婦女報』2010年11月30日、「削弱共同财产制,法律给妇女出难题」『女声』60期(2010.11.22-2010.11.28)(word)。
(12)同上。
(13)北京众泽妇女法律咨询服务中心《关于适用<中华人民共和国婚姻法>若干问题的解释(三)》(征求意见稿)意见」婦女観察網2010年12月8日。
(14)同上。
(15)第三届(2010年)年度十大性与性别事件评点公告」方剛ブログ2010年12月18日。
(16)全国妇联“婚姻法司法解释(三)”专家研讨会召开」中国婦女研究網2010年12月20日。
関連記事

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://genchi.blog52.fc2.com/tb.php/335-bb86d5fd
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | HOME |  »

プロフィール

遠山日出也

Author:遠山日出也
 検索から来られた方へ:このブログの記事を分類した一覧である「『中国女性・ジェンダーニュース+』記事総覧」を見ていただくか、下の「カテゴリー」欄を使われると、関連情報がご覧いただきやすいと思います。最近の行動派フェミニストについては、「中国の行動派フェミニスト年表、リンク集」をご覧ください。
 また、「中国女性・ジェンダー関係主要HPリスト」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。日本の問題の一部は、「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の労働争議・まとめ」や「館長雇止め・バックラッシュ裁判」でまとめています。
 恐れ入りますが、スパム対策などのため、コメントは私が拝見した後で表示させていただきます。
 私への連絡はこちらまで

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

最近のトラックバック

最近のコメント

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード