2017-06

台湾・屏東市で学校におけるセクマイ差別是正を訴えるデモ――心中したレズビアンカップルを追悼しつつ

 11月29日、台湾の南端の屏東[へいとう、ピンドン]県(政府所在地:屏東市)の高級職業中学(日本の実業系高校に当たる)の生徒であるレズビアンカップルが、民宿で木炭自殺(心中)をしました。双方の家族に向けて、遺書が2通残されており、そこには、「私たち2人は心から愛し合っています。けれど、家族に認めてもらえないからには、自分の一生の最初で最後の伴侶とともに人生の道を歩み終えるしかありません」と書かれていました(1)

 12月14日、この心中事件の追悼とセクシュアル・マイノリティへの差別是正を訴える目的で、約100人のセクマイの人々が、屏東駅から屏東県政府まで、1時間あまりのデモ(パレード)をしました。新同志公民権運動連盟(台湾性別平等教育協会、台湾性別人権協会、台湾同志諮詢熱線協会、台湾同志遊行聯盟、All My Gay、晶晶書庫、中央大学性/別研究室)が呼びかけたもので、屏東では初めてのセクマイによるデモです。

 台湾では、1994年にも、北一女(台北市立第一女子高級中学)の生徒のレズビアンカップルが心中しています。台湾同志相談ホットライン協会(台灣同志諮詢熱線協會)の秘書長の鄭智偉さんは、「16年の時を経て似たような事件がまた起きたことには、セクマイ運動をしている者として、かなり無力感を感じる。現在は、プライドパレードやセクマイ団体、ジェンダー平等教育法があって、理論的には社会は10数年前より開放的になってるはずなのに、現実には、差別の圧力によって、まだセクマイの自殺事件が何度も起きている」と述べています。

 屏東県でも、10年前、高樹国民中学のある男子生徒が、女性的な面を持っていたために長い間いじめられて、学校のトイレで自殺したという事件(2)が起きています。5年前には、屏東女中で、列車の中でキスをしたレズビアンの生徒が校則によって処罰されました。現在でも、少なくない教師や精神科の医師が、同性愛者の愛を「過渡期」のものと見なしたり、差別的な言動をして同性愛者の存在を認めてないということです。

 鄭智偉さんは、「たとえジェンダーに関する社会的資源が存在していても、青少年が助けを求めるルートや関連する情報を知らないということには、本当に心が痛む」と述べています。今回のデモは、社会の無知に抗議することと、屏東にセクマイの存在をアピールする目的でおこなわれました(3)

 デモの当日は、心中した女子生徒に対する哀悼の意を表するために黙って行進し、スローガンを叫んだりはしませんでした。けれど、数々の虹色のプラカードには、「セクマイ教育を学校で実行せよ」、「同志[セクマイ、LGBTを指す言葉]の自殺は誰の誤りなのか、政府の教育は沈黙するな」、「屏東の同志よ、生き続けよう」などの文言を書いて、周囲に対してアピールをしました。

 デモの終点の屏東県政府の前では、屏東のセクマイを代表して、24歳の教育実習生が訴えをおこないました。彼は、「私は小さいときから差別に満ちた教育環境で育ってきました。10年後、私は実習のために学校に帰ってきましたが、なんと、何も変わっていませんでいた。私がさらに驚いたのは、先生たちがみな差別を黙認し、無視していたことです」と実情を述べました。屏東県政府からは、教育処の郭文瑞副処長が出てきて、「まだ改善の余地は大きい。引き続き努力する」といった答えをしたようです(4)

 このデモの様子は、台湾の公共放送である「台湾公共テレビ」(公共電視文化事業基金会:wikipediaの説明)で、放映されました。



 ビデオを見ると、デモ隊の先頭の女性は、台湾の女子中学にある「楽儀旗隊」(5)の扮装をして、アピールしているようです。

 欧米でも同性愛者の自殺率が高いことは同じなので(6)、社会の現実というものは簡単に変わらないのだろうと思います。ただ、台湾のセクマイの運動については、エリート中心・インテリ中心で、大衆的基盤が弱い、大衆レベルでは結婚圧力も日本より強いという指摘もあり(7)、運動自体にも弱点はあるのかもしれません。

 けれど、テレビがこうした小規模なデモでも取り上げるという点では、やはり台湾は日本よりは進んでいるのではないかと思います。もっとも、台湾ではレズビアンカップルの心中事件などをセンセーショナルに報道するという指摘もあるので(8)、そうした報道との関連で、このデモも報じられたという面もあるのかもしれませんが……。

 しかし、いずれにしろ、日本では、二千人以上が参加する東京プライドパレードや千人以上が参加する関西レインボーパレードやさえ、テレビや新聞が取り上げたという記憶は私にはありません(今、ネットで検索しても、「マスコミが取り上げない」という批判が出てきます)。今回の石原東京都知事の「テレビなんかでも同性愛者の連中が出てきて平気でやるでしょ。日本は野放図になり過ぎている」、「[同性愛者は]どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」という明白な差別発言さえ、『毎日新聞』が事実を伝えた程度で、全体としてマスコミではほとんど問題にされていません(昨日、『東京新聞』が問題として取り上げたようですが)。私は、東京都と『朝日新聞』には、ごく簡単なものですが、この点に関して意見を書いて送りました。

(1)我只愛妳 五專女生燒炭雙亡」『中國時報』2010年12月1日。
(2)台湾でジェンダー平等教育法の草案が作成されている際に、この事件が起きて、法律を「両性」から「性別」に変更するきっかけになったという(台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』(人文書院 2008年)Ⅱ-7「ジェンダー・イクォリティ教育法」[邱淑芬著、横山政子訳])。
(3)以上の記述は、「屏東大遊行 要同志活下去」『台湾立報』2010年12月13日。
(4)屏東同志活下去 街頭發聲」『自由時報』2010年12月15日、「持彩虹旗遊行 『屏東同志活下去』」聯合新聞網2010年12月15日、「籲校園去歧視 屏東首度同志遊行」2girl女子拉拉學園2010年12月15日(来自公視新聞)。
(5)台湾女性史入門編纂委員会編『台湾女性史入門』のコラム「女子高生の星――楽儀旗隊」(陳瑩芝著、西川真子訳)に詳しい。
(6)欧米でも、同性愛者の自殺念慮率、自殺企図率の高さが各種調査研究で頻繁に取り上げられ問題視されているそうです。過去20年間のそうした調査研究をレビューしたところ、アメリカの高校生全体の自殺企図率が7~13%程度と推定されるのに対して、思春期のLGBの自殺企図率は20~40%程度の数値が報告されているということです(「同性愛者の自殺について考える」NHKオンライン「自殺について知ろう」―「同性愛者の自殺について考える」)。日本では、そうした調査研究もまだあまりなされていないそうですが、それでも、異性愛者でない人の自殺未遂率は、異性愛者に比べて6倍だというデータがあるとのことです(「都市部の若者における自殺未遂と性的指向の関係」NHKオンライン 虹色-LGBT特設サイト)。
(7)鈴木賢氏は、台湾のセクマイの状況について、「親との問題は日本より厳しくて、家族のつながりが強いし、結婚に対するプレッシャーも強い」、(同性婚法案を女性国会議員が提出したという話に続けて)「台湾の国会議員はインテリが多くて、外国に留学して帰ってきた人も多く、日本の比例区みたいな感じですね。アメリカから帰ってきた若い女性とかが国会議員になっていて、ドブ板選挙とは違う。だから動きは派手ですけど、社会に根はあまり持っていない。」「パレードも台北市の助成をもらっていて、最初に出したのは、今総統の陳水扁(当時、台北市長)ですね。パレードを始める前にイベントをしていて、そこに助成がおりました。これも下から盛り上がるというよりは、開明的な指導者が上からワンマンで行うという形です。だから、一見進んでいるようだけども、実は基盤が弱い。結婚圧力もずっと強いし。」「また、インテリ文化とでもよんだらいいような傾向がありますね。作家とか有名人のゲイはいて、許祐生という作家が、外国人の同性パートナーと結婚式を挙げたりといったパフォーマンスがありました。かといって、その辺の名もない人がやれるかといっても、やれない。日本のやり方とはちょっと違いますね」(「地域のアドボカシーから東アジアの比較法学へ 鈴木賢氏(北海道大学大学院法学研究科教授)インタビュー」[聞き手/大畑桑次郎]『Poco a poco』20号[2007年10月])と語っています。
 また、星純子氏は、1995年の第1回アジアレズビアン映画祭をめぐって、「大衆的支持なしに政策や助成が実現するのは、性別人権協会の超高学歴エリート女性達による政策提言や陳情を中心とした運動戦略が功を奏していると思います。」「この運動戦略から考えれば、これだけ大きなイベントを開くことができても、それはレズビアンが一般社会に広く受け入れられていることを必ずしも意味しないこともまた容易に想像がつきます」(日本台湾学会 南部便り」6「第一届亜州拉子影展」 (2005/8/17) と述べています。
(8)星純子氏は、「メディアも理解の有無は別として、レズビアンカップルの心中事件などLGBTIの話題を日本のメディアよりセンセーショナルに報道しますから、それに対する印象はまた別として、LGBTIの存在は世間に知られることになります」(同上)と述べています。
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