2017-10

書評:石塚浩美『中国労働市場のジェンダー分析』

 石塚浩美『中国労働市場のジェンダー分析 経済・社会システムからみる都市部就業者』(勁草書房 2010年)は、石塚氏が中国都市部の労働市場を、ジェンダー視点で、数値データを用いて分析なさった著作である。

 本書で使われているデータは、中国政府のものもあるが、主要には、お茶の水女子大学「ジェンダー研究のフロンティア(F-GENS)」プロジェクト(石塚氏もその一員であった)が北京市の中央8区で2004年~2007年に4回にわたっておこなった総合的なパネル調査のデータと石塚氏が珠江デルタ地帯で2006年におこなったホワイトカラー調査のデータである。

 本書は石塚氏からご恵贈いただいた。石塚氏は本書を新古典派経済学や統計学の方法によって執筆されている。私はそれらに無知なので、私には本書を的確に書評する力量はまったくないのだが、私なりに考えたことや気づいたことを述べさせていただきたい。

 その前に本書の構成とおおまかな内容をご紹介する。

本書の構成

第Ⅰ部 分析枠組み・歴史・現状
 第1章 中国の市場経済化とジェンダーの分析枠組み
 第2章 中国女性の就業をとりまく経済・社会システムの歴史分析
 第3章 データでみる中国都市部の現状分析

第Ⅱ部 実証分析
 第4章 男女のワーク・ライフ・バランス格差
 第5章 男女の昇進格差
 第6章 男女の賃金格差
 第7章 男女の職業格差
 第8章 男女の新技術対応格差

終章 今後の中国労働市場とジェンダー
補論 中国と日本の労働市場比較

本書の内容

 第1章「中国の市場経済化とジェンダーの分析枠組み」では、本書の分析枠組みとして、以下の点が示されている。

 ・本書では、中国都市部の男女の就業者の格差について、「市場レベル」と「企業レベル」と「家庭レベル」という3つのレベルから捉える。本書の第4章「男女のワーク・ライフ・バランス格差」は、「家庭レベル」の分析であり、第5章「男女の昇進格差」は「企業レベル」の分析、第6章「男女の賃金格差」と第7章「男女の職業格差」は「市場レベル」の分析である。第8章「男女の新技術対応格差」は、すべてのレベルに関わる。

 ・計画経済の影響が強い国有セクター(国有企業および党・政府機関)の従業員の男女間格差と、市場経済に基づく非国有セクター(民間企業、外資企業)の従業員の男女間格差とを分けて分析・比較することによって、今後の中国労働市場を展望する。

 第2章「中国女性の就業をとりまく経済・社会システムの歴史分析」では、近代以後の歴史を5つの時期に区分して、それぞれの時期の法制度や慣行について、(a)自立的な「継続就労奨励型」、(b)家計・業務「補助的就業奨励型」、(c)「一般女性保護規定」(所定外労働や深夜労働、重労働の制限など)のいずれであるかを評価している。それによって、各時期を以下のように特徴づけている。

 第Ⅰ期(~1948年)「男女平等思想と現実の乖離」……男女平等思想はあったが、女性はあくまでも補助的就業者だった。
 第Ⅱ期(1949年~1977年)「二元社会と男女雇用平等政策」……自立的な「継続就労奨励型」制度がとられたが、男女は対等ではなかった。
 第Ⅲ期(1978年~1984年)「改革開放政策と女性の継続就業促進」……女性の継続就業行動は促進された。
 第Ⅳ期(1985年~1991年)「女性保護規定と男女間格差」……政府は継続就労奨励型の基盤の整備に着手した一方、補助的就業奨励型の慣行も広がった。
 第Ⅴ期(1992年~)「市場経済化と停滞する男女雇用平等政策」……法制度上は継続就労奨励的だが、最近は男女雇用平等政策は停滞している。

 今後の行方については、以下のように述べている。:結論としては、中国女性の継続就業行動は、これまで確立してきた経済・社会システムに後押しされ、今後も基本的には続いていくと考えられる。しかし、女性の就業を取り巻く経済・社会システムは変化しており、男性と比較すると自立的な継続就業型であるとはいえない。

 第3章「データでみる中国都市部の現状分析」では、中国政府による全国の都市部のデータとF-GENSによる北京中央8区のデータに基づいて、以下のような知見を得ている。

 ・中国の年齢階級別労働力率カーブは、男女とも、M字型ではなく「高原型」だが、女性は男性よりも労働力率が低く(失業者や無業の比率が高い)、とくに45歳を越えると急速に低下する。これは、国有企業改革に伴うリストラや男女別定年制の影響であろう。ただし、市場経済化が進行しても、女性の労働力率自体には変化がない。
 ・全産業の女性従業員の比率は40%に満たないが、第3次産業に限定すれば40.8%で、産業3部門のうち唯一、女性割合が逓増している(全国)。また、雇用労働者に占める非正規の比率は、男性は10.1%だが、女性は17.1%である(北京)。

 国有セクターと非国有セクターに分けて見ると、以下のようである。
 ・国有企業改革が進み、計画経済から市場経済に移行するに伴い、非国有セクターが主流になり、従業員全体の78.1%に達している(全国)。年齢的にも、国有セクターには中高年が多く、非国有セクターには若い人が多い(北京)。
 ・正規従業員の場合、男性のほうが、大企業、上位職、高賃金、長時間労働という傾向がある。そして、この傾向は、非国有セクターのほうが国有セクターより強い(北京)。
 ・臨時従業員は、労働時間の幅が広く分散しているが、正規従業員よりも長時間就業者が多い(北京)。

 第4章「男女のワーク・ライフ・バランス格差」では、雇用喪失(無業者や失業者になること)と家庭責任に焦点を当て、家庭レベルから中国労働市場を捉えることによって、以下のような知見を得ている。

 中国における専業主婦には、次の3つのタイプがある。
 (1)高年齢・低学歴などの理由で就業できないタイプ
 (2)夫が富裕層であるタイプ
 (3)先進諸国で一般的なタイプで、夫は中間所得層であり、妻自身は、高年齢あるいは低学歴というわけではないが、家事や育児を負担しているタイプ
 本稿では、これまで数量的に扱われてこなかった(3)のタイプの専業主婦を考察する。

 F-GENSのデータで、「家族の世話のため」に無業を選択したと答えた有配偶女性を、(3)のタイプの「専業主婦」としたところ、有配偶女性の7.2%が「専業主婦」であった(それに対して、「下崗」されたと答えた者や「会社都合の解雇」や「定年退職・契約終了」のために無業になったと答えた50歳未満の女性は、「失業者」とした)。

 このタイプの専業主婦は、夫婦とも年齢が低く(妻36.6歳、夫40.2歳)、子どもがいる割合が高く、乳幼児や未就学児がいる比率も高い。妻自身の学歴が低くて就業できないわけではなく、夫は中間所得層である。夫の親や息子との同居率も高く、三世代同居割合の場合も多い。夫の平日の家事時間が0分という者が55.8%にのぼるが、家事の外部化には頼らない傾向がある。彼女たちは、「就業継続型」を理想とする者は他の就業形態より低く(54.3%)、「子育て後、再就職」を理想とする者が他より高い(29.6%)。

 このほか、本章ではF-GENSのデータから、夫婦の性別分業について以下の知見を得ている。平日の家事労働時間は、妻が夫の2倍強であるが、市場労働時間は妻と夫は大差なく(妻は夫の0.92倍)、「新性別役割分業」(夫は市場労働、妻は市場労働と家事労働)が成立している。欧米でも妻の家事労働時間は夫の2倍強で、中国と同様であるが、日本や欧米の場合は、就業関連時間は、中国より男女差がやや大きい(女性は男性の0.7~0.8倍)。ただし、妻の家事時間は、中国が日欧米と比べて約半分であり、家事労働の質(内容)が異なっているのかもしれない。

 第5章「男女の昇進格差」では、珠江デルタ地帯における企業のホワイトカラー従業員を対象にした石塚氏自身の調査から、昇進における男女差について、以下のような知見を得ている。

 ・国有セクターでは、おおむね男女を問わず、年功及び学歴に応じて昇格している。
 ・一方、非国有セクターでは、学歴は統計的有意ではなく、男性のみに内部昇進性が認められた。また昇格に伴い「昇進の可能性がある」という認識が高まるのは男性のみで、女性はむしろ低下していた。珠江デルタ地帯は起業や就業などの機会が他の地域に比べて多く、起業や就業により大成するという「深圳ドリーム」があると言われるが、それは、男性についてのみである。

 第6章「男女の賃金格差」では、F-GENSによる北京中央8区のデータに基づいて、男女賃金格差の現状と格差の要因を分析している。

 まず、現状分析としては、以下の点を示している。
 ・平均賃金で見ると、年間賃金は、国有セクターでは、女性は男性の83.03%、非国有セクターでは、女性は男性の70.33%である。1時間当たり賃金は、国有セクターでは、女性は男性の86.21%、非国有セクターでは、76.59%である。
 ・1時間当たり賃金を学歴別・男女別に見ると、国有セクターでは、学歴による差はあるが、男女間の差は認められない。非国有セクターでは、学歴による差のほかに、男女間の差もある。
 ・賃金の高い上位職には、男性が多く、とくに非国有セクターはそうである。また、正規従業員に比べ、臨時従業員のほうが1時間当たり賃金が少ないが、同じ臨時従業員でも、女性は男性の79.6%の賃金しか得ていない。

 男女賃金格差を、「要素量差」(個々の説明変数における男女間の配分差。「経済合理的な格差」とも呼ぶ)と「要素価格差」(個々の説明変数において男女が同一と仮定した場合に対応する賃金の格差。「経済合理的でない格差」とも呼ぶ)に要因分解して考察した結果は、次のとおりである(*説明変数……年齢、学歴、勤続年数、勤続年数の2乗、職業ダミー、職位ダミー、従業上の地位ダミー、企業形態ダミー、労働組合員ダミー、有配偶者ダミー、0歳児ダミー、1~3歳児ダミー、4~6歳児ダミー、家庭のジェンダー変数)。
 ・中国では、結婚や出産、育児などの家庭レベルの事情は、雇用労働者として働いている男女の賃金に影響しない(ただし、第4章で述べたように、こうした家庭レベルの事情は、女性が雇用労働者を選択しなかったり、無業化する誘因にはなっている)。
 ・国有セクターにおいては、賃金は女性の方が低いが、「要素量差」の要因はマイナスで、女性に優位になっている(「要素量差」が-13.2%で、「要素価格差」が113.2%)。「要素量差」のうち、とくに学歴配分と職業配分が格差縮小に作用しており、これは、国家による配分によって職業属性が男女に割り当てられたことや文革で男女の学歴差が小さかったことと関係がある。「要素価格差」では、労働組合員ダミーや職位ダミーの影響が大きく、社会主義国特有の労働組合制度や上位職での男性優位が、男女間賃金格差を拡大していたと解される。
 ・非国有セクターにおいては、男女賃金格差を100%とした場合の内訳は、「要素量差」が48.2%、「要素価格差」が51.8%である。すなわち、市場に任せた結果、市場経済を採用している先進国同様の男女間格差が生じたと解釈できる。個別の変数では、男女賃金格差の拡大要因として、「年齢」が群を抜いている。年齢は男女の「要素価格差」が大きく、男女で異なる定年制や「下崗」の影響があると考えられる。

 第7章「男女の職業格差」では、男女の職業の「水平的職域分離」(職業配分状況が男女で異なること)と「垂直的職域分離」(専門的知識・技術的資格・管理能力・判断責任・「社会的ステータス」の高さが男女で異なること)を検討し、以下のように述べている。

 まず、「中分類職種」データで見ると、北京中央8区や中国全体において、「水平的職域分離」が認められる。また、高い「社会的ステータス」を伴う職種は、男性多数の職種のみに集中している。組織の「責任者」も、男性が多数である。一方、専門知識・技術を必要としない定型的な「下位ステータス」に位置する職務には、男女とも就いている。以上から、「垂直的職域分離」があると言える。また、中国全体の「大分類職種」においても、男性多数の職種の方が高賃金であり、男女間賃金格差を伴う「職業分離仮説」(男女の職種の偏りによって賃金格差が生じていることを説明する仮説)が成立していると解釈できる。

 また、北京中央8区の「小分類職種」データを見ても、「社会的ステータス」を伴う企業責任者や医師、権威的と捉えうる警察官や行政事務従事者は男性が多く、看護師や公共の社会サービス従事者は女性比率が高い。すなわち、「水平的職域分離」と「垂直的職域分離」の男女間職業分離の傾向がある。また、「小分類職種」における同一職種においても、女性比率が高い3職種のうち、「会計・事務」と「ホテルの接客従業員」において女性の方が有意に賃金が低く、男女間の「職業分離仮説」が認められた。

 第8章「男女の新技術対応格差」では、男女間のデジタル・ディバイド(ICT[情報通信技術]対応の男女差)を検証することにより、新技術への対応の男女差を探り、以下のような知見を得ている。

 まず、「広義の男女間のデジタル・ディバイド」(ICTに対する内容認識とインターネット利用などのICT人的投資に関する男女差)では、無業者を含む全調査対象者で男性優位の男女差が認められた。また、雇用労働者に限定すると、国有セクターでは、全体に女性優位だったが、テレワークをおこなう割合には男女差はなかった。非国有セクターでは、パソコンを所有していない男性が女性より多い一方、最も高度なICT利用であるテレワークをしている男性も女性より多いという二極化が見られた。

 「狭義の男女間のデジタル・ディバイド」(賃金格差を伴うICT利用の男女格差)について言えば、国有セクターの男性を除いて、テレワークが高い賃金プレミアムになっている。国有セクターでも非国有セクターでも、女性は年齢が高いほどテレワークをおこなっているが、非国有セクターでは、男性は年齢が低いほどテレワークをおこなっている。また、その賃金プレミアムは、非国有セクターの男性のほうが、どちらのセクターの女性よりも高い。この点は、今後、男女間賃金格差の拡大の要因になる可能性がある。

 終章「今後の中国労働市場とジェンダー」では、各章の結論をまとめたうえで、以下のことを説いている。

 まず、「(1)計画経済から市場経済への体制移行」では、以下のように述べる。
 ・計画経済下では、国家によって、男女雇用平等に近づくように意図的に男女が配置されていた。賃金や昇進において家族集団は影響しなかった。男女別定年制によって女性が早く退職しても、年金で過ごせるようになっていた。しかし、上級職や政府の要人は男性が多く、女性は保護の対象だったと言える。
 ・市場経済下では、市場原理に基づいた結果、先進諸国同様の男女賃金格差が生じた。男女間待遇差は、非国有セクターのほうが強い。ただし、配偶者や子どもの有無などの家族要因が賃金決定や昇進に影響していないのは、計画経済期からの中国の特徴と言えよう。

 「(2)中国労働市場のメカニズム」では、以下のように述べる。
 本書の各章で明らかにした家庭レベル・企業レベル・市場レベルでの諸問題が、今後、「男女差別の悪循環」を作り出し、男女間格差が拡大する可能性がある。無論、「悪循環」というのは、「やや極端なケース」であり、中国都市部特有の実情(女性の職場進出実績、1人っ子、家事の質、男性も日本ほど長時間労働ではないことなど)もある。

 本書の分析をとおして得られた「(3)中国労働市場への政策的インプリケーション」としては、以下の点が求められることを指摘する。
 1)女性の就業継続を促す施策、2)男女別の定年制を廃止し、男女同一の制度にする、3)「性別役割分業」の価値観を是正する、4)農村を含む年金などの社会保障制度の整備、介護問題への対応、5)男女間賃金格差の拡大を回避する施策。

 最後に「今後の研究の課題」として、以下の点を挙げている。
 1)時系列データによる分析、2)家庭・企業・市場の各レベルについてのより十分な分析、3)本書以外の都市部のデータ、4)農村部の分析、5)労働市場の入り口である大学などの学校教育、6)推計結果のさらなる確認のための分析、7)介護問題、8)ジェンダー視点を取り入れた企業調査、9)労働組合の役割、10)自営業の女性。

 補論「中国と日本の労働市場比較」では、以下のような分析がおこなわれている。

 労働市場と男女の就業者に関して――
 ・職業大分類の数値で男女別の職業割合を見ると、中国は男女差が日本に比べて小さい。また、事務職(事務的職業従事者)は、日本では女性が多いが、中国では男性が多い。

 有職女性の働き方に関して――
 ・日本は約半数が専業主婦で、正規雇用労働者は15%であるのに対し、北京中央8区では、正規雇用労働者が約半数で、無業者は「失業者」を含めて35.5%である。
 ・日本において専業主婦になる要因は、年齢が低く、学歴が低く、夫の賃金が高く、6歳以下の子どもがいて、夫婦の父親と同居しており、夫婦の母親とは同居していないこと、である。中国でも専業主婦になる要因は概ね同じだが、特に異なるのは、中国においては、妻の無業化に夫の賃金の影響が認められない点である。

 男女賃金格差の日中比較――
 日本の男女の平均月間賃金は、正規従業員が大半を占める「一般労働者」では、女性は男性の66.9%である。中国の1時間当たり賃金の男女差は、女性は男性の81.77%(全セクター)、86.21%(国有セクター)、76.59%(非国有セクター)であった(北京中央8区)。中国の国有セクターの要素量差で得られたようなマイナスの数値は、日本では見られない。

 日本労働市場への政策的インプリケーション――
 1)ワーク・ライフ・バランスの構築について、日本は中国に学ぶことができる:具体的には、夫婦間の家事労働時間格差の解消、夫の家事・育児参加、労使双方の長時間就業慣習の改善など。
 2)賃金決定や昇進決定に、配偶者や子どもの有無が影響しないような中国の仕組み:日本の場合、税制の配偶者控除制度、公的年金の第3号被保険者制度などがある。
 3)日本は、中国女性の継続就業傾向に学ぶことができる:中国では就業するか否かの決定に1歳および2歳の子どもの存在が影響していたが、日本は0歳から6歳までのすべてが影響している。永瀬伸子氏によると、中国の背景には保育所と祖父母による育児があるが、日本は母親が突出する。また、中国は欧米と同様に、高学歴者ほど継続就業する確率が高くなるが、日本では相関は認められない。

本書の意義

 以上の内容紹介から十分おわかりいただけることだと思うので、簡潔に述べさせていただくが、本書の意義は、以下のような点にあると思う。

 ・自分(たち)自身で設計した一貫した調査にもとづいて、中国の都市部の労働市場のジェンダー分析を統計的に、かつ多様な角度からおこなっていること。もちろん中国にも女性労働に関する個別のテーマについての調査・分析は数多くあるが、一つの地域についてF-GENSのように多様な角度から統計的に調査・分析をおこなった例は私には思い当たらない。石塚氏が展開しているさまざまな分析だけでなく、データ自体も、今後の研究にとって貴重であろう。

 ・徹底して「国有セクター」と「非国有セクター」に分けて分析しており、それによって、今後の動向に関する示唆を得ていること。

 ・あっと驚くような結果がちりばめられているわけではないが、さまざまな問題に関して、地道なデータの収集・分析によって、堅実な数値的裏付けを得ている。もちろんユニークな知見もあちこちにあり、とくに第4章の専業主婦に関する分析や第8章の「男女の新技術対応格差」は、章全体がユニークである。

 統計学に依拠している箇所については、私の勉強不足で理解できなかった部分もかなりあったが、それでも、以上のような大きな意義があることは私にもわかった。

 以下、若干の注文を述べさせていただくが、以下述べることは、上で述べた本書の意義を損なうものではまったくないことを予めお断りしておく。

1.「同一(価値)労働同一賃金」原則の観点からの分析も必要では?

 今回の石塚氏の著作では、男女の賃金格差や職業格差を検討する際に、「同一(価値)労働同一賃金」(コンパラブルワース、ペイ・エクイティ)の観点からの分析はなされていない(「同一価値労働同一賃金」原則とは、性別職務分離による男女賃金格差を是正する一つの方法であり、仕事の種類は異なっていても、同等の「価値」がある仕事は同一の賃金にする原則である。職務の「価値」は、ジェンダー中立的な視点から、それぞれの職務に必要な知識・技能、精神的・身体的負担、責任、労働環境によって測られる(1))。

 すなわち、石塚氏は、1)職種や雇用形態による男女の比率の差異、2)男性職と女性職との賃金格差や正規労働者と非正規労働者との賃金格差、3)同じ職種や雇用形態でも男女で賃金格差があること、などについては明らかにされているけれども、4)男性職と女性職との賃金格差や正規労働者と非正規労働者との賃金格差が果たして適正なものか否か(=そこに男女の差別などが入り込んでいないかどうか)については検討しておられない。すなわち、男性職と女性職が同等の水準の技能や責任、精神的・身体的負担が要求される場合であっても、男性職に比べて女性職は低賃金になっていないだろうか? とか、正規と非正規とがほぼ同じ仕事をしていても、有期雇用だというだけで、賃金は大きく差別されていないだろうか? とか、かりに賃金格差があること自体は妥当でも、その賃金格差が大きすぎないだろうか? といった問題については(直接には)検討の外に置かれている。

 石塚氏は、けっして「同一(価値)労働同一賃金」原則を否定ないし無視しておられるわけではない。石塚氏は、ILO100号条約(男女同一価値労働同一報酬)に言及され(p.5)、中国政府によるILO100号条約の批准や憲法の「同工同酬」規定に着目しておられる(p.29)。また、氏の「珠江デルタ地域のホワイトカラー調査」では、従業員に対して「男女で同一労働で同一賃金ではない」か否かを尋ねておられる(p.122-124)。

 そして、上の石塚氏の設問に対して、「男女で同一労働で同一賃金ではない」と答えた人の比率は、「男女で就業機会の不平等がある」と答えた人や「男女で昇進機会の不平等がある」と答えた人の比率よりはかなり低かったものの、国有セクターの一般従業員の女性で36.8%、非国有セクターの一般従業員の女性で24.2%存在した。もし「同一労働同一賃金」か否かでなく、「同一価値労働同一賃金」か否かを問うたなら、不平等さを訴える回答は、さらに増したことだろう(もちろん、その場合は、「同一価値」の意味をきちんと説明する必要があるが)。

 実際、中国でも、女性問題研究者らが、女性職の低賃金問題を解決するために「同一価値労働同一賃金」原則に注目している(本ブログの記事「中国でも注目されつつある同一価値労働同一賃金原則」[2007/11/02]参照)。また、「体制外従業員」と体制内の正規労働者との賃金格差は、「同一労働同一賃金」の観点から大きな問題であることも報じられている(本ブログの記事「『体制外従業員』と同一労働同一賃金問題」[2007/10/15]参照)。私自身も、中国の看護師と医者との間には、改革開放以前から、単なる職種の差というだけでは説明のつかない不合理な待遇の格差があることや、近年は正規の看護師と契約制看護師との待遇の格差が「同一労働同一賃金」の観点から問題になっていることを述べたことがある(「中華人民共和国の看護労働に関する政策と実態」[PDF]『立命館文学』第608号)。

 とすれば、今後の一つの課題として、「同一(価値)労働同一賃金」の問題を視野に入れることも必要になってくるのではないだろうか?

 もちろん、「同一(価値)労働同一賃金」の問題を検討するためには、それぞれの職種や雇用形態の仕事の内容そのものを調査し、比較研究する必要が出てくるだろう。その意味で、今回の石塚氏の経済学中心の調査研究方法とは異なる方法を用いる必要があるかもしれない。

 しかし、石塚氏の根本的な問題意識は「男女の雇用平等」()であった。また、石塚氏が「要素分析」をなさったのは、どの要因にどの程度の差があるかを知ることにより「今後の課題」を見つけるため(p.139)であった。とすれば、男女の賃金格差が、「男女同一(価値)労働同一賃金」原則から外れているから格差が生じている側面とそれ以外の要因によって格差が生じている側面とを区別することにも、今後の課題を見つける上で意義があると言えるのではないだろうか。ただし、もちろん、石塚氏ご自身が今後それを研究しなければならないなどと言っているのではなく、労働におけるジェンダーの問題に関心を持つ者(私を含む)にとって共通の課題だということである。

 石塚氏のデータでは、同じ学歴や同じ管理職、同じ小分類職種であるにもかかわらず男女間賃金格差が生じていることが明らかにされているが、その原因の一つとして、「同一(価値)労働同一賃金」でないことがある可能性があるし、もちろん他の要因も考えられるだろう。

 そうした細かな考察を積み重ねていくことによって、中国の男女賃金格差と人事・賃金制度との関係も見えてくるのではないかと思うし、そのことによって、「男女賃金格差の拡大を回避する施策」(p.210)として、具体的にどういう施策を採るべきかも明確になるのではないだろうか。

[「垂直的職域分離」の状況をより正確に述べるために]

 また、私は、「同一(価値)労働同一賃金」の視点を持つことは、今回、石塚氏が研究なさった「垂直的職域分離」をより正確に認識するためにも必要なのではないかと思った。

 石塚氏は、「専門的知識・技術的資格・管理能力・判断責任・『社会的ステータス』を伴う職業が男性優位、女性劣位で異なる『垂直的職務分離』について(……)確認できた」(p.181)と述べておられる。

 ただし、石塚氏は、「垂直的職務分離」を、もっぱら、李氏が「北京市住民の職業的威信調査により『社会的ステータス』を威信スコアとして、数値化し、順位を付した」ものに基づいて判断しておられるのであり、べつに石塚氏が職業ごとに「専門的知識・技術的資格・管理能力・判断責任」について検討なさったわけではない(明示的に「責任者」と称されている仕事については、「上位ステータス」と見なしておられるのを除いて)。

 であるので、たとえば、石塚氏が小分類職種において「垂直的職域分離」の例として挙げている男性職の「警察官」や「行政事務従事者」と女性職の「看護師」を比較した場合、たしかに「社会的ステータス」は「警察官」や「行政事務従事者」のほうが上であろうが、看護師が警察官よりも「専門的知識・技術的資格・管理能力・判断責任」を必要としない職業かどうかは、にわかには判断できない。そうした点を判断するためには、中国における警察官や行政事務従事者と看護師の具体的な仕事の内容に即して検討する必要があろう。

[「3K」の仕事に従事する女性の低賃金や賃金差別に光を当てるために]

 また、もちろん「同一価値労働同一賃金」論で言う「職務の価値」の高低と、「垂直的職務分離」における上位職と下位職では意味が異なる。すなわち、前者の場合は後者と違って、精神的・身体的負担、労働環境なども考慮するのであり、いわゆる「3K」の仕事が低賃金になっていないかという問題にも焦点を当てることができる。

 女性職の中でも、身体的負担が大きい「介護労働」者や身体的負担に加えて労働環境も過酷な「環境衛生労働者」(道路清掃)などの賃金問題は、ジェンダーの視点からも無視できないだろう(環境衛生労働者については、本ブログの記事「環境衛生労働者の苦難」[2008/08/13]参照)。こうした身体的負担が重い職業であっても、女性職は、家事の延長線上のように思われて、男性職よりも低賃金になっている、などということはないだろうか? また、中国でも近年は「農業の女性化」によって、農業も女性職化しつつあるが、農業は言うまでもなく重労働であり、留守女性は非常な負担を強いられている(本ブログの記事「農村に残された『留守女性』(1)」[2007/01/17]、「農村に残された『留守女性』(2)」[2007/01/23]参照)。こうした「3K」の仕事に従事する女性の賃金問題に光を当てる意味でも、一般的な「垂直的職務分離」だけでなく、「同一価値労働同一賃金」論にもとづく分析も必要なのではないだろうか。

 もちろん私も、職業による「社会的ステータス」や賃金の格差を捉えることの意義は大きいと思う。しかし、賃金格差・職業格差をジェンダー視点からより多角的に捉えるには、「同一価値労働同一賃金」論にもとづく考察も必要になってくるように思う。

2.第2章の歴史分析は 雑多な事項が並列されている感が免れず、あまり成功していないのでは?

 本書のうち、第2章「中国女性の就業をとりまく経済・社会システムの歴史分析」は、さまざまな事項が雑多に書かれている感じが強く、あまり成功していないように思う。石塚氏の記述を読んでも、結局、大きな流れとしては、従来から言われていた「計画経済期は、女性も男性同様に働き続け、家事労働の社会化も図られたが、さまざまな男女差別はあった。市場経済化が進むと、非正規雇用が拡大し、男女の格差も拡大した」といった程度の認識以上のものは得られなかった。

 記述が雑多な感じを与える原因の一つは、石塚氏が、ほとんど実効性がない法の規定と現実の社会の変化とを単純に同列に並べていることにあるように思う。たとえば、1988年の女性労働者保護規定の「男性のみの募集を禁じる男女雇用機会均等規定」や1992年の婦女権益保障法の「昇給・昇格評価の平等」とか「女性のみ採用拒否禁止」とかの規定は、ほとんど実効性がない。まず、採用や募集の差別禁止に関しては、いずれの法律にも、曖昧な「女性労働者が従事するのに適した単位」という限定が付いている。また、これらの規定は、法律上の責任も救済措置も不明確で、先進諸国のような差別禁止のための専門の法律もなく、まして権限のある監督機関もない。かくして、これらの規定があるにもかかわらず、性別を公然と指定した求人広告さえ跡をたたない(本ブログの記事「中国の求人広告などの差別の研究」[2009/02/07]など参照(2))。また、これらの規定が裁判で使われた例もほとんどなく、日本の均等法の方がまだマシな程度のものにすぎない。また、憲法の規定は、中国では、日本と違って、一般には実際の裁判では使われないので、直接には役に立たない。もちろん、私も、改革開放後、雇用における男女平等規定を含んださまざまな法規が成立したということ自体の意味を無視するべきだとは思わない。しかし、それらは数値データに影響を与えるような実効性はなく、むしろ性差別の拡大という現実に対処せざるをえなかった(けれども阻止できていない)現れと見た方がいい面さえあると思う。

 第二に、改革開放前は男女格差が小さかった要因としては、体制全体として、「単位体制」だったという点をもっと軸に据えて説明するべきではないかと思う。「単位体制」とは、国家があらゆる個人を「単位」(共同体としての職場)に組み込んで、国家に管理・統制する一方、生活を丸抱えにする体制である。その具体化が、国家が就職先を割り当てること、終身雇用にすること、公営(とくに国営)企業が大部分で、非正規就業はわずかであること、職場が福祉的機能を持ち、住宅・保育所・医療・年金を供給すること、賃金の平均主義的分配といったことであり、これらはみな、男女格差を顕在化させないことにつながっていた。それらをみな解体したのが、市場経済である(3)

 また、石塚氏は歴史がご専門でないせいか、第2章には記述の誤りや不適切な記述が若干あるように思った。全体の論旨とは直接関係がないので恐縮だが、比較的基本的な事項もあると思うので、以下、列挙してみた。

 ・「1956年の共産党政策部は男性のみ17名」(p.24,111)とあるが、Edwards論文の「the Political Bureau of the CCP」(4)は、中国語の表現どおりに「(中国)共産党(中央)政治局」と訳すべきだろう。「政策部」と言うと、党の一つの部門のような誤解を与えかねないが、「(中央)政治局」は、ソ連共産党などにもあった共産党の最高指導部だからである。べつに特殊な中国語表現ではなく、日本の研究者もマスコミも「(中央)政治局」と、そのまま訳しており、もしわかりにくければ、「最高指導部である『(中央)政治局』」とでも書いておけば良いのではないだろうか。

 ・「女性の小作人が医療と農業半々に従事する『裸足の医者』」(p.25)とあるが、「女性の小作人」という記述は妙である。

 ・1950年婚姻法について、「『家内での女の労働は外での男の労働と相等しく、それゆえ、家族の財産に関して男と等しい権利が女に与えられる』とあり、家事労働を評価しているものの性別役割分業を規定したものといえる」(p.26)と述べておられるが、婚姻法には「家内での女の労働は外での男の労働と相等しく」という規定はない(5)

 ・「1953年の『労働保険条例』により女性の『四期』の保護が規定され」(p.26)とあるが、労働保険条例は妊娠・出産期の保護しか規定していない。また、「産前・産後合わせて原則56日」の産休については、1955年の「女性労働者の産休に関する通知」を待たずとも、この労働保険条例で1951年に規定されている。

 ・「1982年の改正憲法で(……)夫婦共に相手の『仕事、勉学、社会奉仕への自由な参加』を妨げてはならないという条項が(……)盛り込まれた」(p.27)とあるが、盛り込まれていない。1980年に採択(翌年施行)された婚姻法にはそうした条文があるので(第15条)、その誤りではないか? また、元の1950年婚姻法にも、「相手に対して干渉や制限をしてはならない」という文言こそないが、「夫婦共に職業の選択、仕事への参加、社会活動に参加する自由を持つ」という条文はある(第10条)。

 ・「1988年の改正憲法において『男女同工同酬』を規定した」(p.29)とあるが、1982年の改正憲法で規定されている。

 ・「1990年に上海市で非嫡出子や再婚時の相手方の女児に婚姻夫婦の子どもと同等の権利を認めたのは先駆的といえる。2003年の改正婚姻法でも認められていない非嫡出子の権利は……」(p.30)とあり、年表では1990年に「上海市『婦女児童合法権益』:非嫡出子に同等の権利」とある(p.36)。しかし、まず、「上海市婦女児童合法権益保護に関する若干の規定」は1985年に制定されており、1990年に「非嫡出子(……)は嫡出子と同等の権利を享有する」と規定したのは、「上海市婦女児童保護条例」である(第20条)。また、「非嫡出子は嫡出子と同等の権利を享有する」という規定自体は、1950年婚姻法にも、2001年の改正婚姻法にもあるので(第15条、第25条)、上海市の規定は、とくに先駆的とは言えないように思う。さらに、2003年には婚姻法は改正されておらず(32頁にも同様の記述があるが)、婚姻登記条例が制定されただけである(そのかわりに1994年の婚姻登記管理条例を廃止した)。あくまで「婚姻登記条例」である以上、非嫡出子の権利に触れていないのは不思議ではないように私は思う。

 ・「中国女性要綱(1995-2000年)」「中国女性要綱(2001-2010年)」とあるが(p.35,38)、どちらも「中国女性発展要綱」である。

 ・1999年に「胡主席『都市の女性工作は社区に重点を置くべき』と指示」(p.38)とあるが、当時は胡錦濤はまだ国家副主席であったことはともかく(主席になったのは2003年)、石塚氏は、他の多くの項目と異なり、この項目には何の印も付けておられない。しかし、以下の経過を見ると、私は、上の胡錦濤の指示は、かなり明確な▲の「補助的就業奨励型」だと思う。
 1999年11月16日、全国婦女連、民政部、労働・社会保障部などが「『巾幗[巾幗=女性の意]社区服務工程』を実施し、社区の建設と下崗した女性労働者の再就職の工作を推進することに関する意見」を出したが(6)、その際、「社区服務は(……)非常に女性に適した仕事であり、婦女連はそれによって下崗した女性の再就職の実現を助ける上で、独特の優位性と大きな潜在的能力を持っている」としている(7)
 その直後の11月25日、胡錦濤は、全国婦女連の党グループの報告を聴取したとき、「私は、婦女連は工作の重点を社区に置くべきだと思う。ここには、婦女連が最もする必要がある工作があり、また最も婦女連の組織の優位性を発揮することもできる。もし、社区の工作がきちんとできれば、現在の都市が直面している若干の突出した問題は、多くが有効に解決できる」(8)と述べたのである。
 胡錦濤は、翌2000年11月にも、全国婦女連の第8期第3回執行委員会で、「実際の状況を見ると、女性は、社区建設の重要な力であり、社区服務の主な受益者である。社区の管理工作において、多くは女性が重要な役割を果たしている。それゆえ、婦女連は、都市の女性工作の重点を社区に置くことを貫き、より大きな力を入れるべきである。社区服務業は、すでに都市の発展において、広々とした前途を有する新しい経済の成長のポイントとなっている。だから、婦女連の組織は、積極的に女性を組織して、家事サービス・託児サービス・養老サービス・保健サービスなどをおこなって、下崗した女性労働者のために、さらに多くの就職の道を開き、社区の大衆のために、さらに多くの便利なサービスを提供しなければならない」(9)と述べている。
 しかし、以上のような形で女性の就職が推進された社区就業、社区服務は非正規雇用であり、不安定・低賃金であった(拙稿「就労問題」関西中国女性史研究会編『中国女性史入門』人文書院、2005年、96-97頁参照)(10)。要するに、党や政府も婦連も、女性の再就職を非正規・低賃金の社区のサービス業でおこなったのであり、まさしく、石塚氏の言う「補助的就業奨励型」の政策であると思う。

 ・女性差別撤廃条約が国連で採択されたのは、1978年ではなく、1979年である(p.37)。

 ・石塚氏は、年表の「世界の動向」欄に記したILO条約を中国が批准した場合は、必ず「中国と世界」欄に記入なさっているが、「世界の動向」欄に、1958年にILOが111号条約(雇用及び職業についての差別待遇に関する条約)を採択したことが記されているにもかかわらず、「中国と世界」欄には、2005年8月に中国が同条約を批准したことが書かれていない(p.39)。中国が111号条約を批准したことは、中国の労働法学者にも注目されており(本ブログの記事「反就労差別の国際協力プロジェクト」[2007/04/15]にも言及)、ノルウェー政府の資金援助による中国の人力資源・社会保障部などのプロジェクト(实施国际劳工组织第111号公约项目)も開始されているので、将来的には意味を持ってくると思う(11)

3 その他

 その他、いくつか思ったことを述べる。

 ・「体制移行は中国都市部の労働市場から、女性就業者を、少なくとも数では後退させるような可能性を有する」(p.12)とある。しかし、ここで述べられているのは、「数」ではなく、「比率」では? また、女性就業者の比率が低下している理由は、「その他の企業」の就業者が増大しているにもかかわらず、「その他の企業」の女性比率が逓減しているということ(p.10)、大づかみに言い換えれば、国有セクターでは女性労働者比率が逓増しているが、非国有セクターでは女性比率が逓減しているということ(p.78,208)であるが、この点は、非国有セクターの従業員のかなりの比率を占める農民工には男性が多いからではないだろうか? とすれば、都市と農村との問題も絡むので、少し区別して考えた方がいいのではないか?

 ・石塚氏は、国有セクターと非国有セクターとを比較なさることよって、市場経済化の影響を測定しようとしておられる。けれど、歴史的に見れば、同じセクターの中でも、ジェンダー関係は変化しているだろう。言い換えれば、歴史的変化の中には、市場経済化だけでなく、さまざまな他の社会的変化(もちろんこれらも市場経済化と間接的には関係があろうが)もある。たとえば、第1期中国女性の社会的地位調査に比べて、第2期のほうが管理職層の女性が増大したり、その中の高いクラスの女性比率が増大したりしている。また、近年は中国共産党の政治局に、(指導者の妻ではない)女性も1人だけだが選出されるようになっている。こうしたことは、「市場経済化によって男女格差が拡大した」という面だけでは捉えきれないように思う。いわば、女性の内部の階層分化の問題であろうか? こうした面は、別に考える必要があろう。

 ・今回、石塚氏らがオリジナルなデータにもとづく分析をなさったことの意義は大きい。しかし、先にも述べたように、中国にも女性労働に関する個別のテーマについての調査・分析は多数ある。また、新聞や雑誌の記事にも男女格差を含めた様々なデータが掲載されている。それらは断片的かもしれないが、それらをもう少し参照するによって、もっと全体像を描くことはできないだろうか。特に計画経済期は、おそらく全国的なジェンダー統計自体がほとんど存在しないと思われるので、そうした個別の数値や記事を活用することも必要ではないだろうか。

 長々と書いてしまったが、上の1や3で述べたことは、せいぜい今後についての要望、というか、むしろ私の問題関心である。また、2で述べたことは、石塚氏の論旨全体とは直接関係のない、いわば「重箱の隅」に近い。本書の意義を損なうものではないことを最後に改めて強調しておきたい。

 昨年、中国初の本格的生活時間調査として、国家統計局社会和科技統計司編『時間利用調査資料匯編2008』(中国統計出版社 2009)が出版され(ネット書店「書虫」によるこの本の紹介、最近、国家統計局のHPから全文が読めようになった[2008年时间利用调查资料汇编])。また、今年12月には第三期中国女性の社会的地位調査が実施される(「第三期中国妇女社会地位调查12月1日实施」『中国婦女報』2010年7月9日)。今後、ますます中国女性についての統計的な調査研究は盛んになるであろう。

 こうした中で、石塚氏の堅実で多角的な分析が出版されたことの意義は大きい。この書評では、私の力量不足で、石塚氏が提示さされたさまざまな調査・分析の持つ意味を捉えきれなかった部分が多いと思う。ぜひ多くの方に、この本を手に取ってご覧いただきたいと思う。

(1)詳しくは、森ます美『日本の性差別賃金 同一価値労働同一賃金の可能性』(有斐閣 2005年)、屋嘉比ふみ子『なめたらあかんで! 女の労働 ペイ・エクイティを女たちの手に』(明石書店 2007年)など参照。
(2)関西中国女性史研究会編『中国女性史入門――女たちの今と昔』(人文書院 2005年)103頁の表も参照。
(3)譚深(遠山日出也訳)「単位体制と中国女性」林玲子・柳田節子監修/アジア女性史シンポジウム実行委員会編『アジア女性史――比較史の試み』(明石書店 1997年)参照。
(4)Louise Edwards “Women's Political work and ‘women's work':the Chinese Commmunist Party and women's participation in Politics" MacLaren ed.Chiese Women-Living and Working,Routledge Curzon, p.123.
(5)石塚氏の注記から見ると、これは、おそらく石塚氏が、ジュリア・クリステヴァ(丸山静・原田邦夫・山根重男訳)『中国の女たち』(せりか書房 1988年)の215頁に、「女の家事労働の報酬形態が第十条によって考慮されており、それによれば、家内での女の労働は外での男の労働と相等しく、家族の財産にかんして男と等しい権利が女に与えられると規定されている」と書かれていることを参照されためであろう。しかし、実際は、婚姻法第10条には、「夫婦は双方とも家庭財産に対して平等の所有権と処理権をもつ」としか書かれていない。もっとも、陳紹禹「中華人民共和国婚姻法起草経過および起草理由に関する報告」には、「妻が家事を見、子を養育する労働は、当然夫が生活資料を獲得する労働と同等の価値の労働とみなすべきである」(「關于中華人民共和國婚姻法起草經過和起草理由的報告」中央人民政府法制委員會編『婚姻法及其有關文件』新華書店 1950年)という文言はあるのだが、この文言は、婚姻法の規定ではないうえに、あくまで第10条の「夫婦の平等の所有権と処理権」の根拠の1つとして述べられているのだから、「性別役割分業を規定した」とか「性別分業を奨励する規定も含まれていた」(p.40)という書き方はやはり不正確だと言えよう。もちろん、当時はまだ積極的に性別役割分業(とくに女性の家内役割)を変革するような発想は乏しかったということは言えようが……。
(6)「“巾幗社区服務工程”全国婦聯等聯合推出」『中国婦女報』1999年11月18日。
(7)「婦聯工作在社区大有可為 全国婦聯部分省市社区服務工作現場経験交流会在武漢召開」『中国婦女報』1999年11月18日。
(8)彭珮雲「把城市婦女工作重点放在社区――在全国省市区婦聯主席工作会議的講話(摘要)」『中国婦女報』2000年6月19日。
(9)中華全国婦女聯合会『中国婦女運動百年大事記(1901-2000)』(中国婦女出版社 2003年)311頁。私は、以上の点について、拙稿「最近の中国における女性労働問題をめぐるさまざまな女性たちの動き」(『女性学年報』第26号[2005年])113頁でごく簡単に書いた。
(10)いったん失業した後の再就職することによって、男女の賃金格差が拡大することは、石彤『中国社会転型時期的社会排擠──以国企下崗失業女工為視角』(北京大学出版社 2004年)、馬欣欣「中国における雇用調整と再就職後の賃金の男女格差──2002年中国都市家計調査を利用した実証分析」『日本労働研究雑誌』571号(2008年)参照。
(11)その他、本書中の単純な誤記で、私が気づいたのは、以下の箇所です(もっとも、上にあげた点も単純な誤記でいらっしゃる箇所もあるかもしれませんが)。すでに石塚氏ご自身もお気づきの点も多いと思いますが、一応列挙させていただきました。二刷が出るときにでも、お改めになった方がいいかもしれません。
 ・29頁:「政府は、1990年にILOの100号条約『男女同一価値労働同一賃金』を採択し」とあるが、中国政府の行為のなのだから、「採択」ではなく、「批准」(中国語でも)であろう。年表にも、「中国と世界」-「ILO条約の採択など」という項目があるが(37,39頁)、ここも同様である。
 ・29頁:「女性雇用労働者保護規定」の中国語……(誤)「女職工労働保護規定」→(正)「女職工労働保護規定」
 ・34頁:「男女同一賃金同一報酬」→「男女同一労働同一報酬」
 ・37頁:「100号:男女同一価値労働同一賃金勧告」とあるが、「条約」の誤記であろう。5頁に「ILO(世界労働機関)が1951年に『男女同一価値労働同一報酬勧告』を(……)採択」とあるのも、たしかにILOは同年に同名の勧告(90号勧告)も採択しているが、前後関係から見て、条約を記すほうが適切だろう。
 ・46頁:注32に書いていただいている私のブログ(このブログです)の名前は「中国女性・ジェンダーニュース+」ではなく、「中国女性・ジェンダーニュース+」なので、よろしくー。
 ・79頁:図表3-19「国有セクター、非国有セクター別にみる就業処遇の男女差のまとめ」の3「女性比率」の「国有セクター」……「逓減傾向」ではなく、「逓増傾向」では?
 ・176頁:李(2005,p.131,表1-7)とあるが、李(2005)には、p.131は存在せず、何らかの誤記と思われる。
 ・241頁:『中国女性史入門――女たちの今と昔』(人文書院 2005年)の編者……(誤)「関西女性史研究会」→(正)「関西中国女性史研究会」
 ・242頁:中国女性史研究会編(2004)……(誤)『中国女性の100年――料にる歩み』→(正)『中国女性の100年――料にる歩み』
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コメント

書評のお礼.

遠山様

 まず詳細な書評に、心からお礼申し上げます。
小書をこれだけ読み込んでいるのは、私と、主査で原稿チェックをしてくださった篠塚先生、編集者とあと数名と思われましたが、遠山さんが加わりました。よくここまで著者の考えを読み取ってくださったと、有り難く、感謝申し上げます。ありがとうございます!
 さて、お書きいただいた書評は、特に異論を唱えるところもなく、おっしゃるように第4章の専業主婦や女性の時間配分と、8章のICT(情報通信技術)、そして補論の中日比較が結構面白いところだと思います。
 他の分野のかたからみると、数値による統計的処理は無味乾燥なイメ-ジもあるかと思いますが、一方で、デ-タの地域内では概ね一般化できる結果なので、それなりに説得力があると言えます。馴染むか否かの話は残ると思いますが。

 気付いたことなどを数点、列挙します:
1.「同一価値労働同一賃金」については、数値データで分析した日本の研究ノートのようなものを1本みたことがありますが、経済学理論に基づき数値データの実証分析でおこなうのはたいへん難しいと思っております。森先生の「可能性」の御著書も所有しており読み返してみます。また、私が結構調べてさらに時間が経過しているので、関連するその後の先行研究を探してみようと思います。

2.第2章の歴史分析は、特に遠山さんのような歴史がご専門のかたらかみると、ご指摘の通り、充分とはいえないと思います。この章の目的は、中国で時系列の男女別データが多くない中で、それを補うという役目もあり、女性の就業に関わるという視点で調べ上げたつもりではありましたが、誤植や不充分は論外です。やはり歴史は欠かせないと考えておりますので、今後さらに気をつけます。ご指摘ありがとうございました。特に、貴ブログ名の誤り、たいへん失礼いたしました。

3.小書の図表1-1~1-3では、その他の企業の中身についても記述する必要がありました。確かに自営業や民工もありますし、統計書を見ても民工は男性のほうが多いですね。現在、民工の研究中なので、さらにいろいろと調べてみます。
 (関連して、小書p.79の図表3-19の女性比率の欄の誤植ですが、ご指摘の通りで国有セクターでは逓増傾向です。さらに当該個所の図表番号は、×3-5 → ○1-3 が正しいです。)
 さらに関連して申し上げたいのは、終章にも書きましたが、「専業主婦」や男女別定年制などにより無業の女性が将来的に増えていくことが考えられます。特に、今後、伸びゆく非国有セクターにおける就業者の男女差に反映されていくことが問題として挙げられます。

 最後に、ほんとうにありがとうございました。ただただ、感謝です。貴重なお時間を割いていただき有り難く存じます。またお目にかかって、直接お話しできるのを楽しみにしております。

         石塚浩美

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