2017-06

WAN理事会の「情報開示に関しての方針」について

 5月12日、ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)の理事会は、「情報開示に関しての方針――なぜWANサイト上で説明を行わなかったか」という文書を発表しました。この文書は、今回のWAN争議に際して、WAN理事会が、組合側の主張に対して、WANサイトなどウェブ上で反論や説明をしなかった理由を述べたものです。その理由として、理事会は、「1)労使協議の原則の尊重および労働委員会の指導」と「2)WANのウェブについてのポリシー」という2つの点を挙げています。

 遅ればせながら、以下、理事会のこの文書について、私が疑問に思った点を述べます。

組合側が流した情報のどこが「事実と異なる」かについて、何の説明もできていない

 理事会のこの文書は、組合(ユニオンWAN)が「事実と異なる(基づかない、反する)」情報を流している、と繰り返し述べています(1)

 しかし、この文書を読んでも、組合側が流した情報の「どこが、どのように事実に異なる」のかが全くわかりません。これで納得するというのは、無理と言うものです。

 実は、理事会の考えは、むしろ組合のサイトを見ることによって、わかるのです。すなわち、組合のサイトを見ることによって、理事会は、「組合は『理事会がウェブマスター業務の外注化をした』と言っているが、それは事実と異なる」「『理事会は一切の謝罪を拒否してきた』と言うが、それは事実と異なる」などと主張してきたことがわかります(「1・20 団交の報告」「5/17 内容証明郵便物」「5/22 5/17内容証明郵便物への回答」)。

 また、組合側は、そうした理事会の主張に対しても、頭から相手にしないのではなく、より正確を期すために、組合として必要な補足もおこなっています(上記の記事など参照)。理事会にはなお不満が残っているのかもしれませんが、理事会が「組合の主張は事実と異なる」とだけ言っているのに比べて、組合のほうがずっと誠実な対応をしているように思います。

「1)労使協議の原則の尊重および労働委員会の指導」について

 この節では、理事会は、組合側主張に対してWANサイトなどで反論をしなかった理由として、「労使協議においては、労使双方が公開を合意したこと以外は、公表しないのが原則です」「とくに、労働委員会のあっせんでは、事案の内容について第三者には情報を流さないことが双方に厳格に求められています」という2つの理由を挙げています。

 上の2点に対しては、私は、すでにこのブログで反論しました(「道理がないWAN理事会の主張、理事会は今回の謝罪を生かした行動を」の「あっせんで合意した事項も、公開してはならない?」の箇所、「WAN理事会の行為は、労働者との『信頼関係の消失』を理由にすれば、正当化されるのか?」の(1)の個所など)。もちろん組合側からも、組合と直接かかわる論点については、反論が出ています(「あっせんの結果の説明について」「5.12理事会文書について」)。

 それにしても、「労使協議においては、労使双方が公開を合意したこと以外は、公表しないのが原則」だとは初耳です。たとえば関西圏大学非常勤講師組合が各大学に大量に配布し、ウェブにも掲載している『非常勤の声』には、団体交渉の経過や結果、そうした場での大学当局の主張・行動に対する批判が数多く書かれていますが(2)、まさかそれらについて、いちいち「労使双方が公開を合意」しているはずはありません。それらの記事の多くは、べつに裁判に突入してから書かれたようなものではなく、大学との通常の団交とか、雇い止めをめぐる労使交渉とかについての記事であり、WAN理事会の言う「労使協議」の範疇の出来事についてのものなのです。

「2)WANのウェブについてのポリシー」について

 理事会は、次のように述べています。「ジェンダー・フェミニズム関係については、バッシング側の歪曲された情報が蔓延し、声を上げようものなら、ネット上の暴力と言っていいくらいの攻撃が浴びせられ」るような実態があるから、WANサイトは「誰も必要以上の批判をされたり攻撃されたりすることのない、安心してアクセスできる場であることが第一の特長であるべき」だ。もし雇用問題において、WANがWANサイトを用いて情報発信をしたなら、「意見の対立を明らかにし『論戦』を招くこと」になっただろうが、「それは、安心できるネット環境をめざすWANにとって、けっして望むことではない」。

 私はインターネットには詳しくないのですが、私のささやかな経験も踏まえつつ、以下、私の考えを述べてみます。なお、上の理事会の主張は、単に今回の問題についてだけでなく、WANサイトのあり方全体にかかわってくると思いますので、今回の問題に限定せずに論じます。

(1-1)論争は一概に回避するべきものか?

 まず、一般に論争というものが有意義たりうることは、フェミニズムにおいても、平塚らいてうや与謝野晶子の母性保護論争以来、さまざまな論争がおこなわれてきたこと一つとっても明らかです。

 では、ネット上での論争は有意義になりえないのでしょうか?

 理事会は、ネット上での論争の難しさとして、以下の2点を挙げておられます。
 (a)「ネット上の発言は、生身での語り合いとは異なって、意図したニュアンスが必ずしも伝わらず、ディスコミュニケーションを生みやすい」
 (b)「インターネットは『誰にでも開かれたメディア』でもありうる反面、技術上・時間上の利点を持つ者が多く発言の機会を行使して圧倒的な『強者』にもなりえる」

 しかし、上の(a)や(b)の点は、紙媒体での論争もほぼ同じ難しさを持っていると思います((b)の「技術上の利点」の問題は紙媒体にはありませんけれども、紙媒体に執筆するには、ネットの場合よりもさらに社会的な「強者」でなければならない場合が多いです)。

 たしかにネットの場合、生身での語り合いと比べれば、(a)のような弱点はあるでしょう。しかし、その一方、ネットの場合、生身での語り合いと異なって、「空間的距離の制約を受けない」とか、「すぐに返答せずとも、時間の都合のつくときに返答できる」とか、「まとまった考えを述べることができる」「調査研究をした上で返答できる」といった利点もあります。

 現実に、ネット上の論争も、けっして不毛なバッシングだけではありません。最近の例で言えば、排外主義反対のデモにおける「反日上等」のスローガンをめぐる論争や在特会に対する対応をめぐるmacskaさんの提起をめぐる議論は、排外主義に反対する者どうしの真摯な論争だったのではないでしょうか? 

 私自身も、同一価値労働同一賃金原則をめぐって、インターネット新聞JANJANのある記事(さとうしゅういち「『同一価値労働に同一賃金を』 連続シンポジウムが大阪でスタート」)をめぐって、掲示板で他の方と論争をしたことがあります(その掲示板は現在は消滅していますが)。その、さとうさんの記事は当月の編集委員選賞を受賞したのですが、授賞理由として「[受賞した記事は]専門的な観点からもっと掘り下げてほしかったが、その分をご意見板の書き込みがおぎなって余りあった。感情的な悪罵のやりとりではなく、実り多い論争になった」(「編集委員選賞3月の受賞記事」)という評価をいただいています。これも、私が論争するときに、自宅や図書館にある資料を参照しつつ、じっくり考えて議論することができたからです。WANサイト上での稀有な論争の一つである、澁谷知美さんのトークに対する林葉子さんの批判(「爆笑新春トーク」に対する所感と批判)も、林さんが資料に当たったからこそ書けたものであり、その場での生身の語り合いからだけでは生まれえないものだったと思います。

 また、たしかにネットには不当なバッシングも多いですが、そうした不当な攻撃に対しても、人権擁護勢力が単に閉鎖的な対応ばかりをしているのかと言えば、そうではないと思います。南京事件や従軍慰安婦問題に関しては、しっかり勉強してバックラッシュ側に対抗しているブログも一つや二つではありません。ジェンダー問題についても、たとえば、昨年、曽野綾子氏が、ミニスカートが性暴力を誘発するかのような議論をしたことに対して、ネット上では、たしかにそれを正当化するような論者も少なくなく、いささかうんざりさせられましたが、そうした議論に対する説得力のある反論も多数出されて、私を含めて、多くの方々の性暴力に対する認識が深まったこともありました。まして、今回のWAN争議をめぐる記事の多くは「バッシング」とは言えないものです。

 ネット上の論争がうまくいかないことも多々あると思いますが、そういう場合は、うまくいかなかった原因を解明すること自体が、ネットにおけるコミュニケーションに対する貴重な貢献になると思います。

 ですから、「意見の対立を明らかにし『論戦』を招くこと」を一概に否定するのは、非常に一面的な方針だと思います。個人ブログなら方針は自由でいいと思うのですが、WANは二百人近い会員に支えられた総合サイトですから、あまり単純に考えない方がいいと思うのです。

(1-2)WANは、不当な攻撃を回避しようとするあまり、コミュニケーションをすべて閉ざしていないか?

 その点と関連して、もう一つ感じるのは、現在のWANは、不当な批判や攻撃に対してのみならず、コミュニケーション自体をすべて閉ざしているように思われることです。現在のWANサイトにはコメント欄もなく、トラックバックもできず、掲示板の類もありませんから、記事に対する外部からの反応がまったくわからないのです。

 コミュニケーションには、批判や攻撃だけではなく、共感・共鳴、議論の発展、異なる視点からの意見など、さまざまなものがあります。批判の場合も、その記事の内容をいっそう深めるための建設的な批判が少なくありません。そうしたコミュニケーションを活発化させることは、サイトが繁盛することにもつながります。

 ですから、私は、最低限、WANサイトに、記事に対する感想を書き込みができる掲示板を設置してはどうかと思います(承認制でいいと思う)。一度、ブログ「WAN裏方日記」が、日記のコメント欄に記事に対する感想を書き込んでもらうように呼びかけたことがあり、私も率先して書き込みましたが、「WAN裏方日記」のコメント欄は字数制限がきつくて、まとまったものは書き込めないのが難点です。

 もちろん、できれば個別の記事について、その記事にはどういう反応があったかをわかるようにできればいいと思います。また、現在のところ、WANには投稿が少ないようですから、早めに投稿規程を作成して、投稿を集めるようにしたほうが良いでしょう。

(2-1)インターネットの双方向性は、組織における民主主義にとっても有用

 ご存じのとおり、インターネットでは、「Web2.0」といって、「情報が送り手から受け手への一方的な流れであった状態から、送り手と受け手が流動化し、誰でもが情報を発信できるようになる」ということが提唱されています。理事会も、「インターネットは『誰にでも開かれたメディア』でありうる」という良い面があることは認めておられます。私は、そうしたネットのあり方は、組織における民主主義のためにも必要だと思います。

 逆に言えば、一方的に送り手が「発表する」だけのメディアは、広い意味での、権力を持っている人に有利であるということです。マスメディアはもちろんですが、機関紙やミニコミ、メールマガジンのようなものも、編集部や組織の執行部の主導性が強くなりがちなことは否定できません。WANのメディアも、メールマガジンやWAN-NEWSが軸になっているので、そうした傾向があると思います。

 そうした通常のメディアの弱点を補うためも、ウェブ上での議論は必要ではないでしょうか? 必ずしも公開で議論する必要はありませんが、内部で議論する場合も、メーリングリストやSNSのような双方向性のあるメディアの活用が望まれると思います。

(2-2)より良いWANサイトにするためには、多くの人々に意見を出してもらい、より多くの人をサイトの作成に巻き込むことが必要では?

 もちろん、組織における民主主義を活性化させるためには、ネットの活用だけが手段ではないと思います。たとえばWANサイトをより良いものにするためには、幅広い会員やユーザーの意見を集め、みんなで話し合い、みんなが協力することが必要でしょうが、そのために、以下のようなことをやってみてはいかがでしょうか?
 ・サイトについてアンケートをして、その結果を公表する。
 ・サイトについて、みんなが意見を出し合い、話し合う場を設定する。そのための懇談会のようなことをやってもいいでしょうし、ときには理事会にも一般会員が出席できるようにして、会員の意見を聞いてもいいのではないでしょうか?

 私も、今の理事は、単に上から指示を出しているだけのような人々ではまったくなく、原稿を集めるなど、さまざまな作業を自分たちでやってWANを支えておられる方々であることは承知しています。ただ、より多くの人を巻き込んで、サイト作成に参加してもらうためにも、より多くの人が主体的に意志決定に参加できるようなやり方が必要だと思うのです。

(3)「WAN法人の雇用問題は、一般のユーザーの方には無用・不要なこと」か?

 理事会は、「WAN法人の雇用問題は、NPO会員の皆様をはじめ関心を持っていただいている方には有意な情報であっても、より一般のユーザーの方には、無用・不要なことである」とおっしゃっています。

 しかし、今回WAN法人で起きた雇用問題は、けっしてWANだけの問題ではないと思います。他の非営利団体でも、さまざまな雇用・労働問題が起きています。だからこそ、今回の問題については、署名サイトに170人を越える人々の署名が集まり、多くのブログでも取り上げられたのではないでしょうか? そして、その中には、他の非営利団体の問題に触れた人も少なくありません。

 ですから、WAN理事会も、ぜひ今回の経験については、可能な範囲で広く公開して、NPOの雇用・労働問題に関心のある人の共有財産にしていただきたいと思います。

 以上、私の拙い考えを綴ってきましたが、ぜひもっと多くの方々がWANやウェブのあり方について論じていただきたいと思います。

(1)今回の文書は、「今般、雇用問題に関しては、1月以来、組合側から、事実に基づかない一方的な情報が流され~」、「組合側が、協議が始まって間もなくから、一方的で事実に反することを含む、WANの信用を傷つけるような情報を盛んに流布させた」、「組合は、あっせん終了後さっそく(……)事実と異なる情報をウェブ上に公開し」と述べています。
(2)たとえば、『非常勤の声』第22号の中の、「授業回数が増えれば、賃上げは当然!!」という記事は、大学との定期交渉の内容の報告であり、団交の場での大学側の主張に対する批判も書いてあります。また、「太成学院大学が内定取り消しで全額補償」という記事は、大学側の不当なやり方について交渉した経過と全額補償を勝ち取ったという結果の報告です。「姫路獨協大学で非常勤の大量減ゴマ・雇い止め!」という記事は、大学当局の通告を批判して、今後たたかっていくという記事です。
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