2017-10

各地のセクシュアル・マイノリティのサイト(1)──初期の同性愛者の運動、ゲイ・MSM

 中国のセクシュアル・マイノリティのサイトの代表的なものは、「愛白網」や「北京LGBTセンター」のサイト、ゲイサイトでは「淡藍網」、レズビアンサイトでは「北京拉拉サロン」「同語」だと思います。その他、文化芸術団体や雑誌(『Les+』、『』)のサイト、「同性恋親友会(「親友」とは、親類・友人の意)」のサイトもあります。エイズを出発点にしつつ、セクマイの権利の問題にも積極的に取り組んでいる「北京愛知行研究所」のサイトもあります。いずれのサイトも、多かれ少なかれ運動体としての性格も持っており、これまでにも折に触れてご紹介してきました。

 今回、そうした代表的なサイト以外の、地方の主なサイトの一覧表を作成しましたので(「地方のゲイ・レズビアンサイトなど」)、何回かに分けて、それらのサイトおよび関係する運動について述べます。

 まず、今回は、ゲイ(男性同性愛者)・MSM(Men Who Have Sex With Men)関係のサイトを見てみます。

同性愛サイト出現までの初期の運動

 といっても、ウェブサイトは、組織や運動ともかかわりが深いので、最初に、少し話が長くなりますが、サイトが出現する以前の、同性愛者(特にこの頃はゲイ中心です)の組織が形成されるまでの初期の話を述べます。

エイズ援助ホットラインと「男人的世界」サロン

 1992年4月27日、中国最初のエイズ援助ホットライン「北京──4266958」が開通しました。衛生部の中国健康教育研究所(所長は衛生部の元副局長の陳秉中さん)が創設したもので、ホットラインの主宰者は万延海さんでした。相談員の多くはボランティアでした。

 ホットラインに電話をかけてくる人のうち、同性愛者とバイセクシュアルが50%以上を占めており、エイズ相談だけでなく、同性愛に関わるさまざまな問題(同性愛の原因、同性愛とエイズとは必然的な関係があるか、同性愛者の法律的地位、婚姻・家族など)が話題になりました。外部の人は、このホットラインを「同性愛電話」と呼ぶまでになりました(ただし、エイズのための電話だったせいか、電話をかけてきた人の中には、女性の同性愛者は一人もいませんでしたが)。

 こうした中で、万延海さんらは、エイズ防止活動をするためにも、同性愛者に対する活動を重視する必要を感じて、北京の同性愛者との間にさまざまな形でつながりを作っていきました。そのうち、ホットラインの相談員にも、同性愛者たちがボランティアとして参加するようになりました。

 こうした基礎の上に、1992年11月22日から、中国健康教育研究所は、「男の世界[男人的世界]」サロン活動を開始しました。このサロンの目的は、同性愛の男性の文化交流やエイズ予防のために固定した場所を提供することでした。当日は、50人余りが参加し、そのうち35人が同性愛者で、残りは、専門家やホットラインのボランティアでした。

 サロンでは、まず、邱仁宗さん(中国社会科学院教授)が、「人類の歴史においては、社会の中の多数者・権力者が、少数者・弱者に対して圧制的な態度を取ることによって、多くの問題を引き起こしてきた。女性問題、黒人問題がそうであり、同性愛問題もそうである。現在、同性愛者の自我意識が強まり、関係する社会・公共衛生の問題(エイズなど)も出現したことに伴って、中国の同性愛問題は解決せずには済ますことができない段階に到達した!」「私たちには、同性愛を区別して、不道徳または無法と見なす理由はまったくない」「同性愛行為自身は、個人の私事に属することであり、公民の私人に干渉しすぎると(……)公民の活動が地下にもぐり、公共の機構とのつながりを失い、多くの公共の問題が解決できなくなる」と話しました。

 集会では、中国社会科学院の李銀河さんと彼女の夫の王小波さんも、お2人が出版したばかりの著作『他們的世界──中国男同性恋群落透視』を紹介しました。

 その後、いくつかのテーブルに分かれて閑談しました。同性愛者の人々は、初めはあまり話したがらず、専門家の話を聞くだけでしたが、後には、なごやかな雰囲気の中、自分の見方や心中の悩みを話しました。当日の活動は、予定した時間を大幅に超過し、3時間余り続きました。会の最後には、主催者も参加者も、今後は定期的にこのような集会をしたいと言いました。

 5回目のサロンが開催された1993年の2月14日(バレンタインデー)には、ミュージックホールで歌やダンスをする活動をおこないました。この日の活動は北京の同性愛者の間に広く伝わり、同性愛者が集まる公園では、「同性愛無罪!」というスローガンを叫ぶ人も現れました。欧米のメディアも、中国政府が同性愛に対して寛容になる兆候だと考えて注目しました。このサロンの他にも、北京に「中国男児[男孩子]文化センター」という同性愛者の団体もできました。

 1993年3月、北京でおこなわれた「性感染症の蔓延とその対策:社会・倫理・法律問題専門家シンポジウム」では、陳秉中・万延海・鄭伯承・徐小光各氏による「種子を肥沃な土壌にまく──同性愛文化とエイズ教育」という論文が読み上げられました。その論文は、「同性愛者の人としての権利と尊厳を尊重してこそ、エイズ教育は同性愛者たちに受け入れられる」として、同性愛と同性愛者への差別をなくすことを訴えたものでした(1)

 陳秉中さんは『中国健康教育』誌(第8期)に、同様の趣旨の「同性愛・エイズ・健康教育」という論文(2)を書きました。これは、中国で最初に同性愛者の人権保障の問題を提起した論文でした。

 しかし、1993年5月10日、衛生部の党グループ(政府機関や大衆団体の中に設けられた党組織)は、「男の世界」文化サロンを取り締まる命令を出しました(3)。8月20日には、陳秉中さんは、衛生部から、研究所の所長を辞めるように決定した文書を受け取りました。陳さんの論文を掲載した『中国健康教育』も、回収を命じられました。万延海さんも、衛生部の命令により、仕事を続けることができなくなりました(4)

1990年代半ばの静かな動き

 1994年に中華精神学会が決定した「中国精神疾病分類・診断方案」は、依然として、同性愛を「性変態」として治療の対象にするものでした(これが不十分ながら改正されたのは、2001年)。また、1996年には、中国の党と政府は、同性愛をテーマにした書籍や通俗的文章の出版を制限する命令を出しています(5)

 1990年代中頃、同性愛の活動家が組織的活動を始めましたが、公然と「同性愛」という名前の組織で活動することは、警察の干渉を受けました。同性愛の活動家はしょっちゅう警察の訪問を受け、準備した活動をしばしば中止せざるをえませんでした。1995年、公園でエイズ問題を討論する計画があり、10人あまりに通知が行きましたが、計画した人は、その前日に警察から通知を受け取って、中止を強制されました。呉春生さん(男)という活動家は、ストーンウォールの反乱を記念する活動を何度も計画しましたが、警察の取り調べを受けて、中止させられました。

 そこで、1996年、呉さんは、反乱の記念日に、ある横町の静かなバーに、「誕生日パーティー」をすると言って60人余り(うち8人は女性)を集めました。バーには私服警官がいたので、「ハッピーバースデートゥーユー」を歌ってケーキを切ったのち、「誰の誕生日なのか?」と尋ねた人に対しては、知っている人が小声で「今日はアメリカの同性愛運動の誕生日だ」「私たちみんなの誕生日だ」と教えて、ストーンウォールの反乱を祝いました(6)

 また、万延海さんは1994年に民間で「愛知行動プロジェクト」を開始して、『愛知簡報』を創刊したり、公園などで同性愛者のサロンを開催したりしました(7)

 また、1990年頃からエイズ防止活動をするMSMのグループも出現しており、行政からの援助がまったくない中で活動し、「愛知行動プロジェクト」とも協力していました(8)

 これらは、ひっそりとした静かな動きだったようです。

1997年頃からの前進と同性愛サイトの出現

 1997年頃から活動が前進し、状況も変化し始めたように思います。以下のような変化が起きました。

○1997年

 ・3月29日 中国と外国の男女の同性愛者が、「北京同性愛諮詢ホットライン」という、ポケットベルによる、初の「同性愛」の名を冠した電話相談を開始しました(のち、2002年に、北京紀安徳[ジェンダー]相談センターになる)。当時も、公然と組織的な活動をしたり、書籍を出版したりすることは困難でしたが、「ポケットベルは比較的秘密にでき、容易にはストップされない。宣伝と組織をする働きがある」という理由から、ポケットベルによるホットラインを開始したということです(9)。(現在では、さまざまな団体が、中国各地で、あわせて20本程度の「同志(セクマイ)」向けの電話相談をしています[全国各地同志热线]。ただ、セクマイのうち、どの範囲の人々の相談に対応できるかはわかりませんが)

 ・8月~翌年2月 『精神衛生通訊』誌で、同性愛は治療の対象か否かについて議論がなされました。

 ・10月 新刑法が施行され、同性愛を取り締まる根拠とされてきた「流氓罪」が廃止されました。

○1998年

 ・北京の「檸檬樹珈琲屋」で、男女の同性愛者が、毎週土曜日、同性愛文化の討論をしました(10)

 ・8月 北京の香山大覚寺に、全国から40人ほどの男女の同性愛者が集まり、秘密裏に2日間の交流活動をおこなって、同性愛者のセルフ・アイデンティティ、同性愛文化と生活様式、エイズ防止などについて討論をしました(11)

 ・青島大学医学院の張北川教授が、エイズ防止のために同性愛者をターゲットにした『朋友』プロジェクトを開始し、『朋友通信』を創刊しました(12)

 そして、1997~1998年頃から、インターネットの普及に伴い、同性愛サイトが大量に設立され始めました(13)。1998年8月には、中国大陸の同性愛サイトの主宰者交流会も北京でおこなわれています(14)

現在のゲイ・MSM関係のサイトの種類

 さて、現在のゲイやMSM関係のサイトは、大きく分けると、次の3種類になるように思います(「地方のゲイ・レズビアンサイトなど」)。

 第一に、総合サイトないしポータルサイトであり、「(〇〇[地名])同志(網)」という名称のものが多いです。「同志」という言葉は、現在では、広くセクシュアル・マイノリティを指す場合が多いのですが、サイト自体の内容はゲイ中心であり、「ゲイ(サイト)」と訳した方が適切かもしれません(「ゲイ」という言葉も、とくに以前はレズビアンを含めて指すものでしたし)。ゲイの場合、こうしたサイトが各省にあります。

 第二に、「工作組」という名称が付いたサイトで、それらの多くは、MSMに対してエイズ防止活動をする団体のサイトです(活動センターがある団体は、「中心」という名称を付けている場合もあります)。こうしたサイトも、大半の省にあります。

 第三に、「談心小組」(「腹を割って語り合うグループ」といった意味)のサイトです。アメリカの「中国エイズ基金会」と「ロサンゼルスエイズプロジェクト」が援助しています。これらも、「談心小組」という名称のサイトや私がそのように注記しているサイトは、少なくとも現在のところ、ゲイのグループです。

レズビアンサイトよりはるかに多いゲイサイト

 ゲイサイトと違って、レズビアンサイトは、少数の地区(北京、天津、上海、広州、広西、成都、西安)にしかありません(ごく小さなサイトまで含めれば別かもしれませんが)。

 ゲイサイトの方が多い理由は、第一に、経済力や時間的余裕、性的規範の男女差といったことでしょう。ゲイサイト(とくに総合サイト)には、レズビアンサイトに比べて広告がはるかに多く、会所、マッサージ、保健・入浴施設などの派手な広告によって覆いつくされているサイトも少なくありません。このことは、男女の同性愛者の置かれた状況の差を示していると考えられます。

 第二に、中国では市民の政治的社会的活動が制約されているわけですが、その中でおこなわれている政府の同性愛者政策がエイズ対策中心であるという要因もあると思います。もちろん特にMSMの人々がエイズの脅威にさらされている以上、彼らに対してより手厚い政策がおこなわれることは当然です。しかし、彼らにとっても、エイズ対策の文脈でしか政策が遂行されないということは大きな問題ですし、ゲイ=エイズという偏見を強化している面もあります。ただ、エイズ対策を推進するためには、同性愛者差別をも問題せざるをえない面もあるので、その面では、ゲイの方が恩恵を受けている面もないではないと思いますが。

 なお、ゲイやMSMの団体も農村部での活動はきわめて少ないです。

 以下、「総合サイト」「エイズ防止のための工作組」「談心小組」に分けて見てみます。

1.総合サイト

 設立年が表示されているサイトを見てみると、広州同志網が早くも1998年8月に設立されており(このサイトの「資訊」欄には、古いニュースも収録されています)、他のサイトも、2000年~2002年に設立されています。

 だいたい、以下のようなコーナーがあるサイトが多いです。
 ・ニュース(事件、同性愛者の境遇・権利など)
 ・文芸
 ・生活・娯楽
 ・健康
 ・エイズ・性病防止
 ・掲示板
 ・チャットルーム(聊天室)
 ・交友(相手を探す)
 (チャットルームや交友のページに入るには、たいていの場合、登録が必要です。)
 ・大きなサイトの中には、レズビアンのコーナーがあるサイトもあります。

 総合サイトの中には、電話相談やエイズ防止のためのアウトリーチの活動をしているもの(またはそうした活動をしていたグループが、総合サイトを設置したもの)もあります(15)。エイズ・性病防止に関しては、当地の疾病対策予防センター(Centers for Disease Control and Prevention[CDC])と提携しているサイトもあります。そうしたサイトは、次で紹介する「工作組」と完全には区別できません。

2 エイズ防止のための工作組

 設立時期は、1997年に青島陽光同志工作組の人々が活動を始めるなど(彼らは『朋友』プロジェクトの設置にも大きな役割を果たしました)、比較的早いものもありますが、目立つのは[20]00年代半ば以降に設立されたものです(16)

 近年、こうした工作組が急増したの背景の一つには、2003年頃から、中国疾病予防対策センター(CDC)が、MSMに対するエイズ防止宣伝・教育のために、そうした活動をするMSMのボランティアたちの活動にも一定の支持を与えるようになったこと、さまざまな国際基金が資金援助をするようになったことがあります。CDCが現地のMSMのボランティア組織と協力する場合もありますし、CDC自身がボランティアグループを設立する場合もあります。また、智行基金会(香港の慈善組織)のものもあります。

 MSMに向けたエイズ防止活動が中心

 サイトの内容は、以下のようなエイズ・性病防止活動の報告が軸になっています。
 ・無料相談・検査
 ・エイズ防止宣伝、アウトリーチ[外展]
 ・コンドームなど配布
 ・ピア・エデュケーション

 私は、ブログを頻繁に更新している「湖南長沙中大陽光工作組」のブログを見てみました。

 「湖南長沙中大陽光工作組」は、2004年4月、MSM集団に対する関与のために設立されました。2006年7月には、同工作組は、湖南省や長沙市の疾病対策予防センター(CDC)のMSM関与プロジェクトと協力するようになりました。説明によると、同工作組は「長沙市と湖南省各地のMSMなど弱者層を服務の対象にし」、「ピア・エデュケーション、コンドーム配布、心理相談、病気の相談など多様な形式の教育・宣伝活動をおこなっている。目的は、MSM集団の安全意識を高めて、性病・エイズの感染率を低めること」だそうです(17)

 ただし、少なくとも工作組の年度ごとの活動計画や総括の中には、同性愛者に対する差別をなくすような活動はほとんど見当たりません(18)

 さまざまなパーティーも開催していますが、それらの場では、強制ではありませんがエイズ防止相談や検査もおこなわれています(19)

 同工作組は、今年4月、第10回「湖南多元性別文化祭[湖南多元性別文化節]」(第9回までは、「湖南同志文化祭」)を開催しました。「多元性別文化祭」という名前だけ聞くと、多様な性別の人々による創造的なイベントのようですけれども、おこなわれたのは、以下のような内容でした(20)

4月10日(土)
 14:00 湖南多元性別コミュニティ大学エイズ防止連盟交流会
4月17日(土)
 13:00 大型KTV交友活動
 14:00 無料性病・エイズ検査・相談活動
 18:00 湖南多元性別文化祭晩餐会

 上のプログラムを見るかぎり、パーティーに、性病・エイズ防止活動を加えたイベントのようで、開催場所も、KTVのボックス席です。主催単位も、「長沙中大陽光工作組」に加えて、「湖南農大赤十字会」「湖南建築高級技術学校レッドリボン協会」も入っています。「多元性別」という名前は付いているのですが、参加者は、当日の写真を見ると、男性(ゲイ?)中心のようです(21)。前回(第9回)の文化祭の総括も、「コンドームを3800個、潤滑剤を1900包、宣伝資料500あまりを配布した」(22)といったもので、ゲイやMSMの性病・エイズ防止以外への活動の広がりは乏しいと言えます。もっとも、今回、イベントの名称を「同志」から「多元性別」に変えたことには、何らかの意味はあると考えられますが、ブログには、名称を変えた理由は書かれていません。

 エイズ防止にとどまらない意味も

 以上で述べたように、長沙中大陽光工作組の活動は性病・エイズ防止中心ですが、それ以外への広がりがまったくないわけではありません。

 ・さまざまな集まりで交流すること自体が、ゲイの人々にとって生きやすさにつながっている面はあると思います。

 ・工作組のブログは、エイズ・性病の問題にとどまらない、国内外の同性愛情報(同性愛者の権利の問題を含む)も多数掲載しています。

 ・レズビアン関係の活動が皆無というわけではなく、2008年12月には、レズビアンの人々の懇親会もおこなっています(23)。他の工作組には、河北虹心工作組のように「拉拉[レズビアン]部会」があるものもあります。

 ・長沙中大陽光工作組は、先日このブログで紹介した、中国政府に性的指向と性自認に関する共同声明に署名するよう訴えるアピールや映画・テレビでの同性愛描写禁止規定の削除を訴えるアピールにも賛同しています(「性的指向・性自認に基づく人権侵害を非難する国連総会での共同声明をめぐる中国国内の動き」「民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写禁止規定の削除を訴え」)。この2つのアピールについては、他にも、少なくない工作組が賛同しています。ただし、自らのブログにアピールを掲載している工作組はほとんどないので、その点は腰が引けているのかもしれません。

 ・工作組そのもの活動ではないのですが、長沙中大陽光工作組のブログからリンクされている工作組のボランティアの趙明輝さんのブログでは、災害時の寄付の使途透明化、グーグルと中国の衝突、陳情者に対する処罰、玉嬌事件などの社会問題が、現状に批判的な見地から取り上げられており(24)、ボランティアを担っている人々の意識にも興味をひかれます。

3.「談心小組」

 また、2007年から、アメリカの「中国エイズ基金会」と「ロサンゼルスエイズプロジェクト」が共同で、中国のMSMの人々の間に「談心小組」(「腹を割って語り合うグループ」といった意味)を作るプロジェクトを開始しました。2009年までに、22のMSMの「工作組」が開設するために研修を受けたとのことで、各地で「談心小組」が設立されています(25)

 上の「湖南長沙中大陽光工作組」のブログでも、「長沙陽光談心小組」への加入が呼びかけられています。

 長沙中大陽光談心小組は、週一回、毎回120分、8-12人のメンバーでおこなっています。語り合うテーマは、同性愛の認知、性と愛、結婚、社会的圧力についてなどで、その目標は、「参加者の自信を強め、健康的な心理状態を築くこと」と「参加者が社会的セーフティネットを築く助けになる」ことです。

 語り合うテーマは、どこの工作組も以下のような内容に決まっているようです。6回を1サイクルにして、メンバーが交替する場合が多いようです(26)
 1.同性愛/身分のアイデンティティ
 2.性と愛
 3.カミングアウト/社会的圧力
 4.同志の婚姻
 5.自由テーマ
 6.自由テーマ

 他の「談心小組」も、6─12人のメンバーで、毎回90-120分おこなっています(27)

疾病対策予防センター(CDC)と各地の工作組のボランティア、ゲイコミュニティとの矛盾

 以上のようにさまざまな活動をしているとはいえ、全体として、中国各地の工作組――ゲイの組織の中でかなりの比率を占めると思います――は、CDCの下でエイズ防止に偏った活動をしている傾向があることは否定できません。

 やはりその原因は、中国では、市民的自由が抑圧された中で、「エイズ防止」という国家の政策的枠組みの下での活動を強いられているということでしょう。歴史的にも、中国では「エイズが流行して以後、はじめて規模のあるMSMのNGOが出現したのであり、これは欧米社会では、以前からすでにMSM組織が存在していて、エイズがやってきた後、これらの組織がエイズ防止に立ち上がったという状況とは、大いに異なっている」と指摘されています(28)

 また、そのエイズ防止活動においても、行政とMSMの人々との間には矛盾があります。

 たとえば、あるCDCでの研究討論会で、賈平さんという人が、CDCとMSMコミュニティ組織とには矛盾があり、その矛盾は、以下の4点に現れていると指摘しています。
 1 CDCの勤務人員の、コミュニティとの協力における態度の問題
 2 自発的相談・検査(VTC)の質の問題──心理的サポートとプライバシー保護を軽視し、一面的にデータと採血を追求する工作方法が、どこでもコミュニティの反感を引き起こしている。
 3 検査後の薬物と治療の保障の問題
 4 双方の協力時の地位の問題、とくに財務関係の問題

 賈平さんは、「以上の4つの点の問題は、実際上は、資源を握っている側とコミュニティ(……)が平等に協力するのか、それとも操る側と操られる側の関係なのか、という問題である」と述べています(29)。以下、この賈平さんのまとめに沿って、他の事例も挙げつつ、それぞれの問題を見ていきます。

1 CDCの工作人員の、コミュニティとの協力における態度の問題

 衛生部門はボランティアに対して「高いところから見下ろす態度」を取っており、「上級機関に成績を報告したり、プロジェクトの支出を申請する時には、同性愛のボランティアのことを考えるが、ふだんの思いやりは非常に乏しい」という指摘があります(30)

2 自発的相談・検査(Voluntary Testing & Counseling[VTC])の質の問題──心理的サポートとプライバシー保護を軽視し、一面的にデータと採血を追求する工作方法が、どこでもコミュニティの反感を引き起こしている。

 2009年2月、湖南長沙中大陽光工作組は、以下の3つの理由から、長沙疾病対策予防センター(CDC)の業務活動への協力を一切、中止しました。
 1.大流行調査活動の中で、CDCがMSMコミュニティに提供した潤滑剤が「三無製品(生産許可証と製品検査合格証がなく、生産工場名および所在地が明記されていない製品)」である疑いがある。
 2.CDCがVTC活動の最中に撮影したものが外部に流出したことによって、ボランティアの心身の健康に大きな傷を負わせた。
 3.職能部門の官吏は、MSMコミュニティの朋友のプライバシーをきわめて粗末にしており、検査によって陽性が判明した朋友が明るみに出され、コミュニティの朋友を傷つけかねない(31)

 この2と3の点は、プライバシーに関わる問題です。こうした抗議・ボイコットをおこなうということは、工作組は必ずしもCDCの言いなりではないことを示しています。

 しかしその一方で、ある新聞記事は、以下のように、工作組のボランティアの問題点を含めた問題を指摘しています(32)

 世界基金などの国際基金が入ってきたことにより、工作組が雨後の筍のように設立されたが、「基金の下に誕生した小組は、目標は明確である──各地のCDCが必要とするデータを採取することだ。そのうち最も重要な任務は、コンドームを配布することとMSMの人々を連れてきて採血することである。検査の結果によって、エイズのその区域のだいたいの状況が示されるのである。」

 「やり方は簡単である。一人を連れてきて採血して検査したら、検査された人は相応の収入を得ることができ、ボランティアグループもその中から歩合を得ることができる」。愛白成都青年活動センターの責任者の江華医師は、「こうしたやり方の悪い結果は、同一の人が重複して、または異なった採血スポットに採血に来るので、データが真実でなく、捏造に等しくなることだ」と言う。

 「大多数のボランティアグループは、一つのことをやっている──人を連れてきて採血することである。CDCは、同性愛組織のようにコミュニティのために心を尽くして行動することはできない。彼らが欲しいのは検査データだけである。ボランティア組織も、互いに牙をむきあって、資源を争奪するために、排斥しあっている。」

 北京紀安徳[ジェンダー]相談センターの郭雅さんは、同性愛のボランティア小組はすでに同性愛者たちの上に別の一つのグループを形成しており、「彼らは、けっして同性愛者たち自身を代表しえない」と言う。

 以上の新聞記事とは別に、張北川さんも、「わが国の民間組織の発展はまだ初歩的段階にあるため、民間組織には、当然いくらか明確な問題がある。たとえば、ある人々は個人の経済的な私利のためだけに活動に参加しており、彼らは心の中ではMSM集団の利益を軽視している。実際、それらの人は衛生部門の少数の人と現在結び付いて、インチキをして人をだましており、わが国の納税者や国際社会から得たエイズ防止活動資金を着服して個人の懐に入れている。」「少数の地方の専門部門の腐敗の風潮がすでに民間部門にも蔓延して」おり、「これは、私たちはみな強く警戒しなければならないことである」と述べています。もちろん「これらの民間組織はけっして民間組織の主流ではない」ということですが(33)

 上のような問題は、ボランティアに対する教育という角度から言えば、「中国のエイズ予防活動は基本的に衛生行政系統と医者の主導で、人文・社会科学の指導が欠けており、ボランティアに対しても性病・エイズの医学的知識を注入するだけになっている」(34)という点とも関連があると指摘されています。

3 検査後の薬物と治療の保障の問題

 青島のあるエイズウイルス感染者組織は、「青島市のCDCは、HIVの感染を発見したのち、感染者に対して告知と感染経路の調査をするだけで、科学的に有効なカウンセリングをせず、国家の規定で定められた訪問指導をせず、治療のための知識の提供や健康相談をせず、感染者のために交流や治療の経験を分かち合う場の提供もしない」と批判しています(35)

 しかし、「薬物と治療の保障なき検査は、コミュニティの人々に対する吸引力がない」(36)のですが。

4 双方の協力時の地位の問題、とくに財務関係の問題

 張北川さんは、以下の事例を挙げています。「1つにとどまらないコミュニティ工作組が、大流行調査を請け負って以後、自らの権益がひどく傷つけられたと感じている。大流行調査では、若干の都市では、CDCが完成したサンプルは少しだけで、大多数のサンプルは民間組織だけで完成させた。ある民間組織のメンバーはみな晩の時間に仕事をして、社会的動員・具体的連絡・アンケート調査・採血・CDCへの送血という手続きを引き受けて、夜半に仕事を完成させたら、公共交通機関は運転がストップしており、自分で金を出してタクシーで家に帰るしかなかった。CDCは一文も出さず、流行調査の後でみんなに飯を食わせただけで、ことをすませた。(……)1つにとどまらない都市のCDCが、民間組織をこのように無償の労働力と見なして使い、自分のために大量の経費を『節約』できた。」(37)

 二言さんも、次のように言います。「多くの地方のプロジェクトの経費は、各部門によって幾重にもカットされて、具体的にボランティアが仕事をする時にはあまり残っていない。(……)いかなるプロジェクトの管理と実行にも一定のコストが必要だが、必ず、支出の使用の規則を作り、透明化して、ボランティアたちが金の使用を監督する権限を持たなければならない。」(38)

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 まとまりなく長々と書いてきましたが、だいたい以下のような状況であると言えると思います。
 ・中国の同性愛者組織は、行政主導で、エイズ防止の文脈で形成されてきた傾向がある。近年は、国際基金の力もあって、エイズ防止のための工作組が急速に増加した。
 ・エイズ防止のための組織も、同性愛者どうしの交流などはおこなっている。しかし、行政主導であることは、エイズ防止の問題においてさえ、ゲイコミュニティとの間にさまざまな矛盾を引き起こしている。
 ・ただし、当初から、ゲイの人々の主体的な動き、民間の動きも存在し続けている。

(1)以上は、主に方剛『同性恋在中国』(吉林人民出版社 1995年)の第三章「4266958:不僅僅為了艾滋病」と第四章「1993年,同性恋活動在北京」によっています。ただし、邱仁宗さんの発言のうち、「人類の歴史では、社会の中の多数者・権力者が、少数者・弱者に対して圧制的な態度を取ることによって、多くの問題が起きてきた。」という箇所は、「“男人的世界”文化沙龍五周年」『桃紅満天下』7期(1997.11.24)によっています。
(2)陳秉中「艾滋病・同性恋・健康教育」。『朋友通信』9期に再掲されています。
(3)“男人的世界”文化沙龍五周年」『桃紅満天下』7期(1997.11.24)。
(4)方剛『同性恋在中国』(吉林人民出版社 1995年)54頁。
(5)万延海「九十年代中国同性恋者人権状況」『桃紅満天下』7期(1997.11.24)。
(6)何小培「1990年代的中国女同性恋组织」『朋友通信』64期
(7)北京爱知行动项目同性恋者健康和权益工作报告(1994-2002年)」(愛知行動blog2010-04-11)
(8)童戈・羅玫・郭雅・趙鳳飛「中国MSM社群艾滋病预防工作回顾(第二章:MSM社群艾滋病预防志愿者工作的发展)」(2005年10月15日)童戈的个人博客2010-03-26
(9)当時も「同性愛の名で組織的活動をすることは、組織者にだけでなく、参加者にも危険があり」、「娯楽活動を組織することさえ、しょっちゅう警察の干渉を受けていた。たとえば、北京では、東単公園(ゲイの出会いの場)とバーは、いつも警察が来て、検査していた。1990年代中~末期でさえ、同性愛を研究するごく限られた書籍しか、公には出版できなかった。1998年にホットラインが公開の出版物である広州の『希望』誌に広告を出したら、『希望』は関係する上級機関から譴責を受けた」という状況でした(何小培「1990年代的中国女同性恋组织」『朋友通信』64期)。北京99575同性愛諮詢熱線「同性愛諮詢熱線対同性愛人群的艾滋病防控的重要作用」『朋友通信』19期、張北川「中国男同性愛社区発展与健康干預」高燕寧主編『同性恋健康干預』(復旦大学出版社 2006年)428-429頁も参照してください。
(10)東方虹「相聚檸檬樹──記一次同志聚会」『桃紅満天下』25期(1998.8.3)。
(11)中国男女同志深入探討同志議題」『桃紅満天下』29期、童戈「我国同性愛志願者体艾滋病干預活動的参与」『朋友通信』26期
(12)『朋友』については、曹晋『媒介与社会性別研究:理論与実例』(上海三聯書店 2008年)に分析があります。
(13)同志网站:羞答答的玫瑰静悄悄地开」『桃紅満天下』95期[2001.4.12]は、同性愛サイトの初期の状況を紹介しています。。
(14)サイト制作の体得、体験、材料選び、レイアウト・飾り付けなどについて交流し、同志の現状、感情処理、婚姻の難題など、みんなが関心をもっている問題についても討論したそうです。出席したのは「愛情四季」「個性生活写真」「北京憂郁男孩」、元「北京男孩」「東方虹」の主宰者です(「中国大陸同志網頁主持人交流会在北京挙行」『桃紅満天下』26期)。
 その後も、以下のような動きがありました。
○2001年11月、「中国同志サイトとエイズ教育研究討論会」が開催され、30サイトのサイト長が参加し、次のようなテーマで話し合った。
 ・どのようにして、もっと同志サイトが同性愛者たちの中でのエイズ教育の役割を発揮するか。
 ・中国の同志サイトが発展する中でぶつかった問題。
 ・中国の同志サイトをいかにして、より良くより積極的に健康に発展させるか。
 参加したのは、北京愛知行動プロジェクト、桃紅満天下、愛情白皮書、中華同志網、我們啊我們、広州同志、朋友別哭、重慶同志/花様年華、E行為、男孩之間、北京同志会、同心在線、紫色水晶、大連同志、博亜同志網、彩虹之源(レズビアンサイト)であった。他に、『朋友通信』、北京同志熱線などが集まった(「中国首届同志网站健康教育研讨会特辑」『桃紅満天下』増刊46期[2001.11.30])。
○2005年6月 「愛白網」が組織して、「2005中国語同志サイト発展研究討論会」をおこない、20人あまりが参加した(「2005中文同志网站发展研讨会在北京举行」『桃紅満天下』204期[2005.7.8])。 
○2008年10月 中国エイズ民間組織全国連席会議が呼びかけ、北京愛知行研究所と黒龍江愛心天空同志サイトが協力して、国内の15の同志サイトおよび関連する同志健康工作組が、北京で「男女同志サイト安全・法律・健康工作研究討論会」を開催し、「健康同志サイト協力機構」を設立した(「15家网站发起倡议成立“健康同志网站协作机制”」淡藍網2008-11-20)。ただし、その後の活動は不明。
(15)総合サイトと電話相談などをしているグループとが、ここで述べたような形でつながっている例としては、以下のようなものがあります(「各地同志热线小组概览」などを参照しました)。
・天津同志網(2000年4月開設)-天津酷曁天津同志熱線(2003年11月開通)
・大連同志網-大連同志健康志願者工作小組(2002年3月設立)
・江蘇同志網(2002年3月開設)-蘇州同志健康関愛小組
・雲南同志網-雲南同志健康熱線(2002年8月開通)
(16)もちろん、サイトやブログを持たないグループも多くあります。「中国红丝带网─全国艾滋病信息资源网络页» 资源中心» 黄页» 机构名录」のページには、それらのグループも含めて収録されています。なお、同じエイズ・性病防止のための工作組であっても、MSMをターゲットにする工作組は、セックスワーカーをターゲットにする工作組よりは、サイトを持っている比率が高いようです。
(17)湖南长沙中大阳光工作组简介」(2008-12-23)
(18)长沙中大阳光工作组2009年度工作总结」(2010-03-09)、「长沙中大阳光工作组2010年工作计划」(2010-03-09)
(19)たとえば、「2.14情人节主题活动:同性相爱,同样精彩」(2009-02-14)
(20)第十届湖南同志文化艺术节暨阳光六周年庆典」(2010-04-14)
(21)湖南多元化性别文化节10周年盛典活动回放」(2010-04-27)、「湖南多元化性别文化节10周年盛典活动现场回放」(2010-04-27)
(22)09.4.18阳光五周年—第九届湖南同志文化节活动小结」(2009-04-23)
(23)长沙中大阳光工作组走进拉拉社区活动」(2008-12-18)
(24)每个人都可能成为邓玉娇」(2009-05-27)、「上访者被判刑是社会的悲剧」(2010-02-25)、「生在中国」(2010-04-02)、「捐款应该透明化」(2010-04-22)
(25)中大阳光代表参与第三轮“谈心小组”广州启动会议」(2010-01-24)。なお、長沙中大陽光談心小組の場合は、「私の初めての恋愛」、「私が初めて同性愛グループに入ったとき」、「私の初めての結婚」、「私の初めての家族に対するカミングアウト」というテーマでした。
(26)中大阳光代表参与第三轮“谈心小组”广州启动会议」(2010-01-24)
(27)人数や時間が明記されていた談心小組について、それらを書き出すと以下のようでした。
・同康談心小組
 6─10人
 90分前後
・江蘇同天談心小組
 8─12人
 週1回、90-120分
 6─8回で1期。
・緑城彩虹扯咧吧
 90-120分
 8─12人
 6回で1期。
・瀋陽愛之援助健康諮詢服務中心“唠嗑小組”
 6─12人
 90-120分
(28)賈平「在中国CDC性艾中心一次MSM防艾研討会上的発言」『朋友通信』66期
(29)同上。
(30)二言「就志願者与衛生部門人員溝通的幾点看法和建議」『朋友通信』68期
(31)征求来自社区的声音,草根与政府机构的对抗!!!!」湖南長沙中大陽光工作組的博客(2009-02-04)。この記事のひとつ前の記事には、プライバシーを暴かれたと思わる人の苦悩の声が掲載されています(「心中的懊恼,我该怎么做。。。。」[2009-02-03])。
(32)中国同性恋:春光乍泄20年 国内同性恋社群浮出水面并走向组织化的艰难进程与现实乱象」『南方都市報』2008年9月19日。
(33)張北川「一次MSM防艾研討会上的発言」『朋友通信』66期
(34)童戈・羅玫・郭雅・趙鳳飛「中国MSM社群艾滋病预防工作回顾(第四章:MSM社群艾滋病预防工作的主要矛盾和问题2)」(2005年10月15日)童戈的个人博客2010-03-26
(35)(32)に同じ。
(36)(28)に同じ。
(37)(33)に同じ。
(38)(30)に同じ。
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