2017-08

WAN理事会の行為は、労働者との「信頼関係の消失」を理由にすれば、正当化されるのか?

 前回の記事に引き続き、WAN理事会の事情説明文書に対する疑問を述べます。

 ユニオンWANが、事務所の閉鎖について、「そういう考えが浮上した時点で協議や相談を重ねてほしかった」と主張したのに対して、WAN理事会は、3つの理由を挙げて、ユニオンWANとは「信頼関係を維持することができず、[事務所閉鎖のような]重要な事項について相談する機会を持つことができませんでした」と述べて、自己の対応を正当化しています。

 WAN理事会が挙げているのは、以下の(1)~(3)の理由です。それぞれについて、私の考えを述べます(原文では、遠藤さんとカサイさんのお名前は匿名ですが、このブログでは実名にしているので、お名前を出しました)。

(1)「12月末に遠藤さんにかかわる争議が始まって以来、遠藤さんとカサイさんで作られている組合は、協議の最中であるにもかかわらず、協議内容にかかわる情報を一方的にウェブで公開した(通常は、円滑な協議の進行のために、双方が合意した事項以外は、途中で公開するのは避けるのが原則です)」

 ここで注意すべきは、理事会の立場は、「[新しい業者による]サイトリニューアルは理事会で決定した」けれども、「遠藤さんの業務・労働条件については協議を続けている」(1月5日付の理事長のメールより)というものにすぎないことです。しかも、その協議で理事会が出した提案は、遠藤さんの労働時間を半分にしたうえで、時間当たり賃金を下げるというものでした。

 これは、たとえばの話、Aさんという大学教員(専任)が大学の〇〇研究所に勤務していたら、ある日突然、大学の理事会が「〇〇研究所は廃止(再編)することに決定しました。ついては、A先生には、今後は非常勤になっていただき、何コマかご担当をお願いできないでしょうか?」と言って、協議を求めているようなものです。

 こうした場合、Aさんは、上のような事態について大いに学内や世間に訴えるのではないでしょうか? それに対して、もし大学の理事会が「業務・労働条件については協議の最中であるにもかかわず、Aさんたちは情報を一方的にウェブで公開したので、信頼関係を維持できなくなった」と言っても、全然通用しないでしょう。

 もし労働条件の協議についても「双方が合意しなければ、公開しない」のなら、すべてが終わってから(または、裁判にでも突入してから)でなければ、世間に訴えられないことになりますから、組合は完全に孤立した状態で闘わなければなりません。WANには賃労働者は2人しかいないのに、理事は9人もいらっしゃいますし、その意味でも、たたかいは困難です。

 しかも、遠藤さんは、理事会に「新しい業者にサイトリニューアルをしてもらうことに決定した」と言われて、すぐにそれをウェブで公開したのではありません。昨年12月、遠藤さんは理事会と2回協議をおこないましたが、その間は、遠藤さんは協議の内容を公開なさいませんでした。

 ところが、その間、「円滑に協議が進行」するどころか、理事会は、サイトリニューアルを「決定済みの事項」として一方的に説明するだけだったそうです。だからこそ、今年1月4日、遠藤さんは世間に向けて訴えられたのだと思います。

 理事会は、遠藤さんの仕事を取り上げたままの状態で、賃金だけをいつまでも支払い続けるとは考えられませんから、早目に事態を世間に公表して支援を求めなければ、手遅れになってしまうでしょう。組合の行動は当然です。

 なのに、そうした組合の行動を理由にして、理事会が「信頼関係を維持できなくなった」と言って、重要な事項についての相談もしないのは、理不尽だと思います。

(2)「その中でWANの信用を失墜させるような発言を繰り返しておられた」

 まず、ユニオンWANが批判しているのは、「WAN」総体ではなく、「WAN理事会」です。また、理事会がやってきたことすべてを否定しているのでは全くなく、基本的には「今回の行動、雇用に対する姿勢」を批判しているのだと思います。

 理事会側が、労働組合のこうした活動に対して、抽象的に「WANの信用を失墜させた」と言って、労働者に対してやるべきことをしない理由にするのは極めて危険だと私は思います。

 たとえば、ご存じのとおり、男女差別裁判でも、自らの会社を裁判で訴えながら、その会社で働き続けた原告の方々は多数いますが、もしも会社側が、原告に対して「会社の信用を失墜させた」とか言って、何らかの不利益な取り扱いをしたら、大変な問題になるでしょう。

 もちろん、もしもユニオンWANの発言が虚偽であれば、問題です。しかし、逆に、事実と論理に基づくものであれば、むしろWANをより良くして、WANの信用を高めるのに役立ちますから、結局、ユニオンWANの発言が虚偽か否かが問題なわけです。

 しかるに、理事会の事情説明文書は、「WANの信用を失墜させた」と言うだけで、ユニオンWANの発言のどこが事実と異なるのかを指摘しておられません。こうした労働紛争の際に、抽象的に「信用を失墜させた」という言い方をすることは、内部の労働問題を明るみに出すこと自体を否定する不当なものだと見られかねないと思います。

 さすがに1月20日と2月2日の団交では、ユニオンWANが尋ねた結果、理事会も、どの発言が具体的に問題なのかを述べられました。しかし、理事会が指摘した発言は、ユニオンWANが既に自主的に削除していた発言を除けば、事実についての細かな捉え方の違いやフェミニズムのあり方に対する意見の違いといったものにすぎず(*)、かなり細かな箇所であり、それらを理由にして、理事会がするべきことをしないのは、おかしいとしか思えません。

(3)「サイト作業に関して理事会の要請を無視するような行動を取られた」

 この件は、以下の事件を指していると思われます。
 ・1月4日、遠藤さんが、WANの登録団体である「ユニオンWAN」の活動レポートとして、WANサイトに「WANはウェブマスター業務の外注化を撤回せよ!」を投稿・掲載した。しかし、理事会は、同記事を削除し、その理由として、「協議中に一方的な内容を発言している」「当事者が承認するのは問題がある」の2点を挙げた。
 ・1月8日、ユニオンWANが、再度、上の記事を投稿したが、理事会はそれを削除したうえで、「あきらかに業務命令違反」と述べた。

 上の点に対して、遠藤さんは次のように反論しておられます。
 (a)外注を強行しておいて、「協議中」と強弁するのはおかしい。
 (b)ユニオンぼちぼちのレポート「団交申し入れ★トランスジェンダーが安心して働ける職場を」も、会社から見れば「協議中かつ内容が一方的」だろうが、WANサイトは掲載した。また、均等待遇アクション21京都の集会案内は、「当事者が承認」したが、何の問題も指摘されなかった。
 (c)今までのルール(「事務所スタッフが判断する。承認に迷う場合は理事に相談する」)を明快な理由もなく一方的に変更して、新しい「俺様ルール」に違反したからという理由で「あきらかに業務命令違反」などと脅すのはおかしい。
 (d)ユニオンWANの記事を一方的に削除することは、不当労働行為であり、表現の自由をも侵害しかねない。

 それに対して、理事会は、「サイトの管理権は理事会にあるから、削除する権利がある」と述べたということです。

 私は、次の理由で、ユニオンWANの人々が活動レポートを投稿・掲載したのは正当だと思います。
 ・「協議中」という理事会の言い分は、(1)で述べたように成り立たない。
 ・WANが登録団体に活動レポートを投稿することを奨励している以上、登録団体であるユニオンWANも、活動レポートをサイトに投稿することは当然である。その意味で、掲載について「承認に迷う」必要もなかった。

 私は、理事会には、「他の登録団体が自らの主張をWANで訴えるのは良いけれども、WAN内部の登録団体は、自らの主張をWANで訴えるのはダメ」というダブルスタンダードがあるように思います。

 たしかに、世間の一般のメディアにも、ダブルスタンダードはよくあります。たとえば、企業の労働問題を追及している新聞でも、その新聞の記者が自社の労働問題を取材した記事は、まず掲載されないでしょう。

 しかし、運動団体のメディアの場合は、執行部に対する批判を掲載しているものもあります。また、上で挙げた新聞社のダブルスタンダードも、べつに正しいわけではなく、むしろ反動側の週刊誌などに「〇〇新聞が書かない××問題」などと騒がれて、攻撃のネタを提供しているだけではないでしょうか?

 ひびのまことさんは、1月4日の件について、「運動内部にも利害の不一致があること。運動内部の問題を公的な論理の中で解決することが必要があるということ。……運動内部の問題を表に出しても構わないということ。こうしたことに気付き……社会運動を『公的な運動』に作り改めていく機会になることを願って、遠藤さんを断固支持! 遠藤さん、えらい!」(「WAN争議」)と述べておられますが、私もほぼ同感です。

 付け加えると、私は、1月4日、遠藤さんのレポートが掲載されているのを見て、「こういうレポートも掲載するとは、WANはえらい!」と思ったのです。

 たしかに理事会には、その時々に、掲載の可否を判断する最終的権限はあると思います(だからこそ、実際、理事会は記事を削除できています)。ただ、こういう運動内部の不一致の問題について、ルールの修正・発展について合意も議論もしていない段階で、「業務命令違反」と言うだけでは、納得がいきません。

 まして、そのことを理由にして、「信頼関係がなくなった」と言って、事務所移転問題という別の問題に関して、労働者に対してやるべきことをしないのは、不当だと思います。

事務職閉鎖は「重要な事項」と認めているのに……

 理事会が、事務所閉鎖についてユニオンWANと相談しなかった理由を、今回わざわざ述べておられるということは、事務所閉鎖というのは、本来ならば相談(協議)すべき事項であったことを示しています。実際、文中でも、事務職閉鎖の相談は、「重要な事項についての相談」として記述されています。

 しかし、実際の事務所閉鎖は、閉鎖の1つの根拠とされるカサイさんの仕事の状態についても本人と話し合われないままに決定されたために、カサイさんが、理事会発表文書のご自分の仕事に対する記述をお読みになって、「大変な衝撃」を受けるという事態も起きています(「カサイの気持ち」)。

 そうした乱暴なやり方をする根拠として、上の(1)~(3)は十分なものだったでしょうか? そうではありませんね。(1)(2)に関しても、むしろ組合活動に対する報復=不当労働行為である疑念を抱かせかねない部分が大きいと思います。

 理事会には、「信頼関係がなくなった」というような理由で、筋の通らない対応をなさらないようにお願いいたします。

理事会は、ユニオンWANへの対応に関しても、反省やお2人へのおわびを

 WAN理事会は、発表された文書を読むかぎり、労働者の賃金水準などについては、配慮しておられたようです。また、今回の問題に関しても、「雇用や経営に対する予測・見通しが甘かった」点に関しては反省されています。

 しかし、私は、それだけでなく、理事会は、遠藤さんやカサイさんへの対応の問題点についても、具体的に反省とおわびを表明すること必要だと思います。それは、今回の争議を解決する非常に大きな一歩になると思います。

(*)まず、1月20日の団交では、ユニオンWANが「WANはウェブマスター業務の外注化を撤回せよ」と主張したことについて、理事会は「ウェブマスター業務外注化というのは、事実と異なる」と主張したとのことです。
 しかし、遠藤さんによると、かりに理事会の主張に合わせても、ユニオンWANの主張は、「WANにウェブマスターとして雇われていた遠藤礼子が今まで担当していた業務全てを、業者および理事に担当させることに決め、実行したことをWANは撤回せよ」と変わるだけだいうことです(「1・20団交の報告」より)。
 また、2月2日の団交では、理事会は、「理事会を誹謗中傷している」事項として3点を指摘したそうです(「今日の団交」より)。
 1点目については、理事会から言われる前に遠藤さんは自主的に削除していますから、それほど問題にするべきではないでしょう。
 2点目は、tummygirlさんが、ブログ「FemTumYum」でWANの「新春爆笑トーク」を批判なさったのを受けて、遠藤さんが、「主流フェミニズム界」の実態を嘆いて、「私ってこんなノリの業界のNPOに雇われているだなあ」と書いたことについて、理事会が、「フェミニズムの思想や運動を誹謗中傷するものだ」と批判したということです。
 しかし、遠藤さんは、「主流フェミニズム界」を批判しているのですから、いわば「反主流」だというだけの話です。また、「業界」というのは、「同じ産業にたずさわる人々の社会」(広辞苑)という意味であり、たとえば「音楽業界」に対して否定的評価をしてる人が、「音楽」そのものが嫌いかといえば、別にそうではありません。要するに、これも、せいぜい現在のフェミニズムの状況に対する批判的見地の表明以上のものではなく、「フェミニズムの思想や運動を誹謗中傷するもの」とは言えません。
 tummygirlさんも、遠藤さんが共感を示されたエントリについて、「きちんと読んでいただければ、少なくともあのエントリが『フェミニストとしての批判』だったという事はわかっていただけるのではないか、と思う」と述べておられます(「WAN争議アップデート、あるいは、わたくしフェミニスト(自称主流)ですけれども?」)。
 tummygirlさんは、遠藤さんの発言に対する理事会の批判について、「揚げ足とりか、ためにする批判か、それこそ『中傷』のように思われる」(同上エントリ)と述べていますが、私もそう感じました。
 3点目は、ミヤマアキラさんがブログ「デルタG」で「そもそもなぜWANの理事たちは遠藤さんをウェブマスターとして採用したのかいささか謎である」と述べたのに対し、遠藤さんが「そうですよね! というか、いささか、というより、むっちゃ謎!」と述べた(「そんならわたしは『平成オマンコ塾』で」)という点だそうです。
 私は、この箇所については、遠藤さんもおっしゃっているとおり、「今回の労働争議を引き起こしているようなWANの状況から見て、なぜWANが労組の活動家である遠藤さんを雇ったのか謎である」という意味にしか読めません。
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