2017-09

北京愛知行研究所、政府に性教育とエイズ防止の強化を訴え

 北京愛知行研究所は、エイズ防止と社会のさまざまな弱者(同性愛者、トランスジェンダー、セックスワーカー、薬物中毒者、流動人口、少数民族、エイズ感染者・患者)の人権保護のための活動をおこなっているNGOです。

 昨年末の話で恐縮ですが、北京愛知行研究所は、2009年12月26日、「学校および大衆的な性教育とエイズの性感染予防の強化に関する訴え(关于加强学校和大众性教育,预防艾滋病性传播的呼吁)」を、衛生部・教育部・国家ラジオ映画テレビ総局・国家報道出版総署・工業情報化部・公安部に向けて出しました。

 この「訴え」は、まず、公式発表の中から、以下のような状況を指摘しています。
 ・存命中のエイズ感染者と患者のうち、性交渉による感染が6割に近づき、その中でも男性どうしの性交渉による感染の増大がとくに顕著である。2009年に新しく見つかった感染者のうちでは、異性間の性交渉によるものが42.2%、男性どうしの性交渉によるものが32.5%だった。
 ・最近3年間は、学生の中で見つかったエイズウイルス感染者と患者の数が、年を追って上昇する趨勢にある。

 北京愛知行研究所の「訴え」は、衛生部も、最近は男性同性愛者のグループを通じて、コンドーム使用の推進やエイズ防止教育をおこなうようになったことを評価しつつも、上のような状況から見ると、それだけでは不十分だとして、次の2点を指摘しています。
 ・同性愛者の青少年が成長している学校でも、性教育やエイズ防止教育を推進する必要がある。
 ・男性の同性愛者も大衆の一部なのだから、大衆的なメディアを通じてエイズや性教育の情報を提供する必要がある。その際には、同性愛者を無視したり、まして差別や偏見があってはならない。

 以上のような認識に基づいて、北京愛知行研究所は以下の4点を訴えています。

1:わが国の教育部と衛生部は、できるだけ早く、学校(小学校・初級中学・高級中学・職業学校・高等教育を含む)におけるエイズ教育・性教育・リプロダクティブヘルス教育を始動・強化して、青少年の健康の権利を保障するべきである。そのために、エイズ教育・性教育・リプロダクティブヘルス教育の教学大綱と教材を編纂し、予算を制定し、教学活動の執行・監督・評価計画を制定するべきである。

 この1については、具体的に、以下のようなことも提起しています。

 「若干の現実的でない、絶対禁欲主義のエイズ教育政策、たとえば衛生部と教育部の『青少年エイズ予防基本知識(青少年预防艾滋病基本知识)』(1)を改正して、総合的なエイズと性教育の情報(青少年の禁欲の情報だけでなく、性の安全の知識と医療のサービスも含むもの)を提供すべきである。

 「学生社団にエイズ防止と性教育の活動に参与することを奨励し、学生団体がピア・エデュケーション活動を展開することを支持するべきである。その中には、同性愛者に対する友好的な社団の活動も含む。」(2)

2:わが国の国家報道出版総署・国家ラジオ映画テレビ総局・中央宣伝部は、大衆メディア(ラジオ・テレビ・新聞・雑誌・インターネットメディアを含む)がエイズ防止教育活動に参与するよう積極的に促進・奨励すべきである。エイズ教育は、総合的な性教育と積極的にタイアップすべきである。そのために、国家ラジオ映画テレビ総局は、ラジオ・映画・テレビの性に関する番組に対する制限を取り消すべきである。報道出版部門・宣伝部門は、科学的で現実的な、エイズと性の教育の指導的意見を制定することが必要であり、道徳の説教と禁欲主義に限定してはならない。

 2については、この「訴え」は、たとえば、衛生部と中央宣伝部が1998年に公布した「エイズ予防の宣伝教育原則」(卫生部 中共中央宣传部 国家教育委员会等「关于印发预防艾滋病性病宣传教育原则的通知」1998年1月8日)が、「エイズ防止の宣伝教育は、社会主義精神文明建設の重要な内容であることを強調しなければならない」と述べて、「中華民族の伝統的な美徳(身を清らかにして軽率な行動を慎み、純潔を守り、配偶者に忠実で、共白髪まで添い遂げる)を保持・発揚する」としていることを批判しています。

3:わが国のラジオ映画テレビ総局、報道出版部門と関係部門は、同性愛と同性愛者に対する差別的政策を撤廃し、大衆メディアと学校教育が同性愛者にデリケートで友好的な情報を提供するよう保証するべきである。そのために、国家ラジオ映画テレビ総局は、同性愛のテレビと映画に対する禁令を解除すべきである。報道出版総署は、同性愛の出版物を支持し、雑誌コードを与えるべきである。工業・情報化部と公安部は、同性愛サイト自身は取り締まりの対象ではなく、同性愛サイトの中の違法な情報が取り締まりの対象であることを明確にするべきである。

 上で述べている「同性愛のテレビと映画に対する禁令」というのは、以下の3つです(3)

(1)1997年1月 ラジオ映画テレビ部「映画審査規定(电影审查规定)」
 「第10条:映画フィルムの中のプロット、言語、画面に以下の内容があるものは、削除・修正(……)しなければならない」の「5.淫乱・強姦・売春・買春・同性愛などを具体的に描写したもの。」(下線は遠山による。以下同じ)

(2)2004年5月 国家ラジオ映画テレビ総局「ラジオ・映画・テレビの未成年者の思想道徳建設の強化・改善の実施方案(印发《广播影视加强和改进未成年人思想道建设的实施方案》的通知)」の15
 「性に関わる不健康な内容、たとえば性の自由、性の勝手気まま、性の享楽、同性愛の言語・画面・プロットなどを明らかに示しているものは、断固として削除しなければならない。とくに未成年者の早恋・性行為などに関わる言語・画面・プロットは杜絶させなければならない」

(3)2008年3月 国家ラジオ映画テレビ総局「映画審査基準を重ねて言明することに関する通知」(广电总局关于重申电影审查标准的通知
 「映画フィルムの中の以下の状況は、削除・修正しなければならない」の中の「淫乱・強姦・売春・買春・性行為・性変態・同性愛・自慰などの状況を繰り広げる」など(4)

 また、「同性愛の出版物」のほうについては、この「訴え」は、「わが国の報道出版部は、以前、同性愛に関する題材の出版を禁止したことがあり、現在も制限している。わが国には現在、政府の許可を得た同性愛の刊行物[←雑誌を指していると思われる]はない。2009年7月29日、北京市文化執法大隊は、民間が非公式に出版した同性愛刊行物『点』と『Les+』を没収した」という点を批判しています(5)

 さらに、この「訴え」は、以前このブログでも取り上げた、インターネットの同性愛サイトがしばしば取り締まりの対象になっている問題(本ブログの記事「同性愛サイトに対する攻撃や規制」で触れた)や、昨年衛生部が出した「インターネットの医療保健情報サービス管理規則」(本ブログの記事「インターネット上の性科学の情報を統制する規則」参照)も批判しています。

4:わが国の政府はコンドームの公益公告を奨励し、同時にコンドームの商業公告に対する制限を解除するべきである。

 「訴え」は、この点について、「わが国の政府は現在コンドームの公益公告は許可しているけれども、商業的な公告は制限している。市場の効率を考えると、関連する政策は、コンドーム企業が、コンドームの公益教育に参与する積極性を制約していることになる」と述べています。

 先日触れたように、現在、北京愛知行研究所のようなNGOは、政府の政策によって、海外からの財政援助を困難にされたことによって難しい状況に直面していますが、こうした率直で貴重な訴えがおこなえる団体を窮地に追い込むやり方には憤りを感じざるをえません。

(1)卫生部办公厅 教育部办公厅关于印发《青少年预防艾滋病基本知识》的通知」(2007年5月25日)(卫办疾控发[2007]92号)。この「訴え」は、この「通知」のどこが「絶対禁欲主義」なのかを明記していませんが、おそらく、「恋人の間はお互いに忠誠でなければならず(……)婚前の性行為の発生は、避けなければならない。婚前の性行為の発生は、お互いの心身の健康にとって不利な影響がある」といった箇所だと思われます。
(2)Tom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)(The International Gay and Lesbian Human Rights Commission [IGLHRC]サイト2010年3月24日、Executive Summary)は、大学の社団をめぐる状況について、以下のような問題を指摘しています(英語版p.17-18、中国語版p.14)。
 ・中国では、LGBTの学生社団は、中山大学の彩虹社しかない[彩虹社については、本ブログの記事「同性愛者などの人権のための初の正式の学生団体」参照]。
 ・中国の大学では通常、中心になる組織が学生社団の登記と管理をおこなうが、LGBTの学生社団の登記申請は、みな拒否されている。たとえば、北京大学は、2004年にあるLGBTの学生社団の登記申請を拒否した。
 ・正式の登記ができないことは、学生社団にとって、重大な損失である。まず、登記をすることによって、教室など、学内の施設が利用できるようになる。次に、登記することによって、公式の案内に掲載され、新入生歓迎などの活動に参加できるようになる。さらに、登記をすることによって、LGBTの学生たちが、健康や社会的支援を得られやすくなる。最後に、LGBTの学生社団の存在は、学生全体に影響を与え、より良い環境を作る助けになる。
 ・LGBTの学生社団が登記できないと規定した法律はないが、中山大学の特例を除けば、他の登記の試みはすべて拒否されており、文章化されていない規定があるとみなすことができる。
 なお、Tom Mountfordさんの上記の報告は、中国のLGBTをめぐる法律の問題点を網羅的にまとめており、この問題に関心のある方には必読であるように思います。
(3)2008年12月には、下の3つの規定を改正するよう44の団体と34人の個人が連名で訴えました(本ブログの記事「民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写を禁止する規定の削除を訴え」)。
(4)北京愛知行研究所は、この通知が出た際にも、「同性愛」に関する規定を削除する提案をしています(「建议国家广电总局删除电影审查标准中“同性恋”的相关规定」2008年3月17日)。
(5)警察が北京LGBT文化活動センターに手入れをおこなって、『Les+』を没収したことについては、Xtra!(カナダのゲイ・レズビアンサイト)やFridae(香港に拠点があるセクマイ関係のニュースサイト)が取り上げ(“Chinese lesbian mag raided while activists in Copenhagen / Activists vow to work around government censors”Xtra!2009年8月6日、“Lesbian magazine in Beijing raided by police”Fridae2009年8月12日)、それらを日本のブログ「みやきち日記」が紹介しておられます(「北京のレズビアン雑誌、警察の強制捜査に遭う」2009年8月15日)。
 ただし、その後もこれらの雑誌は不屈に刊行を継続しています。『Les+』は季刊で、雑誌没収前の2009年7月に2009年の第3期(No.20)を刊行していたのですが、その後、予定より大幅に遅れつつも、2009年4期(No.21)を2010年4月に刊行しました(「4月18日 女同杂志《les+》重生庆祝&新刊发布会」Les+的博客2010-04-15)。また、『点』は、2009年7月に刊行を予定していた号を、2009年10月に延期して刊行しています(ただし、この刊行の遅れについて、『点』のブログは、「組版ソフトの故障」のためや、メンバーがLGBTのスポーツの世界大会であるアウトゲームスに参加したためだとしています「《点 Gayspot》电子杂志第3期精彩上线!」《点》杂志的博客2009-10-08)。
 また、刊行物に対する許可について、北京愛知行研究所の万延海さんは、「出版物には、雑誌コードがなければならず」、「[雑誌コードがない]内部出版物は内部の従業員にしか発行できない、つまり、内部の人しか読めない。内部出版物も、審査のうえ許可を得なければならない。これは、私の見るところでは問題がある」と述べています(「中国独立民间组织出版自由受限制」自由亚洲电台(RFA)2009年8月18日)。出版物に対する制限に関しては、注(2)のTom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)も取り上げています(英語版p.12-14、中国語版p.10-11)。
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