2017-11

民間諸団体、映画やテレビでの同性愛描写禁止規定の削除を訴え(2008年12月)

 1年以上前の話で恐縮ですが、次回書く記事「北京愛知行研究所、政府に性教育とエイズ防止の強化を訴え」(この記事も同性愛に触れている個所が多いです)と関係がありますので、紹介させていただきます。

 2008年12月10日、中国の同性愛者の人権に関心を持つさまざまな組織や個人が共同で、「同性愛の人々と同性愛の情報は、世論の正しい方向づけが必要である──国家ラジオ映画テレビ総局への意見(同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向──给国家广播电影电视总局的意见)」を発表しました(1)

 この意見は、簡単に言えば、中国のテレビや映画では同性愛描写が禁止されていることを改めるように訴えたもので、以下の内容です。



 この手紙は、「国家ラジオ映画テレビ総局(国家广播电影电视总局)」に、ラジオ・映画・テレビに関する規定を改正して、同性愛を差別する条項を削除するように提案・要求するものです。私たちが提出するこの意見は、科学・基本的人権・公共衛生・青少年の発展の原則の基づいています。

 2008年12月10日は、国連が世界人権宣言を発表して60周年です。この歴史的なときに、私たちは、国家ラジオ映画テレビ総局に、男女の同性愛者を含めた、人類のすべてのメンバーの人権を重視するよう訴えます。

問題の提出

 1997年1月、ラジオ映画テレビ部(广播电影电视部)は、「映画審査規定(电影审查规定)」を公布しましたが、その規定の第10条には「映画フィルムの中の個々のプロット、言語、画面に以下の内容があるものは、削除・修正(……)しなければならない」とあり、その第1款の第5項は「淫乱・強姦・売春・買春・同性愛などを具体的に描写したもの」を列挙しています(下線は遠山による。以下同じ)。

 2004年5月、国家ラジオテレビ総局(国家广播电视总局)は、「『ラジオ映画テレビの未成年者の思想道徳建設の強化・改善の実施方案』の印刷配布に関する通知(印发《广播影视加强和改进未成年人思想道建设的实施方案》的通知)」の第15段で、「ポルノ[色情]描写・わいせつな画面・下品な言語を杜絶しなければならない。ラジオ・映画・テレビ番組は、未成年者の鑑賞の習慣・受容能力・成長方向を十分に考慮して、正しい思想と健康的な感情の宣伝教育を強め、ポルノと性を『笑わせどころ』『セールスポイント』などにする、格調が高くないラジオ・映画・テレビ番組を断固として阻止し、正常な倫理道徳にもとる不健康な感情を宣揚することを断固として阻止しなければならない。性に関わる不健康な内容、たとえば性の自由、性の勝手気まま、性の享楽、同性愛の言語・画面・プロットなどを明らかに示しているものは、断固として削除しなければならない。とくに未成年者の早恋・性行為などに関わる言語・画面・プロットは杜絶させなければならない」と指摘しています。

 2008年3月、国家ラジオ映画テレビ総局は、「映画審査基準を重ねて言明することに関する通知(广电总局关于重申电影审查标准的通知)」の中で、「映画フィルムに以下の状況があるものは、削除・修正しなければならない。(……)その中に含まれるのは、わいせつ・ポルノや下品・低級な内容が入っているもの、淫乱・強姦・売春・買春・性行為・性変態・同性愛・自慰などのプロットおよび男女の性器などの秘部がまざまざと示されるもの、汚く低俗なセリフ・歌曲・BGM・音声効果などが入っているもの」と述べています。

 私たちは、以上の国家ラジオ映画テレビ総局の同性愛に関する規定は、科学的な道理に合致していないだけでなく、一定程度、黒白を混同しており、人々の同性愛に対する誤った認識を強化するものであって、世論を正しい方向に育てるのに不利であり、世論を通じて社会の大衆を導くのに不利であり、わが国の同性愛者の基本的人権を侵害するだけでなく、公衆衛生という目的を実現するにも不利だと考えます(2)

同性愛者たちを正しく認識する

 「性的指向(sexual orientation)」とは、各個人が、異性・同性・多様な性別の人に対して内心から起きる感情・愛情・性的吸引、ならびに親密な関係と性的関係を生じさせる能力のことです。

 同性愛については、歴史上、それに対する種々さまざまな偏見と差別がありましたけれども、近年来、科学の進歩と社会大衆の認識水準の向上によって、同性愛の問題はすでにもう隠された問題ではなくなりました。WHOが1992年に改正した後の第10版の「世界疾病分類」では、同性愛は、成人の人格障害・行動障害の一覧から削除され、「性的指向それ自体は、人為的な障害と考えてはならない」と声明されました。中華精神科学会が2001年に発表した「中国の精神障害分類と診断基準」第3版は、もう同性愛自身を病的とは区分しなくなりました。

同性愛者の人々と同性愛の情報は、科学的で正しい世論の方向づけを必要としている

 世界の各地で、人々の性的指向による差別・排斥・汚名・偏見が、彼らの自尊心と社会的集団への帰属感を奪っているために、多くの人が、自分のアイデンティティを隠し、抑えつけて、恐れながら、隠れて生活しています。私たちの国でも、歴史的・社会的原因によって、同性愛者たちは、同様に、種々さまざまな差別と汚名を被っています。

 実は、報道やメディアの正しい報道が、同性愛者や関係する人々のスティグマと差別をなくすうえで極めて重要なのです。まず、メディアの正しい報道は、広範な民衆が同性愛者たちの生存や生活の状態を正しく見つめる助けになり、民衆の科学的でない認識をなくすのを助けます。次に、メディアの正しい報道は、同性愛者たちのセルフ・アイデンティティを確立するのを助け、彼らの恐れと無力感をなくし、彼らに良好な生存と発展の空間を作り出すのを助けます。

同性愛者の人権、とくに「意見と表現の自由の権利」は保護されなければならない

 同性愛とさまざまな性的指向・性自認の人々の人権保護の問題は、すでに世界的には、きわめて大きな発展の趨勢になっています。2006年11月にインドネシアのジョグジャカルタで開催された国際的な法学の専門家の会議において、国際人権法を性的指向と性自認に関連した問題に適用する「ジョグジャカルタ原則」(3)は、すでに2007年3月26日、国連の人権理事会の会議の期間に公布され、会議で紹介されました。

 同時に、それぞれの国家の立法も、これらの人々の人権の問題に絶えず注意するようになりました。立法と政策によって、同性愛者たちやさまざまな性的指向と性自認の人々に対する差別をなくし、これらの人々の社会的地位と生存状況を改善することは、すでに、調和社会を築く新しい一つの使命になっています。

 (中略)

「ジョグジャカルタ原則」の19「意見と表現の自由の権利」[この節は、ジョグジャカルタ原則がそのまま提示してあります]

 すべての人間はみな、性的指向または性自認がどのようであるかにかかわりなく、思想と表現の自由に関する権利を持つ。これには、演説・行為・立ち居振る舞い・服装・身体的特徴・姓名の選択その他の方法による身分または個性の表現、および、国境を問わずいかなる媒体からも各種の情報と意見――人権・性的指向と性自認に関する事柄を含む――を求め、獲得し、伝達する自由が含まれる。

 各国は、以下のことをしなければならない。

 a)人々が性的指向と性自認による差別なく、他の人の権利と自由を尊重しつつ、意見と表現の自由――これには、性的指向と性自認に関する情報と意見を受け取り、伝達する自由、およびそれに関する宣伝の合法的な権利、資料の出版、放送、会議の組織・参加、セイファーセックスに関する情報の普及と獲得に関する自由を含む――を十分に享受することを保証するために必要なあらゆる司法上、行政上その他の措置を取る。

 b)国家が管理するメディアの番組放映と組織は、性的指向と性自認の問題に関して、多元的であり、差別的ではないことを保証する。そのような組織の人員募集と昇進の政策は、性的指向と性自認について差別的ではないことを保証する。

 c)人々が身分と個性を表現する権利――これには、演説・行為・立ち居振る舞い・服装・身体的特徴・名前の選択その他の方法で身分と個性を表現する権利が含まれる――を十分に享受することを保証するために必要な、あらゆる司法上、行政上その他の措置を取る。

 d)公共の秩序、公衆道徳、公衆衛生、公共の安全という概念が、さまざまな性的指向または性自認を主張する意見・表現の自由の行使を差別的な方法で制限するために用いられないように保証する。

 e)意見と表現の自由の行使が、さまざまな性的指向と性自認の者の権利と自由を侵犯しないように保証する。

 f)すべての人が、性的指向または性自認がどのようであるかに関係なく、情報と思想を平等に得て、公の議論に平等に参加できるように保証する。

エイズ防止活動はメディアの非差別の立場を必要とする

 わが国の政府は、先日、わが国のエイズの流行の形勢は、性による伝染が主となるモデルになったこと、男どうしの恋人たちの間におけるエイズの流行と防止活動を今後の活動の重点にすることを宣言しました。

 (中略)

 男と性行為をする男も、女と性行為をするかもしれません。ですから、もし感染していれば、彼らはウイルスを自分の女性パートナーまたは妻に移すかもしれません。

 メディアが同性愛者を支える情報を提供せずに、差別とスティグマ化をするならば、男性同性愛者は自己を受け入れることができず、いっそう多くの人が自分の性的指向を隠して、異性と結婚することになるでしょう。それによって、男性同性愛者の性行為の不安定さと危険な性行為の発生は増大し、エイズの流行は助長されます。

 メディアは、同性愛者に対する差別をなくす働きを積極的にするべきであり、誤ったステロタイプなイメージを強化するべきではありません。

 現在、わが国のラジオ・映画・テレビが同性愛というテーマに触れるのは、主にエイズ防止活動を報道するときであり、同性愛者の生活を全面的に報道できていません。そのため、エイズ防止活動自体が、社会的差別を強化し、エイズを同性愛と同一視しています。

 多くの研究は、男性同性愛者が積極的に自我認同(アイデンティティを確立すること?)し、同性愛という性的指向を受け入れることは、男性同性愛者が安全な性行為をおこなう助けになり、男性同性愛者が自分と他人を保護する行為をする助けになることを明らかにしています。そして、同性愛者の自己受容とアイデンティティの確立には、メディア空間を同性愛者と同性愛に関連する情報とに開放する必要があるのであり、阻止したり、醜く描いたりしてはなりません。

メディアは教育的役割を積極的に発揮しなければならない

 メディアは同時に教育的役割を発揮するべきであり、ひたすら回避することは、問題を誤解されたままにするだけです。広範な青少年には、特に異なった性的指向と性自認の青少年には、学校教育が必要であるほかに、メディアと世論の正しい導きが必要です。

 「ジョクジャカルタ原則」は、同性愛とさまざまな性的指向、性自認の人々の教育問題に対して……(以下、第16原則について述べていますが、省略)

国家ラジオ映画テレビ総局
住所:北京市西城区復興門外大街2号
郵便番号:100866
メールボックス:sarft@chinasarft.gov.cn

署名した組織と個人

中国の組織(44)
北京愛知行研究所
中国律師観察網
広州“同城社区”
跨越中国
河北廊坊兄弟真情工作組
杭州西湖工作組
天津海河之星工作組
広西蕾絲聯合社
広州同心工作小組
武漢馨縁工作組
浙江愛心工作組
天津浩天志願者工作組
瀋陽陽光工作組
洛陽理工学院同志学生群
青島陽光工作組
復旦大学知和社[復旦大学の学生社団]
南京彩虹関愛小組
美国維思大学中国学生会
河南公益先鋒
全国輸血感染者委員会
哈尓濱心相印
北京益仁平中心
牡丹江摯愛
寧波藍天工作組
蕪湖同舟
湖北青鳥
広州牽牛花互助工作組
重慶藍天
貴州関愛苑
河北固年愛知関愛互助小組
河北永清
撫順愛心工作組
福建福桐
江西知己関愛工作組
深愛
TheBoy文化機構
北京金色陽光関愛健康工作組
河北紅燭協会
紅樹林聯誼会
河北志願者協会
山東渮澤血友協会
河南商水県関愛協会
長沙中大陽光工作組

中国の公民(34人。一部の人名は省略)[青色は、現在も生きているリンクです]
阿強、広州、自由業、http://blog.sina.com.cn/aqiang
白咏冰、北京、自由業、http://blog.sina.com.cn/u/1099508322
哈啦苦少、広州、http://user.qzone.qq.com/55808382
葉風、広州民間メディア活動家、http://blog.sina.com.cn/hangzhouyefeng
Paloma Robles、北京
蘭江、昆明、http://hi.baidu.com/cklyn
姜珊、上海、http://ixtab.blog.163.com/
金鑫、河南、http://i.cn.yahoo.com/jinxin2008m/blog/p-23/
豆豆、昆明、http://blog.sina.com.cn/msmteam
朱龍、西安在住、http://metalgear12.blogbus.com/
毛雷、北京、自由業、
西門湯、上海、http://blog.sina.com.cn/tonglinniaoren
姚柏舟、杭州、学生、http://xiaonei.com/profile.do?id=246192716
楊紫光、北京
Leslie、厦門、http://blog.hexun.com/bearhome/p1/default.html
高文広、カルガリー、カナダ、http://cyruse39polarbear.spaces.live.com/
史蒂分口匹克、カルガリー、カナダ
Rainover、http://www.tianbula.com/Blog/BlogIndex.aspx?blogid=157
幸福之后、北京、http://hi.baidu.com/afterthesmile



 名を連ねている団体の中では、北京愛知行研究所(エイズとさまざまな弱者集団に対する差別に取り組んでいる)と北京益仁平センター(B型肝炎の患者に対する差別に取り組んでいる)は比較的有名ですし、他の多くの組織も、各地で地道に活動している団体です。男性同性愛やエイズに関連した団体が多く、レズビアン中心のものは、広西蕾絲聯合社と広州同心工作小組くらいだという片寄りは感じますが……(もちろん、ゲイ・レズビアンが共に活動している団体もあります)

 いずれにしろ、上のように多くの団体と個人が名を連ねた訴えであるわけですが、メディアでは取り上げられなかったと思います。国家ラジオ映画テレビ総局からも反応はありませんでした。

(1)原文は、「同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向——给国家广播电影电视总局的意见」『桃红满天下』238期(2008年12月12日)、「同性恋人群和同性恋信息需要正确的舆论导向——给国家广播电影电视总局的意见」(同在広州BLOG2009年12月18日)に掲載されています。
(2)Tom Mountford“The Legal Position and Status of Lesbian, Gay, Bisexual and Transgender People in the People’s Republic of China”(「中国男女同性恋、双性恋和跨性别群体的法律地位和法律状态」)(いずれもPDF)(The International Gay and Lesbian Human Rights Commission [IGLHRC]サイト2010年3月24日、Executive Summary)は、この3つの規定について、以下の問題を指摘しています(p.9)。
 (1)同性愛を不正常で異常なものと考えていること。
 (2)性行為のある同性愛と性行為のない同性愛を区分していないこと。
 (3)同性愛の内容に対する審査制度を青年教育や大衆道徳と結びつけていること。
 Tom Mountfordさんの上記の報告は、中国のLGBTをめぐる法律の問題点を網羅的にまとめており、この問題に関心のある方には必読であるように思います。
(3)「ジョグジャカルタ原則」については、ウィキペディアに詳しい説明があります(ジョグジャカルタ原則)。日本語訳は、谷口洋幸氏によるものが『法とセクシュアリティ』No.2(2007.9)にあるとのことですが、ネット上でも、Ry0TAさんが仮訳をしておられます(ジョグジャカルタ原則・目次)。
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