2017-03

北京大学、女性法律研究・サービスセンターを切り捨て──人権NGOに対する政府の締めつけの一環か?

法定NGOの資格を失うことに

 3月25日、北京大学社会科学部は、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター(北大法学院妇女法律研究与服务中心)など4つの機構について、「上述の機構は、公告の日以後、北京大学に付属[掛靠]しない。廃止[撤消]した機構の一切の行為に対しては、北京大学は管理責任を持たない」という「公告」(北京大学HP)を出しました。

 北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター(以下、「センター」と略す)は、1995年12月に設立された、中国最初の、女性に法律的援助をするためのNGOで、以下のようなことをおこなっています。
 1.全国の女性のために無償で、電話・来訪・手紙・メールによる法律相談のサービスをする。
 2.重大な、典型的な、難しい、代表的な女性の権益に関する事件を引き受けて、貧しい、弱い女性の当事者のために無料で法律サービスをする。
 3.公益訴訟事件を取り扱い、中国の公益訴訟事業の発展を推進する。
 4.女性の権益保護に関して注目されている点、困難な点を研究して、研究報告を書き、さらに、国家の立法・司法・行政機関に対して、女性の権益保護に関する法律的意見を提供することによって、女性の法律制度の改革と改善を推進する。
 5.国内的・国際的な女性の権益保護組織・法律的機構・大学・専門家と広く連絡・協力して、女性の権益保護、女性の法律的援助、公益訴訟の理論・実践を協同して探究する。
 センターは、設立後の14年間に、8万件余りの相談を受け、3000余りの事件を無料で請け負ってきました(1)。現在は、11名の専任の弁護士、5名の勤務人員、数十名の兼職の弁護士がいます。

 センターは、2007年1月には「女性権益公益弁護士ネットワーク(2009年に「公益弁護士ネットワーク(公益律师网络)」と改称)」を設立し、現在では、300人を越える弁護士が加入しています(2)。また、2009年9月、公益弁護士のための弁護士事務所「千千弁護士事務所」を開設しました。

 以前も述べたように、中国では、法定のNGOになるには、日常の監督管理をおこなう「業務主管単位」に付属することが必要なので、センターも、北京大学に付属する形をとってきました。ですから、「業務主管単位」である北京大学が関係を断絶すれば、センターは、法定のNGOの資格がなくなってしまいます。

 艾曉明さん(中山大学教授)は、今回の事態について、「中国当局は民間の公益組織に対して資金調達の面で多くの制限を設けているので、北京大学のような、政府当局側で、学術的に最上の地位にある主管単位を拠りどころとして失ったことは、センターの今後の資金調達をさらに困難にするだろう」と述べています(3)

教育部からの直接の通知により廃止

 2009年5月、鄧玉嬌事件(本ブログの記事「鄧玉嬌事件をめぐって」「鄧玉嬌事件の判決をめぐって」参照)が起きると、センターは積極的に介入し、警察や裁判所、政治法律委員会に電報を送って働きかけたり、声明を発表したりしました。また、センターの弁護士は、現地まで出かけて調査したり、鄧さんの弁護士と連絡を取ったりしました。

 2009年6、7月、こうしたことが原因になって、センターは、北京大学から「今後は、センターは研究活動はしてもよいが、具体的な事件の訴訟に参与してはならない」と言われました(4)

 しかし、センターは、その後も具体的な事件の訴訟への参与をやめませんでした。

 センターの主任の郭建梅さんが香港の雑誌『亜洲週刊』に明らかにしたところでは、センターが廃止されたのは、「教育部[日本で言う文科省]が直接北京大学に通知を出したから」であり、その理由は「センターは国外の資金を受け取って、公益弁護士ネットワークを作っており、政治的な危険が比較的高い」というものでした。

 郭さんは、「政府は、第一に、民衆が立ち上がることを恐れており、第二に、国外の機構が介入してカラー革命(21世紀初めに独立国家共同体と中央アジアで起きた、平和的で非暴力的な方法でアメリカ寄りの政権を樹立したとされる一連の革命)をおこなうのを恐れており、第三に、デリケートな事件を取り上げられて、政府のイメージが悪くなるのを恐れている」、「当局が最も心配しているのは、公民社会が立ち上がって、集団を形成するか、力を合わせることだ」と述べています(5)

法律上の権利保護にたずさわるNGOに対する抑圧の強化

 中山大学公民社会研究センター主任の朱建剛さんは、政府は、国内のNGOに対して「開放もすれば、引き締めもする」という傾向があり、「地域コミュニティサービスや貧困救済の分野では開放するが、法律的な権利保護の領域では、引き締める傾向がある」と指摘しています。郭さんも「公益的な法律のNGOは、彼らが最も嫌がるNGOであり、このグループは、実際、地震(四川省大地震)の後から、ずっと縮小しつつある」と述べています。

 昨年7月には、NGOの「公盟法律研究センター」(強制移住の対象者や汚染粉ミルク事件の被害者のための法的支援をしてきた)が、「脱税」という名目で巨額の罰金を科せられるとともに、創設者の許志永さん(北京郵電大学法学部教授)が逮捕されるという事件も起こっています(6)

 中国でNGOを登録するには、「工商登記」をして企業として登録する方法もあります。「公盟法律研究センター」もそうでしたし、エイズ感染者やセクシュアル・マイノリティの人権保護ために活動している北京愛知行研究所も同様です。

 しかし、北京愛知行研究所の所長の万延海さんは、昨年12月、国家外貨管理局が出した通知(「国内の機構の外貨の寄贈の管理に関係する問題に関する通知(国家外汇管理局关于境内机构捐赠外汇管理有关问题的通知)」[汇发【2009】63号])は、中国国内の企業が国外の非営利組織から寄付を受けることを制約するものだと指摘しています。万さんと郭さんは、この通知は明確に、「工商登記」をして企業として登録しているNGOや民間組織に向けられていると言います。なぜなら、それらの組織の活動資金の9割は、国外からの寄付だからです(7)

 元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの人々は、現在、センターのすべての活動を、上記の千千弁護士事務所に移しました。郭さんによると、今後は、別の主管単位を見つけるか、企業として「工商登記」をするとのことです(8)。しかし、以上で述べたような状況から見ると、いずれの道にも困難が待ち受けていると考えられます。

「さよなら、北京大学」──元センターの声明

 郭さんは、「古い北京大学人として、私は、かつての北大を誇りに思ってきました。蔡元培先生が北大を創設し、当初の北大は、民主・法治・公平・正義を重んじてました。しかるに、現在は、孫東東(北京大学司法鑑定室主任。「何度も陳情を繰り返す者の99%は精神障害者だ」という発言をして、抗議を受けた(9))のような人にまだ教壇で大いに弁舌をふるわせ、弱者のために努力をするこれらの機構をみな抑圧しました。北京大学の精神はもうとっくに死んでしまいました」と述べました(10)

 4月2日、元北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは声明を出し、今までのセンターの活動の意義を振り返るとともに、「困難は、私たちの気を落させるのではなく、いっそう信念を固めさせる」と言って、「[北京大学に]廃止されるのは、けっして私たちが直面した最初の困難ではなく、無数の困難の後のもう一つの困難でしかない。センターは設立した当初、危うく夭折しかけた。その後も一連の困難と挑戦が次々にやって来た」と述べ、センターが直面してきた3つの困難(経費、人材、法律体系・法律の執行環境)を振り返りました。声明は、また、「廃止されるのは、私たちが直面した最大の困難でもない。私たちは生命さえ脅かされたことがある」と言って、辺鄙な農村で棍棒を手に持った村民に相対した経験を挙げ、「困難は、臆病者の責任逃れの口実でしかなく、固い信念を持った先駆者にとっては、困難はもう一つの原動力である」と述べました。

 声明は、最後に、「さよなら、北京大学! 公平と正義に対する永遠の追求、中国の法治に対する揺るがぬ信念とはお別れしない」と宣言し、「私たちは、法律援助と公益法律事業は民衆にとって必要であり、調和社会にとって必要であること、そのことは15年のセンターの実践が証明しており、貧しい当事者が送ってきたアワやサツマイモ、数百枚の[表彰の]ペナントが体現しており、センターが獲得した各種の賞が説明している」と、活動に対する信念を述べています(11)

(1)中心简介」北大法学院妇女法律研究与服务中心HP。このブログでも、何度もセンターの活動を取り上げてきました(「女性労働者の権益保護の理論と実践の書」、「本年の動向1―『定年の男女差別は違憲』と訴え」、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、家政婦の労働保護条例を提案」、「職場の性差別についての調査報告」、「北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターによる企業内のセクハラ防止制度構築の取り組み」)。
(2)このネットワークについても、本ブログで取り上げたことがあります(「女性権益公益弁護士ネットワークの挑戦」)。
(3)北大撤销附属法学院女权公益组织」美国之音(Voice of America)2010年4月8日。
(4)以上は、「北大撤销妇女法律中心等四研究机构」财新网2010年3月29日。
(5)以上は、張潔平「公益律師郭建梅NGO被打壓」『亞洲週刊』24卷14期 (2010年4月11日号) →転載「公益律師郭建梅NGO被打壓」北京拉拉沙龙2010年4月5日。
(6)同上。公盟法律研究センターと許志永さんの事件については、「中国 : 法学者の許志永を恣意的に拘禁」アムネスティ発表国際ニュース2009年7月30日、「中国警察当局が人権派弁護士を拘束」MSN産経ニュース2009年7月30日、「北京日記09夏4」ブログ「麻生晴一郎のページ」2009年7月31日、「北京日記09夏3」同8月21日参照。許志永や公盟法律研究センターについては、麻生晴一郎『反日、暴動、バブル――新聞・テレビが報じない中国』(光文社 2009年)の164-166頁あたりも言及している。
(7)(5)で簡潔に言及されているが、詳しくは、「境外资金断裂 草根NGO再临“粮荒”」『公益时报』2010年3月16日、万延海「给国家外汇管理局的建议」(愛知行動BLOG2010年3月16日)参照。
(8)北大法学院妇女法律研究与服务中心被撤 曾几次介入邓玉娇案‎ 」新浪网(四川新闻网-成都商报)2010年4月9日。
(9)「『陳情者は精神障害』、専門家の人権無視発言に抗議殺到―中国」レコードチャイナ2009年4月6日。
(10)(5)に同じ。北京大学の大学院生である方可成さんは、自分のブログで、センターの廃止に遺憾の意を表すとともに、北京大学110周年を記念した『北大影響力』という叢書の中に収録された『大愛有行』(中国出版集団世界図書出版公司、2008年5月)という本の中で、方さんがおこなった郭建梅さんのインタビュー記事を掲載しています(「关注郭建梅,关注妇女法律研究与服务中心」方可成的博客2010年3月27日)。
(11) 原北京大学法学院妇女法律研究与服务中心「郭建梅及其团队声明:别了,北大」北大法学院妇女法律研究与服务中心HP2010年4月2日。
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