2017-11

(日本)館長雇止め・バックラッシュ裁判、高裁で逆転勝訴

 三井マリ子さんは、2000年、大阪府豊中市の男女共同参画推進センター「すてっぷ」の初代館長(全国公募による、非常勤)として、独創的な企画を打ち出すなど全力で仕事を進め、その実績は市やセンターにも高く評価されました。しかし、そうした三井さんの仕事が目ざわりだったバックラッシュ勢力(男女平等の推進に反対する勢力)が市やセンターに圧力をかけ、その圧力に屈した豊中市などは、非常勤館長職廃止して館長を常勤化する「組織変更」を三井さんに知らせないままに進めて、三井さんを雇止めし、2004年、新館長への採用も拒否しました。

 三井さんは上のように訴えて、豊中市と「すてっぷ」を運営する「とよなか男女共同参画推進財団」を相手取って、損害賠償を求める裁判を起こしました。一審判決(2007年、大阪地裁)は原告敗訴でしたが、去る3月30日、大阪高裁で三井さん逆転勝訴の判決がありました。

 この裁判ついては、私はしばしばブログで取り上げただけでなく、書面・意見書の要旨や自らの感想を自分でまとめるなどした特集ページも作成していますので(「館長雇止め・バックラッシュ裁判(原告・三井マリ子さん)」)、そのページをご覧いただければ、これまでの詳しい経過がお分かりいただけると思います。

 今回の大阪高裁の判決は、ごく簡単に言えば、豊中市らがバックラッシュ勢力の圧力に屈したことを認め、三井さんの人格権を侵害したとして、損害賠償150万円を命じたものです。

 この判決については、すでに以下のものがネットに上がっています。
 ・判決文(PDF、ファイトパックの会HP)
 ・宮地光子弁護士の解説(1)(伊田広行さんのブログ)

 新聞社・通信社によるネット記事(2)
 「館長職の打ち切り、逆転勝訴 市側に150万円賠償命令」asahi.com(朝日新聞)2010年3月31日。
 「館長雇用拒否訴訟:雇い止め、人格権侵害 三井さん逆転勝利――大阪高裁」毎日jp(毎日新聞)2010年3月31日。
 「女性元館長雇い止めに賠償命令 大阪高裁、人格権の侵害と」共同通信2010年3月30日。
 「三井マリ子・元都議が逆転勝訴 豊中市館長職雇い止め訴訟」産経ニュース2010年3月30日。

 以下では、判決を最初から読む形で、ご紹介したいと思います。

<目次>
1.主文
2.バックラッシュ勢力の攻撃を詳細に事実認定(市や財団の対応の問題点を含めて)
3.雇止め・不採用自体の違法性は認めず
4.雇止めに至る経緯に違法性

 ・豊中市の人権文化部長は、「あってはならないところを一部勢力[=バックラッシュ勢力]の動きに屈しむしろ積極的に動いた」。
 ・豊中市の人権文化部長は「中立的である公務員の立場を超え、控訴人[=三井さん]に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き、控訴人の考え[=続投したい]とは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者になることを承諾させたのであるが、これらの動きは、三井を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの動きにおける者たちの行為は、現館長の地位にある控訴人の人格を侮辱したものというべきであって、控訴人の人格的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである」
 ・「[三井さんは]その実績から次年度も継続して雇用されるとの職務上の期待感を有していたものといえるのであり、雇用契約が年単位であるからといって、常勤館長職制度への移行期において、その移行内容及び次期館長の候補者リストについて、何らの説明、相談を受けなかったことについては、現館長の職にあるものとしての人格権を侵害するものであった」
5.宮地光子弁護士のまとめ、判決の意義
6.支援運動の問題点については、今後も解明や克服が必要
7.豊中市が上告、4月24日の東京での集会にご参加を


1.主文

 判決の「主文」は、以下のようになっています。

1 原判決を次のとおり変更する。
2 被控訴人ら[=豊中市、とよなか男女共同参画推進財団]は各自、控訴人[=三井さん]に対し、150万円及びこれに対する平成16年2月25日から支払済みまで年5分の割合による金銭を支払え
3 控訴人のその余の請求をいずれも棄却する。
4 控訴費用は、第1、2審を通じ、2分の1を控訴人の負担とし、その余を被控訴人らの連帯負担とする。
5 この判決の第2項は仮に執行することができる。

 主文の「2」の意味についてですが、後に述べるように、判決は、市と財団との「共同不法行為」を指摘していますので、この文の意味は、市と財団の「各自が150万円+αずつ」支払えということではなく、「連帯して150万円+α」支払えということです。

2.バックラッシュ勢力の攻撃を詳細に事実認定(市や財団の対応の問題点を含めて)

 次の「事実及び理由」では、「当裁判所の判断」が述べられています(以下では、読みやすいように、判決文の中の「控訴人」「被控訴人市」「被控訴人財団」という言葉を、それぞれ「三井」「豊中市」「財団」に書き換えています。また人名は基本的にイニシャルにしています)。

 「当裁判所の判断」の「1」では、裁判所が認定した「事実関係」について述べてありますが、その中で、「一部勢力[=バックラッシュ勢力]」の攻撃を詳細に認定しており、さらに、それに対する豊中市や財団の対応の問題点について指摘した箇所もあります。ぜひ原文の10-16ページをお読みください(裁判官は、一審判決の事実認定にさまざまな補正をしており、その箇所を斜体文字にしてくれています)。

 たとえば、以下のような記述があります。

 ・バックラッシュ派のМによる「ジェンダーフリーの危険性を学ぶ」という主旨の勉強会のための「すてっぷ」の貸室使用を豊中市が認めたことについて、判決は、「市長は、Мの活動が『すてっぷ』に対する嫌がらせを目的とすることを知悉しながら、さらなる同人の不当な攻撃を回避するため(……)貸室使用を認めたのであり、これは『すてっぷ』の貸室としては、とよなか男女共同参画推進センター条例に規定の一般使用としても許されない」(p.10)と指摘しています。当時、似たような事例が他にもあったので、三井さんは「『すてっぷ』の会議で、貸室使用の判断基準について『すてっぷ』の設立趣旨に立ち返ってほしいと要望したが、豊中市からの反応はなかった」(p.11)ことも判決は認めています。

 ・判決はまた、「K議員[バックラッシュ派の議員]が市議会において『「すてっぷ」や学校図書館の蔵書からジェンダーフリーの本を廃棄せよ』と迫った」こと、K議員は「『日本会議』傘下の団体が大阪市内で開催した集会において、『すてっぷ』がジェンダーフリーの拠点となっていると述べた(ここでは、ジェンダーフリーの用語を、フリーセックスを奨励し、性差をすペてなくして家族を崩壊させ、社会を混乱に陥れるおそれのある思想と曲解して用いている)」ことも認定しています(p.11)。

 ・判決はまた、「すてっぷ」の事務局長が作成した「豊中市とすてっぷへのバックラッシュ(ある勢力の攻撃の件)」という文書を財団の役員らにファックスで流したことに対して、バックラッシュ派のK議員が、三井さんや財団事務局長を「人気の少ない豊中市庁舎において、午後7時から10時まで(……)時折、大声で口を挟み、机を叩くなどして糾弾」したこと、この「ファックス事件」に対する豊中市の対応は、「事案の本質から離れて一部勢力に迎合しようとするもの」だったことを指摘しています(p.13-14)。

 ・豊中市男女共同参画推進条例の制定に対するバックラッシュ勢力の攻撃も、詳しく認定されています。たとえば、
 ―バックラッシュ派のある団体が「条例に反対する署名活動に協力するよう呼びかけるとともに、その主催する講演会に市民を誘うビラを配布したが、その内容は男女共同参画の推進政策を中傷し,故意に誤解を与えるものであった」こと、
 ―「匿名の嫌がらせ電話や、『匠海舟』や『サワダ』を名乗る者が、「すてっぷ」の職員に対し、嫌がらせの電話をかけたり、来館したりした。」
 ―「K議員の所属する市議会会派『新生とよなか』の機関紙に、男女共同参画推進条例を危険視する意見が登載された」
といったことが書かれています(p.12)。
 条例は、当初予定していた2003年3月議会には上程できなかったのですが、その点に関しても、「豊中市と市民との条例制定をめぐる懇談会では、豊中市側の発言として、上程断念はバックラッシュ勢力の力が大きかったと述べられ」た(p.16)と書かれています。

 判決は、そのほか、「控訴人[三井]への対応」(p.20-22)や「後任候補者の絞り込み」(p.22-23)、「職員体制の整備その2(計画の決定)」(p.24-27)を記述している箇所でも、控訴人側が強調してきた事実を多数書き加え、認定しています。

3.雇止め・不採用自体の違法性は認めず

 しかし、判決は、「雇止め及び不採用の違法の有無」に関しては、「本件雇止め又は本件不採用については、雇用契約上の債務不履行又は不法行為に該当するものということはできない」と述べています(p.27-31)。

 その理由として、判決は、「実質的に豊中市の行政の一部を担う部署に相当する財団のにおける『すてっぷ』の館長職の雇用関係は(……)特別職の非常勤の公務員の地位に準ずるものと扱われるべきであり、三井と財団との雇用関係は、民事上の雇用関係の法理が適用されるよりも、豊中市の特別職の職員(地方公務員法3条3項3号参照)の任免についての法理が準用されると解するのが相当である」、だから契約更新についても「解雇の法理は適用されない」ので、「雇止めについては原則として雇用者の自由」であると言っています。

 判決は、また、組織変更後の新館長への雇用についても、上記の理由のほか、非常勤館長とは同一の職務でないことや、「新館長の雇用は(……)政策的又は政治的裁量のもとに行われるべきことから、その選任は選任権者の自由な裁量による」から、三井さんが新館長に就任する期待を持っていたとしても、「法的な権利を認めることはできない」と述べています。

 判決で述べている、地方公務員法3条3項3号には、「臨時又は非常勤の顧問、参与、調査員、嘱託員及びこれらの者に準ずる者の職」とあるのですが、三井さんが「公務員」であるとは被告側も主張していなかったと思います。

 また、たとえ特別職の非常勤公務員であっても、こうした扱いで済ませていいものではけっしてありません。非常勤公務員の雇止めについては、地公法3条3項3号で採用された職員を含めて、「法の谷間」の問題として、それ自体が大変な問題だと言われ続けています(3)。三井さんの場合には若干の特殊性はあるのかもしれませんが、恒常的業務であることは間違なく、継続性も必要ですから(実際、「すてっぷ」でもその後常勤にしている)、判決のような判断は疑問です。くわえて、今回の「政策的又は政治的裁量」自体に問題があると思うのですが……。

4.雇止めに至る経緯に違法性

 しかし、判決は「雇止め及び不採用に至る経緯の違法性」の箇所では、以下のように述べています。

 判決は、財団の館長職を非常勤から常勤にした組織変更自体については、「もともと三井を排除する目的のもとに、その検討が行われていたとは必ずしも言えないし、そのような組織変更について、当時から必要性、合理性、緊急性があったことは否定しきれない」と、ひとまず、市や財団側の事情に理解を示します。

 けれども、続けて判決は、次のように述べています。長くなりますが、重要な個所なので、原文をそのまま引用させていただきます(p.33-38)。

 「しかし、前認定の事実及び弁論の全趣旨によると、遅くとも平成14年3月ころから、豊中市や市議会の内外で、三井や市・財団に対する、三井の行動に反対の勢力による組織的な攻撃が行われており、その方法は、直接に反抗することのできない市・財団らの職員に畏怖感を与えるような行動に出たり、嫌がらせを行ったり、虚偽に満ちた情報を流布して市民を不安に陥れたりするなど、陰湿かつ執拗であったところ、次に説示する各事情を踏まえると、市議会において与党会派に属し、市長や市議会に対しても横暴な行動をもって一定の影響力を有するK議員を中心にした活動があったことや、平成15年3月に予定されていた本件推進条例が上程そのものを阻止されて成立をみなかったことから、豊中市やH[人権文化]部長においては、同年9月の次期市議会では、市・財団の面目をかけてその制定を図らなければならないとの思惑により、上記勢力をなだめる必要に迫られていたことはある程度推測されるところである。結局のところ、財団における男女共同参画推進の象徴的存在であり、その政策の遂行に顕著な成果を挙げていた三井を財団から排除するのと引き換えに条例の議決を容認するとの合意を、K議員らの勢力と交わすに至っていたものとの疑いは完全に消し去ることはできない。少なくとも、H部長らが桂[後任館長]と接触して候補者の内諾を得たのは、あってはならないところを一部勢力の動きに屈しむしろ積極的に動いた具体的行動であったということができる

 すなわち、本件においては、K議員が、「すてっぷ」に対する攻撃を続けながらも、同年9月の市議会において、条例制定に反対する討論を延々と行ったにもかかわらず、議決にあたって一転して賛成に回り、同条例案が議決されるに至ったという不自然な流れとともに(なお、その後もK議員は三井ほかに対し示威的行動に及んでいることは、前認定のとおりである)、[豊中市の]H部長や[財団の]Y事務局長らは、本件推進条例が議決されるや、中断していた財団の組織変更の検討を急ぎ再開し、同年10月中旬までに、「すてっぷ」の非常勤館長を廃し、プロパーによる常勤館長を置く(すなわち、三井を現館長につき雇止めにし、新館長にも採用しないで、三井を財団から排除する)という組織変更を行う意思を固め[→遠山註:ここでは、組織変更を急いだことが三井排除の文脈に位置づけられています]、また、この間、Y事務局長が単なる世間話の中で、三井から「常勤による館長への就任は無理である」との片言を引き出したのに乗じ、H部長において、人権文化部の資料を利用し、三井を外した新館長の候補者リストを作成し、同月20日に組織変更及び候補者リストからの新館長の選任、及びこれに伴う予算措置について市長の内諾を得て、平成15年2月1日に、財団の臨時理事会を開催させて同案を確定させたとの事実関係の流れがあることは明らかである。

 そうして、[豊中市の]H部長(……)及び[財団の]Y事務局長は、遅くとも平成15年11月11日から、新館長の候補者に対する打診を開始し、3人目又は4人目の候補者であった桂に対し、同人が三井において新館長に就任する意思があるときは自らはその就任を固辞する意思を有していることを了知しながら、三井にそのような意思はないと告げて、同年中に桂の就任の内諾をさせた上、上記理事会の開催までの間に、桂を事実上、新館長に就任させようと企図したものの、三井を館長として、留任させようとする市民の動きがみられ、同時に上記勢力の動きを感じ取っていた三井が新館長への就任の意思を表明するに至ったため、選考試験を実施することになった。しかし、豊中市においては、三井が新館長に選考されれば、一部勢力の勢いが止められないこととなって、さらなる攻撃を受けることが必定となるばかりか、他方の候補者である桂については、寝屋川市男女共同参画推進センターの事務局長を務めていたところを、H部長らの強い要請により、同市の了解のもとに、同職を辞任させて新館長に応諾させた経緯からして、同人を新館長にしないことには、同人や同市に対する背信行為となり、いずれにせよ、H部長のみならず、市・財団の市長も政治責任を問われかねないことを懸念し、桂の新館長就任に向けて動いたものであることも、前認定の事実から窺うことができる。

 このような動きの中での三井の立場をみると、当時一部勢力による三井への攻撃活動が繰り返されていた中で、自分が館長として継続して就任していられるかどうかは、重大な関心事であったのは当然であり、上記攻撃活動が市・財団ら関係者に対してなされている中ではなおさら、市・財団ら関係者から、館長職の在り方や候補者いかんについてその都度説明を受けてしかるべき立場にあったというべきである。職域内のローテーションで配置された職員や従業員と異なり、特定の職につくものとして応募採用され、就任後は、専門的知見や経験、知名度そして内外の人脈を生かして幅広く質の高い初代の館長職をこなしてきた三井として、「すてっぷ」の組織の在り方、次期館長候補者(自己を含む)について、情報を得て、協議に積極的に加わり自らの意見を伝えることは、現館長職にある立場にあってみれば当然に与えるべきであるか取るべき態様ないし行動であって、これをないがしろにし、さらには三井の意向を曲解して行動する市・財団らの担当者の動きがあった場合には、三井の人格権を侵害するものといわなければならない。

 本件雇止め及び本件不採用について、雇用契約における債務不履行又は不法行為があったということはできないものの、上記のように、財団の事務局長及び豊中市の人権文化部長が、事務職にある立場あるいは中立的であるべき公務員の立場を超え、三井に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き、三井の考え[=続投したい]とは異なる事実を新館長候補者[桂]に伝えて候補者になることを承諾させたのであるが、これらの動きは、三井を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの動きにおける者たちの行為は、現館長の地位にある三井の人格を侮辱したものというべきであって、三井の人格的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである。

 (中略)現に「すてっぷ」が順調に稼働している中で、財団の目的推進に励み陣頭指揮をし館長職にあった三井に対して体制変更についての意見聴取がなかったのは、最終的には豊中市が決定すべき方針であるとはいえ、現館長の控訴人にとって尊厳を傷つけられたとして不愉快に感じるのは当然であり、三井が体制変更を進めるうえで排除されたものと考えたことは当然である。

 (中略)

 もちろん、本件雇用契約は年単位のものであるから、三井としては雇止めのリスクを覚悟すべきであったが、反面においてその実績から次年度も継続して雇用されるとの職務上の期待感を有していたものといえるのであり、雇用契約が年単位であるからといって、常勤館長職制度への移行期において、その移行内容及び次期館長の候補者リストについて、何らの説明、相談を受けなかったことについては、現館長の職にある者としての人格権を侵害するものであったというべきである。」

 かくして、判決は「4 共同不法行為及び損害額」(p.38-39)で次のように述べています。

 「上記三井の人格権侵害は、少なくとも豊中市のH部長と、財団のY事務局長の共同行為によるものということができ、市・財団らは連帯してこれによって三井が被った損害の賠償義務がある」。

 また、判決は、三井さんが不合格にされた常勤館長の選考過程に関しても、判決は、「豊中市の担当者[H部長]の(……)[三井排除の]動きが影響を及ぼさなかったと断言することはできないし、そもそもH部長自身が選考委員に就任したこと自体、公正さを疑わしめるものがある」と述べています。

 けれど、判決は、ある選考委員が桂さんの方が新館長に適任だったことを述べる陳述書を作成していることや、理事長が三井さんも選考の対象にしたこと、選考委員として5名が選任されていること、その1人に豊中市の人権文化部長になったのも「市の財団への支援・助言・連携の関係上必要であったとの豊中市・財団らの主張自体には不合理な点はない」ことを理由に、「選考委員による選考及びその結果は(……)H部長などの[三井排除の]動きを、結果的に浄化したものと評価するのはやむを得ない」と述べています。

 原告(控訴人)側は、H部長以外の4人についても論じていましたので(4)、私は、そうした主張については裁判官はどう考えているのかな? と思いました。まあ、たしかに選考の具体的過程まではわからない以上、裁判官としては判断するのが難しいのかもしれません。

5.宮地光子弁護士のまとめ、判決の意義

 宮地光子弁護士はこの判決の意義と問題点を以下のようにまとめておられますが(上記の宮地光子弁護士の解説)、その指摘どおりであることがご確認いただけると思います。

 <意義>
1.行政が一部勢力の不当な圧力に屈したことを認定したこと
2.「すてっぷ」の組織変更を急いだのは三井さんを排除するためであることを認定したこと
3.三井さんに対する人格権の侵害と、豊中市のH部長と財団のY事務局長の共同不法行為を認定したこと

 <問題点>
1.雇止め自体の違法性は認めなかったこと
2.採用拒否自体の違法性を認めなかったこと

 この判決は、バックラッシュ勢力の攻撃に弱腰な行政に対する警鐘となるものです。また、同じような攻撃に苦しんでいる職員の方々、多くの女性の方々を励ますものでもあると思います。こうした意義が非常に大きいことは明らかでしょう。

 また、私は、今回の判決は、働く者に対する以下のようなやり方に対しても、「人格権を侵害する」(人間として尊重しない)ものとして警告を発していると思います。
 ・外部からの圧力による人事。
 ・仕事を担ってきた本人との相談抜きに、ウラで仕事や地位について変更を進めるやり方。本人に対する説明義務をなおざりにしたやり方。
 ・本人について、事実と異なる説明を他の人におこなって、物事を進めるやり方。

 また、たとえ「特別職非常勤公務員」であっても(三井さんは本当はそうではないのですが)、人格権を侵害するような雇止めのやり方は許されないことを示した判決でもあります。

 もちろん今回の判決は三井さんの状況に即して書かれていますから、今回の事件の特殊性(三井さんが実績をあげた館長だったこと、バックラッシュの政治的圧力)がプラス・マイナスの両方の面で影響しています。けれど、「人格権」という考え方自体は、一般の労働者に広く適用されてきたものです(5)。また、三井さんと同じように、実績をあげた方や専門的経験・知見を持った方、ある部門の責任者の方が似たような目に遭う場合もあるのではないでしょうか(6)

 もちろん上のような問題をきちんと論じようとすれば、今回の判決の論理構造や「人格権」を扱った他の判例をさらに調べる必要があるでしょうし、労働法についても勉強する必要があります。私は今後、そうした努力をしたいと思います。

6.支援運動の問題点については、今後も解明や克服が必要

 なお、今回の勝利判決によって、この裁判を支援する会である「ファイトパックの会」の一部の方々(とくに世話人会のかなりの方々)の問題点、すなわち――
 ・ファイトパックの会のブログなどで、証人であった桂後任館長(その後辞職)に対して、根拠薄弱な憶測にもとづいて、事実と異なる誹謗中傷をおこなったこと(7)(他の人に対しても、誹謗中傷と言いうる記述があった)。
 ・桂さんへの謝罪に向けて動いた世話人らを排除したメンバーで、ウラで秘密裏に「ニュー世話人会ML」を作ったこと、そのMLで彼女たちに世話人をやめさせるための相談もおこなったこと
 ・桂さんへの謝罪は一応おこなったものの、その後、かなり骨抜きのものにしたこと
 ・以上のような問題に関して、事実と異なる宣伝をしてきたこと
 などが忘れ去られるようなことがあってはならないと思います(詳しくは、「ファイトバックの会 謝罪問題まとめ@wiki」参照)。

 今回の判決には、桂さんに対する誹謗中傷を正当化するような箇所はまったく含まれていません(というか、そもそも原告側の準備書面にも、そうした個所は含まれていなかった)。もちろん、上のような運動のやり方を正当化する個所もありません。

 むしろ、今回の判決は、「人格権」を軽視するやり方を断罪しています。「名誉」も人格権の一部ですし、今回の判決は、ファイトパックの会の一部の人々のように、当人との相談や説明抜きで、ウラで画策して不当に人々を排除したり、その人々についての「異なる事実」を流したりするやり方を批判しているのです。

 支援運動のこうした問題点については、今後、さらなる解明や克服が必要だと思います(実は、私自身も、ある証人[桂さんではない人です]に対して、ファイトパックのブログで、人格的次元の攻撃や一面的な事実認識にもとづく非難をしたことがあり、その点を反省しています)。

 もちろん現世話人の方々は、裁判支援のために大きな役割を果たしておられます。また、おめでたい勝利判決のときに上のような点を書くことには躊躇もありました。

 しかし、私は、上のような出来事による傷に今も苦しんでおられる人々や、失望して会を離れた人々のことを交流会の場でも思い出さずにはいられませんでした。私は、会の問題点をきちんと述べることも会員として大切なことだと思いますから、書かせていただきました。

7.豊中市が上告、4月24日の東京での集会にご参加を

 それはともかく、4月1日、豊中市は最高裁に上告しましたので、今後もこの裁判を勝利させるための闘いは続きます。

 そこで、東京で「館長雇止め・バックラッシュ裁判を勝ち抜く集会」を開催します。

日時 2010年4月24日(土)午後2時~5時
場所 文京区男女平等センター研修室A
 (東京都文京区H4-8-3 H真砂アーバンハイツ1F
 TEL03-3814-6159 地下鉄大江戸線または丸ノ内線 H3丁目徒歩5分)
講師 浅倉むつ子(この裁判で人格権についての「意見書」を作成した人→浅倉意見書は販売中です。私も要約感想を書いています)。
   紀藤正樹(弁護士、三井マリ子代理人)
   三井マリ子
(詳しくは、チラシ参照)

 ぜひ多くの方のご参加をお願いします。

(1)ただし、この文は、宮地弁護士が判決当日に短時間で書かれた文ですので、その後少し修正されています。
(2)私が住んでいる滋賀県に実際に配達された新聞各紙を見ると、『朝日』と『毎日』は、この判決をかなり大きく扱っていました。とくに『朝日』は、「豊中市、批判的勢力に屈服 『元館長の人格権侵害』」という見出しで、第2社会面トップに掲載していました。しかし、『産経』と『日経』は、見出しが一段しかない短い記事しか掲載しておらず、その内容も、裁判所が「豊中市(の部長)が一部勢力に屈した」と判断したことも書かれていないようなものでした。
 また、新聞報道の中には、若干不正確な記述が含まれているものもありました。
[朝日新聞]
 『朝日新聞』およびasahi.comの記事には、「[判決は]『三井さんは生活に重要な意味を持つ雇用継続の情報から一切排除された』として賠償を認めた」という箇所があります。
 しかし、判決において同様の記述がされている箇所(p.3)は、控訴人側の主張を述べた箇所であって、裁判官の判断を示した個所ではありません。ただし、裁判所自身の判断としても、かなり似た意味のことは書かれていますので、この点はそれほどは問題でないかもしれません。
[産経ニュース](ウェブ版)
 産経ニュースの記事には、「[判決は]市幹部らが三井さんの考えと異なる後任者を就任させようとした点を、『一部勢力に屈した行動。中立であるべき公務員の立場を超えた動きで、三井さんを館長職に就かせない明確な意図があり、人格を侮辱した』と指摘した」という箇所があります。
 しかし、判決には、下線部のような記述はありません。
 判決の原文は以下のとおりです。
 「財団の事務局長及び……被控訴人市の人権文化部長が、事務職にある立場あるいは中立的であるべき公務員の立場を超え、控訴人に説明のないままに常勤館長職体制への移行に向けて動き、控訴人の考えとは異なる事実を新館長候補者に伝えて候補者になることを承諾させたのであるが、これらの動きは、控訴人を次期館長職には就かせないとの明確な意図をもってのものであったとしか評価せざるを得ないことにも鑑みると、これらの動きにおける者たちの行為は、現館長の地位にある控訴人の人格を侮辱したものというべきであって、控訴人の人格的利益を侵害するものとして、不法行為を構成するものというべきである」(p.36、下線は遠山による)
 判決が言っているのは、「『続投したい』という三井さんの考えと異なる事実である、『三井さんは辞めることを了解している』ということを新館長候補者である桂さんに伝えて、候補者になることを承諾させた」ということです。
 三井さんは、自ら続投なさりたかったのであって、「後任者」について考えたりはしていません。
 また、判決に書いてある桂さんの「考え」とは、以下のように、三井さんの意思を尊重するという「考え」だけです。
 ・「『控訴人が残りたいのなら行く気はない』旨を述べる桂」(p.25)
 ・[[桂は]控訴人において新館長に就任する意思があるときは自らはその就任を固辞する意思を有している」(p.35)
 だからこそ、判決は、「財団の事務局長や豊中市の人権文化部長は、桂さんに、三井さんの考えとは『異なる事実』を伝えた(ウソを言った)」と指摘したわけです。
(3)私もこの問題は不勉強ですが、いま手元にある本では、伊田広行『21世紀労働論』(青木書店 1998年)106-111頁の「公務員パートの問題」参照。
(4)たとえば、一審「原告最終準備書面」の第6「原告排除の意図に支配された組織体制の変更と不公正な選考過程」の(2)「原告排除の意図に支配された不公正な選考過程」、控訴審「控訴人第4準備書面」の第7「本件採用拒否の違法性」の4「選考手続きにおける手続違反について」の(1)「選考委員の選任」のイ、ウ。
(5)公務員の有期雇用についても、山梨県昭和町の雇止め事件の東京高裁判決は、お2人の嘱託職員の雇止めについて、「人格的利益」(この事件の場合は、他の嘱託職員との差別的取扱いを受けないこと)の観点から損害賠償を認めています(遠山日出也「館長雇止め・バックラッシュ裁判」で宮地弁護士が講演(上)」JANJAN2007/12/18参照)。
(6)たとえば、詳しい事情はわかりませんが、遠藤礼子さんによると、フェミニズムサイトである「ウィメンズ・アクション・ネットワーク(WAN)」の理事会は、ウェブマスターの遠藤さんに対して、突然一方的にシステムの外注化を決定して仕事を取り上げた(「決定済み」の事項として知らせた)そうです(WANはウェブマスター業務の外注化を撤回せよ!WAN争議の論点整理(1))。
 遠藤さんはウェブマスターとして、サイト立ち上げに大きな役割を果たされ、その後も専門的な知見や経験を生かして働いておられた(それゆえ賃金も比較的高かった)のですから、WANの理事会は、遠藤さんに対して、システムの変更について「説明、相談」を尽くす必要があったと言えないでしょうか。
 もちろんこの問題に関しては、労働法上の問題として考えることもできるのでしょうが(遠藤さんは公務員でないのはもちろん、有期雇用でもない)、私は、遠藤さんの訴えを読むと、遠藤さんは人格的に尊重されていないような感じがいたします(遠藤さんの「信頼関係」という文なども参照)。また、私には、遠藤さんは、理事の人々は、遠藤さんが上司にはっきりとモノを言う人だから排除した、つまり、そもそも不当な排除ではないかという疑惑も抱いておられるように思えるのですが(昨日の団交1・20団交の報告)、そんな点も三井さんの事件を想起させるのであり、たとえ不当な排除ではなかったとしても、説明や相談をなおざりにすると、必ずそうした疑惑を生じさせると思います。
 同じくWANで働いておられるカサイさんに関しても、ご本人の仕事の状況についてまったく話し合いがなされないままに、理事会は、文書で法人会員全員にカサイさんの仕事をめぐる状況を発表し、ご本人がその記述に「驚く」という事態が生じています(カサイの気持ち)。カサイさんは「賃金を支払う『雇用』を継続するのが困難であるというのなら、困難の懸念が出た時点で、十分に議論、協議を重ねてほしかった。その懸念が即座に退職勧奨につながる拙速さを残念に思います」と述べておられます。
 私は、WAN争議についてまだ十分事態を把握しきれていませんし(この問題に関しては、理事会の側からも事情説明文書が出ています。遠藤さんによると、この文書に書いてあることは、事実とは異なる部分が多いということですが……)、私は労働問題や法律にも詳しくありませんので、的外れなことを書いているかもしれませんが、今後、こうした問題も考えていきたいと思います。
(7)「根拠薄弱な憶測にもとづいて、事実と異なる誹謗中傷をおこなう」ことは、どのような人、どのような立場の人に対してもおこなってはなりませんが、ここで、桂さんについて一言付け加えさせていただきます。
 桂さんは、この裁判については、原告(控訴人)側とは意見が異なっている部分がありますけれども、裁判の前に桂さんが三井さんに協力して話されたことは、三井さんが訴状や陳述書を作成なさる上で重要な役割を果たしました。また、裁判の証言でも、桂さんは、現職館長でありながら、重要な点において、豊中市や財団に不利な事実も少なからず証言されました。これらは、今回の判決でも大きく生かされています。
 桂さんは、「すてっぷ」では、真摯に仕事に取り組もうとなさったがゆえに、非常な苦労をなさったそうで、その後、「男女共同参画センターの非常勤職員問題」(WAN)、「フェミニズムと男女共同参画の間には、暗くて深い河がある」(『女性学年報』第30号)といった文を書かれるなど、フェミニズムの立場、非常勤の立場から、男女共同参画行政(センター)の問題点について鋭い批判をしておられます。
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