2017-04

国際女性デーの胡錦濤総書記の講話と女性たちの声

 今年の3月8日は、国際女性デー100周年でした。国際女性デーは、ご存じのように、1904年3月8日、ニューヨークで女性労働者が女性参政権を要求してデモをし、1910年に、ドイツのクララ・ツェトキンが、その日を「女性の政治的自由と平等」のための日とするよう提唱したことから始まりました(International Women's Day)。中国では、「三八」([国際労働]婦女)節といいます。

国際女性デー100周年記念大会での胡錦濤総書記の講話

 100周年の前日の3月7日、北京の人民大会堂で、「三八」国際労働女性デー記念100周年大会がおこなわれました(1)

 大会では、胡錦濤・中国国家主席・中国共産党総書記が講話をしました(2)

 胡総書記はこの100年間を振り返り、この100年間は、中国の女性運動には以下の4つの点が必要であることを示したと述べました。
 1.「広範な女性の主体的な地位を堅持すること」
 2.「国家・民族と呼吸を同じくし、運命を共にし続けること」
 3.「中国の特色を持つ社会主義の道を歩み続けること」
 4.「中国共産党の指導を堅持すること」

 1で抽象的に女性の主体性に言及したほかは、胡総書記は、女性運動と国家や党との一体性を強調したと言えましょう。

 また、胡総書記は、「広範な女性」に対して、以下の4つのことを求めました。
 1.「心に祖国を思い、志を高遠にし、中国の特色を持った社会主義の理想の信念を固めること」
 2.「重い任務を勇敢に担い、発奮して為すところがあり、まずまずのゆとりがある生活ができる社会[小康社会]を全面的に建設して、社会主義的近代化[現代化]の推進を加速するために『天の半分』の働きを発揮すること」
 3.「文明を伝承し、新しい気風を発揚し、社会の調和を促進するために独特の役割を果たすこと」
 4.「勤勉に学び、骨身を惜しまず知識を求め、自尊・自信・自立・自強の現代的女性になること」

 ごく簡単に言えば、1は、ナショナリズムと社会主義思想、2は、近代化への貢献、3は、女性役割、4は、自己学習・自己努力を求めたものだと言えると思います。

 3と4はやや抽象的な言い方なので、その具体的な内容を見てみると、3では、女性たちに対して、たとえば、「家族は社会の細胞であり、家族の調和は、社会の調和の礎である。男女平等・尊老愛幼・互愛互助・義を見て勇敢であるという社会の気風を積極的に実践し、勤倹を旨として家事を切り盛りし、夫婦仲むつまじく、隣近所と団結する模範になるよう頑張り、家庭教育、とくに未成年者の教育において重要な役割を発揮し(……)なければならない」と言っています。4では、「女性の資質[素質]の状況は、女性自身の発展進歩を決定するだけでなく、国民の資質の向上にも直接影響する。学習してこそ進歩があり、学習してこそ新しい考えが出せ、学習してこそ成果がある」と言っています。

 ただし、胡総書記は、党や政府に対しても、以下の点を求めました。
 「各クラスの党委員会と政府は、広範な女性の役割と新しい形勢の下で女性工作をしっかりやることの重大な意義を十分に認識し、男女平等を貫徹する基本的国策を貫き、女性の事業を発展させ、女性の権益を保護し、女性の苦しみに関心を寄せ、女性が仕事と生活の中でぶつかる特殊な困難の解決を熱意を込めて援助し(……)女性差別の現象を断固として除去し、女性の権益を侵害する行為を法によって取り締まなければ(……)ならない。」

 とはいっても、党や政府に対する要求は、一つの段落で述べられたにとどまっています。

 胡総書記のこの講話は、とくに目新しいことは述べていないと思うのですが、総書記の講話だからでしょうか、全国婦連は、この講話を学ぶように、全国各地の婦連に通知を出しました(3)

ジェンダー平等のための「要」と「不要」を出し合う――ある民間の女性たち

 一方、民間では、ごくささやかな活動ですが、女性メディアウオッチネットワーク(妇女传媒监测网络)が刊行しているメールニュース『女声(女声)』が、「三八」節にあたって、さまざまな女性に、ジェンダー平等のために「しなければならない(要)」ことと「してはならない(不要)」ことを出してもらうという活動をしました(4)。4日間に200余りの事項が集まったので、それらを整理して、127の事項にまとめたそうです。

 まず、私たちが「しなければならない」としては、38の事項が集まりました。たとえば、最初に挙げられているのは、以下のことです。

 1「『三八』という日に、やりたいけれども普段はジェンダーの規範に囚われてできなかったこと、たとえば一人で旅行する、一人で物事を決定する――をしなければならない」

 この「1」はそうでもないですが、「しなければならない」こととして挙げられているのは、わりあい一般的抽象的な事項が多くて面白くないのですが、その中では、男性に家事をさせる、男性に女性の声に耳を傾けさせるなど、男性に働きかける事項が10項目程度あったのが目立っています。

 次に、「してはならない」ことは、61もの事項が挙げられました。このことは、女性が「ノー」を言いたい事項が多いことを示しているのだと思います。たとえば、以下のようなことが挙げられています。

 25「女性がセクハラにあったことを、彼女たち自身の『慎みのなさ』のためだと考えてはならない」

 28「離婚した女性を差別視してはならない、とくに農村では」

 30「各種の理由によって、女性に出産または出産しないことを強制してはならない」

 36「賛美であっても揶揄であっても、『美女』という2文字を、ある女性の職業の前に冠してはならない」

 49「少数民族の女性を、永遠に『歌や踊りがうまい』というイメージだけで主流社会の前に出現させてはならない」

 53「母の愛と『お母さん』という言葉を、当局がインターネットを封殺する道具として利用してはならない」

 56「『中国の女性の地位は高くなった』と言ってはならない。それは事実ではない」

 60「『三八』という1日だけ、女性を『重視』してはならない」

 世界共通の事項も、比較的中国特有の事項もあります。53の点は、当局がインターネットの「低俗な」サイトを取り締まる際、母親の「子どものため」という気持ちを利用し、ときには母親を動員しているという問題です。たとえば、2009年、広東省婦連は「インターネットを浄化し、子どもを守る――1万人の母親のインターネット護衛行動」を組織し(5)、今年、北京インターネットメディア協会は「お母さん審査団」を組織して(6)、インターネットの「低俗」サイトを摘発する運動をすすめています。

 さらに、以下の項目は、胡総書記の講話の中の「女性の資質[素質]の状況は、女性自身の発展進歩を決定するだけでなく、国民の資質の向上にも直接影響する」、「[女性は]家庭教育、とくに未成年者の教育において重要な働きを発揮しなければならない」という発言に対する批判にもなっているように思います。

 15「ジェンダーの不公正を女性の資質[素質]の低さのせいにしてはならない」

 23「青少年の成長における問題を、母親の資質の低さや母親の無責任さのせいだけにしてはならない」

 『女声』は、最後に、「私たちは何をしなければならない&してはならないのか?」という言い方で、28の事項を挙げています。たとえば、以下のようなものです。

 7「公共の場所のトイレの女と男の比率は3:1にしなければならず、女性トイレの前に長蛇の列を作らせてはならない」

 10「男性は、家事労働を自分の価値の体現の一つとだと思わなければならず、女性は、家庭だけが最終的な落ち着き場所だと思ってはならない」

 20「身の回りの人に新しいものごとを試してみるように励まさなければならないが、『処女地』『処女作』のような言葉を使ってはならない」

 22「自分と他人の年齢と外観を積極的に認めなければならず、ややもすれば『年を取った』『太った』『きれいじゃなくなった』『白髪になった』と言ってはならない」

 24「政府は、各階層、とくに低い階層と周縁の女性の生存の状況とニーズに関心を持つべきであり、『三八』節を政界・商業界・文芸界などの、権力と金を持った、有名な『成功した女性』だけの祝日にしてはならない」

 25「『三八』の本来の意味に立ち返らなければならず、この日、女性を、与えられ、思いやられる、主体性のない受取人・弱者にしてはならない」

 28「党と政府の機関と婦連は、まず学習を強め、自らの資質を向上させ、女性の権益を保障して女性の発展を促進するためにどのような承諾をし、どのような努力をし、どのような実質的な進展があったのかを検査しなければならない。自らを当然の真理の占有者と見なして、お高くとまって命令を出して、女性に学習を強めさせ、資質を向上させるだけではいけない。」

 28は、胡総書記が女性に対して、「資質の向上」とともに、「学習してこそ進歩があり、学習してこそ新しい考えが出せ、学習してこそ成果がある」と述べたことに対する強烈な皮肉になっています。

国際女性デーのあり方に対する批判

 上の24や25は、「三八」国際女性デーのあり方に対する批判ですが、『南都週刊』という週刊紙でも、国際女性デーの3日前に、長平さんという方が以下のように述べています(7)

 「『三八』女性デーを始めた女性の抗争の精神は、あるとき突然ストップして、年に一度の記念日になり、お祝いだけが残った。そのお祝いも、もともとの意味――権利のための抗争ではなく、優越した社会的制度の下での女性の成就のお祝いになった。」

 「現実の生活においては、この祝日は、社会に抗議する質を完全に失って、女性に対する男性社会のちょっとした恩恵になり、同時に、中国の他の祝日と同じように、彼女たちに対して、恩恵に感謝することも要求している。」

 「メディアの報道によると、北京市はすでに一連の『三八』女性デー百周年の記念活動を手配したという。その中の一つの主な記念大会のテーマは、『百年如歌、芳耀京華[京華:みやこ]』であり、『首都の各民族・各界の女性が一堂に楽しく集い、ともに、祝日を熱烈に、晴れ晴れと、和やかな雰囲気で祝う』ことを求めている(8)。(……)このような雰囲気の中で、もしある人が、百年前のアメリカの女性と同じように、自らの権益のために通りに出て抗議することは、おそらく難しいだろう。」

 Wikipedia「国際女性デー」にも、旧ソ連諸国の似たような状況が述べられています。秋山洋子『女たちのモスクワ』(勁草書房 1983年)の221-224頁には、かつてのソ連の国際婦人デーの様子が書かれてますが、秋山さんは、「結局この国の国際婦人デーは、女性解放の記念日などと肩ひじ張ったものではなく、日本で言えば三月三日の桃の節句と、母の日をあわせたものらしい」、「花とプレゼントの国際婦人デー、女が料理を作って男が飲む国際婦人デーは、ソ連の社会での女のありようを、的確に反映しているともいえそうだ」と述べておられます。

 もちろん、中国において近年まったくこうした状況に変化がないかといえば、そうではなく、胡総書記が、各クラスの党委員会と政府に「女性差別の除去」や「女性の権益の侵害の取り締まり」を求めたことは、やはり改革開放以降の変化でしょう(女性NGOのサイトには、この発言を強調した見出しを付けているものもあります(9))。また、胡総書記は、女性に対して「社会主義民主・法治・自由平等・公正正義の理念を堅固に打ち立て、民主的な権利を行使し、公民の責任を自覚的に担い、社会の安定団結を維持するために貢献しなければならない」とも述べています。この点は、「社会の安定団結」という言葉が入っているとはいえ、女性に権利の行使を求めていると言えます。

 とはいえ、全体としては、国際女性デーにおいて党や政府が女性たちに求めるものと、自由や平等を求める女性たちの声との間には大きなずれがあることは明らかです。

(1)纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会在北京举行」『中国婦女報』2010年3月8日。
(2)胡锦涛「在纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会上的讲话」『中国婦女報』2010年3月8日。
(3)全国妇联「关于认真学习贯彻胡锦涛总书记在纪念“三八”国际劳动妇女节100周年大会上重要讲话精神的通知[ワード]」婦字〔2010〕14号。
(4)“三八”节,要&不要大声说出来[word]」『女声』24期[word](2010年3月8日)。作成者のうち、比較的名前の知れている人には、栄維毅、蒋永萍、李洪濤、劉巍の各氏がいますが、全体で28名の名前もしくはハンドルネームか職業が挙げてあり、かなり大勢で出し合って作成されたもののようです。
(5)广东省妇联积极参与整治网络低俗之风 净化网络护卫孩子 南粤母亲在行动」『中国婦女報』2009年6月18日、「广东:汇聚母亲力量护卫孩子健康上网」『中国婦女報』2009年12月2日。
(6)保护未成年人身心健康北京有新招 成立“妈妈评审团”举报网络低俗信息」『法制日報』2010年1月21日。ただし、「低俗を判断する基準はどのように、誰が決めるのか?」、「情報を封殺し、サイトを殺すのは、お母さんの仕事ではない」として、批判する声も出ています(凝眸「妈妈陪审团请别把母爱当幌子」『長江日報』2010年1月4日)。
(7)長平「“三八”的大名叫抗争」『南都周刊』2010年3月5日。
(8)訳注:この活動については、「北京市妇联纪念“三八”国际劳动妇女节100周年系列活动」(人民网2010年02月25日)で述べられています。
(9)胡锦涛:坚持男女平等打击侵害妇女权益行为」北京大学法学院婦女法律研究与服務中心HP2010年3月9日。
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