2017-08

世界基金のプロジェクト中止で、中国民間女権工作室に打撃――中国のNGOの困難

 セックスワーカーのサポートをしているNGOの「中国民間女権工作室(中国民间女权工作室)」(以前の本ブログの記事「『第1回セックスワーカーデー』、中国民間女権工作室、セックスワーカーの互助団体の萌芽」でも取り上げました)は、昨年、「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」(HP日本語による説明)のプロジェクトの資金援助を受けられることになりました。ところが、半年後、突然それが中止されたたために、たちまち窮地に陥りました。

 『民主と法制時報』の記事(1)は、このことを取り上げて、「『成功も失敗もプロジェクト次第』、女権工作室の境遇は、資金がネックになっている中国の草の根NGOの縮図である」と指摘しています。以下、まず、この記事のだいたいの内容を紹介します。

底辺のセックスワーカーの中で活動

 中国民間女権工作室(以下、女権工作室と略す)は、武漢市で、エイズ予防活動を軸にして、セックスワーカーをサポートする活動をしています。

 女権工作室は、葉海燕(流氓燕)さんら数人のグループですが、2005年から、葉さんは、「妓女維権熱線」というセックスワーカー向けの電話相談をしてきました(本ブログの記事「本[2006]年の動向10―売買春に関する議論と行動」でも取り上げました)。

 また、最近は、とくに「城中村」(都市の中の村)(2)と呼ばれる、出稼ぎの人々が住んでいる地区のセックスサービスの場で働く女性たちに働きかけています。こうした安価なセックスサービスの場は、セックス産業の最底辺に位置し、その周縁性ゆえに、「コンドーム100%計画」(エイズ防止のために、当局がすべての娯楽施設にコンドームを配備する計画(3))などの活動も行き届きにくいため、エイズや性病を駆除する活動の死角になっていました。

 女権工作室は、以前から葉海燕さんと友人だった女性の店主を通じて、まず、他の店主やセックスワーカーと親しくなり、次に、セックスワーカーのところに医薬品が入った箱や宣伝資料を持って出かけ、健康の知識を宣伝したり、コンドームを配布したり、疾病制圧センターに健康診断に行くように彼女たちに働きかける活動をしてきました。

 こうした活動を通じて、2008年から今までに、女権工作室は、武漢の30%のセックスワーカーの状況を把握したといいます。

中国の草の根NGOの困難――国外のプロジェクトの資金に頼る

 2006年、葉海燕さんは、女権工作室を民政局に登記(登録)して、法定のNGOにしようとしましたが、その答えは、「業務主管単位がないと、だめ」というものでした。

 中国の「社会団体登記管理条例」(日本語中国語[PDF])の規定では、法定のNGOである「社会団体(社団)」になるためには、民政部に登記する前に、日常の業務の管理監督を引き受けてくれる「業務主管単位」の審査と承認を得ることが必要です(4)。ですから、まず、「業務主管単位」を見つけなければなりません。

 しかし、葉さんには、見つけられませんでした。「NGOは政治的にデリケートな分野で活動することも多く、そのリスクを背負い、主管単位になってくれる政府機関もしくは準政府機関は非常に少ない。それゆえに大多数の草の根NGOは民政部門で登記できず、合法的な『社会団体』という身分が得られない」(5)と言われています。清華大学NGO研究所の王名教授によると、「中国のNGOの95%以上は、実際上現行の法律の認可を得ておらず、なされるべき保障を得ることもできていない」ということです。まして、セックスワーク関係の活動となると、中国でも売春は違法ですから、無理なのでしょう。

 「登録していないということは、正式の身分や公開の口座番号がなく、社会から寄贈を受ける有効なルートがないことを意味している」そうです。ですから、女権工作室も、2年あまりの長きにわたって、ずっと資金援助がない中で、困難な活動をしてきており、武漢の大学生のボランティアたちが多くの活動を担ってきました。

 しかし、2008年、「中国ゲイツプロジェクト[中盖項目。中国とビル&メリンダ・ゲイツ財団とのプロジェクト]」が、女権工作室に資金援助をしてくれることになりました。「中国ゲイツプロジェクト」は、正真正銘の草の根のNGO組織に資金援助することを主旨としていて、民政部に登記しているか否かを問題になかったのです。

 つづいて、2009年7月、第6次中国世界基金エイズプロジェクト[第六輪中国全球基金艾滋病項目]が、女権工作室が「湖北省女性健康センター」(無料で健康の知識の研修、および無料の健康診断とHIV相談・検査サービスをする)を設立することをサポートすることを決めました。このプロジェクトは、7年間かけて実施される予定であり、同センターの家賃と業務人員に対する補助金は、プロジェクトの資金から出ることになりました。

 かくして、武漢科学技術大学中南分校の卒業生1人と看護専攻の卒業生3人が女権工作室で仕事を始めました。賃金はわずか800元でしたが、彼女たちは意気込んで働きました。

 彼女たちは、武漢市の繁華街に85㎡の活動室を借り、武漢市の全セックスワーカーをカバーするエイズ防止ネットワークを作る構想を立てました。

プロジェクトがなくなると、たちまち窮地に

 しかし、2009年12月末、世界基金から、「2010年以降は、『湖北省女性健康センター』プロジェクトをサポートできない」という通知がありました。「NGOと各種の基金のプロジェクトとの間には、契約による制約はなく、『申告』と『審査し許可する』という手続きしかない」そうです。

 たちまち、女権工作室は、活動室の家賃と養成した業務人員の賃金が払えなくなりました。

 李妍焱編著『台頭する中国の草の根NGO――市民社会への道をさぐる』(恒星社厚生閣 2008年)は、その第5章で「草の根NGOの資金集め」を論じていますが(李凡・王慶泓執筆)、この章では、「資金不足は世界中のNGOに共通する悩みといっても過言ではない。NGO法人や寄付関連の税制度がまだ整備されていない中国においては、草の根NGOの資金調達活動がいっそう厳しい状況に置かれている」、「資金的に政府の援助を受ける可能性があるのは、基本的に法定NGO、すなわち社会団体、民弁非企業単位、基金会の3つ(6)に限られている」(81頁)、「政府からの助成金がほとんどなく、国内での公開募金活動も基本的に禁止されている状況下、国内の財的支援のツールが乏しく、中国の草の根NGOの財源は、海外のNGO・外国財団からの寄付と助成に頼る部分が大きい」(89頁)と述べられています。

 今回の事件は、こうした、「海外のNGO・外国財団が、プロジェクト助成という形で、その助成趣旨に合う草の根NGOを支援する」(90頁)という形も、不安定性を抱えていることを示していると思います(7)。実際、NGOで仕事をしていたある先輩は、葉さんに対して、「プロジェクトが続くことを当てにするな」「プロジェクトは短いものであり、今日サポートすると言っても、明日はサポートしなくなるかもしない、不安定なものだ」と忠告していたということです(8)

 今年1月1日、葉さんは、衛生部や市長に助けを求める手紙を送るとともに、インターネットでも、企業家などに助けを求めました(9)。しかし、残念ながら、今のところ、芳しい返事があったという話はありません。

 1月8日に葉海燕さんが発表した「2010年中国民間女権工作室活動計画」は、以下のような目標を掲げています。
1 リプロダクティブ・ヘルスの推進。病院と協力して、無料で婦人病の検査。
2 エイズ予防公益プロジェクト。
 1) 入浴センターを2010年の重点に。
 2) 底辺のレジャーの場はひきつづき推進。
 3) アウトリーチ(外展。この場合はセックスワーカーのところに出かけて働きかけること)を漢陽・青山・漢口のすべての市街区に広げる。
3 ボランティアの拡大、大学生集団と相互に交流
4 差別反対と政策的提起
 1) ひきつづきネットワークに立脚して、セックスワーカーの姉妹に関心をよせ、文字・ビデオの多様な形式によって、社会に対してセックスワーカーに対する差別をなくし、セックスワーカーの人権を尊重することを呼びかける。
 2) 専門の行動芸術唱道団体を設立する。
 3) 話劇《セックスワーカーのモノローグ》の舞台稽古をする。
 4) 第2回セックスワーカーデーを祝う。
 5) 2010年赤い雨傘(紅雨傘、レッドアンブレラ)セックスワーカー差別反対公益活動を繰り広げる。
 6) 「赤い唇ノート」を公開して、姉妹たちが自分で書いたtwitterを社会に推薦し、社会に姉妹たちの声を理解させる(10)

 5)の「赤い雨傘(紅雨傘、レッドアンブレラ)セックスワーカー差別反対公益活動」についてですが、赤い雨傘は、2001年にベニスでセックスワーカーがデモをした際に使われたことから、セックスワーカーに対する差別や虐待に対する反対を意味する象徴になったそうです(11)。女権工作室は、すでに2009年12月に「赤い雨傘」行動をおこなっていますが、この行動を報告したブログの記事は、十数名の若い人々が、赤い雨傘をさし、パネルを掲げて、セックスワーカーに対する警察などによる権利侵害をストップするよう訴えている写真を10枚掲載しています(「12月17日红雨伞行动」荼蘼花尽2009年12月18日)。パネルには、「呼吁警察執法人性化!」「請停止対性工作者的執法傷害」などの文字が見えます。このブログの記事には、このアクションが城管(都市管理の役人)に妨害されて、何度も何度も場所を変えなければならならなかったこと、それに対して抗議したことも書かれています。

 なかなか果敢な行動だと思うのですが、たとえばこうした行動なら資金援助なしでもできるでしょうが、上の「活動計画」で挙げられた活動の中には、規模を縮小せざるをえないものが多そうです。

 今年になってからの葉さんのブログを読むと、嘆きや苦しみとともに、中国の政治や社会に対する不満もつづられています。たとえば、1月24日の「誰が中国の女の政治家か? 中国の女の声はどこにあるのか?」と題した日記には、「なぜ、2009年の末や2010年の初め、私は女性界の声を聞くことができなかったのか? 中国には女がいなくなったのか?」、「もし婦連がこれ以上このように不作為ならば、もし中国の女がこのように沈黙し続けるならば、私は、すべての女性の公民に、婦連の主席を罷免することを提案する」とも記されています(12)

 それでも、葉さんは、今月、インドでセックスワーカーの組織と交流してきて、中国でもセックスワーカーのネットワークを作ることに意欲を燃やしておられるようです(13)

(1)“保障性工作者权益”NGO遭遇寒冬」『民主与法制時報』2010年1月18日。
(2)野村證券のサイトに解説があります(「城中村」(都市の中の村))。
(3)百分之百安全套计划。ネット上に日本語の記事もあります(「上海:娯楽スポットで『コンドーム100%計画』」 サーチナ2006/12/01、「重慶市の決断、『理髪店にコンドームを』」日経ビジネスオンライン2006年9月13日)。
(4)この1文については、李妍焱編著『台頭する中国の草の根NGO――市民社会への道をさぐる』(恒星社厚生閣 2008年)の113頁からの引用です。
(5)中国のNPOが、民政部門と業務主管単位とによって二重に管理されている問題については、王名・李妍焱・岡室美恵子『中国のNPO:いま、社会改革の扉が開く』(第一書林 2002年)の第6章「法環境――NPOをなぜ管理するか」(岡室美恵子執筆)参照。
(6)「社会団体」「基金会」「民弁非企業単位」のそれぞれについては、「中国におけるNGOの状況」(自治体国際化協会のサイト)参照。なお、ネット上での中国のNGOについての説明には、他に「中国のNGO」(国際協力機構サイト)もあります。
(7)王名・李妍焱・岡室美恵子前掲書は、「国際NGO・海外財団による支援の問題点」として、「海外組織に関する法律上の空白による活動存続の危機」「中国の草の根NGOの組織体制とアカウンタビリティの欠陥」「草の根NGOの役割に対する理解と期待に格差が見られること」の3点を挙げています(90-93頁)。
(8)“保障性工作者权益”NGO遭遇寒冬」『民主与法制時報』2010年1月18日。
(9)一个中国草根组织因为生存困难向社会求助!」紅塵網2010-1-01
(10)2010年中国民间女权工作室工作计划」荼蘼花尽2010年1月8日。
(11)红雨伞:性工作者权利的象征」荼蘼花尽2009年5月20日、Red Umbrella Campaigns(ICRSEのサイト)
(12)谁是中国的女政治家? 中国女人的声音在哪里?」荼蘼花尽2010年1月24日。
(13)建立性工作者自己的社区」荼蘼花尽2010年02月21日、「四天之后回来,有一些打算」荼蘼花尽2010年02月25日。
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