2017-08

村民委員会組織法の改正草案と女性

 2009年12月24日、全国人民代表大会(全人代)常務委員会で、村民委員会組織法(中华人民共和国村民委员会组织法)の改正草案の審議がおこなわれました。全人代常務委員会は、改正草案の全文を公表し、意見を募りました(1月末まで)(村民委员会组织法(修订草案)条文及草案说明)。

 村民委員会とは、「基層の大衆の自治組織」で、「村の公共事務と公益事業の処理し、民間の紛争を調停し、社会の治安の維持に協力する」などのことしています(村民委員会組織法第2条)。実際には、しばしば行政の末端としての機能も果たしているようです(1)

 今回の改正草案について、全人代常務委員会は、「村民委員会の選挙と罷免の手続きをいっそう完全なものにした」、「民主的な議事制度をいっそう完全なものにした」、「民主的管理と民主的監督制度をいっそう完全なものにした」と説明しています。

一、女性に関する規定の改正点

 今回の改正草案では、女性に関する規定のうち、以下の3点が改正されています。

1.村民委員会に女性メンバーが「いなければならない」と規定した

 現行法第9条より:「村民委員会の主任・副主任・委員は、計3~7人で構成する。村民委員会のメンバーの中で、女性は適当な人数を占めなければならない
 ↓
 改正草案第6条より:「村民委員会の主任・副主任・委員は、計3~7人で構成する。村民委員会のメンバーには、女性メンバーがいなければならない

 現行の条文の中の「『適当』という言葉は十分明確でなかった」という指摘もあり、陝西省女性理論婚姻家庭研究会の会長の高小賢さんは、今回の改正は「女性が村民委員会に入ることを保障する力を強めた」と評価しています。

 2008年末現在、全国の村民委員会のメンバーのうち、女性は50.7万人です。しかし、全国に村民委員会は60.4万あるので(民政部の2008年の民政事業発展統計報告)、少なくとも9万余りの村民委員会には女性がいないことになります(2)。このような言葉の変化によって、女性のいない村民委員会が減るでしょうか?

2.「女性は、村民代表会議を構成するメンバーのうち3分の1以上を占めなければならない」と規定した

 村民委員会組織法は、満18歳以上の村民によって「村民会議」を設置するとしていますが(現行法17条、改正草案20条)、「人数が比較的多い、または住んでいるところが分散している村」では、「村民代表会議を設置して、村民会議が権限を与えた事項を討論し決定することができる」と定めています。

 その村民代表会議を構成するメンバー(村民代表)については、「5~15戸ごとに1人を推薦する、あるいは各村民小組が若干名を推薦する」ことになっていますが(現行法第21条、改正草案第23条)、改正草案は、「女性は村民代表会議を構成するメンバーの3分の1以上を占めなければならない」(第23条)と規定しました。

3.村民委員会の任務に「男女平等を促進する」が入った

 村民委員会組織法には、村民委員会の政治的役割を規定した条文があるのですが(現行法の第6条、改正草案の第9条)、改正草案では、この条文の中に「男女平等を促進する」という言葉が入りました。

 以上の3点については、中国の女性問題の専門家・関係者や女性の村官から、今回の改正は一歩前進だと評価する意見が出ています(3)

二、女性たちからの要求

 しかし、今回の改正には多くの不十分な点があるとして、上のような女性たちからは、以下のようなさまざまな要求も出ています。

村民委員会のメンバーのうち、女性を30%以上(または1/3以上)にすると規定すべき(4)

 先述のように、2008年末現在、全国の村民委員会のメンバーのうち、女性は50.7万人ですが、これは全メンバーの21.7%を占めるにすぎません。

 重慶市開県和謙鎮文聖村の村の主任助手である廖雅妮さんは、「村民委員会の委員のうち、女性は30%以上を占めなければならない」と言います。廖さんは、村民委員会の選挙のとき、「女は男に劣る」などの伝統的観念が今なお妨げになっているけれど、もし女性の比率が規定してあれば、抵抗も減るのではないかと述べています。

 また、李慧英さん(中央党校女性研究センター教授)は、次の4つの理由から、「女性を3分の1以上にすると規定すべきだ」と主張しています。
 1.[第一次国共内戦期の]ソビエト根拠地のとき、県の議員を選挙する際に、女性を25%以下にしないと明確に規定した。それから80年あまり経ったのだから、1/3にすべきだ(5)
 2.解放初期、「人民公社の社長または副社長に、女性を少なくとも1人入れなければならない」と規定した(6)。それから60年あまり経ったのだから、村の(主任ではなく)「2つの委員会[村民委員会と党支部委員会]」に女性の比率が33%になっても、進歩の速度はけっして速くない。
 3.[多くの男性が出稼ぎに行ったために]現在農村に残っている人のうち、女性は60~80%を占めているにもかかわらず、女性が「2つの委員会」の正の職位を担当しているのは、わずか1%である。両者の比率の差が非常に大きいので、積極的な措置を取ることによって、この差を縮小させる必要がある。
 4.2009年、中央党校女性研究センターのジェンダー平等政策唱道課題グループは、河南省登封市の3つの村、河南省舞陽県の5つの村で、村規民約(村の決まり)の改正を推進した。すべての村がジェンダー平等の観念を受け入れて、村の「2つの委員会」の1/3以上を女性が占めるべきことを村規民約に書き入れた(7)。このことは、村の「2つの委員会」の1/3以上を女性が占めることは、民衆の中に基礎があり、けっして手が届かない目標ではないことを示している。

 また、陝西省女性理論婚姻家庭研究会(陕西省妇女理论婚姻家庭研究会)は、村民委員会組織法の改正草案について座談会を開いて討論をし(8)、以下のような幾つかの提案をまとめました(9)

村民委員会に、必要に応じて、女性児童委員会を設置すべき(陝西省女性理論婚姻家庭研究会の提案)
 ―「村民委員会は、必要にもとづいて、人民調停、治安警備、公共衛生、計画生育などの委員会を設置する」(改正草案第7条、現行法第25条にも類似の規定あり)とあるが、「必要にもとづいて設置する委員会」の中に、女性児童委員会も入れるべきである。

 この点について、高小賢さんは、「現在、村の人口の多くは、女性と子どもです。留守児童の問題、留守女性の問題などは、すでに新しい農村を建設する上での主要な問題になっており、治安問題など以上の問題でさえあります」と指摘し、「農村の女性と子どもの問題を、村民委員会の主な仕事の一つにするべきです。女性児童委員会を設立すれば、制度上からこの問題を村民委員会の仕事に組み込むことができますし、同時に、村の婦女代表会議の主任が村の『2つの委員会』に入るためにも有利です」と主張しています(10)

「村の主任と副主任の候補者に、女性候補者がいなければならない」と規定すべき(〃)
 ―陝西省の実践は、こうした規定は、女性が村の主任に当選する比率を高めるのに有利であることを証明している。

「村民選挙委員会には女性がいなければならない」と規定すべき(〃)
 ―村民委員会の選挙は、村民選挙委員会が主宰することになっているが(現行法第13条、改正草案第12条)、「村民選挙委員会には女性がいなければならない」と規定すべきである。

 この点について、陝西省合陽県路井鎮韓家城村の党支部書記で村民委員会主任の路小春さんは、「現在若干の農村では、まだ選挙での買収があります。もし選挙委員会に女性の委員がいれば、前もって内情を知ることができて、早めに対策ができるので、選挙に参加する女性にとって有利です」と語っています(11)

「村務監督機構に女性メンバーがいなければならない」と規定すべき(〃)
 ―改正草案の第29条に「村は、村務監督機構を設立して、村民の民主的財政管理と村務公開などの制度の執行の責任を負う」ことが定められているが、村務監督機構の中に女性メンバーがいるようにして、女性に村務の監督権の行使に参与させるべきである。

村民委員会の任期を延ばして、女性に仕事に習熟させるようにすべき(12)

 合陽県女村官協会は、村民委員会の任期が3年であること(現行法でも改正草案でも第11条)について、「3年が1期では、時間が短すぎて、女の村官が業務に習熟して、仕事ができるようになったら、改選の時期が来るので、任期を5年に延ばすべき」と提案しました。

「村規民約(村の決まり)」によって女性の土地権益が奪われないように、「現行の法律に違反している村規民約は無効だ」と明確に規定すべき(13)

 李慧英さんは、「改正草案は、村の集団的資源を分配する際には、村民代表大会の決定によるべきことを強調していますが、これは、双刃の剣です」と言っています。李さんは、そのことによって、たしかに村の幹部の権力が村民によって制約されるので、幹部が私利を謀るのを防ぐには有利だけれども、その一方で、多数の人が合法的な手続きを利用して、少数の人の合法的な権益を剥奪する可能性もあると言っています。

 中国の農村では、家父長制的・父系制的観念のために、村規民約や村民代表大会の決議によって、嫁に行った娘(出嫁女)や入り婿の土地権を剥奪しているケースがあります(14)。李慧英さんは、そうしたケースを心配しているのです。

 この点については、現行の村民委員会組織法でも、「村民自治の規則、村規民約、村民会議または村民代表大会が決定して決定した事項は、憲法・法律・法規・規則・国家の政策と抵触してはならず、社会の公共の利益を損ねてはならず、村民の人身の権利、民主的権利、合法の財産権を侵犯してはならない」(現行法第20条、改正草案第25条)と規定していますが、上のようなケースが後を絶ちません。

 ですから、李慧英さんは、村民委員会組織法に、さらに、「村規民約は現行の法律と矛盾してはならない。矛盾した場合は、村民代表大会の決議は無効である」という条項を設けることを提案しています。

 総じて言えば、今回の改正草案は、女性の権利を保障する上で、少し前進した点もあるけれども、まだまだ関係者の要求に応えるものにはなっていないと言えましょう。

(1)村民委員会についての文献は多いが、清水美和『中国農民の反乱―昇竜のアキレス腱』(講談社 2002年)第6章「農村民主化の実験」など。ネットでも「村民委員会―中国の民主化の最前線―」(自治体国際化協会HP)が簡単に説明している。
(2)「《村民委员会组织法》修订征求公众意见」『女声』第14期[word]。「2008年末現在、全国の村民委員会のメンバーのうち、女性は50.7万人です」という点については、2009年10月におこなわれた全国婦連「2つの委員会[村民委員会と党支部委員会]」女性幹部座談会における全国婦連の党グループ書記、副主席、書記処第一書記の黄晴宜さんの発言(「全国妇联村“两委”女干部座谈会在长沙召开」『中国婦女報』2009年11月2日)によるもののようです。また、「民政部の2008年の民政事業発展統計報告によると、全国に村民委員会は60.4万ある」という点については、「2008年民政事业发展统计报告」参照。
(3)《村民委员会组织法》征求公众意见 明确村民代表中女性应占1/3以上」『中国婦女報』2009年12月29日、「妇女界谈村民委员会组织法修订草案:期待农村妇女参政水平进一步提高」『中国婦女報』2010年2月1日。
(4)以上については、「妇女界谈村民委员会组织法修订草案:期待农村妇女参政水平进一步提高」『中国婦女報』2010年2月1日。
(5)1939年の陝甘寧辺区第1回参議会で採択された「女性の政治的経済的文化的地位を向上させる案」は、「各級の参議会は25%の女性議員がいなければならない」と規定していました。
(6)人民公社に関しては、そのような規定は見当たらず、「高級農業生産合作社示範章程(1956年6月30日)」(邦訳「高級農村生産合作社模範定款」『新中国資料集成』第5巻 日本国際問題研究所 1971年)第61条に「合作社の主任・副主任のうち、少なくとも1人は女性でなければならない」とあるものを指しているのではないかと思われます。李慧英編著『社会性別与公共政策』(当代中国出版社 2002年)212-213頁にも、この規定も上の陝甘寧辺区の規定も述べられているのですが、そこで引用されているのも、人民公社の定款ではなく、合作社の定款です(全国婦連副主席の穎超の発言を、正式に決定した定款であるかのように誤って引用していますけれども……)。
(7)ジェンダー平等政策唱道課題グループが河南省登封市の周山村の村規民約を改正した試みについての詳細な報告が、最近、「《悄然而深刻的变革—周山村‘村规民约’修订纪实》的电子版」(2010-01-11)として、社会性別与公共政策HPに掲載ました(「1 周山村村规民约修订纪实1-1.doc」、「1 周山村鬼鬼民乐修订纪实1-2.doc」、「2 周山村村规民约修订过程记录.doc」、「3 《周山村村规民约》.doc」、「4 全国其他省份探索行动.doc」、「5 村规民约修订中的常见问题.doc」、「6 后记.doc」、「附录1 性别平等政策倡导课题组成员名单.doc」)。
(8)村民委员会组织法修订讨论会在西安举行」(2010-01-14)陝西省婦女理論婚姻家庭研究会HP。討論会には、陝西省委員会党校・省委員会政策研究室・合陽県婦連、渭南婦女促進会、合陽女村官協会、陝西師範大学婦女文化博物館などの人を招いたそうです。
(9)关于《中华人民共和国村民委员会组织法(修订草案)》的修改建议」(2010-01-16)陝西省婦女理論婚姻家庭研究会HP
(10)この発言については、「妇女界谈村民委员会组织法修订草案:期待农村妇女参政水平进一步提高」『中国婦女報』2010年2月1日。
(11)同上。
(12)关于《中华人民共和国村民委员会组织法(修订草案)》的修改建议」(2010-01-16)陝西省婦女理論婚姻家庭研究会HP
(13)妇女界谈村民委员会组织法修订草案:期待农村妇女参政水平进一步提高」『中国婦女報』2010年2月1日。
(14)何燕侠「中国農村女性の土地請負経営権をめぐる諸問題」『中国女性史研究』第10号(のち何燕侠『現代中国の法とジェンダー──女性の特別保護を問う』尚学社、2005年、第5章「農村女性の土地請負経営権とその実態」として収録)参照。本ブログの記事でも、「農村女性の土地請負経営権をめぐる裁判」、「仏山市南海区政府が農村の『出嫁女』の土地権益問題を解決」などで触れています。
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