2017-08

「“北京+15”中国女性NGOレポート」――中国政府の「北京行動綱領」の実施状況をチェック

北京女性会議15周年を前に、「『北京+15』アジア太平洋地区女性NGOフォーラム」で発表

 2009年10月22─24日に、フィリピンのマニラで開催された「『北京+15』アジア太平洋地区女性NGOフォーラム」で、中華全国婦女連合会と中国女性研究会は、「“北京+15”中国女性NGOレポート」(「“北京+15”中国非政府妇女组织报告」[英語版&中国語版、PDF])を発表しました。

 1995年の北京の世界女性会議では、「北京宣言」(日本語訳)や「行動綱領」(日本語訳)が採択され、国連特別総会「女性2000年会議」では、「北京宣言及び行動綱領実施のための更なる行動とイニシアティブ(いわゆる成果文書)」(日本語訳)が採択されました。

 北京での世界女性会議から15年目になる今年3月には、国連女性の地位委員会(CSW)で「行動綱領」や「成果文書」がどれだけ達成されたかの検証がおこなわれます。「『北京+15』アジア太平洋地区女性NGOフォーラム」は、それに先立ち、アジア太平洋地域での進展や課題をNGOの視点から確認するために開かれたものです(同フォーラムのサイト:Asia Pacific NGO Forum on Beijing +15(1)

 中華全国婦女連合会(中华全国妇女联合会)(全国婦連)は、基本的には中国共産党の指導の下にある中国最大の女性団体です。中国女性研究会(中国妇女研究会)は、全国婦連のイニシアで結成された研究会ですが、こちらは相当に幅広い団体会員や個人会員を傘下に収めています。

 「“北京+15”中国女性NGOレポート」は、上の2つの組織の名前で発表されていますが、後に挙げるような幅広い民間の機構・組織・学術団体の代表や女性活動家が、下の12のテーマについて、1995年の北京女性会議以来、とくに「北京+10」以来の、中国政府の「北京行動綱領」と「成果文書」の執行状況を回顧し、評価をおこなったものです。

1.女性と貧困
2.女性と教育
3.女性と健康
4.女性に対する暴力に反対
5.女性と経済
6.女性の政治と政策決定への参与
7.女性の人権と法律
8.女性とメディア
9.女性と環境
10.女児
11.女性の地位を向上させる国家のメカニズムとジェンダー主流化
12.金融危機の中国女性の発展に対する影響

 中国政府も、「行動綱領」や「成果文書」の実施状況について国連にレポートを出しています(中国政府落实《北京宣言》和第二十三届特别会议《行动纲领》以及联合国大会《成果文件》情况[2009-03-05])(2)。しかし、一般に政府の報告は政府に都合のよいことばかり書かれているので、民間からも状況を報告した文書を提出します。そのような報告のことを、「オルタナティブレポート」とか、「シャドウレポート」とか、「カウンターポート」とか、「NGOレポート」と呼ぶわけですが、この「“北京+15”中国女性NGOレポート」も、それに当たります。なお、中国では、どちらかというと「官」の側の組織である全国婦連も「NGO」に入れていますから、このレポートは全国婦連が作成に加わっているけれども、「NGOレポート」と言っているわけです。

「北京+5」「北京+10」の時に続いて、3回目のシャドウレポート

 中国の婦連とNGOが、中国政府の北京行動綱領などの実施状況を検証したレポートを出すのは、今回で3回目です(3)

 1回目は、北京女性会議から5年目の2000年6月にニューヨークで開催された特別国連総会に提出した「中国のNGOは行動している」というレポートです(以下、「『北京+5』の時のレポート」と言う)(4)。中国女性研究会によると、このレポートは、「中国史上初の女性NGOのシャドウレポート」(5)だということです。

 2回目は、「北京+10」を前にした、2004年6月の「アジア太平洋地区女性NGOフォーラム」(タイのバンコクで開催)で発表されたレポートです。このレポートは、「中国政府の『行動綱領』と『成果文書』の執行に対する中国女性NGOの評価報告」[中華全国婦女聯合会・中国婦女研究会「中国非政府妇女组织对中国政府执行《行动纲领》和《成果文件》的评估报告——中国非政府妇女组织《紫皮书》」]と題されています(以下、「『北京+10』の時のレポート」と言う)。

3回のレポートの作成に関与した団体

 「北京+5」と「北京+10」と「北京+15」の3回のレポートの作成に関与した団体は、それぞれ、以下のとおりです(関与のしかたの表現が各回で少しずつ異なります。また、団体の「代表」という言葉が使われている場合もありますが、その場合、必ずしも団体全体の意見を代表しているわけではないと思います)。

「北京+5」の時のレポート:
 「会議の主宰者[中国女性研究会と国連(在北京)ジェンダーテーマグループ]が、十数のNGOと政府組織(中国女裁判官協会、中国女検察官協会、中国婚姻家庭研究会、中国環境科学学会、中華予防医学会女性保健学会、中国児童少年基金会、首都女性ジャーナリスト協会、中国社会科学院社会学研究所、中国農業大学農村発展学院、中華女子学院、北京師範大学教育学部、中国人民大学女性研究センター、中央党校女性研究センター、全国婦連組織部・宣伝部・都市農村部・児童部、北京市婦連、北京紅楓女性心理相談サービスセンター、労働と社会保障部就業局・国際局、国家計画生育委員会国際局)と共同で(……)提出した。」

「北京+10」の時のレポート:
 「中国女検察官協会、中国婚姻家庭建設研究会、中国環境科学学会、中華予防医学会女性保健学会、首都女性ジャーナリスト協会女性メディアウオッチネットワーク、中国法学会反DVネットワーク、農家女百事通、紅楓女性心理相談サービスセンター、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、中央党校女性研究センター、中国農業大学人文と発展学院、北京師範大学教育学院、中華女子学院、全国婦連などから来た代表が構成した特別テーマグループ」

「北京+15」の時のレポート:
 「全国婦連の主要工作部門、全国総工会女性職員・労働者部、中国女企業家協会、中国市長協会女市長分会、中国就業促進会、中国人口と発展研究センター、中国社会科学院法学研究所、中国社会科学院ニュースとメディア学研究所、清華大学、中国農業大学人文と発展学院、中国メディア大学、全国婦連女性研究所、中華女子学院、北京大学人口研究所、北京社会科学院社会学研究所、北京大学女性法律研究とサービスセンター、中国反DVネットワーク、北京農家女文化発展センター、北京紅楓女性心理相談サービスセンター、北京母子保健院、首都女性ジャーナリスト協会、中国婦女報、北京天津ジェンダーと発展協力者グループ、天津師範大学ジェンダーと社会発展研究センター、南京師範大学金陵女子学院、江蘇揚州市委党校、西北工業大学、陝西省女性理論婚姻家庭研究会、黒龍江省婚姻家庭研究所などから来た機構・組織・学術団体の代表と女性活動家」

 3回の報告に関与した団体を比較すると、次のような傾向が見られます(6)
 ・「+5」や「+10」の時に比べて、今回の「+15」の時は、関与した団体が大きく増えた。
 ・「+5」の時は、「NGOと政府組織(が提出した)」と書かれているように、労働と社会保障部就業局・国際局のような「官」そのものの団体も含まれており、NGOも、職能別団体が多かった。けれど、「+10」の「+15」では、民間色が強い団体(NGOらしいNGOや大学の研究センターなど)が増えている。

「北京行動綱領」の12の「重大問題領域」との比較──「北京+10」と「北京+15」のレポートではほぼ一致するようになったが、「女性と武力紛争」というテーマは欠けたまま

 3回のNGOレポートで取り上げられたテーマ(7)は、「北京行動綱領」が掲げた12の「重大問題領域」とおおむね重なっていますが、違いもあります。

 まず、「北京+5」の時のレポートは、「北京行動綱領」にはある、「女性に対する暴力」「女性と武力紛争」「女性の地位向上のための制度的な仕組み」「女性の人権」という4つのテーマが欠けていました(代わりに、「女性と法律」、「婚姻家庭と老年女性」という2つのテーマを入れて、10のテーマについて論じていた)。

 それに対して、「北京+10」の時と今回の「北京+15」の時のレポートは、「女性に対する暴力」「女性の地位向上のための制度的な仕組み」「女性の人権」という3つのテーマについては、レポートに入っています。この点は、これらの3つのテーマについては、中国でも、ここ10年間の間に語られるようになり、実践もなされつつあることの反映でしょう。

 しかし、「北京+10」と「北京+15」の時のレポートも、「女性と武力紛争」というテーマは欠けています(かわりに、「北京+10」の時は「老年女性」というテーマが入り、「北京+15」の時は「金融危機の中国女性の発展に対する影響」というテーマが入っています)。

 その理由は、おそらく、「女性と武力紛争」というテーマは、国家の外交政策や軍事費、少数民族の自治、難民などの問題を扱うので(8)、現在の中国では、民間の団体が政府に対して批判的な立場を取るのは非常に難しいからではないかと思います。

今回のレポートの内容、とくに各テーマに関する中国の問題点の指摘

 今回の「北京+15」のレポートは、まず、「5年来、中国の改革開放と社会発展は、中国のジェンダー平等の事業と女性の人権保障にとっていっそう有利な環境を作り出した」と言い、具体的には、「科学的発展観の指導の下、人間本位の、社会発展と経済発展をともに重視する発展原則を打ち立てた」こと、「国際的な重要な人権条約に署名・履行した」こと、「人間本位の発展の指導理念の下、教育・就業・社会保障・医療・住宅・交通などの民生問題を集中的に解決した」こと、「公民社会と民主政治の発展を促進し、民間組織、とくにNGO女性組織の働きを発揮させることを重視した」ことなどを述べています。

 しかし、その一方で、今回のレポートは、「経済のグローバル化と中国社会の転換という背景の下、市場経済は、性別分化を内に含んだ社会分化をもたらし、女性は労働市場から更に排斥されやすくなった。また、都市との農村の二元的体制と労働力の流動によって、女性は更に仕事と家庭、心理と生理のマイナスの影響を受けやすくなった」ということなども指摘しています。

 上で挙げた「1」~「12」の各テーマについては、それぞれ以下の3つの点を述べています(この点は、「北京+5」「北京+10」の時も同じです)。
・「進展と成就」(中国政府の政策やNGOの行動があげた成果について)
・「問題と挑戦」(政府の政策などの問題点や今後の課題について)
・「対策の提案」(問題を克服するための対策の提案)

 まず、「進展と成就」からは、このかんの政策や運動の前進や到達点を知ることができます。この箇所も、もちろん重要ですし、内容的にもけっして通り一遍のものではなく、データを添えて詳細に書かれており、貴重なものです。

 しかし、以下では、各テーマの「問題と挑戦」に、どんなことが書かれているか、そのごく一部を紹介してみます。

 「1 女性と貧困」では、たとえば、「政府の貧困救助政策のジェンダーに対する敏感さが不十分である」として、「大部分の貧困救済・開発政策は、貧困な人々を一つの全体として扱っており、『農村の貧困な女性』『留守女性(夫が出稼ぎに行って農村に残された女性)』『流動女性(出稼ぎなどによって、自らの戸籍の所在地とは異なる地区に住んでいる女性)』に対する専門的な措置がない。都市と農村の最低生活保障制度も、家族を基礎にして制定されており、貧困な女性個人のニーズを満たしにくい」ことなどを挙げています。

 「2 女性と教育」では、たとえば、「教育の過程におけるジェンダー不平等な状況がまだ根本的に改善されていない」として、「各段階の各種の教育の内容・教材が、ジェンダー平等意識に乏しく、伝統的な男女の役割のステロタイピングに対して自覚的な挑戦や変革がおこなわれていない。教学の方式と方法に、ジェンダーに対する敏感さがない」ことなどを指摘しています。また「農村、とくに辺境の貧困な地区の教育を受ける権利の実現を改善する必要がある」ことを述べた箇所では、農村で学校を合併する改革が「児童の就学の道程を増やし、または学校に寄宿さぜるをえなくなって、農村の児童、とくに女児の就学の機会と安全に一定の影響を及ぼした」ことにも触れています。

 「3 女性と健康」では、たとえば、「女性のヘルスケアシステムを改善する必要がある」として、「衛生・計画生育の2大政府部門の女性のヘルスケアに対する職責の分担がはっきりせず、サービスの内容が接近しているので、人力・財力・資源をもっと統合する必要がある」ことや「女性のヘルスケア領域に、医療を重んじて、予防を軽んじ、収益を重んじて、サービスを軽んじる現象が依然として存在しており、高額の費用が、女性の病気の危険を低めることができる有効な関与の措置の普及を困難にしている」ことを指摘しています。

 「4 女性に対する暴力に反対」では、たとえば、「女性に対する暴力に反対する立法をもっと強化する必要がある」として、「まだジェンダーバイオレンスに反対する全国的な専門の法律はなく、すでにある関係規定は、ざまさまな法律と地方的法規に散在している。また、DVの定義が狭すぎ、家族のメンバーに対する暴力の処罰は、よく知らない人よりも明らかに軽いため、被害に遭った女性が有効な保護を得るのは難しい。刑法と刑事訴訟法の関係規定は、多くの性的侵犯行為を強姦罪とは認定できなくしており、性的侵害の立件を難しくしている。婚姻内強姦は、立法と司法実践において重視されていない。性暴力の被害者の法律的救済は不十分であり、特定の関係(親族・教師など)と未成年の少女が性的関係を生じた事件に対する関心が不十分である」ことなどを指摘しています。

 「5 女性と経済」では、たとえば、「法律・政策およびその執行のメカニズムがなお不十分なので、経済領域におけるジェンダー平等を促進する政府の責任をもっと強化する必要がある」として、「中国は、十分な反雇用差別のメカニズムが欠けているだけでなく、法律上明確な雇用差別の定義がなく、そのため、男女の定年差別や女性に対するある種の職業的制限などについても、ずっと法律的に整理や是正ができていない。」ことや「公共サービスの領域と公共サービス事業の過度の市場化は、家庭の出産育児コストと女性の経済的負担を重くしており、女性が経済に参与するもう一つの障害になっている」こと、「ジェンダー視点がない新型の農村養老保険制度の設計によって、保険金が得られる年齢に到達した(または近づいた)一部の農村の貧困な女性が枠外に置かれている」ことなどを指摘しています。

 「6 女性の政治と政策決定への参与」では、たとえば、「女性の政治参加の比率が低く、正の職位[=副○長ではなく、○長であること]が少ないなどの現象をもっと重視する必要がある」として、「第一に、全国人民代表大会の女性の代表の比率は、長い間、行ったり来たりで前に進まず、30年来、ずっと21%前後で変動しており、国連が提出している『女性が議会の中で少なくとも30%を占める』という目標には、まだ比較的大きな開きがある。第二に、女性幹部の比率が低く、正の職位が少ない。2008年の選挙で生まれた新しい省クラスの人民代表大会・政府・政治協商会議の指導グループのメンバーのうち、正の職位の女性幹部は6.5%にすぎない。また、2009年初めまでの時点で全国の女性の村民委員会主任は、2.7%前後にすぎない」ことなどを述べています。

 「7 女性の人権と法律」では、たとえば、「女性の人権の法律体系をもっと整備する必要があり、立法の質をもっと向上させる必要がある」として、「『婦女権益保障法』などの法律の中で差別に対する明確な定義がないことが、裁判における実践で法律が確実に守られないことに直接つながっている。女性に対するあらゆる形態の暴力を全面的に禁止する全国的立法がなく、すでにある関連規定は、異なった法規の中にばらばらにあって、互いにつながりが乏しく、拡充が不十分である。一部の法律の規定は、抽象的で大ざっぱすぎ、実用性や可訴性に欠けていて、司法実践の中で直接援用するのが難しく、法律の執行を妨げている。一部の違法行為は、それに対する懲罰の措置または懲罰の力が不十分で、有効な救済手段が欠けている。いささかの女性の人権の政策・法律はジェンダー意識が乏しい」と述べています。

 「8 女性とメディア」では、たとえば、「メディアに関する政策・法規に、十分なジェンダー・センシビリティが欠けている」として、「インターネットの不良な情報を取り締まる過程で、若干の女性サイトとブログ(女性エイズ感染者集団のホームページを含む)も閉鎖やフィルタリングをされた。それと同時に、消費主義の影響の下で、メディアが古いステロタイプを強化し、女性のイメージを濫用・搾取している現象や、女性団体やジェンダー専門家の批判の声に対して、ニュース管理部門は認識したり、耳を傾けたり、応えたりしていない」ことなどを指摘しています。

 「9 女性と環境」では、たとえば、「持続可能な発展の政策とプランにおけるジェンダー主流化の程度をもっと高める必要がある」として、「国家の環境発展戦略と政策において、ジェンダーは、すみやかに関心を持たれるべき現実的・政策的問題として見なされることは少なく、ジェンダーを政策決定の主流に組み込むことはまだ問題にもなっていない。」「政府と環境部門の女性と環境に関する政策と行動はまばらで、制度化されていないものにすぎず、環境の女性に対する特別な影響や女性参加の重要性に関して明確に述べられたり関心を持たれたりすることは少ない。また、ジェンダー平等と貧困と環境の持続可能性とを関連づけることはまだできていない」ことなどを指摘しています。

 「10 女児」では、たとえば、「教育の面で女児の発展に不利な問題がまだ存在している」として、「全体的な女児との男児の入学率には基本的に大きな違いはないけれど、統計データは、女児と男児の中途退学率、とくに女児の初級中学の中途退学率を反映し得ていない。貧困・エイズ・流動などの要素の影響を受けた農村のいささかの女児は、男児に比較して9年の義務教育を完成させる機会を獲得しにくい」ことなどを述べています。また、「女児の成長する環境を速やかに改善しなければならない」として、「わが国の出生人口の性別比は2005年には118.58で、2007年には120.22だった。関係部門がおこなっている『女児愛護』行動は、まだこの問題を根本的に変えることができていない。行動の力を強めるほかに、農村の基本的な制度とその影響を変える必要がある」ことなどを述べています。

 「11 女性の地位を向上させる国家のメカニズムとジェンダー主流化」では、たとえば、「女性の地位を向上させる国家機構」として、国務院女性児童工作委員会の問題を取り上げています。「国務院女性児童工作委員会の職能の位置づけは、なお欠けている点があり、中国が署名した『女性に対するあらゆる形態の差別撤廃条約』と『北京行動綱領』を執行するために担うべき職責が明確でない。国務院女性児童工作委員会は、調整機構として、そのメンバーの機関・団体(9)に対する監督・規制・問責を強化する必要がある。また、立法・政策決定に参与する制度的ルートを増やす必要があり、その政策提案はもっと重視されなければならない。また、リソースと予算が非常に不足しており、人員の配備も足りない」と述べています。

 「12 金融危機の中国女性の発展に対する影響」では、たとえば、「危機に対応する公共政策のジェンダー視点の欠如は、女性の権益の保護と長期的発展にとって不利である」ということを指摘しています。その個所では、「まず、金融危機に対抗するための産業発展構造は、女性の構造的失業を激化させるかもしれない。たとえば、政府は金融危機に対して4兆元を投資して、鉄鋼、船舶、石油化学、紡織、軽工業、非鉄金属、設備製造、電子情報、物流産業の発展を引っ張り、3千万の就業を吸収した。しかし、産業構造から見ると、10大産業の中で女性の就業を比較的多く吸収している産業は紡織と軽工業だけであり、こうした危機に対するマクロなプランは、必然的に、構造的な女性の就労の機会の欠如をもたらす(10)。次に、経済が不景気な期間の『労働契約法』の“柔軟化”と“フレキシブル”な施行は、女性労働者の権益保護の力を弱めた」ことなどを指摘しています。

 その他、ここでは紹介しきれない、数多くの指摘があります。

 私は、このレポートは、現在の中国の女性問題の状況や政策の到達点・問題点、民間団体の要求を手短かに知るための、非常に良い文献にもなっていると思います。

 ただし、近年の政策的な前進に関する記述に比べて、それに対する批判はやや簡略で抽象的な傾向があります。また、上で述べた「女性と武力紛争」のように、タブーであるために書けていない問題もあります。セクシュアル・マイノリティやセックスワーカーの問題なども扱われていません(もっとも、セクマイなどの問題は、北京行動綱領でも特に扱われていないように思うのですが、「『北京+15』アジア太平洋地区女性NGOフォーラム」のワークショップや宣言では触れられています)。そうした限界は考慮する必要があります。

 今後、私は、3回のレポートの内容の比較などもしてみたいと思います。

(1)このフォーラムの状況については、ごく短文ですが、「北京+15 アジア・太平洋NGOフォーラムに参加しました」『女たちの21世紀』No.60(2009年12月)71頁(「北京+15アジア太平洋NGOフォーラム宣言」アジア女性資料センターHP2009-11-23にも、ほぼ同じ内容が掲載されています)という文があります。中国での報告には、劉伯紅・王曉蓓「“北京+15亚太妇女非政府组织论坛”综述—— 探索人类社会发展的新模式」婦女観察網2009年12月31日、『女声特辑:亚太妇女的行动与力量』[word]、「“北京+15”亚太地区非政府组织论坛召开」(社会性別与発展在中国HP2009/10/31)、「中心成員参加“北京+15”亚太NGO论坛」(『妇女观察电子月报』第54期(PDF)[2009年11月]があります。それらの報告によると、フォーラムには、アジア・太平洋地区の各国のNGOから640人あまりが集まりました。フォーラムは、「世代を超えたフェミニズム」「国連のジェンダー平等機構の改革」「気候変動・防災とジェンダー」「武装衝突・安全とジェンダー」「経済危機とオルタナティブな発展」の5つのテーマを掲げ、40あまりのワークショップが開かれたということです。フォーラムの最後には、宣言文(英文は、Final Declaration of the Asia Pacific NGO Forum on Beijing +15、中国語訳は、「北京+15亚太非政府组织论坛宣言 编织智慧,直面危机,铸造未来」[婦女観察網翻訳]婦女観察網2009年11月10日)が採択されました。
(2)国連から出された、「关于《北京宣言》和《行动纲领》(1995年)、以及联合国大会第二十三届特别会议《成果文件》(2000年)落实情况的调查问卷」に答えたもののようです。
(3)北京+5、+10の際の中国女性の動きについては、遠山日出也「最近の中国の女性労働問題をめぐるさまざまな女性たちの動き」『女性学年報』第26号(2005年11月)の137頁でも少し触れました。
(4)中国婦女研究会「中国NGO在行动」『婦女研究論叢』2000年第3期。このときは、「中国女性研究会」単独の名前で出されていますが、それがどういう理由によるものかは、わかりません。
(5)中国婦女研究会弁公室「“北京+10”工作方案」(2004年5月24日)社会性別与発展HP
(6)以下に、各団体が、「+5」と「+10」と「+15」のどれに関与しているかを整理してみました。
 ・「+5」と「+10」と「+15」のすべて……中華全国婦女連合会の主要工作部門、中華女子学院、北京紅楓女性心理相談サービスセンター
 ・「+5」だけ……中国女裁判官協会、中国児童少年基金会、中国人民大学女性研究センター、北京市婦連、労働と社会保障部就業局・国際局、国家計画生育委員会国際局
 ・「+5」と「+10」……中国女検察官協会、中国婚姻家庭[建設]研究会、中国環境科学学会、中華予防医学会女性保健学会、北京師範大学教育学部(院)、中央党校女性研究センター
 ・「+5」と「+15」……首都女性ジャーナリスト協会*、中国社会科学院社会学研究所
 ・「+10」だけ……首都女性ジャーナリスト協会女性メディアウオッチネットワーク*
 ・「+10」と「+15」……[中国法学会]反DVネットワーク、農家女百事通(のちの北京農家女文化発展センター)、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター、中国農業大学人文と発展学院(人文と発展センター)
 ・「+15」だけ……中国女企業家協会、中国市長協会女市長分会、中国就業促進会、中国人口と発展研究センター、中国社会科学院法学研究所、中国社会科学院ニュースとメディア学研究所、清華大学、北京母子保健院、中国婦女報、北京天津ジェンダーと発展協力者グループ、天津師範大学ジェンダーと社会発展研究センター、南京師範大学金陵女子学院、江蘇揚州市委党校、西北工業大学、陝西省女性理論婚姻家庭研究会、黒龍江省婚姻家庭研究所
 *女性メディアウオッチネットワークは、首都女性ジャーナリスト協会の中にあるので、同一の団体と考えれば、首都女性ジャーナリスト協会(女性メディアウオッチネットワーク)は、すべての回に参加していることになります。
(7)「北京+15」の時は上で述べたとおりですが、「北京+5」の時と「北京+10」の時のテーマは、以下のようでした。
「北京+5」
1.女性と貧困
2.女性と教育
3.女性と保健
4.女性と就業
5.女性と政治参加
6.女性の法律
7.女性とメディア
8.女性と環境
9.女児の生存と発展
10.婚姻家庭と老年女性
「北京+10」
1.女性と貧困
2.女性と教育
3.女性と保健
4.女性と暴力
5.女性と経済
6.女性の政治参加
7.女性の地位を向上させるメカニズム
8.女性の人権環境
9.女児とメディア
10.女性と環境
11.女児
12.老年女性
(8) 「北京行動綱領」は、「女性と武力紛争」に関する「戦略目標」としては、以下の6点を挙げています。
 1.紛争解決の意思決定のレベルへの女性の参加を増大し,武力又はその他の紛争下に暮らす女性並びに外国の占領下で暮らす女性を保護すること
 2.過剰な軍事費を削減し,兵器の入手の可能性を抑制すること
 3.非暴力の紛争解決の形態を奨励し,紛争状況における人権侵害の発生を減少させること
 4.平和の文化の促進に対する女性の寄与を助長すること
 5.難民女性その他国際的な保護を必要とする避難民女性及び国内避難民女性に保護,支援及び訓練を提供すること
 6.植民地及び自治権を持たない地域の女性に支援を提供すること
(9)国務院女性児童工作委員会は、国務院が責任を持つ女性・児童工作の議事調整機構で、現在、33の部[日本で言う省]や委員会、社会団体がメンバーです。中央宣伝部、外交部、教育部、科学技術部、公安部、民政部、司法部、財政部、人力資源と社会保障部、環境保護部、住宅都市農村建設部、水利部、農業部、商務部、衛生部、人口計画生育委員会など、国の主だった省庁はすべてメンバーに入っています。
 基本的職能は、以下だとされています。
 ・政府の関係部門が女性・児童の権益を保護する活動をしっかりおこなうように調整・推進すること
 ・政府の関係部門が女性と児童の発展要綱を制定・実施するように調整・推進すること
 ・政府の関係部門が女性・児童工作と女性・児童発展事業に必要な人力・財力・物資を提供するよう調整・推進すること
 ・各省・自治区・直轄市の人民政府の女性・児童工作委員会の活動を指導・督促・検査すること(国务院妇女儿童工作委员会机构简介)。
(10)フォーラムの当日も、中国女性研究所の研究員の劉伯紅さんは、この点について以下のように発言しています。
 「その一方、私たちは、中国政府の経済危機に対する対策には足りない点があることにも気がつきます。中国政府は4兆元の資金を投入して、10大産業の発展を引っ張り、4千万の就業を促進していますが、私たちが細かく分析すると、この10大産業(鉄鋼、自動車、船舶、石油化学、紡織、軽工業、非鉄金属、設備製造)の大部分は、いわゆる『男性産業』です。それは、男性には充分な就業をもたらしますが、女性には就業機会の欠如と就業構造の低下をもたらします。すなわち、政府のマクロ経済政策にはまだジェンダー・センシビリティが欠乏しているのです」((1)の、劉伯紅・王曉蓓「“北京+15亚太妇女非政府组织论坛”综述—— 探索人类社会发展的新模式」、劉伯紅「在应对经济危机的挑战中寻求可替性发展模式」『妇女观察电子月报』第54期(PDF)[2009年11月])。
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