2017-03

北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターによる企業内のセクハラ防止制度構築の取り組み

 2007年から、NGOの北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター[北大法学院妇女法律研究与服务中心]が企業内のセクハラ防止制度を構築する試みをおこなっています。

「企業の職場のセクハラ防止規則(建議稿)」の作成とその試験的実施

 2007年1月、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは「企業の職場のセクハラ防止メカニズム構築に関する国際シンポジウム」を開催し、「企業の職場のセクハラ防止規則[企业防治职场性骚扰规则](建議稿)」を発表しました。この「建議稿」は、同センターが、中国企業家協会や中国紡織工業協会、アメリカのゼネラル・エレクトリックの中国法人とも協議して作成したものです。

 「建議稿」は、以下のような内容を規定していました。
 ・セクハラに関する専門委員会(またはポスト)の設立
 ・新入社員の研修、管理者の定期的研修、セクハラに関する規則の公示
 ・セクハラの定義
 ・セクハラに対する処罰
 ・処理の手続き(訴え、受理、調査、調停など)

 この後、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、企業の協力を求めつつ、こうしたセクハラ防止の制度を試験的に実施する試みを始めました(1)

中国初の企業内セクハラ防止制度――河北省の衡水老白乾醸造酒(集団)有限公司

 2007年11月から、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、河北省衡水市婦連の協力を得て、河北衡水老白乾醸造酒(集団)有限会社[河北衡水老白干酿酒集团有限公司]が引き受けた、「職場のセクハラ防止プロジェクト」を開始しました。

 このプロジェクトが実って、2008年7月、衡水老白乾醸造酒(集団)有限会社は、中国で初めて企業内セクハラ防止制度を制定しました。その内容は、以下のようなものです。

1.仕事の場所でのセクハラの定義をした。
 その定義は、「仕事の場所でおこなう、歓迎されない、性的意味を持つ言語(電子情報を含む)または肢体などの行為で、従業員を、仕事においてある種の不利な地位に置く、または劣悪な仕事の環境を作り出す」というもので、具体的には、「性的意味を持つ冗談とからかい」「一緒に食事をするかデートすることを誘い続ける」「故意に性的意味を持つデマを流す」「性的経験を尋ねる・知らせる」「ヌードや明らかに性的内容の画像をばらまく、展示する」「不必要に触れる、ぶつかる」「性的関係を要求する」などを挙げています。

2.訴えを受理する専門の機構を設立した。
 労働組合の女性労働者委員会をセクハラの訴えを受理する機構にし、訴えや告発があれば、調査をおこなってて、適切な措置を取ってセクハラ行為を処理することを定めました。機構のメンバーは常に研修を受けなければならず、秘密を漏洩したり、訴えた者を差別したりしてはならないことも定めました。

3.懲罰を明確にした。
 警告、給料の支払い停止、配置転換、降級、停職、解雇など。

4.職員に研修をおこなって、セクハラの発生を防ぐ。
 同社の労働組合の主席は、「私たちは反セクハラを企業の調和[和諧]文化建設の重要な構成部分と考えて、職員全体に対して教育・研修をおこなう」と言っています。

 中華女子学院法学部の教授である劉明輝さんは、「現在のところ、この制度はまだ比較的簡単なものです」と述べていますが、制度を施行する過程で問題が出現したら、すぐに補充して、完全なものにしてほしいと願っています(2)

北京市でも、2つの企業がセクハラ防止制度を設立

 2009年3月、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは北京市海淀区婦連と合同で「企業の職場のセクハラ防止」シンポジウムをおこないましたが、その席で、北京市でも、翠微ビルディング(翠微大厦)と北京市西郊ホテル(北京西郊宾馆)が率先して企業のセクハラ防止制度を設立したことが報告されました。

 上の2企業も、河北省の衡水老白乾醸造酒(集団)有限会社と同じように、セクハラの定義や罰則を定めたり、職員に対する研修をおこなったりしています。

 たとえば、北京市西郊ホテルの場合、セクハラ通報受理センターを設立し(主任はホテルの労働組合の女性労働者委員が担当する)、各部門の女性労働者委員が通報ネットワーク員になり、通報電話なども設けています。また、新しい従業員には少なくとも1時限はセクハラに関する研修をするとのことです。

 上の2企業がセクハラ防止の制度を制定したのは、「企業の良いイメージを打ち立てるため」であり、「従業員が安全で調和の取れた仕事の環境を感じることができるだけでなく、企業の未来の発展のために極めて大きな利益をもたらす」からだということです(3)

江蘇省や広東省でも、「職場のセクハラ防止プロジェクト」を開始

 2009年から、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、江蘇省婦連とも合同で、「職場のセクハラ防止プロジェクト」を開始しました。江蘇省でのプロジェクトは、チャイナモバイル江蘇公司(中国移动通信集团江苏有限公司)でおこなわれ、8月から研修を開始して、約120名の管理職が研修を受けました(4)

 2009年12月には、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターは、広東省でも「職場のセクハラ防止プロジェクト」を開始しました。12月25日、中山市の火炬開発区婦連が「職場のセクハラ防止研修」をおこない、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの副主任の李瑩さんが講演をおこないました。この研修は、もともとは中山火炬都市建設開発有限会社(中山火炬城建开发有限公司)だけでおこなう予定だったのですが、火炬開発区の管理委員会の指導部がこの問題を重視して、火炬開発区の他の機関や企業も含めてやることになり、300名あまりが講演を聞きました(5)

意義と困難、限界?

法律では定められていないことを先駆的に実施

 中国の法律では、セクハラについて、十分な定義も、訴えを受理する専門の機構も、罰則も定められてません。だからこそ、まず個々の企業で、セクハラ防止制度を構築することの意義は大きいと思います。

それだけに困難は大きい

 北京大学法学院女性法律研究・サービスセンター副主任の李瑩さんは、現在の中国で職場のセクハラ防止システムを構築するには2つの困難があると述べています。第一に、法律に規定がないので、企業が制定しなくても違法ではないこと、第二に、もし制定したら、むしろ「職場にセクハラがある」と誤解されると企業が心配するという2つの点です(6)

 「企業がセクハラ予防措置にかけるコストは、セクハラ発生後に企業にもたらす経済的損失よりもはるかに少ない」(7)とも言われていますが、中国では企業が賠償責任を求められたことはまだないので、企業がこうした動機でセクハラ対策に取り組むことも直ちには期待できないと思います。

 そういうわけですから、同センターは、プロジェクトを推進する過程で様々な障害にぶつかりました。李瑩さんによると、最初は、広東で農村から来た労働者を主とした企業と協力できればいいと思っており、飲食・小売業などの企業とも多く連絡を取ったのですが、いずれもうまくいかなかったということです(8)

 上述のプロジェクトがおこなわれているのは、立派なサイトを持っている中国でも比較的有名な企業のようで、そうでない企業の場合は、難しいのかもしれません。

国家レベルでの法律制定への土壌づくり

 しかし、それでも、同センターは、今後もさらに出稼ぎ労働者に注目して、東莞市と中山市にある、外来の労働者が集中している台湾資本の企業に接触しているところだそうです。

 李瑩さんは、「長期的に言えば、毎年新しい企業をセクハラ防止プロジェクトに加えて、勢いを強め、規模を広げ、影響力を強めて、最終的には立法を推進し、たとえば『女性労働者保護規定』に、単位が職場のセクハラを防止する義務と責任などを規定していきたい」と語ってます(9)

制度はきちんと機能しているのか?

 ただし、すでに制定されたセクハラ防止の制度がどのように機能しているかまでは、私にはわかりませんでした。

 その点で一つ心配なのは、上述のように、河北省の衡水老白乾醸造酒(集団)有限会社や北京市西郊ホテルの場合、セクハラ防止の専門的機構を労働組合の女性労働者委員(会)が担っているわけですが、先日お伝えした広州の日系企業でのセクハラ事件の際には、労働組合の委員はむしろ会社側に立ったことにみられるように、中国では(日本もそうかもしれませんが)、労働組合に依拠しても、セクハラ防止機構が十分機能しない可能性があるということです。

 ごく一般的に考えても、職場のセクハラ防止の制度が下からの運動で制定されたものでないならば、空洞化の危険が付きまとうのではないでしょうか?

顧客などからのセクハラは?

 広東での研修の後の座談会で、敬老院に勤めているある人は、ヘルパーに対する老人のセクハラについても問題にしていきたいと語っていました(10)

 ただ、翠微ビルディングの労働組合の副主席の尚曉輝さんは、(同ビルディングは商業・サービス業を主にしているのですが)「従業員が売り場で顧客からセクハラをされた場合、現在のところ、唯一できるのは批判・教育だけなので、今後、関係する法律によって空白部分を埋めることが待たれている」と述べているように、従業員に対する研修だけでは解決しない面もあると考えられます(11)

 以上のような幾つかの困難はありますが、法律を待たずに制度化への努力がなされていることは、やはり重要だと思います。

(1)以上は、「建立企业防治性骚扰机制国际研讨会在京召开」中国纺织经济信息网2007年1月25日(北大法学院妇女法律研究与服务中心HPより)、「防治职场性骚扰 寻觅试点」『法制晩報』2007年1月28日。
(2)以上は、「防治职场性骚扰项目在河北衡水启动」2008年3月3日(浙江省海寧市婦連HP)、「对被告公司免责的质疑」『中国婦女報』2009年12月24日、「河北衡水老白干酿酒集团制定企业防止职场性骚扰制度。专家称,此举是推动相关立法的一场实践 反性骚扰,企业应履行的社会责任」『中国婦女報』2008年7月10日。なお、「防治性骚扰,企业责任不可免」(『中国婦女報』2008年11月26日)によると、中国紡織工業協会により、北京愛慕下着有限会社[北京爱慕内衣有限公司]などの紡織企業でも、「建議稿」の試験的実施がおこなわれたとのことです。
 また、2009年2月、「職場のセクシュアルハラスメント立法の調査研究」課題グループが「仕事の場所のセクハラ防止法(建議稿)」を発表しました(→本ブログの記事「職場におけるセクハラの調査とセクハラ防止法の提案」参照)。これは、企業内の規則ではなく、国の法律についての提案ですが、この建議稿の起草作業にも、このプロジェクトは寄与しています。「職場のセクシュアルハラスメント立法の調査研究」課題グループは、王行娟さん(北京紅楓女性心理相談サービスセンター理事長)、王金玲さん(浙江社会科学院社会学研究所所長)、魯英さん(中山大学女性・ジェンダー研究センター元主任)の3人ですが、「起草作業に参与した」人として、北京大学法学院女性法律研究・サービスセンターの李明舜さんの名前が挙げてあり、「立法提案を完全なものにするために貢献した」人として挙げられている人のうちには、河北省衡水市婦連権益部部長の李桂芹さんや河北老白乾酒廠女工部主任の彭素巧さんのお名前が見えるからです(工作場所性騒擾防治法(建議稿)[ワードファイル])。
(3)以上は、「北京两企业率先建章立制防止性骚扰 对性骚扰者给予警告、下岗和解除劳动合同的处罚;特别设计处理性骚扰行为流程图」『中国婦女報』2009年4月2日。
(4)江苏南京举行防治职场性骚扰项目培训」『中国婦女報』2009年11月24日。
(5)广东企业启动首个防治职场性骚扰项目 加大雇主责任是重要预防机制」『中国婦女報』2009年12月30日、「通知」(2009-12-26)中山火炬高技術産業開発区政府HP、「开发区举办防治职场性骚扰培训」(2009-12-26)中山火炬高技術産業開発区政府HP、「火炬开发区妇联举办“防治职场性骚扰培训暨研讨会”」中山区婦女連合会HP2009年12月28日。
(6)广东企业启动首个防治职场性骚扰项目 加大雇主责任是重要预防机制」『中国婦女報』2009年12月30日。
(7)防治性骚扰,企业责任不可免」『中国婦女報』2008年11月26日。
(8)(6)に同じ。
(9)同上。
(10)同上。
(11)(3)に同じ。
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