2017-10

「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例」の意見募集稿は画期的だが……

 12月23日、「深圳経済特区ジェンダー[性別]平等促進条例(意見募集稿)」の論証会がおこなわれ、深圳市の法律界・経済学界・社会学界・人民代表大会・政府部門の30人余りの指導者・専門家・学者が「意見募集稿」について議論をしました。「この公聴会の開催は、『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』の準備工作が深圳市婦連の推進の下、正式に開始されたことを示している」(1)とのことで、「『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例(意見募集稿)』は、来年の深圳市の立法活動計画に入る見込みである」(2)とも報じられました。

 論証会では、深圳大学法学院の李薇薇教授が同条例の起草グループを代表して、この「意見募集稿」の内容と構成について説明しました(3)

主な内容

 報道によると、「深圳経済特区ジェンダー平等促進条例(意見募集稿)」には、以下のような内容が含まれています。

 ・市の平等機会委員会を条例の実施機構とする。

 ・「ジェンダー平等発展プラン」を制定し、男女両性の平等な発展の目標と戦略的措置を明確にする。

 ・公共政策のジェンダー分析制度を実行する。政府およびその他の部門は、関係する法規・規則・規範的文書を起草するとき、公共政策の男性と女性に対する異なる影響を分析しなければならず、性差別があってはならない。

 ・ジェンダー予算制度を実行する。政府の予算はジェンダー視点を組み込まねばならず、それによって、より公平な方法で資源を分配する。

 ・ジェンダー監査制度を実行する。市・区の監査部門は、そのクラスのジェンダー予算の編制と執行状況について、定期的に監査をおこなって監査報告を作成し、社会に向けて公表しなければならない。

 ・ジェンダー統計制度を実行する。市の統計部門は、人口構成、教育、就業、労働者の賃金収入、住民の基本的消費、家庭責任の分担(有償労働と無償労働に使う時間を含む)、女性の産育期間に経済活動と非経済活動に従事する人口などの内容について、性別に分けて統計を取らなければならない。

 ・両親の育児休暇制度を実行する。妻の産休の期間、夫が育児休暇を享有し、期間は30日より少なくてはならないと規定する。

 ・「人身安全保護命令」を出す制度を実行し、DVを禁止する。

 ・間接性差別を禁止する。国家機関、企業・事業単位、社会団体などの機構が公布・実施する各種の規定・政策は、性別の差異にもとづいた特別な区分をしていなくとも、目的または実施した効果が一方の性別の公民に事実上不公平な待遇を受けさせて、是正されなければ、性差別と見なす。

 ・政治参加・就業・文化などの各領域において男女の比率が均衡するようにし、さらに、男女の就業の比率の均衡を促進するために、教育・研修・採用・昇進などの面で、特別措置を取ることができると規定する。(4)

画期的なもの

 この「意見募集稿」は全文が公表されているわけではないので、いくつかの重要な点――たとえば平等機会委員会の権限とか、罰則・救済に関する規定がどうなっているのか――については、わかりません。

 けれど、以上で報道されている内容は、すべて画期的だと思います。各メディアは、初の「ジェンダー平等立法」であることや男性の育児休暇、「人身安全保護命令」の規定に注目していますし、いつも厳しい評論を掲載している『女声』(女性メディアウォッチネットワーク)14号も、「この意見募集稿は、多くの面で現行の女性の権益に関する法律を乗り越えており、強い先導性と的確性を持っている。この意見募集稿は、とくにジェンダー平等を促進する制度的な建設を重視しており、そのうち、専門機構の設置、ジェンダー予算・ジェンダー監査・ジェンダー統計・ジェンダー政策の点検審査の実行などの面の要求は、近年の女性団体のジェンダー平等立法に対する共通の要求を体現している」(5)と高く評価しています。

 起草グループの代表である深圳大学法学院の李薇薇教授は、国際人権法と反差別法が専門で(深圳大学法学院の李薇薇紹介ページ)、『就業差別の禁止:国際基準と国内の実践』(法律出版社 2006年)という本(本ブログの記事「国際基準を踏まえて中国のさまざまな雇用差別を論じた書」参照)の編者でもあります。この意見募集稿は、李教授の意見なども大きく取り入れたものでしょう。

「意見募集稿」のゆくえは?

 といっても、この「条例」は「来年の深圳市の立法活動計画に入る見込みである」と書かれているので、現段階では、まだ立法活動計画には入っていないわけです。また、「深圳市婦連の推進の下、準備工作が正式に開始された」とあるので、まだ市当局というより、婦連の意向が強く反映されている段階かもしれません。

 今回の公聴会では、「会議は一致して、『深圳経済特区ジェンダー平等促進条例』は、構成的にも内容的にも、新しいものを作り出しており、これまでにないもので、比較的強い現実性と可操作性を持っており、深圳の立法精神と立法水準を体現していると認めた」(6)ということなので、少なくとも出席した関係者は肯定的に評価したようです。

 けれど、この意見募集稿がそのまま人民代表大会に提出されて、そのまま成立するかどうかは疑問です。昨年から今年にかけて話題になった「北京市『中華人民共和国婦女権益保障法』施行規則[弁法]」の場合、北京市が出した草案(送審稿)でさえ、注目された規定の多くが、その後審議の過程で削除されました(本ブログの記事「女性幹部・女性知識人の定年の男女平等化に強い抵抗」「セクハラを例にした、婦女権益保障法の実効性に対する厳しい批判」参照)。

 北京市の規則の場合もそうでしたが、起草グループでは李さんのような学者の先進的意見が取り入れられても、その草案が成立するか否かは、さまざまな利害関係によって左右されるということだと思うのです。

 また、北京市の規則の場合同様に、国家の法律の規定との関係も問題になるかもしれません。深圳市人民法院民五廷裁判長の頼秋珊さんは、この意見募集稿の「人身安全保護命令」の規定について、「このような規定の着想は非常に良く、DV問題を大きく解決しうる。なぜなら、私たちが国外を視察したとき、保護命令を公布した国家や地区は、DV問題を解決する上で大きな働きをしていることがわかったからである」と高く評価しつつも、「現在、この条項が施行できるか否かは、まだ多くの障害がある。たとえば裁判所の職責は必ず国家の基本的法律によって線引きをされなければならず、特区の立法の権能がその面を乗り越えることができるか否かなどは、引き続き論証と検討が必要である」と述べています(7)

 ただ、もちろん、国家レベルでも、今回の意見募集稿に書かれているようなことを少しずつ取り入れている動きはあります。たとえば「ジェンダー統計」について言えば、2007年4月、国務院女性児童工作委員会と国家統計局社会科技局、全国婦連女性研究所が「全国ジェンダー統計研究討論会議」を開催しており、2008年には国家統計局が初の本格的な生活時間調査(当然「有償労働と無償労働に使う時間を含む」ものです)をおこない、今年、その成果が出版されました(これらの点ついては、本ブログの記事「ジェンダー統計に関する初の全国会議」、「中国初の本格的生活時間調査」、国家統計局社会和科技統計司編『時間利用調査資料匯編2008』[中国統計出版社 2009→国家統計局のHPで読めます:2008年时间利用调查资料汇编]参照)。

 また、深圳市婦連主席の蔡立さんは、「深圳の『改革の実験場』という特区の位置は、私たちに、立法においてまず先に試し、大胆に探索……することを要求している」(8)と述べていますので、深圳という地区だから先進的な実験が可能だという面もあるのかもしれません。といっても、私が記憶する限り、少なくとも男女平等の面に関しては、従来は、深圳だからといって、特に先進的な立法がおこなわれたことはないように思うのですが、市場経済化が進行した深圳だからこそ、それに伴う矛盾に対処するために、先進的な試みが出てくる可能性は否定できないとも思います。

(1)深圳有望出台首部性别平等地方立法」『中国婦女報』2009年12月25日。
(2)深圳有望立法促进性别平等 男方也享育婴假」『南方日報』2009年12月24日。
(3)《深圳经济特区性别平等促进条例(征求意见稿)》立法论证会昨举行」人民網2009年12月24日。
(4)(2)に同じ。
(5)「深圳《性别平等促进条例》论证」『女声』第14期(2009.12.21-12.27)
(6)(2)に同じ。
(7)深圳酝酿制定全国首部性别平等法规提出诸多创新内容 签发“保护令”禁止家庭暴力」『深圳特区報』2009年12月24日。
(8)(3)に同じ。
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