2017-10

トランスジェンダーのセックスワーカーに関する調査

 今年、北京愛知行研究所(マイノリティのエイズ防止や人権擁護に取り組んでいる民間団体)が、「北京市トランスジェンダーセックスサービス者現状調査研究報告(北京市跨性別性服務者現状調査研究報告[ワードファイル])」を出しました。

 この調査は、2008年12月から2009年1月にかけて、北京市の50名の男性から女性への(MtF)トラスンジェンダーのセックスワーカーにアンケート調査や健康診断をおこない、一部の人にはインタビューもしたものです。

 目的は、次の4つでした。
 1.北京市の男から女へのトラスンジェンダーのセックスワーカーの健康の状況と生活の現状を知る。
 2.~の公共安全の状況と社会的ニーズを知る。
 3.~のエイズに関係する知識の状況を知る。
 4.トランスジェンダーの人々の社会的サービスの保障、法律的サポート、人権の問題を解決するためのよりどころを提供する。

 その内容の一部を紹介します。

(一)アンケート調査の結果

1.調査対象者の状況

 ・年齢―35歳以下:80%
 ・戸籍―北京:20%、他省:80%
 ・学歴―小学:6%、初級中学:22%、高級中学・中等専門学校:48%、大学・単科大学以上:24%。
 ・性転換手術―した:6%、していない:94%

2.アイデンティティ

 ・自分を心理的に女性だと思っている…80%
 ・女性の服を着ている時間…ほとんど着ない:8%、仕事のときだけ:36%、仕事のとき以外に家でも:54%、ほとんどの時間着ている:2%。

3.仕事の状況

(1)仕事の場所
 街頭に立って性のサービス…42.0%
 公演をして性のサービス…20.0%
 街頭と公演の両方で性のサービス…32.0%

(2)月収
 1000元以下……26%
 1001─2000元…40%
 2001─3000元…14%
 3001─4000元…12%
 4001元─……… 8%

4.疾病の知識と健康の状況

 ・エイズの感染経路に関する問いは、みな正解が80%以上。
 ・最近1年間に健康診断を受けたことがない…48.0%
 ・一番最近の肛門性交でコンドームを使った…72.0%

5.生活の状況

 自分の現在の生活は?
 ・幸福/満足………………24.0%
 ・ふつう …………………18.0%
 ・プレッシャー[圧力]が大きい/疲れる…56.0%
 ・どうしようもない/しょうがない…38.0%
 ・孤独 ……………………30.0%

 男性と家庭を持ちたい…60%

6.婚姻の状況

 結婚している…9人(18%)
 →結婚した理由…「父母と家族のため」7人、「本当に愛した」2人
 →今の妻に対して…「形式上の関係にすぎない」3人、「何も感じない」2人、「妻に申し訳ない」7人、「妻が嫌だ」1人
 →今の家庭について…「離婚したい」9人(全員)、「プレッシャー[圧力]が非常に大きい」6人、「離婚したいが、各方面の条件でできない」4人

7.公共の安全と社会的支持の状況

 警察に逮捕されたことがある…10人(20%)
 →それらの人が、警官にされたことがある事項……口汚く罵られた:5人、脅された:7人、殴られた:2人、強請られた:2人、セクハラされた:1人
 →結果…拘留:5人、罰金:2人、何もされずに釈放:3人

 客にされたことがあること
 ・金を払ってくれなかった(or足りなかった)ことがある…44%
 ・罵られたことがある…22%

 社会・公衆に対する希望
 「平等に扱ってほしい」76%
 「自分たちのためにモノを言う組織をもっと多く」56%
 「あれこれ批評やあら捜しをしないでほしい」54%
 「もっと私たちの空間を」52%

 受けたいサービス/援助
 「性病/エイズの知識宣伝教育」74%
 「リプロダクティブヘルスの疾病の診療」72%
 「心理相談」70%
 「法律知識訓練/援助」66%

(二)健康診断の結果

 前立腺炎…56%
 B型肝炎…28%
 HIV検査が陽性…10%
 梅毒の検査で陽性…16%(梅毒については、20人中の比率)

(三)インタビュー(5人に対してだけおこなった)

 カミングアウト──1人だけが自分がトランスジェンダーであることを父母に言っており、他の人は、非常に親密な友人にしか言っていない。

 街頭での客──大多数は、出稼ぎ労働者や小商人。夏は多く、冬は少ない。

 仕事や生活の上の困難
 (1)警察に捕まるのが怖くて、安全感がない。
 (2)社会的に受け入れられず、公衆に理解されないので、自分の身分を隠さざるをえない。こういう生活は疲れる。
 (3)法律的知識が非常に乏しく、出会った困難をどのように解決すればいいかわからない。
 (4)客が殴ったり罵ったり、金を払わないなどの暴力行為をすることがある。
 (5)自分の体の状況が心配だ。

検討

1.健康の状況は、楽観が許されない
 その原因は、(1)定期的に健康診断を受けることができていない、(2)大多数の人は経済的状況が比較的悪いので、十分治療を受けられれない。

2.アイデンティティが人と異なっており、ひどい社会的差別が存在している
 80%は心理的に女性だが、特殊な場合にしか、女性という身分で立ち現れることができない。すべての時間、女性として立ち現れることができるのはごく少数であり、大部分の人は心理的に非常に抑圧と矛盾を感じている。また、一部の人は自卑的感情が強く、自ら他の人より格が落ちると思っており、自分のことを不正常だと考えている人もいる。
 社会的差別が深刻で、学校でも仕事の場でも差別・排斥されており、多くの人は彼らを不正常だと思っている。

3.家庭生活のプレッシャー(圧力)が大きい
 結婚している人は離婚したいと思っているが、さまざまな理由によって離婚できないので、苦痛である。未婚の人の大多数は男性と家庭を持ちたいと思っているが、わが国の現在の婚姻関係の法律ではそうはできない。

4.公共安全の状況が憂慮され、社会的サポートが欠けている
 仕事の環境が悪く、毎日警察に捕まることを恐れており、いったん捕まると、大多数の人は警察に脅されたり、罵られたり、殴られたりしている。けれど、法律的知識が乏しいので、自分に対してなされた若干の行為の正誤に対する判断識別能力に欠けている。
 社会的サポートが欠けており、客の行為で被害にあっても、がまんする。その理由は、一つには、こうしたことは口に出しにくいからであり、もう一つには、信頼できて頼れる友人が少なく、社会的なサポートが欠けているからである。

5.エイズの知識の理解は比較的良好だが、宣伝教育は引き続き強める必要がある
 エイズに関する知識の正答率は比較的高い。しかし、客があくまでコンドームを使わないと主張すれば、使わない。

6.社会的ニーズ
 第一に、社会・公衆がトランスジェンダーに対する理解と支持を強め、平等に扱い、彼らの声を知って、普通の人と同じように理解すること。第二に、エイズ・性病の宣伝教育や性病などの無料の治療や診断、心理相談、研修。法律的知識の研修と法律的援助。

トランスジェンダーのセックスワーカーが直面する問題と提案

1.健康問題
 ①医療保健:トランスジェンダーは、医療団体において偏見と差別を受けている。医療に助けを求めるのが遅れる。②心理的健康:トランスジェンダーの人々専門のサービスをした経験がある心理学の専門家はほとんどいない。トランスジェンダー自身も、援助を求めたがらない。③ホルモン治療:長期のホルモン使用は危険が大きい。また、この療法には限界もある。④性転換手術:多くの人はその複雑性を理解していない、手術費用の高騰、手術後の維持などの問題。
 以上の状況から見て、トランスジェンダーのために活動をしている人と衛生保健を提供する側との橋渡しをしなければならない。

2.就職問題
 一部の人の就職は厳しい。その原因を問うと、彼らは、第一に、学歴が低いこと、第二に、かつて生活と仕事の上でひどい差別を受け、彼らのことを「変態」だという人もいるので、仕事を探すときに心配があると言う。なので、平等に就職の機会を提供し、差別をなくさなければならない。

3.組織と管理の問題
 トランスジェンダーの人々には、統一した組織と管理(健康や就労、医療などの管理を含めて)がない。彼らを組織して、協会のようなものを設立して、トランスジェンダーのために無料の場所を提供して、トランスジェンダーの人々が健康教育や集会・交流・娯楽などの活動をおこなうのが望ましい。

4.関連する知識の研修を増やす
 トランスジェンダーの人々に対しては、疾病やリプロダクティブ・ヘルスの知識の研修が必要である。社会公衆に対しては、トランスジェンダーを理解させる宣伝がきわめて重要である。



トランスジェンダーのセックスワーカーに対するサポート

 以上、「北京市トランスジェンダーセックスサービス者現状調査研究報告」のいくつかの箇所をご紹介しました。中国にも、トランスジェンダーのセックスワーカーをサポートする団体がないわけではありません。ネットに出てくるだけでも、各地で以下のような活動があることがわかります。ただ、広く社会や政治に働きかけるような活動は比較的少ないようですけれども……。

 ・2006年4月、深圳市に、「夕顔情報相談センター[夕顔信息諮詢中心]が設立され、男性セックスワーカーやトランスジェンダーのセックスワーカーに心理的サポートやコミュニティの建設、健康関与、法律的支援などをおこなっています。

 ・2008年2月には、エイズ防止などに取り組んでいる「大連彩虹工作組」が、トランスジェンダーのセックスワーカーやボランティアを主体にして、トランスジェンダーのセックスワーカーに、エイズ防止などの健康関与を始めました(大連彩虹工作組「大連彩虹啓動“跨性別性工作者”健康干預工作」2008-03-03中国紅絲帯網)

 ・北京愛知行研究所の「北京艶陽工作組」は、異性装やトランスジェンダーのセックスワーカーなどに対して働きかけをして、交流会をしたり、コンドームを無理で配布したりしています(北京愛知行研究所2008年度工作報告[ワード])。

 ・2008年10月、雲南省昆明の「トランス中国」が、中国大陸初のトランスジェンダー専門の電話相談を開始しました(水・金の午後時―10時)(“跨越中国”諮詢熱線開通)。

「トランス中国[跨越中国、Trans China]」について

 電話相談を始めた「トランス中国」は、トランスジェンダーのコミュニティの草の根組織です。イギリスの国際エイズ/HIV連合(The International HIV/AIDS Alliance)の援助を受けて設立されました。

 もとの名称は「アジア太平洋セックスワーカーネットワーク・トランスジェンダーネットワーク中国グループ[亜太性工作者網絡/跨性別網絡中国小組]」です。2006年1月、アジア太平洋セックスワーカーネットワーク(APNSW)がタイのパタヤでおこなった「第1回トランスジェンダーセックスワーカー健康と人権ワークショップ(Transgender Sex Workers Health and Human Rights Workshop)」の後に設立されました。その後、2008年1月にタイのチェンマイで開催された「第3回インターナショナル・レズビアン・アンド・ゲイ・アソシエーション(ILGA)アジア地域カンファレンス」で、「トランス中国(中国トランスジェンダー連盟)」と改称し、正式に設立されました。

 「トランス中国」は、トランスジェンダーのコミュニティのエンパワメントや性病・エイズ防止を目的として設立され、トランスジェンダーの人々への相談や援助、性病・エイズ対応能力の向上をおこなってきました。具体的には、2006年以来、政策の主張、コミュニティの建設・交流(QQ群あり)、ピア・エデュケーション、ボランティアの研修、相談や検査、コンドームや潤滑剤の普及、レクリエーション、ホルモン治療や性別再適合手術の情報提供、学術的な調査・研究などをしています。北京などの組織との交流もおこなってきました(以上は、「跨越中国[英文あり←中文と英文とで若干、内容が異なっている]」のページより)。

 なお、上記の「第3回ILGAアジア地域カンファレンス」については、「ゲイ・ジャパン・ニュース」主催の報告会の資料がネットに掲載されています(ILGA-ASIAカンファレンス報告会)。その中の、谷口洋幸さんによる「トランスジェンダー総会報告[PPT]」には、トランス中国のフランクさんの報告「中国のトランスジェンダー~私たちの声を聞いてください~」も収録されています。

 谷口さんの報告によると、フランクさんの報告は、たとえば以下のような点を述べたものだったようで(パワーポイントなので要点だけですが)、興味深いです。
・伝統的な京劇の女形役者、現代芸能の性装アーティスト、人妖(ren yao)
・ゲイ/同性愛とトランスジェンダーの同視⇔HIV/AIDS対策での排除
・タイ人Ladyboyの国外追放、文化省が人妖(ren yao)ショーを禁止(2003)
・TGに対するゲイ/MSMコミュニティの見方:
  異常視、性産業の問題という認識、FtMTGの不可視性
・性産業との関わり:
  性産業は非合法⇔2万人のTGが従事、コンドーム使用率の低さ、劣悪な衛生環境、公権力による暴力・恣意的拘禁の対象

 なお、先日も述べたように、「トランス中国」は、12月3日に「エイズ防止には、差別を解消し、基本的人権を守ることが必要である――雲南の同性愛者健康権益組織の大理同性愛バー事件に対する意見」を出した団体の一つでもあります(本ブログの記事「大理ゲイバー事件について、現地の同性愛者の人権団体がメディアと政府を批判する声明」)。
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 また、「中国女性・ジェンダー関係リンク集」(リンク集)も併せてご覧いただければ幸いです。
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