2017-06

大理ゲイバー事件について、現地の同性愛者の人権団体がメディアと政府を批判する声明

 11月末、中国の多くのメディアが「雲南省の大理市に政府が出資してゲイバーを設立し、その中で10数名のボランティアがエイズ防止活動をする」というニュースを報道しました(1)。このバーは、12月1日の世界エイズデーに開業する予定だったのですが、メディアが殺到したために、開業を延期せざるをえませんでした。

 この事件については、いくつかの点が問題にされています。

「政府が出資、設立」は不正確――民間組織が主体、資金も国外の基金会などから(2)

 まず、当初「大理市の政府が出資して、ゲイバーを設立する」と報じられたのは正確な情報ではありませんでした。このバーは、「大理市エイズ予防健康促進会 大理好朋友工作組」が設立したものです。

 大理市におけるゲイの間でのエイズ防止活動は、大理市第二人民病院(この病院は、エイズ対策のための試験病院に指定されている)の医師の張健波さんの手によって、2003年に始まりました。張さんは、当初はゲイと接触するにも苦労をしましたが、学生時代の友人がゲイであったことから、彼を説得して協力してもらったのを皮切りにして、数年かけて同地のゲイ(1500-1800人いるという)の基本的状況を把握しました。同地のゲイの60%は、医療の条件や性の知識が乏しい農村の男性でした。

 そこで張さんが中心になって、民間組織から50万元、第二人民病院から100万元あまりの資金援助を得て、「大理市エイズ予防健康促進会 大理好朋友工作組」を発足させました。この「工作組」では、核となる10数人のボランティアスタッフ(ゲイが多い)が中心になって、ゲイの人々に、エイズ防止のためのピア・エデュケーション(同伴教育)をおこなってきました。2006年の「工作組」の総括によると、同年には、369人のゲイに働きかけて、エイズについて知ってもらい、コンドームを使う人を、5%から70%に増やしたそうです。こうした活動は、周囲の人に注目されることを避けるため、「工作室」は3回も引っ越しました。

 2009年中ごろ、「大理市エイズ予防健康促進会 大理好朋友工作組」は、大理市のエイズ防止工作会議で、ゲイを主な客とするバーを開設することを提案しました。こうしたバーを設立することによって、より広い人々をカバーできると考えたのです。パーの開設のために、エイズ防止に力を入れている、イギリスのバリー・マーティン基金会(Barry & Martin's Trust)が4万元、世界基金(世界基金支援日本委員会HP)が2万元出すことになり、家賃は、第二人民病院のエイズ防止経費から出すことにしました。パーの日常の運営は、12名のボランティアが担うことになり、ボランティアは、バーの場所を探したり、改修、設計などの作業もしました。

 大理市衛生局の李軍局長も、パー設立の主体や資金については、「バーは、政府が出資して設立したのではなく、大理エイズ予防健康促進会が主導して創立したものだ。大理市エイズ予防健康促進会はNGO組織であり、近年イギリスのマーティン財団が毎年約3―5万元を投入し、世界基金が毎年2―3万元を投入して同会を支えている。2009年、大理市衛生局は、市レベルのエイズ防止の専門経費の中から、第二人民病院に、エイズ防止宣伝教育・研修・科学研究などのために、経費を12万元配分した」というふうに述べています。

 もっとも、以前、11月に、大理市衛生局の蒋安民副局長は、バーについて取材をした『新京報』の記者が「政府はいくら金を出すのか?」と質問したのに答えて、「12万元である。この金はバーにだけ出すのではなく、NGO組織のその他の用途も含めてのものだ」と答えており(3)、この回答だと、政府が出した金は、バーにもある程度使われるように読めます。

 しかし、張さんの話では「大理市は第二人民病院に毎年、12万元の経費を出している」(下線は筆者)そうです。とすれば、とくにバーのために金を出したとは言えません。いずれにせよ、張さんによると、この「12万」という数字が誤解のもとになったとのことで、「バーの開設には合計12万元かかるので、今年、大理市政府が出す12万元が全部バーの建設に使われると誤認したメディアがある」そうです。

メディアによる報道の被害

 「政府が出資して、ゲイバー設立」というふうに認識したからこそ、報道がセンセーショナルになった面もあるのでしょうが、開店予定の当日は、「数十のメディアがバーの外で、ビデオカメラを担いでいる」という状況でした。張さんは、「マスコミの記者が大理に殺到すると聞いて、12名のボランティアはみな顔を出さなくなった」と言っています。

 張さんは、「この12人のポランティアは、数年間の努力があってやっと増えてきたのだ」と述べ、「今では多くの人がこのバーを『ゲイ』バーだと知ったので、ボランティアのプレッシャーは大きい」、「このバーの家主も、賃借の取り決めをした時、このバーがどのような性質のバーかを知らなかった。今はメディアに暴露された」と語っています。

 「大理好朋友工作組」も「ゲイ」というレッテルを貼られたので、ボランティアの中には、訪問しても、顔を出さない人もいるということです。張さんは「いま、12名のボランティアの気持はいささか動揺しており、辞職を申し出る人もいて、これは、活動の展開にとってきわめて不利だ」と語っています。今回のことで有名になった張さんにも、電話やショートメールがたくさん来て、それらの多くは、張さんのことを「変態!」などと罵ったり、侮辱したりするものだそうです。

 以上から見ると、今回の事態は、同性愛者差別が強い社会における民間の地道な活動が、無神経なメディアの報道によって大きな打撃を受けたという面が強いと思います。

雲南のセクシュアル・マイノリティの人権団体がメディアと衛生部を批判する声明

 こうした事態に対して、12月3日、雲南平行(ゲイと男性セックスワーカーのための団体)、跨越中国(雲南省昆明市にあるトランスジェンダーのセックスワーカーのための団体)、同話舎(雲南のレズビアンのための団体)、北京愛知行研究所(エイズ防止のために、セクマイの問題にも取り組んできた団体)昆明事務局は、共同で「エイズ防止には、差別を解消し、基本的人権を守ることが必要である――雲南の同性愛者健康権益組織の大理同性愛バー事件に対する意見」(防治艾滋病,需要消除歧視,保護基本人権 雲南同性恋者健康権益組織対大理同性恋酒吧事件的意見)を発表しました。

 この声明は、メディアを批判するとともに、中国社会の無理解の背景にある政府(衛生部を含めて)の政策も批判しています。その内容は、だいたい以下のようなものです(はしょってあるところもあります。また、文中の注は、原注ではなく、私によるものです)。



 11月24日、陳竺・衛生部長は「性行為による感染は、すでにわが国のエイズ伝染の主なルートになった。現在、(新しい感染のうち)同性の性行為による感染が、感染全体の32%に達し、異性の性行為による感染は40%に達した」と述べた。同日、郝陽・衛生部疾病予防制圧局副局長は「去年、中国の61都市で同性愛者グループに対して調査したところ、平均して4.8%の同性愛者がエイズにかかっており、そのうち最も高い都市では18%に達していた。中国の同性愛者の大多数は地下に潜っているので、そのデータはまだ控えめなものかもしれない」と述べた(4)

 また、中国の多くのメディアは「雲南省の大理市に政府が出資して、ゲイバーを開店して、エイズ防止活動をする」というニュースを報道した。このバーは12月1日の世界エイズデーに開業する予定だったが、メディアが殺到したために、開業を延期せざるをえなかった。 

 雲南省で同性愛者の健康の権益に関心を寄せている民間団体として、私たちは、衛生部とメディアがゲイの恋人集団の中でのエイズの流行と防止活動に関心を払っていることには感謝する。しかし、私たちは、世界エイズデーにだけ、エイズというテーマの上でだけ、同性愛者に対する熱意を示すことは、中国の同性愛者を傷つけるものだと考える。

 私たちは、同性愛というテーマに対するメディアの報道には、以下の問題が存在していることに気がついている。

 1.珍しいものをあさる[猟奇]の気持ちが大きく、同性愛者の境遇を考慮していない。たとえば、大理のゲイバー事件で、多くの記者が大理に雲のように集まって、「ゲイバーをエイズ教育の道具にする」というニュースを大々的に流したために、同性愛者がかえってバーに入れなくなった。

 2.エイズと同性愛の関係の問題だけを報道することは、公衆を誤った方向に導く。わが国の報道出版部門は、同性愛を題材とした出版を制限しており、テレビラジオ総局は、同性愛の番組の放送を禁止しており、インターネットは、同性愛サイトを審査・制限あるいは取り締まっており、学校でも人々は同性愛に関する科学的知識を得ることができない。にもかかわらず、衛生部門がエイズの情報──ゲイの間ではエイズが流行していることを含めた──だけを発表することは、容易に公衆を誤った方向に導いて、公衆に単純に「同性愛はエイズになる」と思わせ、「同性愛はエイズと同じだ」と認識させる。

 3.科学的な導きに欠けている。世界で最も重要な2つの精神疾病団体(WHOとアメリカ精神病学会)はすでに同性愛は正常だとみなし、わが国の精神疾患の分類・診断基準も、もう同性愛を病的状態とは扱っていない。しかるに、中央テレビ局は11月29日、同性愛者に対する差別を解消することを主張した番組の中で、依然として「同性愛者」を「同性愛患者」と称し、「同性愛」を「性心理障害」と見なした。

 4.人権思想が欠けている。私たちは、メディアが差別思想を解消することをたびたび主張していることには感謝する。しかし、私たちは、衛生部門とメディアはわが国の同性愛者の境遇を真に体得できておらず、同性愛者が受ける人権侵害を理解していないので、メディアの声は真に差別を解消する働きはできず、かえって社会的偏見を強化していると考えている。たとえば、12月1日、私たちは、多くのチャイナテレコムのネットユーザーが、同性愛サイトに入ることができずに、「電信緑色オンライン(電信緑色上網)」というソフトに遮られ、サイトのアドレスにいつも使っているアドレスをインプットすると、自動的に「電信緑色オンライン」のアドバイス画面に転送され、「あなたのお父さんとお母さんはあなたに言っています。あなたが訪問したサイトは不良サイトです」と示されることを知った(5)

 5.衛生部門主導であり、同性愛者たちの声が欠けている。わが国の衛生部門は、各地で同性愛者の健康組織に働きかけて、ゲイにエイズの検査を受けさせることによって、大量のゲイの集団のエイズ感染のデータを得た。しかし、中央も、地方も、各地の衛生部門は、メディアに対してデータを発表して、同性愛者の組織の意見は聞かず、同性愛者が感じることを考慮せず、メディア報道の同性愛者の生活に対するマイナスの影響を考慮しない。

 私たちは、わが国のメディアが積極的にエイズ防止活動に参与し、公衆の同性愛者に対する差別視をなくすことを助けるには、以下の活動をしなければならないと主張する。
 1.現在のメディアが同性愛を報道している状況に関して、分析・総括をし、存在している問題と解決の方策を示す。
 2.「同性愛とエイズ」というテーマについてのメディアの報道の方式とその影響に関して研究をして、メディアの報道がいっそうの傷害を生み出すことを避け、メディアの報道がエイズ防止活動にとって必要な良好な社会的環境を作る助けになるように保証する。
 3.国際的経験と上述の科学的研究に基づいてわが国のメディアがエイズという議題を扱うために、指導ハンドブックを編纂し、基本的な倫理規範を制定する。
 4.科学と人権思想に基づいて、わが国の同性愛者の生活と各種の社会問題を全面的に報道して、猟奇思想を解消し、同性愛者の社会的境遇を改善するのを助ける。

 私たちは同時に、わが国の政府が以下の工作をするよう希望する。
 1.同性愛を差別した報道出版政策をやめ、同性愛の映画・テレビに対する禁令を解除する。
 2.インターネットの自由を保護し、同性愛サイトに対するハラスメント、取り締まり、スクリーニングを停止する。
 3.中学と小学校高学年で、教育部と衛生部のエイズに関する健康教育の指示を実行する。同時に、エイズ教育を強化し、エイズの性感染の予防活動を扱うために、小中学校で性教育を実施する。性教育には、同性愛の科学的知識と人権尊重、人間性の多様性の尊重が含まれなければならない。
 4.同性愛の社会集団組織の働きを発揮させ、同性愛の社会集団組織をエイズ防止活動の計画制定・執行・監督評価に参与させることによって、エイズ防止工作が人権と同性愛者の人格の尊厳を尊重することを保証する。
 5.衛生官僚がメディアに発表するエイズ情報について、規範的文書を制定し、研修をおこなうことによって、メディアが公衆を誤って導いて同性愛者を傷つける事件を起こさないようにする。
 6.衛生医療関係者に研修をおこなって、エイズ医療サービスが同性愛者にセンシティブになり、友好的になることを保証する。
 7.国連が同性愛の人権を保護している多くの国の政府の声明に参与・署名する。
 8.「ジョグジャカルタ原則(性的指向並びに性自認に関連した国際人権法の適応上のジョグジャカルタ原則[日惹原则——关于将国际人权法应用于性倾向和性别认同相关事务的原则(PDF)])(Wikipediaの記述[日本語]、Ry0TAさんによる日本語仮訳)」の精神に照らして、わが国の同性愛者の人権の活動を指導する。



 もちろん、今回4団体が出した声明だけが、中国のゲイやセクシュアル・マイノリティの人々の見解ではありません。同様の点を指摘する人もいますが(6)、この事件の他の側面に注目したり、他の意見を持っている人々もいます。

 たとえば、ゲイサイトの「淡藍網」が12月9日に発表した「2009年度中国十大同志(LGBT、セクマイの意味)ニュース」は、その一つとして、今回の「大理市の政府が出資してゲイバーを設立したこと」を選んだうえで、このニュースについて、「その本意が同性愛の集団を正視するためであるかはともかく、少なくとも、このやり方自身は中国社会の一大進歩である。CCTVに感謝し、新京報などの友好的メディアの関心と呼びかけにも感謝しなければならない」と評価しています(7)。「政府が出資した」という点については事実認識の点で疑問を感じますが、メディアの評価に関しては、「友好的」なものも、興味本位のものもあるということでしょう(メディアの報道も、とくに開業延期後に取材したものは、当事者の声をかなり伝えているように思います)。

 しかし、いずれにせよ、今回の声明には、問題の根源を突いた部分があることは間違いないと思います。
 
(1)云南大理市政府注资建立男同性恋酒吧」新華網2009年11月29日(来源:新京報)など。日本でも、「中国の雲南省、当局が『ゲイバー』をオープン」ロイター2009-12-01、「雲南省大理市政府が『ゲイバー』開業」人民網日本語版2009年11月30日、「男性同性愛者の酒場『同志』、注目過剰で開業延期―中国・大理」サーチナ2009/12/01、「『エイズ啓発ゲイバー』、社会の圧力で開業遅れる?―雲南省大理市」レコードチャイナ2009年12月1日、と報じられました。
(2)この節と、下の「メディアによる報道の被害」の節は、「云南大理否认同性恋酒吧由政府出资创办」『中国日報』2009-12-02、「云南大理男同性恋酒吧延期开业调查」新华网(2009-12-08)、「大理男同性恋酒吧风波始末」紅網2009-12-8、「大理“男同性恋”酒吧选择低调 继续营业」捜狐新聞2009-12-08(原載は『東方早報』)をまとめたものです。
(3)大理政府关注同性恋群体 出资建男同志酒吧」『新京報』2009年11月29日(『新京報』のサイトでは全文が読めないので、淡藍網に転載されたものを示しました)。
(4)我国报告艾滋病死亡近5万 同性恋成高发人群」中国広播網2009-11-25
(5)电信宽带“绿色上网” 同志网站遭屏蔽被指歧视」(2009-12-2)淡藍網、「国内数十家同性恋网站被屏蔽 包括公益健康网站」『新京報』2009年12月8日。
(6)评论:大理男同性恋酒吧 不需要这样的“关注”」淡藍網、「评论:同性恋者何时才能不沾艾滋病的光」荆楚网2009-12-05
(7)淡藍盤点:2009年度中国十大同志新聞 九」2009-12-09淡藍網
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