2017-10

台湾の大法官会議:「売春を罰して、買春を罰しない」条項は「違憲」

 台湾では、今年6月、内政部が、売買春の「専区」を設置する方針を出して、さまざまな議論がおこなわれましたが(本ブログの記事「台湾:売買春の「専区」を設置する方針と人権・女性団体」)、11月、次のような新しい動きがありました。

司法院の大法官会議の憲法解釈

 11月6日、台湾の司法院(Wikipediaの説明[日本語])の大法官会議(憲法に関する判断をおこなう)は、社会秩序維持法の中の、売春を罰して、買春を罰しない条項(80条第1項第1款)(1)は、憲法第7条の平等権の原則(2)に違反しており、違憲であるとして、2年以内に失効させなければならないとしました(大法官解釈釋字第666號[司法院大法官HP])。大法官各自の意見書も発表されています。

 解釈の理由書では、社会秩序維持法の規定について、その目的は国民の健康や善良の風俗を守ることにあることは認めつつも、以下の2つの点で差別であると指摘しています。
 (1)性取引は売る側と買う側の共同のものであるのに、売る側と買う側とを差別している。
 (2)売春する側の多くが女性であり、とくに一部は社会的・経済的に弱者であるために性取引に従事する女性であるのに、彼女たちをさらに窮地に追いやることになるので、差別である。

 司法院の謝文定秘書長によると、大法官会議のこの解釈は、「売買春ともに罰すべき」とも、「売買春ともに罰するべきではない」とも主張しておらず、あくまで中立的なものだとのことです(3)。ただし、大法官による解釈の理由書は、国民の健康や善良の風俗を守るためには、行政機関は、性取引をする人に対して、健康の検査や安全な性行為のための措置をとったり、職業訓練などによって性取引を生活の手段にしなくてもよいようにするよう述べています。同時に、性取引の行為を制限する必要がある時は、処罰などの規定を設けることもできるとも述べています。

内政部などの対応(4)

 内政部は、当日の夜、セックスワークの「非犯罪化」「非処罰化」に向けて検討・対処すると表明しました。また、「専区」に関しては、原則的には公民投票ではなく、各県の政府や議会が決定するべきだと述べました。

 また、ある地位の高い警察官は、「現在、セックスワークの非犯罪化の方向に向かっているけれど、全世界にセックスワークの管理をしていない国家は一つもないので、『専区』か『禁区』を設けて、違反した者は処罰することになるだろう」と述べました。

セックスワーク労働権保障連盟――セックスワーカーを政策決定に参与させよ(5)

 日日春関懐互助協会(日日春)(Collective of Sex Workers And Supporters[COSWAS])は、大法官会議の解釈を、1997年の台北市の公娼の闘い以来のセックスワーカーと支援団体の闘いの成果として高く評価しました。日日春は、セックスワーカーの非処罰化の主張が多くの社会的支持を獲得してきたこと、以前はセックスワークの非処罰化に反対していた団体も、売春の非処罰化には賛成するようになったことを述べ、今回の決定は「アジアと華人社会に対して、肯定的な良い模範を示す働きをした」と述べました。

 そのうえで、日日春やセックスワーク労働権保障連盟(保障性工作勞動権聯盟)(日日春のほか、台湾性別人権協会(Gender/Sexuality Rights Association Taiwan)台湾同志諮詢熱綫協会工作傷害受害人協会愛滋感染者権益促進会国立中央大学性/別研究室風信子精神障礙者権益促進協会台湾国際労工協会基層教師協会、基隆市失業労工保護協会、柳春春劇社劇団角落関懐協会台北県慈芳関懐中心人民火大行動聯盟で構成)は、だいたい以下のような要求を出しています。
 ・成人の合意の上での性の取引は、売る側も買う側も罰するべきではない。ただし、性取引営業の公共の利益に関わる部分、たとえば公共衛生、場所、労働保護、周辺での犯罪の防止などについては、国家が適切で有効な管理の措置を取るべきだ。行政院や立法院は、売買春とも罰しないという立場に立ったうえで、「成人性取引管理法」を制定して、社会秩序維持法80条を廃止すべきである。
 ・場所に関しては、適切な制限はするべきであり、性取引の「専区」を設けることも一つの選択肢だが、中高年や弱者層のセックスワーカーの就労のために自営の生存空間を保障すべきだ。また、セックスワーカーと地域コミュニティとが共に決める意思疎通の場を設置すべきである。
 ・セックスワーカーを政策決定に参与させるべきである。内政部の劉玄兆前院長は、6月、「セックスワーカーの意見を取り入れなければならない」と述べたけれども、その後、内政部はセックスワーカーを政策の論議に招いていないだけでなく、私たちが電話で進み具合を尋ねても、返答ができる責任ある窓口さえなく、完全にカヤの外に置かれている。
 ・法改正をするための2年間の過渡期は、地方の県・市の首長は、警察に対して「セックスワーカーの取り締まりを成果に入れない」という政策を貫くべきである。たとえば台北市・台中市・高雄市の市長のように、イベントの期間、都市の外観を整えるために、弱い者(露店商人やセックスワーカー)をいじめるやり方はすべきでない。

反性搾取連盟――台湾は女性の体を売る上で世界の先頭に立つのか?(6)

 一方、「反性搾取連盟[反性剥削聯盟]」は、内政部が当日すぐに「セックスワークの『非犯罪化』『非処罰化』の方向で法改正する」と述べたことに対して、「多くの議論がある中で、にわかにこのような倉卒な対応をすることは、台湾を女性の体の売買において全世界の先頭に立たせることになる」という危惧を表明しました。

 反性搾取連盟は、勵馨社会福利福利事業基金会台北市婦女救援社会福利事業基金会(婦援会)台湾展翅協会(もと台湾終止童妓協会)、台湾女人連線基督教門諾会花蓮善牧中心中華民国基督教女青年会協会台北市晩晴婦女協会台北市女性権益促進会、中華恩加楽国際善工協会、愛慈基金会台湾少年権益与福利促進聯盟基督教台湾信義会基督教愛盟家庭文教基金会で構成されています。

 反性搾取連盟の人々は、おおむね以下のように述べました。
 ・アジアでは、性取引を全面的に合法化している国は一つもない。ヨーロッパでも合法化しているのは8ヵ国だけであり、非合法の国が19ヵ国、個人の性取引は違法でないが、組織的な活動(業者や仲介)を厳罰にしているのが19ヵ国である。
 ・性取引の実質的は、性的搾取であリ、もし性取引を全面的に合法化するなら、台湾の性的搾取の状況はさらに深刻になるだろう。セックス産業が産まれる真の原因は、国家が弱者の女性を大事にしていないことにあり、一種のジェンダーバイオレンスであり、売春は弱者の女性に対するきわめて大きな傷害と搾取である。これは絶対に公平な取引ではなく、まして一般の産業労働の交換関係ではない。やむをえず売春を「選択」しても、売春は彼女たちの貧困を解決せず、大部分の金は人買いやヒモ、業者の手中に入る。
 ・(台湾展翅協会秘書長・李麗芬):多くの大法官が、ドイツの「売春婦法律関係規範法(The Act Regulating the Legal Situation of Prostitutes)」を引用しているが、同法は成果が上がっておらず、施行5年後に全面的に同法の施行を続けるかが大きな論争になっている。
 ・(台湾女人連戦秘書長・蔡宛芬):性取引を合法化するか否かに関しては、各界に意見の違いがあるが、社会は「男が女を金でもてあそぶ」ことを許容すべきか否かを重視するべきである。社会はなぜか男の性欲に対して寛容で、「性取引」を議論する際に、「どっちみち禁止できない」などの意見が出てくる。そのコストは女性も含めた全国民が負わされる。政府にはジェンダー平等教育やトラフィッキング防止、セックスワーカーの転職訓練を重視してほしい。
 ・(立法委員・黄淑英):性取引の非処罰化≠合法化ではない。売春する者を処罰しないことには同意するが、将来台湾でセックス産業が発展することは希望しない。
 ・スウェーデンは「買春は罰して、売春は罰しない。搾取をする第三者は厳罰にする」というやり方で、性取引に従事する人の数を減らした。

 反性搾取連盟は、以下のような要求を掲げています。
 一、性取引が職業であること、ましてセックス「産業」であることに反対する。
 二、政府に、性取引関係のあらゆる公然とした客引きの情報と行為を厳禁するように要求する。
 三、性取引の中から利を得る第三者は処罰されなけばならず、そうしてこそ、いかなる形態の性搾取行為も途絶できると主張する。
 四、性を売る者の多くは経済的窮乏のために性取引に従事していることを理解しているので、性を売る者は処罰しないことには賛同するけれども、その労働権には反対する。
 五、買春客に補導課程を受けさせて罰金を払わせ、課程の関係費用は買春客に支払わせること、課程を受けることを拒否する者は罰金の金額を増やすべきことを主張する。
 六、政府は、女性のための福祉および就業政策を出して、女性が窮乏状況の下で性取引に従事することを選択しないようにさせなければならない。
 七、政府はジェンダー平等教育と人権教育の現在の成果を再検討し、具体的な改善措置を提出しなければならない。

両派とも国際的な応援も得て、県・市長の候補者に公開状

 女性に対する暴力撤廃国際デーの11月25日には、「反性搾取連盟」は、Equality NowのTaina Bien-Aimeさんやカナダ・韓国の性暴力反対組織の人々を招いて集会を開きました。
 参加者は口々に、次のようなことを訴えました。
 ・セックス産業とトラフィッキングは密接不可分な関係がある。
 ・もし合法化したら、台湾は国際的な買春天国になる。オーストラリアで合法化したら、女性に対する性侵害や性暴力は減らずに増え、他の国の人は、オーストラリアに買春に来るようになった。
 ・もし合法化したら、社会は、女性の体を商品と見なすようになる。
 ・オランダは性取引を合法化したが、多くのセックスワーカーはヒモや客による脅迫や暴力にあっている。ロッテルダムはセックス産業の「専区」の廃止を決定したし、アムステルダムは半分に減らそうとしている。 

 「反性搾取連盟」は、全国の17の県・市長の候補者に対して、選挙区内に「セックス産業の専区(紅灯区)」を設立ことに対する賛否を問う公開質問状を出しました。(7)

 一方、「セックスワーク労働権保障連盟」も、反性搾取連盟に対抗して、県・市長の候補者に対して、だいたい以下のような内容の公開状を出しました。
 ・性取引の政策は、複雑な公共政策の議題であって、一般的な道徳の是非の問題ではなく、「賛成」か「不賛成」か二者択一のみであるべきではない。「専区」は、性取引の実務的な管理の選択肢の一つであるにすぎない。
 ・県・市長の候補者が当選した後、専門的な作業グループを設立して、セックスワーカーの人権と公共の利益にともに配慮するという前提の下で、「どのようにして、その土地の事情に即した、有効な成人の性取引の管理政策を制定するか」を検討することを期待する。
 ・「セックスワーカーと性の消費者を処罰せず、実務的な管理をする」というのが、台湾社会の共通認識と世界の潮流である。日日春には、十年にわたる実務的経験と国際的な資料があるので、お会いして、各県・市が政策を制定する際に情報を提供したい。
 ・セックスワークは、性的搾取と同じではなく、セックスワーカーは、性的奴隷と同じではない。私たちはセックスワークの非処罰化を支持するとともに、反ヒューマントラフィッキングも積極的に支持する。合法化は、けっして完全にヒューマントラフィッキングやその他の犯罪を根絶することはできないが、合法化によって公権力はより有効な介入ができるようになる。セックスワークを非処罰化したのちに、国家はセックスワーカーを労働保護に組み入れなければならない。そうしてこそ彼女たちの労働条件を改善して、しかるべき賃金を獲得させて、不当な労働搾取を受けることを防ぐことができる。

 「セックスワーク労働権保障連盟」の主張にも、Global Alliance Against Traffic in Womenの創始者のLin Chewさんやアメリカ・オーストラリア・オランダ・イギリスのセックスワーカー組織の代表などから、声援が寄せられています。(8)

 大陸でも、葉海燕さんが「反性搾取連盟」の主張に批判を述べるなど(9)、国際的な注目も広がってきたように思います。

(1)「有左列各款行為之一者,處三日以下拘留或新台幣三萬元以下罰:
一、意圖得利與人姦、宿者。」
(2)「中華民國人民,無分男女、宗教、種族、階級、黨派,在法律上一律平等。」
(3)罰娼不罰嫖違憲 擬設紅燈區」『自由時報』2009年11月7日。
(4)同上。
(5)大法官撥開了性道迷霧」(2009-11-17)日日春関懐互助協会HP、
性勞聯1113採訪通知――内政部不要閉門造車,性工作者要參與決策」(2009-11-13)移民工資料庫
(6)反性剝削聯盟:台灣在販賣女體上領先全球!?」2009/11/13婦女救援基金會BLOG
(7)以上は、「婦援會參與11/25國際串連反對性產業合法化記者會」婦女救援基金會HP、「反對性產業合法 婦團盼候選人支持」中央社即時新聞2009/11/25、「婦團抗議性交易合法化開倒車」台灣醒報2009/11/25、「反對色情專區 婦團將訪縣市長候選人促表態」2009-11-25中時電子報
(8)給媒體朋友―性勞聯致各縣市長候選人的公開信」2009/11/25苦労網、「日日春:性産業合法 不一定得設專區」中央社即時新聞2009/11/25
(9)站出来反对性工作者合法化的是“反性剥削联盟”」(2009年11月30日)荼蘼花尽BLOG
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